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第三章 ‐ 戦争の影
203話 本当の無秩序の森の村へ
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レイニーは、そんなふたりの姿を見て、心の奥がほんのり温かくなるのを感じた。
「……よし。ここから始めよう。みんなで、居場所を作ろう。獣人たちの未来のために」
黄金色の光が、三人の影を長く伸ばしていた。
朝霧がまだ森に残る時間。
「無秩序の森の村」では、早くも一日の営みが始まっていた。
土を耕す者、木材を運ぶ者、食事を準備する者。
そんな活気の中、ふわりと香る花のような香水と共に、ひときわ目立つ白と金の少女が現れた。
「わたし、本日よりこちらの村にてお手伝いさせていただきます!……よろしくお願いいたしますわっ♪」
澄んだ声が響いたと同時に、あたりが一瞬静まり返る。
王女様――セリーナ・グリムファング。ドレスにエプロン姿のその姿に、村人たちは目を丸くしていた。
「あの……本当に、やるんですか?」
困惑を隠せないアリシアがそっと耳打ちする。
それに対しセリーナはにっこり微笑み、胸を張って答えた。
「当然ですわっ。可愛いだけじゃありませんのよ? わたし、やる時はやるんですの!」
気合のこもった笑顔に、レイニーも思わず口元をほころばせる。
「……よし、それならちょっと手伝ってもらおっかな。まずは――この畑で」
レイニーが案内したのは、少しだけ開けた土地。
そこでは、獣人の子どもたちが野菜の苗を植えようとしていた。
「ふふふっ、こう見えてわたし、お花を植えるのは得意なんですのよ?」
スカートの裾を持ち上げて器用にかがみこみ、土をそっと指で掘っていくセリーナ。
しかし次の瞬間。
「きゃっ……!? うぅ……泥がっ、爪の中に……っ!」
しゃがんだ拍子に手が滑り、泥が指先だけでなく頬にもぺたん。
「セリーナ、大丈夫か?」
駆け寄るレイニーに、セリーナはぷくっと頬をふくらませた。
「だ、大丈夫ですわっ!これは……その、想定内ですの!ふふふっ……あら?わたし、ちょっとだけ汚れた方が……可愛いかもしれませんわね♡」
「……はは、さすがにそれは狙いすぎだって」
そう言ってレイニーが笑うと、子どもたちもつられて笑い出した。
その笑い声に囲まれながら、セリーナは再びしゃがみこみ、土に指を入れる。
「……でも、レイニー様。
こうして土に触れてみると……温かいですわね。守られてるって、わかります。わたし、少しだけ……この場所が好きになれそうですの」
その表情はまるで、本当に一輪の花が咲いたようだった。
レイニーは心の中で、そっと思う。
――やっぱり、大丈夫かもしれないな。この村に、彼女がいても。
仮の居住地に設けられたテントを風が揺らしていた。
ここは“無秩序の森”の入口近く──だが、本物ではない。セリーナと獣人族が安心して共に暮らせるかを見極める、仮の場所だった。
ある日、セリーナはレイニーからこう告げられた。
「そろそろ、本当の村に行こっかぁ~!」
不安を押し隠し、セリーナは頷いた。獣人族も、信頼するレイニーに導かれ、ついに森の奥へと足を踏み入れた。
──そこに広がっていたのは、まるで別世界だった。
木々の枝には魔法のランプが揺れ、魔物たちが静かに巡回している。だがその目には敵意はなく、まるで“守護者”のようだった。小川のせせらぎ、ふわりと香る草花の匂い、遠くから子どもたちの笑い声──
険しい森を抜け、ついに「本当の無秩序の森の村」へと到着した一行。空を覆うように旋回する巨大な魔物たち――ガルゴイルやマンティコア、果てはドラゴンすらもその警備に加わっている。村の入口を守るのは、鎧を着たオーガと二足歩行のワーウルフたち。恐ろしい外見とは裏腹に、彼らはレイニーの仲間として訓練されており、一定の理性を持って動いている。
セリーナは思わず足を止めた。黄金色の瞳が怯えと好奇心で揺れる。
「……ここが、本当の……?」
彼女の声はか細く震えていた。つい先ほどまで過ごしていた仮の村とは比べものにならないほど、異質で異様な空気が漂っている。だが、獣人の子どもたちは不思議と怯えた様子もなく、むしろ安心したような表情で村を見上げていた。
「こっちが、本当の“無秩序の森の村”です。レイニー様たちと共に築いた、安全な場所……なんですよ」
アリシアがセリーナのそばに立ち、優しく語りかける。その口調には警戒と配慮の両方が滲んでいた。
「魔物たちが警備に当たっていますけど……大丈夫そうですか?」
セリーナはしばし無言のまま、村の全貌を眺めていた。森に溶け込むように立てられた建物。空中に浮かぶ監視塔。笑顔で迎える獣人の村人たちの姿――。
そして、アリシアの視線に気づくと、セリーナはぎゅっと拳を握り、小さくうなずいた。
「……も、問題ないわ。わたし、怖くなんて……ないもの。あなたも、ここで過ごしていたのよね。なら……だいじょうぶっ」
震える声で、けれど精一杯の笑顔を浮かべて答えた。
その言葉に、アリシアは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「……ええ。大丈夫。もし何かあったら、私が守りますから。――貴女も、もう仲間です」
セリーナはその言葉に安堵したように息をつき、視線を前に戻した。そして、ほんの少しだけ背筋を伸ばして、堂々と村へと足を踏み入れる。
「……よし。ここから始めよう。みんなで、居場所を作ろう。獣人たちの未来のために」
黄金色の光が、三人の影を長く伸ばしていた。
朝霧がまだ森に残る時間。
「無秩序の森の村」では、早くも一日の営みが始まっていた。
土を耕す者、木材を運ぶ者、食事を準備する者。
そんな活気の中、ふわりと香る花のような香水と共に、ひときわ目立つ白と金の少女が現れた。
「わたし、本日よりこちらの村にてお手伝いさせていただきます!……よろしくお願いいたしますわっ♪」
澄んだ声が響いたと同時に、あたりが一瞬静まり返る。
王女様――セリーナ・グリムファング。ドレスにエプロン姿のその姿に、村人たちは目を丸くしていた。
「あの……本当に、やるんですか?」
困惑を隠せないアリシアがそっと耳打ちする。
それに対しセリーナはにっこり微笑み、胸を張って答えた。
「当然ですわっ。可愛いだけじゃありませんのよ? わたし、やる時はやるんですの!」
気合のこもった笑顔に、レイニーも思わず口元をほころばせる。
「……よし、それならちょっと手伝ってもらおっかな。まずは――この畑で」
レイニーが案内したのは、少しだけ開けた土地。
そこでは、獣人の子どもたちが野菜の苗を植えようとしていた。
「ふふふっ、こう見えてわたし、お花を植えるのは得意なんですのよ?」
スカートの裾を持ち上げて器用にかがみこみ、土をそっと指で掘っていくセリーナ。
しかし次の瞬間。
「きゃっ……!? うぅ……泥がっ、爪の中に……っ!」
しゃがんだ拍子に手が滑り、泥が指先だけでなく頬にもぺたん。
「セリーナ、大丈夫か?」
駆け寄るレイニーに、セリーナはぷくっと頬をふくらませた。
「だ、大丈夫ですわっ!これは……その、想定内ですの!ふふふっ……あら?わたし、ちょっとだけ汚れた方が……可愛いかもしれませんわね♡」
「……はは、さすがにそれは狙いすぎだって」
そう言ってレイニーが笑うと、子どもたちもつられて笑い出した。
その笑い声に囲まれながら、セリーナは再びしゃがみこみ、土に指を入れる。
「……でも、レイニー様。
こうして土に触れてみると……温かいですわね。守られてるって、わかります。わたし、少しだけ……この場所が好きになれそうですの」
その表情はまるで、本当に一輪の花が咲いたようだった。
レイニーは心の中で、そっと思う。
――やっぱり、大丈夫かもしれないな。この村に、彼女がいても。
仮の居住地に設けられたテントを風が揺らしていた。
ここは“無秩序の森”の入口近く──だが、本物ではない。セリーナと獣人族が安心して共に暮らせるかを見極める、仮の場所だった。
ある日、セリーナはレイニーからこう告げられた。
「そろそろ、本当の村に行こっかぁ~!」
不安を押し隠し、セリーナは頷いた。獣人族も、信頼するレイニーに導かれ、ついに森の奥へと足を踏み入れた。
──そこに広がっていたのは、まるで別世界だった。
木々の枝には魔法のランプが揺れ、魔物たちが静かに巡回している。だがその目には敵意はなく、まるで“守護者”のようだった。小川のせせらぎ、ふわりと香る草花の匂い、遠くから子どもたちの笑い声──
険しい森を抜け、ついに「本当の無秩序の森の村」へと到着した一行。空を覆うように旋回する巨大な魔物たち――ガルゴイルやマンティコア、果てはドラゴンすらもその警備に加わっている。村の入口を守るのは、鎧を着たオーガと二足歩行のワーウルフたち。恐ろしい外見とは裏腹に、彼らはレイニーの仲間として訓練されており、一定の理性を持って動いている。
セリーナは思わず足を止めた。黄金色の瞳が怯えと好奇心で揺れる。
「……ここが、本当の……?」
彼女の声はか細く震えていた。つい先ほどまで過ごしていた仮の村とは比べものにならないほど、異質で異様な空気が漂っている。だが、獣人の子どもたちは不思議と怯えた様子もなく、むしろ安心したような表情で村を見上げていた。
「こっちが、本当の“無秩序の森の村”です。レイニー様たちと共に築いた、安全な場所……なんですよ」
アリシアがセリーナのそばに立ち、優しく語りかける。その口調には警戒と配慮の両方が滲んでいた。
「魔物たちが警備に当たっていますけど……大丈夫そうですか?」
セリーナはしばし無言のまま、村の全貌を眺めていた。森に溶け込むように立てられた建物。空中に浮かぶ監視塔。笑顔で迎える獣人の村人たちの姿――。
そして、アリシアの視線に気づくと、セリーナはぎゅっと拳を握り、小さくうなずいた。
「……も、問題ないわ。わたし、怖くなんて……ないもの。あなたも、ここで過ごしていたのよね。なら……だいじょうぶっ」
震える声で、けれど精一杯の笑顔を浮かべて答えた。
その言葉に、アリシアは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「……ええ。大丈夫。もし何かあったら、私が守りますから。――貴女も、もう仲間です」
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