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第三章 ‐ 戦争の影
198話 静かなる戦いと、二つの正論
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「レイニーくん……遅かったですね。もう、どれだけ待たせるのかと思いました。」
腕を組んでジト目で睨んでくるその顔に、俺は苦笑い。
「ごめんごめん、ちょっとバタバタしててさ。獣人の村、行ってきたよ。」
その言葉に、アリシアの表情がぴくりと動く。
「どうでした? 無事だったんですか?」
「うん、ケルベロスも元気だったし、謎の勢力の痕跡はあったけど……とりあえず、今すぐの脅威はなさそう。」
そう言って簡単に状況を説明する俺の声を、アリシアはまっすぐ受け止めていた。彼女はうなずきながら、安堵したように胸に手を当てる。
「それなら、よかったです。……でも、危険な時は、私も連れて行ってください。レイニーくんひとりに背負わせたくないんです。」
その言葉に俺はちょっと目をそらして、ぽりぽりと頬をかいた。
「う、うん……気をつけるよ、ほんとに。」
(だって……ほんとは、フィオナにも会いに行ってたし……あんな再会、話せるわけないよなぁ……)
フィオナの笑顔。あの小さな手で袖を掴んで、寝ぼけた顔で「レイニーくん、いかないで……」って言ってくれたこと。
そして――許嫁だって、明かされたあの夜のこと。
さすがに、今ここで言えるわけがないっ!!
「……で? 他には何があったんですか?」
アリシアがじぃっと見てくる。
「な、何もないよっ! うんっ! ほら、報告終わったし、お昼でも食べに行こうかっ!」
「……怪しい。」
「怪しくないっ!」
俺の声が空に抜ける。けれど、アリシアはそれ以上は何も言わず、ふふっと微笑んだ。
「……じゃあ、今日はレイニーくんを独り占め、ですね。」
そう言って、彼女は俺の腕をそっと取った。その笑顔は優しくて、でも、どこか探るような気配があって――
(やばい……バレたら怒られるかも……)
そう思いながらも、俺はその手を離さずに歩き出した。
俺たちが屋敷の門を抜けて、大通りに出ようとしたその時だった。
「レイニー様ぁぁぁあああああーーーっ!!」
――その叫びと共に、朝の街角に響く小さな足音と、絢爛なミニドレスが風を巻き込んで駆けてくるのが見えた。
「うわっ……セリーナ!?」
俺が思わずそう口にした瞬間、プラチナブロンドの髪を靡かせて飛び込んできたのは―― グリムファング王国の第五王女、セリーナだった。
「やっと見つけましたわ……レイニー様っ!!」
彼女は胸を大きく上下させながら、俺の目の前に立ちはだかる。
「どうして、わたしに黙って出かけるんですの!? しかも、アリシアと一緒に……ずるいですわっ!!」
アリシアは、ふっと片眉を上げて小さくため息をついた。
「セリーナ王女、お気持ちはわかりますが、こちらは少々――」
「いいえ、わたしの話が先ですわっ!!
レイニー様、どうしてわたしを避けるんですの!?
あなたと会いたくて、屋敷まで何度も足を運んだのに……!」
(やばい……セリーナ、完全に爆発してる……)
セリーナは涙ぐむような目で、俺の袖をきゅっと掴んでくる。
「わたし……あなたのこと、もっと知りたいと思っていたのに……
なのに、他の女の人と二人きりなんて……それは、ずるいと思いますの……」
「セ、セリーナ……」
一方、アリシアは、組んでいた腕をそっとほどいて、俺の背に回しながら静かに言った。
「レイニーくんは、誰のものでもないけど……少なくとも今日は、私と一緒に行く予定です。」
「うぐっ……!」
セリーナが涙目で俺を見る。アリシアは微笑んでるけど、目が全然笑ってない。
(こ、これは……もうどこにも逃げ場がない……!!)
セリーナの震える手と、アリシアの優しいけど絶対離さないという圧を感じる手――
その間に挟まれて、俺は両腕を引っ張られながら硬直していた。
(このままだと、魂が裂けるっ……!)
広く静かな応接室。朝日が差し込む優雅な空間に、張り詰めた空気が漂っていた。
テーブルを挟んで座るのは、アリシア・ブラックスカル。そして、グリムファング王女――セリーナ・グリムファング。
その間に立たされるように、俺はソファの端に座っていた。
「……それで、レイニー様は、どちらに心を傾けているのかしら?」
セリーナが、黄金色の瞳でじっとこちらを見る。
「王女様、そういった問いに即答を求めるのは少々フェアではないかと。それに、レイニーくんの心は自由。無理に縛るようなことは、ふさわしくありません。」
アリシアは微笑を浮かべたまま、冷静に応じる。その態度に、セリーナはむっとしたように唇を尖らせた。
「ですが、わたしは王女ですわ。自国の民を導く立場にあります。そのわたしが選ぶお方がどれほど価値ある存在か、わかっていらっしゃる?」
アリシアは頬に指を添え、ふわりと笑った。
「もちろん。それは理解しています。ですが、王女様が、平民というか……村の村長と結婚ですか?」
言葉を選んだようで、実は容赦ない。
静かな声に潜む鋭さが、空気を一瞬で凍らせた。
腕を組んでジト目で睨んでくるその顔に、俺は苦笑い。
「ごめんごめん、ちょっとバタバタしててさ。獣人の村、行ってきたよ。」
その言葉に、アリシアの表情がぴくりと動く。
「どうでした? 無事だったんですか?」
「うん、ケルベロスも元気だったし、謎の勢力の痕跡はあったけど……とりあえず、今すぐの脅威はなさそう。」
そう言って簡単に状況を説明する俺の声を、アリシアはまっすぐ受け止めていた。彼女はうなずきながら、安堵したように胸に手を当てる。
「それなら、よかったです。……でも、危険な時は、私も連れて行ってください。レイニーくんひとりに背負わせたくないんです。」
その言葉に俺はちょっと目をそらして、ぽりぽりと頬をかいた。
「う、うん……気をつけるよ、ほんとに。」
(だって……ほんとは、フィオナにも会いに行ってたし……あんな再会、話せるわけないよなぁ……)
フィオナの笑顔。あの小さな手で袖を掴んで、寝ぼけた顔で「レイニーくん、いかないで……」って言ってくれたこと。
そして――許嫁だって、明かされたあの夜のこと。
さすがに、今ここで言えるわけがないっ!!
「……で? 他には何があったんですか?」
アリシアがじぃっと見てくる。
「な、何もないよっ! うんっ! ほら、報告終わったし、お昼でも食べに行こうかっ!」
「……怪しい。」
「怪しくないっ!」
俺の声が空に抜ける。けれど、アリシアはそれ以上は何も言わず、ふふっと微笑んだ。
「……じゃあ、今日はレイニーくんを独り占め、ですね。」
そう言って、彼女は俺の腕をそっと取った。その笑顔は優しくて、でも、どこか探るような気配があって――
(やばい……バレたら怒られるかも……)
そう思いながらも、俺はその手を離さずに歩き出した。
俺たちが屋敷の門を抜けて、大通りに出ようとしたその時だった。
「レイニー様ぁぁぁあああああーーーっ!!」
――その叫びと共に、朝の街角に響く小さな足音と、絢爛なミニドレスが風を巻き込んで駆けてくるのが見えた。
「うわっ……セリーナ!?」
俺が思わずそう口にした瞬間、プラチナブロンドの髪を靡かせて飛び込んできたのは―― グリムファング王国の第五王女、セリーナだった。
「やっと見つけましたわ……レイニー様っ!!」
彼女は胸を大きく上下させながら、俺の目の前に立ちはだかる。
「どうして、わたしに黙って出かけるんですの!? しかも、アリシアと一緒に……ずるいですわっ!!」
アリシアは、ふっと片眉を上げて小さくため息をついた。
「セリーナ王女、お気持ちはわかりますが、こちらは少々――」
「いいえ、わたしの話が先ですわっ!!
レイニー様、どうしてわたしを避けるんですの!?
あなたと会いたくて、屋敷まで何度も足を運んだのに……!」
(やばい……セリーナ、完全に爆発してる……)
セリーナは涙ぐむような目で、俺の袖をきゅっと掴んでくる。
「わたし……あなたのこと、もっと知りたいと思っていたのに……
なのに、他の女の人と二人きりなんて……それは、ずるいと思いますの……」
「セ、セリーナ……」
一方、アリシアは、組んでいた腕をそっとほどいて、俺の背に回しながら静かに言った。
「レイニーくんは、誰のものでもないけど……少なくとも今日は、私と一緒に行く予定です。」
「うぐっ……!」
セリーナが涙目で俺を見る。アリシアは微笑んでるけど、目が全然笑ってない。
(こ、これは……もうどこにも逃げ場がない……!!)
セリーナの震える手と、アリシアの優しいけど絶対離さないという圧を感じる手――
その間に挟まれて、俺は両腕を引っ張られながら硬直していた。
(このままだと、魂が裂けるっ……!)
広く静かな応接室。朝日が差し込む優雅な空間に、張り詰めた空気が漂っていた。
テーブルを挟んで座るのは、アリシア・ブラックスカル。そして、グリムファング王女――セリーナ・グリムファング。
その間に立たされるように、俺はソファの端に座っていた。
「……それで、レイニー様は、どちらに心を傾けているのかしら?」
セリーナが、黄金色の瞳でじっとこちらを見る。
「王女様、そういった問いに即答を求めるのは少々フェアではないかと。それに、レイニーくんの心は自由。無理に縛るようなことは、ふさわしくありません。」
アリシアは微笑を浮かべたまま、冷静に応じる。その態度に、セリーナはむっとしたように唇を尖らせた。
「ですが、わたしは王女ですわ。自国の民を導く立場にあります。そのわたしが選ぶお方がどれほど価値ある存在か、わかっていらっしゃる?」
アリシアは頬に指を添え、ふわりと笑った。
「もちろん。それは理解しています。ですが、王女様が、平民というか……村の村長と結婚ですか?」
言葉を選んだようで、実は容赦ない。
静かな声に潜む鋭さが、空気を一瞬で凍らせた。
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