191 / 223
第三章 ‐ 戦争の影
191話 慌ただしいフィオナとの一日
しおりを挟む
シオンを転移で彼の居住する屋敷へ送り届けた後、レイニーはフィオナの王国の城へと戻ってきた。長い一日の終わりに、ようやく自分の部屋へ戻り、ベッドへ腰を下ろした瞬間、ふと違和感を覚えた。
「ん? あれ? ……わぁ、ふぃ、フィー!?」
驚いて目をこらすと、そこにはフィオナが自分のベッドで静かに眠っていた。彼女の柔らかな髪が枕に広がり、穏やかな寝息が静かな部屋に心地よく響いている。その寝顔はあまりにも安らかで、まるでこの場所が当然のように感じられるほどだった。
「……あぁ……フィーが起きたら、なんて言い訳をしようかなぁ。」
レイニーは少し困ったように呟きながら、軽く頭をかかえた。「『トイレに行って迷子になっちゃった!』とでも言っておこうっと。」
そう決めると、ベッドの隣にゆっくりと横になり、そのままフィオナの寝顔をちらりと見る。長い暴れまわった時間の後、こうして静寂の中に戻ってくると、そのぬくもりがより一層心にしみるような気がした。
そして、次第に瞼が重くなり、考えを巡らせる間もなく、疲れのために深い眠りへと落ちていった。嵐のような混乱を巻き起こし、魔界に爪痕を残したレイニーではあったが、この瞬間だけは、ただ穏やかな夢へと身を委ねていた。
朝の光がカーテン越しに柔らかく差し込む中、二人はしばらくそのまま、互いの温もりを感じながら過ごしていた。戦いも、責務も、しがらみも――今だけは、すべてを忘れて。
けれど、その静寂を破るように、突然ドアの向こうから元気な声が響き渡った。
「おっはようございまーすっ! レイニー様、フィオナ様、お部屋にいらっしゃ――あれ? って、ええぇぇぇぇええ!? お、お二人で……そ、それは……!?!?」
召使いの少女の絶叫が、城の廊下にこだました。
「う、うわぁぁあっ! フィー、どうする!? なんか、言い訳を!」
「だ、大丈夫っ! わたし……ちゃんと、トイレに行って……迷子になったからっ!!」
「それ俺のセリフーー!!」
二人の声と、慌てふためく足音が、朝の静寂を一気に吹き飛ばしていった。
そして――
その日、ルナリオン王国の城には、しばらくの間「王女様がトイレで迷子になった」という謎の噂が飛び交うこととなるのだった。
数時間後。朝の儀式や会議を終えた国王は、重厚な扉を開けて玉座の間をあとにした。だが、その表情は、どこか妙にニヤついている。
「……なぁ、王妃よ。朝から妙な噂を聞いたんだが……」
「ええ、私も聞きましたわ。“トイレで迷子になった王女様”のお話でしょう?」
「おまけに、“レイニー殿の部屋にいた”ともなれば、これは父として、婚約者として、聞き捨てならんよな?」
そう言って、国王はゆっくりと廊下を歩き出す。その足取りは重厚でありながら、どこか楽しげで――。
――そして、レイニーの部屋の前。
「レイニー殿、いるか?」
ドンッ!――まるで扉ごと吹き飛ばさんばかりの勢いで叩かれる。ノックというより、これはもう威圧そのものだった。レイニーはその音に跳ね起き、少し青ざめた顔でフィオナを見る。
「やばい……来ちゃったよ、あの人が……!」
「ま、まさか……パパ!?」
フィオナもまた蒼白になり、何かを悟ったようにレイニーと目を合わせる。そして、ふたりは無言のままコクリと頷き合った。
「と、とにかく、落ち着いて……!」
しかし、レイニーの声はすでに落ち着きを欠いていた。背筋を伸ばしながら、フィオナと互いに深呼吸をするものの、扉の向こうから再び重厚な声が響く。
「開けぬならば、こちらから開けるぞ?」
「ひぃぃ!?パパ、扉壊す気だ!」
「ちょ、待て待て待て!俺、まだ心の準備できてないんだけど!?」
扉を挟んで広がる尋常ではない緊張感。それを打破するために何かしなければならなかった――が、レイニーは考えるよりも先にフィオナの腕を掴んだ。
「フィー、いざとなったら窓から飛ぼう。」
「なっ!?それは王族としてどうなのよ、レイニーくん!!」
「いや、生き延びる方が大事でしょ!?フィー、俺たち今追い詰められてるんだよ!?このままだと朝から俺の人生終わるんだけど!?」
バンッ!!
ついに扉が勢いよく開かれ、そこには例の国王――屈強な体に豪快な笑みを浮かべた、あの“ルナリオンの獅子”と称される人物が立っていた。
「……うむ、レイニー殿。朝から騒がしいな?」
「お、おはようございます、国王陛下……! これは、その、ちょっとした誤解が……!」
「ほう、誤解とな? じゃあ聞こうじゃないか。王女が“トイレで迷子になって”レイニー殿のベッドで寝ていた、というのは……?」
「……」
「……」
(あああ、これ夢なら覚めてぇぇぇ……)
レイニーが頭を抱える横で、フィオナがもじもじと袖を握りしめながら、勇気を出して一歩前へ出た。
「……わ、わたしが……勝手に、お部屋に入ったの……。だから、レイニーくんは悪くないの……!」
その言葉に、国王はしばし沈黙。そして、次の瞬間――
「ハッハッハッハッ!! そうかそうか、よく言ったフィオナ!!」
と、まさかの大爆笑。
「ん? あれ? ……わぁ、ふぃ、フィー!?」
驚いて目をこらすと、そこにはフィオナが自分のベッドで静かに眠っていた。彼女の柔らかな髪が枕に広がり、穏やかな寝息が静かな部屋に心地よく響いている。その寝顔はあまりにも安らかで、まるでこの場所が当然のように感じられるほどだった。
「……あぁ……フィーが起きたら、なんて言い訳をしようかなぁ。」
レイニーは少し困ったように呟きながら、軽く頭をかかえた。「『トイレに行って迷子になっちゃった!』とでも言っておこうっと。」
そう決めると、ベッドの隣にゆっくりと横になり、そのままフィオナの寝顔をちらりと見る。長い暴れまわった時間の後、こうして静寂の中に戻ってくると、そのぬくもりがより一層心にしみるような気がした。
そして、次第に瞼が重くなり、考えを巡らせる間もなく、疲れのために深い眠りへと落ちていった。嵐のような混乱を巻き起こし、魔界に爪痕を残したレイニーではあったが、この瞬間だけは、ただ穏やかな夢へと身を委ねていた。
朝の光がカーテン越しに柔らかく差し込む中、二人はしばらくそのまま、互いの温もりを感じながら過ごしていた。戦いも、責務も、しがらみも――今だけは、すべてを忘れて。
けれど、その静寂を破るように、突然ドアの向こうから元気な声が響き渡った。
「おっはようございまーすっ! レイニー様、フィオナ様、お部屋にいらっしゃ――あれ? って、ええぇぇぇぇええ!? お、お二人で……そ、それは……!?!?」
召使いの少女の絶叫が、城の廊下にこだました。
「う、うわぁぁあっ! フィー、どうする!? なんか、言い訳を!」
「だ、大丈夫っ! わたし……ちゃんと、トイレに行って……迷子になったからっ!!」
「それ俺のセリフーー!!」
二人の声と、慌てふためく足音が、朝の静寂を一気に吹き飛ばしていった。
そして――
その日、ルナリオン王国の城には、しばらくの間「王女様がトイレで迷子になった」という謎の噂が飛び交うこととなるのだった。
数時間後。朝の儀式や会議を終えた国王は、重厚な扉を開けて玉座の間をあとにした。だが、その表情は、どこか妙にニヤついている。
「……なぁ、王妃よ。朝から妙な噂を聞いたんだが……」
「ええ、私も聞きましたわ。“トイレで迷子になった王女様”のお話でしょう?」
「おまけに、“レイニー殿の部屋にいた”ともなれば、これは父として、婚約者として、聞き捨てならんよな?」
そう言って、国王はゆっくりと廊下を歩き出す。その足取りは重厚でありながら、どこか楽しげで――。
――そして、レイニーの部屋の前。
「レイニー殿、いるか?」
ドンッ!――まるで扉ごと吹き飛ばさんばかりの勢いで叩かれる。ノックというより、これはもう威圧そのものだった。レイニーはその音に跳ね起き、少し青ざめた顔でフィオナを見る。
「やばい……来ちゃったよ、あの人が……!」
「ま、まさか……パパ!?」
フィオナもまた蒼白になり、何かを悟ったようにレイニーと目を合わせる。そして、ふたりは無言のままコクリと頷き合った。
「と、とにかく、落ち着いて……!」
しかし、レイニーの声はすでに落ち着きを欠いていた。背筋を伸ばしながら、フィオナと互いに深呼吸をするものの、扉の向こうから再び重厚な声が響く。
「開けぬならば、こちらから開けるぞ?」
「ひぃぃ!?パパ、扉壊す気だ!」
「ちょ、待て待て待て!俺、まだ心の準備できてないんだけど!?」
扉を挟んで広がる尋常ではない緊張感。それを打破するために何かしなければならなかった――が、レイニーは考えるよりも先にフィオナの腕を掴んだ。
「フィー、いざとなったら窓から飛ぼう。」
「なっ!?それは王族としてどうなのよ、レイニーくん!!」
「いや、生き延びる方が大事でしょ!?フィー、俺たち今追い詰められてるんだよ!?このままだと朝から俺の人生終わるんだけど!?」
バンッ!!
ついに扉が勢いよく開かれ、そこには例の国王――屈強な体に豪快な笑みを浮かべた、あの“ルナリオンの獅子”と称される人物が立っていた。
「……うむ、レイニー殿。朝から騒がしいな?」
「お、おはようございます、国王陛下……! これは、その、ちょっとした誤解が……!」
「ほう、誤解とな? じゃあ聞こうじゃないか。王女が“トイレで迷子になって”レイニー殿のベッドで寝ていた、というのは……?」
「……」
「……」
(あああ、これ夢なら覚めてぇぇぇ……)
レイニーが頭を抱える横で、フィオナがもじもじと袖を握りしめながら、勇気を出して一歩前へ出た。
「……わ、わたしが……勝手に、お部屋に入ったの……。だから、レイニーくんは悪くないの……!」
その言葉に、国王はしばし沈黙。そして、次の瞬間――
「ハッハッハッハッ!! そうかそうか、よく言ったフィオナ!!」
と、まさかの大爆笑。
2
あなたにおすすめの小説
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
小さな貴族は色々最強!?
谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。
本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。
神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。
その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。
転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。
魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。
ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる