転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

217話 冒険の授業と、おてんば王女

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 セリーナが悲鳴にも似た声を上げ、ベンチから立ち上がって後ずさる。森の土や葉っぱでドレスが汚れることを想像し、顔をしかめた。

「大丈夫だよ~ほら、みんなでお揃いの ”リアナせんせー手作りの冒険帽” もかぶるし!」

 リアナは無邪気に笑いながら、フリルがたっぷりの可愛らしい帽子をセリーナの頭に乗せる。セリーナは顔を赤くして、慌てて帽子を避けようとした。

「そんなものに騙されませんわ――って、あら、ちょっと可愛い……」

 その言葉は、帽子をじっと見つめるうちに、徐々に弱々しいものに変わっていく。結局、セリーナは帽子のかわいさに負け、不本意ながらもフィールドワークに参加することになった。

 森の縁に出ると、木漏れ日が地面にまだら模様を描いている。リアナは指を鳴らし、キラリと輝く小さな魔法光を飛ばして見せた。光の粒は、風に乗って森の奥へと吸い込まれていく。

「この辺りには ”ミミバット” っていう、音に敏感なコウモリ型の魔獣が住んでるよ~。声をひそめて、ゆっくり歩いて……あ、いたっ!」

 リアナの言葉に、子どもたちは一斉に静かになる。枝の間に、小さな影が止まっているのが見えた。子どもたちは、息をひそめてノートにスケッチを始める。セリーナも夢中になって、魔獣の特徴を細かくメモに書き留めていた。

 ペンを走らせながら、セリーナはぽつりと呟いた。

「魔獣って、もっと恐ろしいものだと思っていましたけれど……小さな生き物でも、よく見れば表情があるのですのね……」

 その言葉を聞いて、リアナはそっと微笑んだ。

「うんうん、生き物はぜーんぶ ”なかよくなれる可能性のカタマリ” なんだよ~! もちろん、やばいのもいるけど!」

 リアナの底抜けに明るい声が、森の中に響く。その声に、セリーナはなんだか安心するような気持ちになった。

「そういうところが……レイニーくんに好かれる理由かもしれませんわね」

 セリーナは、思わず心の声を漏らしてしまう。その言葉は、小さな木霊となって森の木々に吸い込まれていった。

「えっ、なに? なんか言った~?」

 リアナが楽しげな声で聞き返すが、セリーナは慌てて首を横に振った。

「いえ、べっ、別に何もっ!」


♢セリーナ王女の課外授業!?

 ミミバットの観察を終え、帰り道を歩いていたときだった。セリーナがふと足を止め、リアナをまっすぐに見つめる。その瞳には、先ほどまでの困惑は消え、まっすぐな意志が宿っていた。

「……リアナ。わたくしからも、授業をしてみてもよろしいかしら?」

 セリーナの申し出に、リアナはぱちくりと目を瞬かせる。

「えっ!? セリーナちゃんが!? いいよいいよーっ、なになに、王族の教えとか? おしとやかさ講座?」

「“礼儀作法と詩の授業” ですわっ!」

 セリーナは、胸を張って力強く言い切った。その自信に満ちた姿に、リアナと子どもたちは顔を見合わせる。

「それはそれで楽しそう……」

 リアナが楽しげに笑い、子どもたちもワクワクした表情で頷いた。その言葉が、セリーナの緊張を少しだけ和らげたようだった。

 翌日。村の教室には、ちょっぴり緊張した面持ちのセリーナが立っていた。彼女の顔は少し強張り、手はドレスの裾をぎゅっと握りしめている。

「え、ええと……正しいおじぎの角度は――15度の ”会釈” 、30度の ”敬礼” 、そして……」

 セリーナが一生懸命に説明を始めるが、子どもたちの素朴な疑問に戸惑ってしまう。

「せりーなちゃーん、角度ってどうやって測るのー?」

 一人の子どもが身を乗り出して質問する。セリーナは、自分の顔が子どもに近づきすぎていることに気づいて、少し後ずさりながら説明を続けた。

「こ、こうやって、指でこうしてっ……って、ちょっと近いですわっ! 顔がっ!」

 しかし、教えるうちに、彼女の緊張は解け、次第に言葉が淀みなく流れるようになっていく。まるで、水が自然に流れるかのように。セリーナは、子どもたちの瞳の輝きに、教えることの楽しさを感じ始めていた。

「詩とは心を映す鏡……あなたの心を、言葉にしてごらんなさい。難しく考えなくていいのです。まずは、 ”好きなもの” から――」

 セリーナの優しい声に促され、子どもたちは次々に声を上げる。「花」「おにいちゃん」「ケルベロス」「焼き魚」――様々な答えが飛び交う。

「や、焼き魚っ!?」

 一瞬、セリーナは固まってしまう。王族の教育では聞いたこともないような単語が飛び出したことに、戸惑いを隠せない。だが、すぐに微笑みながら頷いた。

「ええ、それも立派な ”愛” ですわね。では―― ”焼き魚への愛” を詩にしてみましょうか?」

 セリーナの意外な提案に、子どもたちは一斉に声を上げた。

「「「えーーーー!!」」」

 こうして、リアナとセリーナの ”ダブル先生” による、笑いと発見と、ちょっぴりの礼儀が詰まった教育の日々は、村に新しい風を吹かせていた。

 村の広場には、「リア姉先生の冒険教室」と「セリーナ王女の詩とマナーの時間」と書かれた看板が並んで飾られていた。子どもたちは毎日楽しくその教室に通い、新しい知識や発見に満ちた日々を送るのだった。
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