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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~
王女様と公爵令嬢。
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「……やっと、やっと結ばれてくれたのねあの二人……長かったわ……」
ローランの異能で、リヒトと闇華の「両想い」を確認したアレクシアからの報告に、エルウィージュは心から拍手喝采した。これで異母兄から解放される。
「エージュ。喜んでるところ、ごめんなさい。リヒト殿下にとって、あなたは特別なままよ?」
「…………」
「私にとって、エージュがいつまでも特別なのと同じ。ローランと結婚したって、エージュは一番大切な人よ」
「あなたは……わたくしを言いくるめるのが、本当に上手」
「だって、私はエージュが好きなんだもの。これは恋じゃないから、失恋したとか、裏切られたとか、そんなことで嫌いになることもないわ。ずっとずっと好きよ」
――恋ではない。
それは、互いに言い聞かせるように繰り返してきた言葉。
確かに、恋ではない。ただ、愛しいだけだ。
「そうね。恋ではなく、――まるで呪いみたい。あなた以外を愛しいなんて想えないくらい、わたくしはあなたが好き。あなた以外を愛せない呪いのようよ」
「呪いは、いつか解けるわ。解こうとしている方がいらっしゃるもの」
「……嫌よ」
「エージュ」
「わたくし、あなた以外は嫌だもの。わたくしの王子様はあなたでいいのよ」
いらない。
アレクシアからの親愛と、神竜王からの友誼以外は、どうでもいい。
そう言ったエルウィージュに、アレクシアはくすくす笑い出した。
「アリー?」
「そうやって、もっと高い壁を作って逃げ込もうとする辺り、エージュは結構アトゥール殿下に絆されてるのね」
「……そんなこと、ないわ」
「名前で呼ばれても、返事してるし?」
「……公の場では、無視はできないでしょう。それでつい、私的な場でも受け答えしてしまうだけで」
「ふーん? 私の知ってるエージュは、そういう切り替えは完璧ですけれど?」
「アリー。わたくしをからかっているの?」
「うん。こんな可愛いエージュは初めて。傍にいてぎゅっとできないのがすごく残念」
今は、シルハークとヴェルスブルク、それぞれに離れている。ローランは、リーシュの懇願に負けて、武芸の相手に出かけた。その間、「乙女の会話は邪魔してはいけないと、王の姫から言われている」と、ヴェルスブルク王宮との空間を繋いでくれた。――二人でゆっくり話すこともあるだろうと、彼なりの気遣いだ。
「わたくしも、あなたにぎゅっとされないのは残念だわ」
「アトゥール殿下には、まだその権利は渡したくないなあ……」
「ずっと渡さなくていいわよ。……でも、そうね。いずれわたくしは、殿下を夫とし、閨を共にするわけだけれど」
「未婚の王女様がなんてこと言うの」
「……わたくしは、そのことが怖いというより、ただ嫌なのよ。だから、……そうね。アトゥール殿下は、そういった欲はお見せにならないわね。兄上様はもちろんだし、シルヴィスもわたくしに色欲を持たない。その意味では、お兄様も同じね。わたくしが嫌いではない殿方は、たった四人だわ、アリー。好きな殿方は、あなたの神竜王陛下だけ。陛下はわたくしの同志だもの、大好きだわ」
以前は、これほど「嫌」ではなかった。仕方ないと割り切って、最低限の礼儀は守って接していた。それは、侯爵令嬢でしかなかったからだ。
妾腹とはいえ王女の身分を得たことで、エルウィージュに近づける男は格段に減った。更に、シェーンベルク大公との婚約で、想われることは変わらずとも、「魔性の姫君」と噂されることはなくなった。そのことが、エルウィージュが耐え続けていた「男への嫌悪」を更に増幅させるという皮肉な結果を生んだ。
「エージュ……」
「アリーは、わたくしに欲など持たないでしょう? わたくしも、アリーに色の欲はないの。それでも、あなたを閉じ込めて、わたくしだけのものにしてしまいたい気はあるのよ。神竜王陛下が相手でなければ、そうしていたわ」
――大切な少女。
初めて、ただ愛すること、何の見返りもなく愛されることを教えてくれた、たったひとつの光。
やすらぎなんて生易しいものではない。彼女への執着は、もっと深く、澱のように重い。
「それじゃ駄目よ、エージュ。そんなことしたら、私は私じゃなくなるわ。エージュが好きって言ってくれる私じゃなくなる」
「……それでもいいと思うくらいには、わたくしはあなたに囚われているのよ」
「ヤンデレだ……アトゥール殿下、頑張って……!」
「さっきも言ったでしょう。殿下のことは嫌いではないわ。ただ、興味がないだけ」
「殿下は、エージュの外見じゃなくて、心も愛してくれてると思うわ」
「……知っているわ。わたくしがあなたを一番愛しているとわかっていて、それでいいとおっしゃったもの」
――アレクシアへの想いに勝とうとは思いませんよ。ただ、私があなたを愛しく想っていることは、今後も繰り返し申し上げます。
「わたくしのどこがいいのかしらね」
「えーと。優しいところ」
「あなた以外に優しくしたくないわ」
「……勝ち気なところ」
「それは、殿方が弱いだけではない?」
「護りたいものの為に、強くなれるところ」
「わたくしが護りたいのはあなただけなの」
「……エージュ……お願いだから、開き直ってヤンデレないで……」
懇願してくる金髪の少女に、エルウィージュは優しく笑った。
「恋ではないのに、愛より重いのね。自分の感情を持て余すなんて、わたくし、思ってもみなかった」
目の前に姿はあるのに、その巻き毛に触れられない。それがひどく腹立たしい。
「わたくし、あなた以外はいらないのよ」
「箱庭は駄目って言ってるのに」
「騒がしいのは嫌いだわ。わたくしはね、静かに本を読んでいたいの。隣にあなたがいてくれれば、それでいいのよ」
狭い世界でいいといくら言っても、アレクシアは受け入れない。彼女自身が「外」との接点だから、彼女がいる限り、エルウィージュは箱庭に閉じこもることはないのだが。
「あまり広い世界は、わたくしのような者には怖いのよ。広すぎて把握できないから」
「怖い?」
「そう。怖いの」
「怖いなら仕方ないなあ……」
アレクシアは、あっさり、エルウィージュの言葉を受け入れてくれる。怖いというのは、嘘ではない。微妙に真実でもないだけで。
「わたくしは、あなたみたいに人を信じることができないから。だから、閉じられた世界でいいの」
「エージュは私を信じてくれるでしょう?」
「そうね。あなただけよ」
「……不器用さんですねえ」
そう笑って、アレクシアはエルウィージュに手を伸ばす。触れあえないことは承知で。
「ヤンデレで人見知りで怖がりで不器用なエージュが、私は好きよ」
「アリー」
「それにね、エージュは少しずつだけど、私以外の人も受け入れてくれてる。アトゥール殿下に名前を許したし、イェシカを守ろうとしてる。だから私はそれでいいの。いつか、エージュの一番が私じゃなくなる日が来るのを、待っていられるの」
「わたくしの一番で特別なのは、あなただけよ」
「今はね」
「……いずれ、子を産めば変わると思っているなら、甘いわよアリー。わたくしのあなたへの執着は、かなりのものですからね」
「うん。執着されてることは知ってる。けどね、エージュ」
アレクシアは、にっこり笑った。
「私だって、エージュに執着してるんだから。ずっと、このままでもいいなあって思うくらいには」
「アリー……?」
「ローランは特別よ。ローランに幸せになってほしくて、私はこの世界を受け入れた。でも、エージュ」
アレクシアは手を差し伸べたままだ。無意識に、エルウィージュはその手を取ろうとして――
届かないはずの手が、触れあった気がした。
「エージュがいてくれたから、この世界は私を受け入れてくれたの。ローランよりも、お父様よりもお母様よりも、誰よりも早く、エージュが私を受け入れてくれたのよ」
「……神竜王陛下、より?」
「うん。……内緒よ? 拗ねちゃうから。そしたら可愛すぎて私がつらいから」
悪戯っぽく笑う親友を、今ほど抱き締めたいと思ったことはない。
「愛してるわ、アリー。わたくしは、いつも、どんな時も、あなたを愛して、愛し続けて――あなたを想う瞬間を重ねて、いつかそれを永遠にする」
「私も、エージュが大好きよ。友達に言うのはおかしいかもしれないけど、愛してる。仕方ないわよ、大好きよりもっともっと好きなんだもの、他の言葉がわからない」
「……なのに、不思議ね。わたくし、あなたに口づけたいとは思わないのよ」
「私も。だって、そんなことしなくたって、私がエージュを好きなことは、ちゃんとエージュに伝わってるもの」
「神竜王陛下が嘆かれるわよ。私には伝わっていないと思っているのか、と」
「だから内緒! 乙女の秘密!」
――笑いあう少女達に、先代神竜王陛下は、「異能で繋いだので、邪魔をしないだけで、全部聞こえている」と言うこともできず、しょんぼりしたまま、リーシュを叩きのめしていた。
ローランの異能で、リヒトと闇華の「両想い」を確認したアレクシアからの報告に、エルウィージュは心から拍手喝采した。これで異母兄から解放される。
「エージュ。喜んでるところ、ごめんなさい。リヒト殿下にとって、あなたは特別なままよ?」
「…………」
「私にとって、エージュがいつまでも特別なのと同じ。ローランと結婚したって、エージュは一番大切な人よ」
「あなたは……わたくしを言いくるめるのが、本当に上手」
「だって、私はエージュが好きなんだもの。これは恋じゃないから、失恋したとか、裏切られたとか、そんなことで嫌いになることもないわ。ずっとずっと好きよ」
――恋ではない。
それは、互いに言い聞かせるように繰り返してきた言葉。
確かに、恋ではない。ただ、愛しいだけだ。
「そうね。恋ではなく、――まるで呪いみたい。あなた以外を愛しいなんて想えないくらい、わたくしはあなたが好き。あなた以外を愛せない呪いのようよ」
「呪いは、いつか解けるわ。解こうとしている方がいらっしゃるもの」
「……嫌よ」
「エージュ」
「わたくし、あなた以外は嫌だもの。わたくしの王子様はあなたでいいのよ」
いらない。
アレクシアからの親愛と、神竜王からの友誼以外は、どうでもいい。
そう言ったエルウィージュに、アレクシアはくすくす笑い出した。
「アリー?」
「そうやって、もっと高い壁を作って逃げ込もうとする辺り、エージュは結構アトゥール殿下に絆されてるのね」
「……そんなこと、ないわ」
「名前で呼ばれても、返事してるし?」
「……公の場では、無視はできないでしょう。それでつい、私的な場でも受け答えしてしまうだけで」
「ふーん? 私の知ってるエージュは、そういう切り替えは完璧ですけれど?」
「アリー。わたくしをからかっているの?」
「うん。こんな可愛いエージュは初めて。傍にいてぎゅっとできないのがすごく残念」
今は、シルハークとヴェルスブルク、それぞれに離れている。ローランは、リーシュの懇願に負けて、武芸の相手に出かけた。その間、「乙女の会話は邪魔してはいけないと、王の姫から言われている」と、ヴェルスブルク王宮との空間を繋いでくれた。――二人でゆっくり話すこともあるだろうと、彼なりの気遣いだ。
「わたくしも、あなたにぎゅっとされないのは残念だわ」
「アトゥール殿下には、まだその権利は渡したくないなあ……」
「ずっと渡さなくていいわよ。……でも、そうね。いずれわたくしは、殿下を夫とし、閨を共にするわけだけれど」
「未婚の王女様がなんてこと言うの」
「……わたくしは、そのことが怖いというより、ただ嫌なのよ。だから、……そうね。アトゥール殿下は、そういった欲はお見せにならないわね。兄上様はもちろんだし、シルヴィスもわたくしに色欲を持たない。その意味では、お兄様も同じね。わたくしが嫌いではない殿方は、たった四人だわ、アリー。好きな殿方は、あなたの神竜王陛下だけ。陛下はわたくしの同志だもの、大好きだわ」
以前は、これほど「嫌」ではなかった。仕方ないと割り切って、最低限の礼儀は守って接していた。それは、侯爵令嬢でしかなかったからだ。
妾腹とはいえ王女の身分を得たことで、エルウィージュに近づける男は格段に減った。更に、シェーンベルク大公との婚約で、想われることは変わらずとも、「魔性の姫君」と噂されることはなくなった。そのことが、エルウィージュが耐え続けていた「男への嫌悪」を更に増幅させるという皮肉な結果を生んだ。
「エージュ……」
「アリーは、わたくしに欲など持たないでしょう? わたくしも、アリーに色の欲はないの。それでも、あなたを閉じ込めて、わたくしだけのものにしてしまいたい気はあるのよ。神竜王陛下が相手でなければ、そうしていたわ」
――大切な少女。
初めて、ただ愛すること、何の見返りもなく愛されることを教えてくれた、たったひとつの光。
やすらぎなんて生易しいものではない。彼女への執着は、もっと深く、澱のように重い。
「それじゃ駄目よ、エージュ。そんなことしたら、私は私じゃなくなるわ。エージュが好きって言ってくれる私じゃなくなる」
「……それでもいいと思うくらいには、わたくしはあなたに囚われているのよ」
「ヤンデレだ……アトゥール殿下、頑張って……!」
「さっきも言ったでしょう。殿下のことは嫌いではないわ。ただ、興味がないだけ」
「殿下は、エージュの外見じゃなくて、心も愛してくれてると思うわ」
「……知っているわ。わたくしがあなたを一番愛しているとわかっていて、それでいいとおっしゃったもの」
――アレクシアへの想いに勝とうとは思いませんよ。ただ、私があなたを愛しく想っていることは、今後も繰り返し申し上げます。
「わたくしのどこがいいのかしらね」
「えーと。優しいところ」
「あなた以外に優しくしたくないわ」
「……勝ち気なところ」
「それは、殿方が弱いだけではない?」
「護りたいものの為に、強くなれるところ」
「わたくしが護りたいのはあなただけなの」
「……エージュ……お願いだから、開き直ってヤンデレないで……」
懇願してくる金髪の少女に、エルウィージュは優しく笑った。
「恋ではないのに、愛より重いのね。自分の感情を持て余すなんて、わたくし、思ってもみなかった」
目の前に姿はあるのに、その巻き毛に触れられない。それがひどく腹立たしい。
「わたくし、あなた以外はいらないのよ」
「箱庭は駄目って言ってるのに」
「騒がしいのは嫌いだわ。わたくしはね、静かに本を読んでいたいの。隣にあなたがいてくれれば、それでいいのよ」
狭い世界でいいといくら言っても、アレクシアは受け入れない。彼女自身が「外」との接点だから、彼女がいる限り、エルウィージュは箱庭に閉じこもることはないのだが。
「あまり広い世界は、わたくしのような者には怖いのよ。広すぎて把握できないから」
「怖い?」
「そう。怖いの」
「怖いなら仕方ないなあ……」
アレクシアは、あっさり、エルウィージュの言葉を受け入れてくれる。怖いというのは、嘘ではない。微妙に真実でもないだけで。
「わたくしは、あなたみたいに人を信じることができないから。だから、閉じられた世界でいいの」
「エージュは私を信じてくれるでしょう?」
「そうね。あなただけよ」
「……不器用さんですねえ」
そう笑って、アレクシアはエルウィージュに手を伸ばす。触れあえないことは承知で。
「ヤンデレで人見知りで怖がりで不器用なエージュが、私は好きよ」
「アリー」
「それにね、エージュは少しずつだけど、私以外の人も受け入れてくれてる。アトゥール殿下に名前を許したし、イェシカを守ろうとしてる。だから私はそれでいいの。いつか、エージュの一番が私じゃなくなる日が来るのを、待っていられるの」
「わたくしの一番で特別なのは、あなただけよ」
「今はね」
「……いずれ、子を産めば変わると思っているなら、甘いわよアリー。わたくしのあなたへの執着は、かなりのものですからね」
「うん。執着されてることは知ってる。けどね、エージュ」
アレクシアは、にっこり笑った。
「私だって、エージュに執着してるんだから。ずっと、このままでもいいなあって思うくらいには」
「アリー……?」
「ローランは特別よ。ローランに幸せになってほしくて、私はこの世界を受け入れた。でも、エージュ」
アレクシアは手を差し伸べたままだ。無意識に、エルウィージュはその手を取ろうとして――
届かないはずの手が、触れあった気がした。
「エージュがいてくれたから、この世界は私を受け入れてくれたの。ローランよりも、お父様よりもお母様よりも、誰よりも早く、エージュが私を受け入れてくれたのよ」
「……神竜王陛下、より?」
「うん。……内緒よ? 拗ねちゃうから。そしたら可愛すぎて私がつらいから」
悪戯っぽく笑う親友を、今ほど抱き締めたいと思ったことはない。
「愛してるわ、アリー。わたくしは、いつも、どんな時も、あなたを愛して、愛し続けて――あなたを想う瞬間を重ねて、いつかそれを永遠にする」
「私も、エージュが大好きよ。友達に言うのはおかしいかもしれないけど、愛してる。仕方ないわよ、大好きよりもっともっと好きなんだもの、他の言葉がわからない」
「……なのに、不思議ね。わたくし、あなたに口づけたいとは思わないのよ」
「私も。だって、そんなことしなくたって、私がエージュを好きなことは、ちゃんとエージュに伝わってるもの」
「神竜王陛下が嘆かれるわよ。私には伝わっていないと思っているのか、と」
「だから内緒! 乙女の秘密!」
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