乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

文字の大きさ
90 / 93
番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~

王女様と公爵令嬢。

しおりを挟む
「……やっと、やっと結ばれてくれたのねあの二人……長かったわ……」

 ローランの異能で、リヒトと闇華の「両想い」を確認したアレクシアからの報告に、エルウィージュは心から拍手喝采した。これで異母兄シスコンから解放される。

「エージュ。喜んでるところ、ごめんなさい。リヒト殿下にとって、あなたは特別なままよ?」
「…………」
「私にとって、エージュがいつまでも特別なのと同じ。ローランと結婚したって、エージュは一番大切な人よ」
「あなたは……わたくしを言いくるめるのが、本当に上手」
「だって、私はエージュが好きなんだもの。これは恋じゃないから、失恋したとか、裏切られたとか、そんなことで嫌いになることもないわ。ずっとずっと好きよ」

 ――恋ではない。
 それは、互いに言い聞かせるように繰り返してきた言葉。
 確かに、恋ではない。ただ、愛しいだけだ。

「そうね。恋ではなく、――まるで呪いみたい。あなた以外を愛しいなんて想えないくらい、わたくしはあなたが好き。あなた以外を愛せない呪いのようよ」
「呪いは、いつか解けるわ。解こうとしている方がいらっしゃるもの」
「……嫌よ」
「エージュ」
「わたくし、あなた以外は嫌だもの。わたくしの王子様はあなたでいいのよ」

 いらない。
 アレクシアからの親愛と、神竜王からの友誼以外は、どうでもいい。
 そう言ったエルウィージュに、アレクシアはくすくす笑い出した。

「アリー?」
「そうやって、もっと高い壁を作って逃げ込もうとする辺り、エージュは結構アトゥール殿下に絆されてるのね」
「……そんなこと、ないわ」
「名前で呼ばれても、返事してるし?」
「……公の場では、無視はできないでしょう。それでつい、私的な場でも受け答えしてしまうだけで」
「ふーん? 私の知ってるエージュは、そういう切り替えは完璧ですけれど?」
「アリー。わたくしをからかっているの?」
「うん。こんな可愛いエージュは初めて。傍にいてぎゅっとできないのがすごく残念」

 今は、シルハークとヴェルスブルク、それぞれに離れている。ローランは、リーシュの懇願焼き菓子に負けて、武芸の相手に出かけた。その間、「乙女の会話は邪魔してはいけないと、王の姫から言われている」と、ヴェルスブルク王宮との空間を繋いでくれた。――二人でゆっくり話すこともあるだろうと、彼なりの気遣いだ。

「わたくしも、あなたにぎゅっとされないのは残念だわ」
「アトゥール殿下には、まだその権利は渡したくないなあ……」
「ずっと渡さなくていいわよ。……でも、そうね。いずれわたくしは、殿下を夫とし、閨を共にするわけだけれど」
「未婚の王女様がなんてこと言うの」
「……わたくしは、そのことが怖いというより、ただ嫌なのよ。だから、……そうね。アトゥール殿下は、そういった欲はお見せにならないわね。兄上様はもちろんだし、シルヴィスもわたくしに色欲を持たない。その意味では、お兄様も同じね。わたくしが嫌いではない殿方は、たった四人だわ、アリー。好きな殿方は、あなたの神竜王陛下だけ。陛下はわたくしの同志だもの、大好きだわ」

 以前は、これほど「嫌」ではなかった。仕方ないと割り切って、最低限の礼儀は守って接していた。それは、侯爵令嬢でしかなかったからだ。
 妾腹とはいえ王女の身分を得たことで、エルウィージュに近づける男は格段に減った。更に、シェーンベルク大公との婚約で、想われることは変わらずとも、「魔性の姫君」と噂されることはなくなった。そのことが、エルウィージュが耐え続けていた「男への嫌悪」を更に増幅させるという皮肉な結果を生んだ。

「エージュ……」
「アリーは、わたくしに欲など持たないでしょう? わたくしも、アリーに色の欲はないの。それでも、あなたを閉じ込めて、わたくしだけのものにしてしまいたい気はあるのよ。神竜王陛下が相手でなければ、そうしていたわ」

 ――大切な少女。
 初めて、ただ愛すること、何の見返りもなく愛されることを教えてくれた、たったひとつの光。
 やすらぎなんて生易しいものではない。彼女への執着は、もっと深く、澱のように重い。

「それじゃ駄目よ、エージュ。そんなことしたら、私は私じゃなくなるわ。エージュが好きって言ってくれる私じゃなくなる」
「……それでもいいと思うくらいには、わたくしはあなたに囚われているのよ」
「ヤンデレだ……アトゥール殿下、頑張って……!」
「さっきも言ったでしょう。殿下のことは嫌いではないわ。ただ、興味がないだけ」
「殿下は、エージュの外見じゃなくて、心も愛してくれてると思うわ」
「……知っているわ。わたくしがあなたを一番愛しているとわかっていて、それでいいとおっしゃったもの」

 ――アレクシアへの想いに勝とうとは思いませんよ。ただ、私があなたを愛しく想っていることは、今後も繰り返し申し上げます。

「わたくしのどこがいいのかしらね」
「えーと。優しいところ」
「あなた以外に優しくしたくないわ」
「……勝ち気なところ」
「それは、殿方が弱いだけではない?」
「護りたいものの為に、強くなれるところ」
「わたくしが護りたいのはあなただけなの」
「……エージュ……お願いだから、開き直ってヤンデレないで……」

 懇願してくる金髪の少女に、エルウィージュは優しく笑った。

「恋ではないのに、愛より重いのね。自分の感情を持て余すなんて、わたくし、思ってもみなかった」

 目の前に姿はあるのに、その巻き毛に触れられない。それがひどく腹立たしい。

「わたくし、あなた以外はいらないのよ」
「箱庭は駄目って言ってるのに」
「騒がしいのは嫌いだわ。わたくしはね、静かに本を読んでいたいの。隣にあなたがいてくれれば、それでいいのよ」

 狭い世界でいいといくら言っても、アレクシアは受け入れない。彼女自身が「外」との接点だから、彼女がいる限り、エルウィージュは箱庭に閉じこもることはないのだが。

「あまり広い世界は、わたくしのような者には怖いのよ。広すぎて把握できないから」
「怖い?」
「そう。怖いの」
「怖いなら仕方ないなあ……」

 アレクシアは、あっさり、エルウィージュの言葉を受け入れてくれる。怖いというのは、嘘ではない。微妙に真実でもないだけで。

「わたくしは、あなたみたいに人を信じることができないから。だから、閉じられた世界でいいの」
「エージュは私を信じてくれるでしょう?」
「そうね。あなただけよ」
「……不器用さんですねえ」

 そう笑って、アレクシアはエルウィージュに手を伸ばす。触れあえないことは承知で。

「ヤンデレで人見知りで怖がりで不器用なエージュが、私は好きよ」
「アリー」
「それにね、エージュは少しずつだけど、私以外の人も受け入れてくれてる。アトゥール殿下に名前を許したし、イェシカを守ろうとしてる。だから私はそれでいいの。いつか、エージュの一番が私じゃなくなる日が来るのを、待っていられるの」
「わたくしの一番で特別なのは、あなただけよ」
「今はね」
「……いずれ、子を産めば変わると思っているなら、甘いわよアリー。わたくしのあなたへの執着は、かなりのものですからね」
「うん。執着されてることは知ってる。けどね、エージュ」

 アレクシアは、にっこり笑った。

「私だって、エージュに執着してるんだから。ずっと、このままでもいいなあって思うくらいには」
「アリー……?」
「ローランは特別よ。ローランに幸せになってほしくて、私はこの世界を受け入れた。でも、エージュ」

 アレクシアは手を差し伸べたままだ。無意識に、エルウィージュはその手を取ろうとして――
 届かないはずの手が、触れあった気がした。

「エージュがいてくれたから、この世界は私を受け入れてくれたの。ローランよりも、お父様よりもお母様よりも、誰よりも早く、エージュがを受け入れてくれたのよ」
「……神竜王陛下、より?」
「うん。……内緒よ? 拗ねちゃうから。そしたら可愛すぎて私がつらいから」

 悪戯っぽく笑う親友を、今ほど抱き締めたいと思ったことはない。

「愛してるわ、アリー。わたくしは、いつも、どんな時も、あなたを愛して、愛し続けて――あなたを想う瞬間を重ねて、いつかそれを永遠にする」
「私も、エージュが大好きよ。友達に言うのはおかしいかもしれないけど、愛してる。仕方ないわよ、大好きよりもっともっと好きなんだもの、他の言葉がわからない」
「……なのに、不思議ね。わたくし、あなたに口づけたいとは思わないのよ」
「私も。だって、そんなことしなくたって、私がエージュを好きなことは、ちゃんとエージュに伝わってるもの」
「神竜王陛下が嘆かれるわよ。私には伝わっていないと思っているのか、と」
「だから内緒! 乙女の秘密!」

 ――笑いあう少女達に、先代神竜王陛下は、「異能で繋いだので、、全部聞こえている」と言うこともできず、しょんぼりしたまま、リーシュを叩きのめしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...