転生したら王族だった

みみっく

文字の大きさ
189 / 223
第三章 ‐ 戦争の影

189話 恐怖の化身と、彼の優しい手

しおりを挟む
「お腹が空いてるんなら、そこに座って待っててよっ!」

 不機嫌そうにレイニーが言った。その態度は堂々としていて、自分の領域に侵入した魔王に対してまるで一顧だにしない姿勢を見せていた。しかし、その予想外の返しに、周囲にいた人型の魔物たちは全員呆然とした表情を浮かべ、心の中で『いや、違うだろ……』とツッコミを入れるしかなかった。

 ところが、魔王はその言葉に逆らうことなく、素直に近くにあった岩に腰を下ろした。その様子は一見信じられないほど従順に見えるが、魔王には明確な理由があった。魔王は直に感じた闇の王――レイニーの力を認識していた。それは自分自身の力を凌駕する、いや、それ以上の格段に上の強さを感じさせるものだった。

 魔王は心の奥底で冷静に状況を分析し、自分が闇の王の配下である以上、勝ち目がないことを悟っていた。そのため、彼の表情は静かでありながら複雑な感情を宿していた。彼がふと視線を上げると、遠くの山が2つ吹き飛ばされている光景が目に入った。

 その山は、つい先ほどのレイニーが放った圧倒的な魔法によって消し去られたものであることは明らかだった。その距離は、魔王が全力で魔法を放っても山に届くのがやっとの距離であり、彼自身の力では到底実現不可能な規模の破壊だった。その光景を見つめながら、魔王は静かに呟いた。

「新たなる……闇の王の復活か……。」

 その言葉には恐れだけでなく、どこか畏敬の念も含まれていた。彼の瞳は冷静さを保ちながらも僅かに揺らぎ、未来への不安と希望が交錯するような表情を見せていた。

 レイニーはそんな魔王の様子には特に興味を示すこともなく、焼けた肉をつまみながら、隣にいるシオンと楽しげな会話を続けていた。その無邪気な姿が、かえって魔王を含む周囲をさらに圧倒していた。

「クマみたいな獣の肉も美味しーねー♪ 皆の分……はちょっとないけど、魔王もこっちに来て食べなよー。」

 レイニーが無邪気な顔で魔王に声をかけた。その軽い口調に魔王は一瞬戸惑いを見せたが、やがてその言葉に従い、レイニーの張ったバリアの中へと足を踏み入れた。

 バリアの中に入った瞬間、魔王はふともう一人の子供の気配に気づいた。その気配はどこか懐かしく、そして圧倒的な力を感じさせるものだった。魔王はその存在をじっと見つめながら、静かに呟いた。

「……古代の魔王様……なのか?」

 その言葉にシオンは反射的に顔を上げた。

「ん? そうだが……いや、今は、ボクはシオンだぞ。」

 彼は急いで言い直し、自分の現在の姿を強調するように答えた。その幼い顔には少し照れくささが浮かんでいた。

「ここじゃ隠さなくても良いよ。バレても問題ないでしょ~。」

 レイニーはシオンの頭を優しく撫でながら、軽い口調で言った。その仕草にはどこか兄のような親しみが感じられ、シオンは少し安心したように微笑んだ。

 魔王はそのやり取りを静かに見守りながら、バリアの中に漂う穏やかな空気を感じ取っていた。彼の表情には僅かな戸惑いと、どこか懐かしさが混じっているようだった。

 クマの肉を他人に振る舞われたことに少し機嫌を損ねた様子のガルムが、魔王をじっと見つめ、低い唸り声とともに威嚇を始めた。その巨体が少し前進すると、地面がわずかに振動し、その鋭い目つきが魔王をまっすぐに捕らえていた。ガルムの唸り声は徐々に低く深くなり、場の空気をさらに緊張感で満たしていった。

 レイニーの強大なオーラと魔力が場を支配していたために、薄れていたが、ガルムが古代の魔王によって放たれた恐怖の存在であることを目の当たりにした魔王は、その脅威を再びはっきりと認識した。何度も捕獲や討伐を試みたが、いずれも失敗に終わったその不屈の存在が、いま魔王の目前にいる事実が彼を震えさせた。

 ガルムの巨体は闇の中でさらに際立ち、その動き一つ一つに秘められた力が周囲に伝わっていた。魔王はその圧倒的な威圧感を感じながらも、その場を動くことができず、ただ耐えながら状況を冷静に見極めようとしていた。そんな緊張感の中、レイニーが軽やかに口を開いた。

「さ、帰ろっか~。いっぱい暴れたしぃ♪」

 レイニーの言葉に魔王は一瞬ほっとした表情を見せたが、その安堵も束の間、ガルムは依然として威嚇を続けていた。その低い唸り声と鋭い目つきが、場の空気をさらに張り詰めさせていた。

 そんなガルムに対して、レイニーは何の躊躇もなく腕を伸ばし、撫でようとする仕草を見せた。その行動に魔王や周囲の者たちは息をのんだ。威嚇をして機嫌の悪いガルムに腕を差し出すなど、普通なら命知らずの行為に思える。見ていた者たちは全員、レイニーの腕が食われる瞬間を想像してしまった。

 しかし、次の瞬間、ガルムはその鋭い目つきを和らげ、頭を下げてレイニーの手に甘えるような仕草を見せた。彼の唸り声は静まり、代わりに柔らかな声で鳴き、まるで子犬のように甘える様子を見せた。その巨体がレイニーの手に触れるたびに、場の緊張感は一気に驚愕へと変わった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

乙女ゲームの隠れチートモブ〜誰も知らないキャラを転生者は知っていた。〜

浅木永利 アサキエイリ
ファンタジー
異世界に転生した主人公が楽しく生きる物語 その裏は、、、自分の目で見な。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

処理中です...