乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~

帰る頃合い。

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 妹に呼び出されたリヒトが、貴族達の「改めての忠誠誓約」に辟易していた時(同席させられているローランは既に泣きたい気分だった)。
 当の妹姫は、ご機嫌で酒を飲んでいた。お祝いだから、少し奮発してシルハークの乳酒を取り寄せた。強い酒だが、エルウィージュにはワインと大差ない。

「イェシカ、よくやってくれました。素晴らしい演技でしたよ」
「ほんに。見事であった。微かな声の震えまで、初々しく演じておったのう」
「ありがとうございます。父に、王家の方々に指名していただいた以上、最低限のことはできねばならぬと、叩き込まれましたので」

 イェシカは先程までの緊張が嘘のように溌剌としている。母のマグダレーナは、あの後、同格の貴族の夫人達に囲まれてしまった。「どうなっているの」という質問責めだろうが、のらりくらりと躱すだろう。それらを見越して、彼女達母娘を選んだのだから。

「……でも、イェシカ。本当は嫌ではない? 綺麗な栗色の髪だったのに……」

 申し訳なさそうに問いかけるアレクシアに、イェシカはにっこり微笑み返した。

「お気遣いありがとうございます。そうですね、今回のことの後では、会う人みんなが金髪になっているでしょうから、見分けるのは大変になりますけど」

 確かに。
 この国に来たばかりの頃、髪と瞳の色で何とか見分けていた闇華は、心から同意した。

「でも、皆様が金髪になったなら、私の髪が何色でも、今までと同じです。金なら「あなたもなのね」と同類だと思われて楽ですし、栗色のままだったら「あなたは王太子殿下に忠誠を誓っていないの」と馬鹿にされるんです」
「色で買える忠誠か。安いものじゃな」
「はい。ですから、私の忠誠は、王太子殿下にはまだお渡しできません。汚れていますから。――私は社交界に出てもいない子供ですが、王家にお仕えすることだけは父にも母にも言い含められてきました。その父が、先の戦の後、「王家ではなく王太子殿下にお仕えせよ」と言いました。私は、父の言葉には従うつもりですが……買った忠誠ではなく、捧げさせていただいた忠誠だと信じていただけるよう、努めます」
「……ねえ、イェシカ。あなた、わたくしの傍に上がりなさい。行儀見習いでも、わたくしの遊び相手でも、名目は何でもいいわ。あなたは、よい子だわ」

 エルウィージュが不意にそう言った。――宮廷で穢される前に、と小さく続けられた言葉は、アレクシアにしか聞こえなかった。

「王女殿下、でも、あの、王家の御方のお傍仕えは、伯爵家以上の家柄でないと……」
「そんな格式ばったものは、わたくしはいらないの。それに、わたくしはもうすぐ「大公家の御方」になるから、問題ないわ。王家の傍仕えが伯爵家なら、大公家の傍仕えは子爵家でもかまわないでしょう。イェシカは、嫌かしら?」
「……いえ、あの……私なんかで、よろしいのですか? もっと……」
「もっと、何?」
「……お美しい御方とか」
「わたくし、美醜は興味ないのよ。それに、あなたは可愛いわ」
「聡い御方とか」
「あなたはとても聡い子よ」
「……強い御方とか」
「あれだけの観衆の前で演じきったあなたは、相当強いと思うけれど」
「……えっと……えっと、アレクシア様に似てもいない私で、よろしいのでしょうか!」

 その言葉に、闇華が吹き出した。堪えきれずに笑い続け、睨んでくるエルウィージュのチリッとした怒りはわかるが、どうにもならない。

「そなた……エルウィージュに堂々とそう言えるのじゃから、確かに強いぞ」

 アレクシア以外は好きではないでしょうと、直接言ったようなものだ。未来の義姉として、上の身分である闇華が言うのはともかく、子爵令嬢に過ぎないイェシカが口にするには、かなりの度胸が必要だ。

「あ」
「よい、よい、許してやれ、エルウィージュ。……そなた、怖い者知らずじゃなあ。この国に来たばかりの頃の妾もじゃが」
「公主様……?」
「少しばかり粗忽じゃが、そなたはよい子じゃ。エルウィージュの相手になってやってくれぬか。アレクシアも、いつまでもエルウィージュと一緒にはいられぬのでな」

 その言葉に、アレクシアがきょとんとした。わかっておらぬのか、この姫は。

「早う、先代様と共にシルハークに逃げよ。でなくば、列を成した貴族どもが、先代様に毎日「嘆願」に来るぞ。銀の瞳を下されとな」
「……エージュ……」
「いいの。わかった上でのことよ。あなたを、とりあえずはシルハークに預けるわ。リーシュ王にお伝えなさい、アリー。あなたに手出ししたら、何をどうやっても、必ず後悔させてさしあげるとね」

 凄絶に美しい微笑みは毒どころか刃を秘めているが、アレクシアは意に介さなかった。そのまま、エルウィージュに抱きつく。

「うん。絶対、戻ってくる。待っててね、エージュ」
「わたくしがあなたを待たないはず、ないでしょう」
「私がいない間も、食事はちゃんと摂ってね。お酒ばかりは駄目よ」
「誰が、あなたにそんなこと」
「食事を摂らなかったら、エージュは妖精になれちゃうと思うけど、私はなれないの。だから、置いていかないでね。待っててね」
「……アリー」
「大好きよ。ローランと同じくらい、エージュが好きよ。うん、たぶんね、エージュ」

 さらさらと流れる銀の髪を梳いて、アレクシアは微笑んだ。

「私、あなたを愛してる。恋じゃないわ。でも、愛してるの。今、世界中で、エージュのこと、一番愛してるのは私よ」
「…………」
「……でもね、いつか私よりエージュを愛してくれる人が現れるから。そしたら、身を引いてあげる」
「……アトゥール殿下?」
「バレてた。うん、でも、今はまだ私の方がエージュを好きだもの。愛してるもの。だから、待ってて。私が帰ってきて、アトゥール殿下に負けを認めるまで、待っててね」
「……負けなくていいのに」

 ぽつりと呟いたエルウィージュの言葉は本心だろう。そしてあの大公、いつの間にアレクシアと交渉していたのかと、闇華は疑問を抱いた。イェシカは、じっと二人を見つめている。憧れの視線で。

「ね、エージュ、約束よ。待っててくれる?」
「待つわ。いつまででも。――でも、アリー」
「何?」
「あまりに遅いと、わたくし、アンファ様を神輿に乗せて、シルハークを攻めてしまうかもしれないわ。だから急いでね」
「冗談に聞こえぬぞ、エルウィージュ」
「本気ですもの。神竜王陛下と同時に事を起こせば容易いわ」

 やりかねない。そしてその成功率は極めて高い。
 そう思った闇華は、アレクシアに苦言を呈した。

「アレクシア。あまりエルウィージュのやんでれを進行させるでないぞ」
「エージュはヤンデレではないです。優しくて臆病なだけ」
「そう思っているのは、そなただけじゃ……」

 闇華の吐息に、うっとりしたイェシカの声が重なった。

「金の天使と銀の女神……素敵……」

 ――一部の界隈で、アレクシアとエルウィージュはそう呼ばれているらしい。闇華は、聞かなかったことにした。
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