乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~

婚約披露は華やかに。

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 その日は、ラウエンシュタイン公爵家の跡取り姫が、一時的に帰国したと宮廷中の噂だった。せっせと噂の種をシルヴィスが蒔き、オリヴィエが水やりし、アトゥールが雑草を刈った結果、「未来視の姫と神竜王陛下のひそやかなご帰国」と、それに伴う「王女殿下主催の宴」は、宮廷の話題を独占した。
 そもそも、何の目的で「王女殿下」が主催する宴なのか。王太子廃嫡に動いていた者達はなりを潜めているが、あの件はどうなったのか。クレーフェ公爵らは、密約を交わすべく交渉中だった貴族にも口を割らない。ただひたすらに、「王太子殿下をお支えし、お仕えする」と言っているらしい。そこに、王太子殿下を寿いだ神竜王の意志が介在するのだとしたら――この「宴」は欠席できない。



「――殆どの貴族から、出席の返答がありましたわ。やはり、神竜王陛下の動向が気になるのでしょうね」
「それで? あの将軍を金髪にして、そなた何を企んでおる?」
「少しばかり、財政を改善しようかと。アリー、あの髪染め……脱色は、おいくらくらい?」
「高くはないわよ。たぶん、エージュが飲むお酒の方が高い。あれ一瓶で、脱色剤は二桁買えるわ」

 それほど安価なものなのか。巷に溢れているものであり、また効果によって価格は数十倍は違うという。

「ですから、まずは、「祝福」という形で与えます。その後、「維持」に必要なものとして――資産家で、でも金髪ではない貴族達、もしくは、貴族と繋がりがあると箔付したい商人に、足元を見た価格で売りつけようかと。上得意になって下さった暁には、変える品は如何?とでも言いましょう」

 世襲貴族は納税の義務がない。そして、先年軍を動かした上、今後王太子の婚礼と即位の式典にも金がかかる。それらを済ませると、国庫はやや頼りない金額しか残らない。

「あんまり沢山は、異界移したくないなあ……というか瞳の色はそれまでに間に合うのかな、カラコン魔法の開発」

 在庫合わないと困るだろうし、かといって代金に金塊を残しても困るだろうし、とアレクシアは意味不明なことをローランに相談している。

「だっしょくざいは、作ればよかろ?」
「アンファ?」
「もともと、この世界にないモノなのじゃ。最初は限られた数を限られた相手に売ってやればよい。相応の価格でな。その間に、「だっしょく」とやらの仕組みを魔法薬で代替させられるか、研究すればよい。できねば魔法がある。――色を抜いて色を入れる。仕組みはわかった、妾にも行使は可能であろうよ。ただし、研究は続ける」
「――もちろん、王家直々に」

 闇華の言葉に、エルウィージュが微笑みを重ねた。

「わたくし主催の宴では――そうですわね、殿下の伝手で、軍籍にある方のご令室やご令嬢もお招きしましょう。特に近衛。兄上様に忠誠を誓っている一軍が、「祝福」を賜るにはふさわしいかしら」

 軍人になるのは、大抵は下位貴族か裕福な平民だ。軍学校に入るには金がかかる為である。一般の平民は、徴兵されてからの軍役になる。アトゥールのような例外は、殆どない。

「ふふ。ご自分達より下と見下している相手が、金髪だった時の、伯爵家や子爵家、男爵家の方々のざわめきが手に取るよう」

 くすっと笑って、エルウィージュはアレクシアに薄い飴色の指輪を渡した。

「レフィアス様に作っていただいたの。脱色用の薬剤を異界移したら、代わりにそれを残せばいいわ。「失われたモノと同じモノ」を作り出すそうよ。在庫とやらは、それで何とかならないかしら?」
「……なら、この世界で大量複製すればいいんじゃないかな……」
「それは無理なの。材料が揃わない以上は。ね、アリー。これで妥協して?」
「うん。レフィアス様にご協力いただいたなら、それを無碍にはできないし。ローラン、これ、あっちの世界でも魔法は発動する?」
「心配なら、私が魔力を込めておく。……金塊はどうする?」
「……それは、最後の手段かな……」

 アレクシアとローランは二人で相談しあっているので、闇華はエルウィージュに話しかけた。

「さて、どうするエルウィージュ。薬を撒く?」
「軍籍の方を最優先に。シュラウス将軍が金髪になっている以上、納得させやすいでしょうから。あとは、子爵以下のお家から、いくつか見繕います」
「宴の当日が楽しみなことよな」
「はい、とても」

 くすくすと笑い合っている二人は、艶やかな黒と輝く銀の人形のように美しい。
 だが、それが一番怖いモノだと、ローランは思っていた。特に後者は敵にしたくない。

「ローラン?」
「うん。大丈夫。私が、皆を守るから」

 もし、エルウィージュの策が上手くいかなくても。
 もし、視たとおりの未来になったとしても。
 ――愛しい少女の愛しいものは、すべて守りたい。

「アレクシアの大切なものはすべて守る。愛しているから」

 そう言って、腕の中に閉じ込めた少女の巻き毛に顔を埋めた。
 アレクシアが恥ずかしいとかなんとか言っているけど、気にしない。こうしていたいからだ。

「……先代様は、少し変わってこられたか」
「あのように、愛しい相手の愛しいものをすべて守ると言えるのは――羨ましくはありますわね。わたくしには叶わぬことですから」
「愛しくないものまで守ってやろうとしている者が、何を言うのやら」

 エルウィージュの拗ねた口調を少しからかって、闇華はリヒトとの「お散歩でーと」(アレクシア命名)に出かけた。



 そして、王女主催の宴の当日。
 主賓は、ラウエンシュタイン公爵家の跡取り姫と神竜王。主催は王女であり、また王太子妃となる異国の公主も手を貸しているという宴は、現在のヴェルスブルクでは指折りの格を誇る宴だ。だが、王女は神竜王は人口密度の高さを嫌うという理由で、庭園でのガーデンパーティーにした。
 主賓の二人に挨拶を終えた貴族の夫人や令嬢方が、噂話に花を咲かせようとした時、その一団は現れた。

 揃って金髪、あるいは淡い金髪の、見知らぬ顔の女や娘の一団だ。銀髪こそいないものの、その一団の髪の色合いは、侯爵家以上の者にしか出ない「金」だ。

「ようこそ、ヴェルスブルク王国近衛軍の、ご令室、ご令嬢方」

 王女の澄んだ声に、ざわめきは一瞬で止まり――静寂が庭園を支配した。
 
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