転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

210話 彼の視点と、彼女の笑顔

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「別に、からかってるだけじゃないわ。
 ……リーナが誰かを本気で好きになるなんて、ちょっとびっくりだったけど。
 ロディーは真面目だし、あんまりうるさくないし……まぁ、合ってるんじゃない?」

 ふと、リリスの表情が少し柔らかくなる。

「……大事にしなさいよ。誰かを想う気持ちって、案外……脆くて、不器用なものだから」

「……リリスちゃん?」

「レイニー様のために生きるって、決めてたのよ。あたしは。
 でも、それでも……たまに、誰かが笑ってるのを見ると……あったかい気持ちになるの。
 だから、ふたりのこと……ちゃんと、応援してあげる」

 ツンと顔をそむけるリリスの背に、リーナはぱあっと笑顔を浮かべて飛びついた。

「ありがとうっ、リリスちゃん!!」

「きゃっ!? ちょ、ちょっと! 離れなさいよバカリーナっ!」

「へへっ♪ でも、ありがとっ♪」

 いつもの冷たい目元が、ほんの少し、柔らかくなっていた。


◆(ロディー視点) レイニー様の屋敷の訓練場。

 夕暮れの光が差し込む中、ロディーは一人、剣の素振りをしていた。

 ――いや、正確には“ひとり”ではなかった。

「ロディーくん、ちょっと構えが高くなってるよ? こっちの角度で振ってみたら?」

「……あ、あぁ。ありがとう、リーナ」

 言われたとおりに姿勢を直すと、不思議なくらい剣の振りがしっくりくる。
 ほんのり汗ばんだ額を拭いながら、ちらりと隣の少女を見る。

 明るくて、元気で、でも芯が強い。
 リーナの笑顔を見るたび、心がじんわりと温かくなるのは――気のせいだろうか。

「……なぁ、リーナ」

「ん? なぁに?」

 何気なく声をかけたつもりだったのに、目が合った瞬間、どくんと心臓が跳ねた。

 リーナは無邪気な笑顔でこちらを見ていたけど、ロディーはその笑顔がやけにまぶしく見えた。

(なんでだ……? ボク、いつから……こんなふうに思ってたんだ?)

 いつもは冷静なはずの自分が、少しだけ動揺する。
 そんな自分をごまかすように、木剣を持ち直そうとしたとき――

「ふふん。青春してるわねぇ~」

 背後からひゅっと現れる漆黒の影。
 リリスだった。

「うわっ、また突然……! びっくりするだろ、リリス!」

「ふふん、ごめんなさい? でも、可愛いわね、ロディー。顔が真っ赤よ?」

「なっ……ち、違う! これは運動してただけで!」

「ほぉ~? じゃあリーナに“かわいい”とか“笑顔が素敵”とか思ってないの?」

「なっ……そ、そんなん……っ!」

「……否定できないってことねぇ。ふふっ♪」

 リリスの妖しい紫の瞳が、意味ありげに細められる。

 ロディーは慌てて背を向けて、訓練を再開しようとした。
 だがその手は、いつものようには動かない。
 リーナが隣にいるだけで、意識してしまう。

「…………リーナ」

「ん?」

 言葉が、喉で詰まる。

 この気持ちは、いったいなんなんだろう。
 胸の奥で、じわりと熱く、膨らんでいくもの。

 ふたりの距離は、あと少し。


 夕焼けが村を淡い朱色に染める頃、レイニーはふと畑の方から光が揺れているのに気づいた。

「……あれ、こんな時間に?」

 そっと足を運んでみると――

「ん~っ、ここの葉っぱはもっとこーして、えいっ! ぴかぴか~!」

 そこには小さな妖精――サクラが、両手を広げて元気いっぱいに植物を育てている姿があった。

 周囲には、ほわほわとした光の球たちが踊るように漂い、サクラの周りだけ、まるで春の精が微笑んでいるような空間になっていた。

「……サクラ、まだ働いてたの?」

「ふぇっ!? レイニーくんだぁ~っ!!」

 ぱたぱたとスカートを揺らして、サクラは嬉しそうに駆け寄ってくる。
 ピンク色のロングヘアーがきらめき、赤いリボンが揺れた。

「えへへ~っ、サクラ、今日もいっぱいがんばったよ? 葉っぱも果物もピカピカだし、ね? レイニーくん、ほめて~?」

 小さな両手を広げて、おねだりのポーズ。
 レイニーは苦笑しつつも、しゃがんでその頭をぽんぽんと撫でてあげた。

「うん、えらいなぁ。ほんとに助かってるよ。サクラがいてくれて良かった」

「~~~~っ♡ サクラ、もっとがんばっちゃうぅ~~!」

 照れながらも嬉しそうににっこり笑うサクラ。
 その笑顔を見ていると、森も畑も、全部がこの子の力で支えられてるんだと実感する。

「でもな、がんばりすぎもダメ。まだ子供なんだから、ちゃんと休まなきゃ」

「えぇ~っ、サクラ、もぉおおきいもんっ! レイニーくんの役に立ちたいのっ! ……でも」

 少しだけ言いよどんで、もじもじと服の裾をつまむサクラ。

「……いっしょにいてくれるなら、おやすみするぅ……。だから、サクラのとなり、きて?」

「……ったく、仕方ないなぁ~」

 優しく笑って手を差し出すと、サクラはぱぁっと笑顔を咲かせた。

 小さな手と大きな手が重なる――
 森の守り手と、その始まりを与えた少年の、静かな夕暮れのひとときだった。
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