転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

191話 慌ただしいフィオナとの一日

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 シオンを転移で彼の居住する屋敷へ送り届けた後、レイニーはフィオナの王国の城へと戻ってきた。長い一日の終わりに、ようやく自分の部屋へ戻り、ベッドへ腰を下ろした瞬間、ふと違和感を覚えた。

「ん? あれ? ……わぁ、ふぃ、フィー!?」

 驚いて目をこらすと、そこにはフィオナが自分のベッドで静かに眠っていた。彼女の柔らかな髪が枕に広がり、穏やかな寝息が静かな部屋に心地よく響いている。その寝顔はあまりにも安らかで、まるでこの場所が当然のように感じられるほどだった。

「……あぁ……フィーが起きたら、なんて言い訳をしようかなぁ。」

 レイニーは少し困ったように呟きながら、軽く頭をかかえた。「『トイレに行って迷子になっちゃった!』とでも言っておこうっと。」

 そう決めると、ベッドの隣にゆっくりと横になり、そのままフィオナの寝顔をちらりと見る。長い暴れまわった時間の後、こうして静寂の中に戻ってくると、そのぬくもりがより一層心にしみるような気がした。

 そして、次第に瞼が重くなり、考えを巡らせる間もなく、疲れのために深い眠りへと落ちていった。嵐のような混乱を巻き起こし、魔界に爪痕を残したレイニーではあったが、この瞬間だけは、ただ穏やかな夢へと身を委ねていた。


 朝の光がカーテン越しに柔らかく差し込む中、二人はしばらくそのまま、互いの温もりを感じながら過ごしていた。戦いも、責務も、しがらみも――今だけは、すべてを忘れて。

 けれど、その静寂を破るように、突然ドアの向こうから元気な声が響き渡った。

「おっはようございまーすっ! レイニー様、フィオナ様、お部屋にいらっしゃ――あれ? って、ええぇぇぇぇええ!? お、お二人で……そ、それは……!?!?」

 召使いの少女の絶叫が、城の廊下にこだました。

「う、うわぁぁあっ! フィー、どうする!? なんか、言い訳を!」

「だ、大丈夫っ! わたし……ちゃんと、トイレに行って……迷子になったからっ!!」

「それ俺のセリフーー!!」

 二人の声と、慌てふためく足音が、朝の静寂を一気に吹き飛ばしていった。

そして――

 その日、ルナリオン王国の城には、しばらくの間「王女様がトイレで迷子になった」という謎の噂が飛び交うこととなるのだった。

 数時間後。朝の儀式や会議を終えた国王は、重厚な扉を開けて玉座の間をあとにした。だが、その表情は、どこか妙にニヤついている。

「……なぁ、王妃よ。朝から妙な噂を聞いたんだが……」

「ええ、私も聞きましたわ。“トイレで迷子になった王女様”のお話でしょう?」

「おまけに、“レイニー殿の部屋にいた”ともなれば、これは父として、婚約者として、聞き捨てならんよな?」

 そう言って、国王はゆっくりと廊下を歩き出す。その足取りは重厚でありながら、どこか楽しげで――。

――そして、レイニーの部屋の前。

「レイニー殿、いるか?」

 ドンッ!――まるで扉ごと吹き飛ばさんばかりの勢いで叩かれる。ノックというより、これはもう威圧そのものだった。レイニーはその音に跳ね起き、少し青ざめた顔でフィオナを見る。

「やばい……来ちゃったよ、あの人が……!」

「ま、まさか……パパ!?」

 フィオナもまた蒼白になり、何かを悟ったようにレイニーと目を合わせる。そして、ふたりは無言のままコクリと頷き合った。

「と、とにかく、落ち着いて……!」

 しかし、レイニーの声はすでに落ち着きを欠いていた。背筋を伸ばしながら、フィオナと互いに深呼吸をするものの、扉の向こうから再び重厚な声が響く。

「開けぬならば、こちらから開けるぞ?」

「ひぃぃ!?パパ、扉壊す気だ!」

「ちょ、待て待て待て!俺、まだ心の準備できてないんだけど!?」

 扉を挟んで広がる尋常ではない緊張感。それを打破するために何かしなければならなかった――が、レイニーは考えるよりも先にフィオナの腕を掴んだ。

「フィー、いざとなったら窓から飛ぼう。」

「なっ!?それは王族としてどうなのよ、レイニーくん!!」

「いや、生き延びる方が大事でしょ!?フィー、俺たち今追い詰められてるんだよ!?このままだと朝から俺の人生終わるんだけど!?」

バンッ!!

 ついに扉が勢いよく開かれ、そこには例の国王――屈強な体に豪快な笑みを浮かべた、あの“ルナリオンの獅子”と称される人物が立っていた。

「……うむ、レイニー殿。朝から騒がしいな?」

「お、おはようございます、国王陛下……! これは、その、ちょっとした誤解が……!」

「ほう、誤解とな? じゃあ聞こうじゃないか。王女が“トイレで迷子になって”レイニー殿のベッドで寝ていた、というのは……?」

「……」

「……」

(あああ、これ夢なら覚めてぇぇぇ……)

 レイニーが頭を抱える横で、フィオナがもじもじと袖を握りしめながら、勇気を出して一歩前へ出た。

「……わ、わたしが……勝手に、お部屋に入ったの……。だから、レイニーくんは悪くないの……!」

 その言葉に、国王はしばし沈黙。そして、次の瞬間――

「ハッハッハッハッ!! そうかそうか、よく言ったフィオナ!!」

と、まさかの大爆笑。
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