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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~
華燭の典はあっさりと。
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王太子の婚儀は、随分と質素に行われるものなのだなと、闇華は感心した。
何せ、列席しているのは異母妹のエルウィージュ、その婚約者のアトゥール。従兄のシルヴィス、そして貴族代表はアレクシアの父・ラウエンシュタイン公爵レジェス。王軍代表はカイン・シュラウス(金髪維持中)、神殿代表はオリヴィエ・ステファニアスとか名乗ったか。
アレクシアと先代様は、リヒトに祝福を与えた以上は今後を見守る必要があるとやらで、列席している。
あとは、儀式を執り行う銀髪の大神官。――たったそれだけだった。
シルハークの民族衣装――白と紫に金をあしらい、意匠は、竜王。王族でも直系の者、それも正装でしか着用できない衣装は、にいさまが贈ってくれた。闇華は妾腹だから、竜の意匠は許されるが、竜王は許されない――許される公主は、父様の嫡出だった香華と、兄上の嫡出である雪華だけだ――のだが、にいさまが特例として許して下さった。おそらく、エルウィージュが何らかの働きかけをしたのだろう。ヴェルスブルクの王妃となる闇華の出自を彩る為に。
聖が調えてくれた髪には、歩揺が華やかに揺れ、耳にも重い耳飾りがシャランと涼しい音を立てる。聖は、闇華の顔立ちに最も映える化粧をし、額には豎眼――天帝の証を模した模様を鮮やかな緋色で施している。竜王の中の竜王とされる天帝に連なる者だけに許された化粧だ。
神殿の中、最奥の間の前までは一人で歩いた闇華は、ヴェルスブルクの礼装で待っていたリヒトに手を取られ、室内へと進む。列席者達は、最敬礼で二人を迎えた。
「終わったのう」
「アンファ、綺麗ー」
「……わたくしは、この後のパレードが嫌だわ……兄上様のご結婚でしょう、どうしてわたくしまで参加しなくてはいけないの……」
「民の支持なくば、王家は王家たり得ぬと示してみせたのは、そなたであろうに」
エルウィージュの愚痴をからかうと、アレクシアがきょとんとして親友を見遣った。
「エージュ。また、何かしたの……」
「少しだけね。大丈夫よ、悪いことではないから」
――ひとつの国の政治体制を大きく変革させたことは、悪いことではないが、「大丈夫」の一言で片づけていいものではないとは思う。思うが、闇華は口にしない。
「アンファ様」
「そう、それじゃ。エルウィージュ、妾はリヒト様の妃となった。そなたの義姉じゃ。ねえさまと呼べ」
「お断り致します」
「おねえさまでもよい」
「嫌です」
「嫌しか言わぬとは、幼子か、そなた。ならばねえねにするか?」
「……姉上様で」
「できればもう少し慕わしげにしてくれぬか」
「何故ですの」
「リヒト様に自慢したい。……妾が、にいさまをにいさまと呼んでしまった時、とても恥ずかしかったのでな……」
今後の夫婦生活の為にも、自分が主導権を握っておきたいのである。というか、リヒトの場合、闇華が手綱を取らないと大変なことになりそうだ。
「それでは、ねえさまとお呼び致しましょう」
エルウィージュは簡単に受け入れた。
「それとな、エルウィージュ。王太子の婚儀というに、貴族は列席せぬのか?」
「必要ありませんから、事前に制限しましたの。一度たりとも兄上様に叛意を持ったことのない御方だけに」
「……それで、ラウエンシュタインだけか? あまりにも……」
「クレーフェもフェドレンも除外です。成婚のパレードには列席させます。ただ、兄上様の婚儀に出席という栄誉は許せませんの」
貴族代表として、ラウエンシュタイン公爵が出席した。それで「貴族の総意」にできる。
「私に、汚れたものを見せたくないのだろう。王の姫は優しい」
先代様の言葉で、闇華ははっとした。
「そして、兄の晴れの舞台に、美しくないものは認めたくない。王の姫は唯美主義だ」
「じゃが、それでは……出席していなかった、ゆえに認めぬとも強弁されよう?」
「そうなればそうなったでよいのです。貴族籍を剥奪するだけですから。……王と議会、それだけでよいのです」
「……本音は、王もいらぬ、か」
「ええ。ですが、この国はそこまで熟していない。ゆっくり、時間をかけ、民に知識を与え、育てて……その時、民が選ぶのです。王なる存在を残すか、残さぬかを」
微笑んだエルウィージュは、ヒトならぬ者のように美しかった。
「血筋だけで為政者が定まらぬように。能力ある者が国を率いるように。――そんな未来の為には、血筋だけを誇る貴族はいらぬのです。アリーのお父様のように、民と国を思って下さる方ならよろしいのですが」
そよぐ風のようにそう言って、エルウィージュはアレクシアの巻き毛に口づけた。短い巻き毛だから、殆ど頬に口唇を押し当てたように見える。退廃的な美しい王女は、自らの家名が滅ぶ未来をこそ望んでいるのだろうか。
「……ま、生き生き溌剌としたそなたなど、そなたではないわなあ……」
「どういう意味ですの、ねえさま」
「アレクシア。そなた、幸せに過ごせよ。でなくばこの妹、何をするかわからぬわ」
「私はローランとエージュがいて、お父様やお母様、アンファやレフィアス様や……好きな人たちが笑ってくれてたら幸せよ?」
それが一番贅沢なことだと、闇華は笑った。
何せ、列席しているのは異母妹のエルウィージュ、その婚約者のアトゥール。従兄のシルヴィス、そして貴族代表はアレクシアの父・ラウエンシュタイン公爵レジェス。王軍代表はカイン・シュラウス(金髪維持中)、神殿代表はオリヴィエ・ステファニアスとか名乗ったか。
アレクシアと先代様は、リヒトに祝福を与えた以上は今後を見守る必要があるとやらで、列席している。
あとは、儀式を執り行う銀髪の大神官。――たったそれだけだった。
シルハークの民族衣装――白と紫に金をあしらい、意匠は、竜王。王族でも直系の者、それも正装でしか着用できない衣装は、にいさまが贈ってくれた。闇華は妾腹だから、竜の意匠は許されるが、竜王は許されない――許される公主は、父様の嫡出だった香華と、兄上の嫡出である雪華だけだ――のだが、にいさまが特例として許して下さった。おそらく、エルウィージュが何らかの働きかけをしたのだろう。ヴェルスブルクの王妃となる闇華の出自を彩る為に。
聖が調えてくれた髪には、歩揺が華やかに揺れ、耳にも重い耳飾りがシャランと涼しい音を立てる。聖は、闇華の顔立ちに最も映える化粧をし、額には豎眼――天帝の証を模した模様を鮮やかな緋色で施している。竜王の中の竜王とされる天帝に連なる者だけに許された化粧だ。
神殿の中、最奥の間の前までは一人で歩いた闇華は、ヴェルスブルクの礼装で待っていたリヒトに手を取られ、室内へと進む。列席者達は、最敬礼で二人を迎えた。
「終わったのう」
「アンファ、綺麗ー」
「……わたくしは、この後のパレードが嫌だわ……兄上様のご結婚でしょう、どうしてわたくしまで参加しなくてはいけないの……」
「民の支持なくば、王家は王家たり得ぬと示してみせたのは、そなたであろうに」
エルウィージュの愚痴をからかうと、アレクシアがきょとんとして親友を見遣った。
「エージュ。また、何かしたの……」
「少しだけね。大丈夫よ、悪いことではないから」
――ひとつの国の政治体制を大きく変革させたことは、悪いことではないが、「大丈夫」の一言で片づけていいものではないとは思う。思うが、闇華は口にしない。
「アンファ様」
「そう、それじゃ。エルウィージュ、妾はリヒト様の妃となった。そなたの義姉じゃ。ねえさまと呼べ」
「お断り致します」
「おねえさまでもよい」
「嫌です」
「嫌しか言わぬとは、幼子か、そなた。ならばねえねにするか?」
「……姉上様で」
「できればもう少し慕わしげにしてくれぬか」
「何故ですの」
「リヒト様に自慢したい。……妾が、にいさまをにいさまと呼んでしまった時、とても恥ずかしかったのでな……」
今後の夫婦生活の為にも、自分が主導権を握っておきたいのである。というか、リヒトの場合、闇華が手綱を取らないと大変なことになりそうだ。
「それでは、ねえさまとお呼び致しましょう」
エルウィージュは簡単に受け入れた。
「それとな、エルウィージュ。王太子の婚儀というに、貴族は列席せぬのか?」
「必要ありませんから、事前に制限しましたの。一度たりとも兄上様に叛意を持ったことのない御方だけに」
「……それで、ラウエンシュタインだけか? あまりにも……」
「クレーフェもフェドレンも除外です。成婚のパレードには列席させます。ただ、兄上様の婚儀に出席という栄誉は許せませんの」
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「私に、汚れたものを見せたくないのだろう。王の姫は優しい」
先代様の言葉で、闇華ははっとした。
「そして、兄の晴れの舞台に、美しくないものは認めたくない。王の姫は唯美主義だ」
「じゃが、それでは……出席していなかった、ゆえに認めぬとも強弁されよう?」
「そうなればそうなったでよいのです。貴族籍を剥奪するだけですから。……王と議会、それだけでよいのです」
「……本音は、王もいらぬ、か」
「ええ。ですが、この国はそこまで熟していない。ゆっくり、時間をかけ、民に知識を与え、育てて……その時、民が選ぶのです。王なる存在を残すか、残さぬかを」
微笑んだエルウィージュは、ヒトならぬ者のように美しかった。
「血筋だけで為政者が定まらぬように。能力ある者が国を率いるように。――そんな未来の為には、血筋だけを誇る貴族はいらぬのです。アリーのお父様のように、民と国を思って下さる方ならよろしいのですが」
そよぐ風のようにそう言って、エルウィージュはアレクシアの巻き毛に口づけた。短い巻き毛だから、殆ど頬に口唇を押し当てたように見える。退廃的な美しい王女は、自らの家名が滅ぶ未来をこそ望んでいるのだろうか。
「……ま、生き生き溌剌としたそなたなど、そなたではないわなあ……」
「どういう意味ですの、ねえさま」
「アレクシア。そなた、幸せに過ごせよ。でなくばこの妹、何をするかわからぬわ」
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