転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

220話 変わる勇気と、心の居場所

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✨未来を照らす、ふたりの背中

 月明かりが優しく照らす夜。レイニーは、教室の外からそっとその光景を見守っていた。ミーニャが子どもに本を読み聞かせ、ルフィアがその横で、まるで我が子を見守る母親のように微笑んでいる。

 その姿に、レイニーは昔、森の中で初めて出会ったばかりの、傷ついて怯えていたふたりのことを思い出した。

「あの頃のふたりは、守られる側だったのに……。今は、立派に ”守る側” だね」

 そう呟いて、レイニーは夜空を見上げた。

 ふたりが育てている子どもたちの中から、きっと未来の村を支える ”誰か” が現れるだろう。そのために今、ふたりがいる――そのことが、何よりの希望だった。


👑セリーナの変化編

💫第一幕 豪奢なドレスと、泥だらけの靴

 最初は、どこにいても ”王女らしく” あろうとした。高価な刺繍が施されたミニドレスを身につけ、リボンと小さな王冠を頭に乗せていた。誰も彼女に触れることは許されず、ましてやドレスを汚すなど、考えられないことだった。

 だが、その日は突然訪れた。

 木の枝に引っかかって取れなくなった子どものぬいぐるみを、手を伸ばして取ろうとしたそのとき、泥に足を取られ、派手に転んでしまったのだ。

「キャアアアッ!? ど、どろぉ!? わ、わたしのドレスがぁぁ!!」

 セリーナは、泥まみれになったドレスを見て、悲鳴を上げた。それまで見たこともない、黒く汚れた染みがドレスの裾に広がっている。その姿に、周りの子どもたちは思わず笑い声を漏らした。

 セリーナは、震える足で立ち上がり、怒鳴り返そうと口を開いた。しかし、その声は音になることはなかった。ぬいぐるみを抱きしめた少女が、涙を浮かべながら、静かに、そしてまっすぐな瞳でセリーナに言った。

「……ありがとう、お姫さま」

 その純粋な感謝の言葉が、セリーナの中に静かに染み込んでいく。まるで、熱い涙が心に滴るかのように。その日を境に、彼女は一度もドレスの汚れを気にすることはなくなった。むしろ、服についた泥や草の匂いが、自分の中に新しい思い出を刻み込んでいる証のように感じられるようになった。


🦋第二幕 アリシアとの口喧嘩と、涙の夜

 村に馴染もうと努力する中で、アリシアとの衝突は避けられないものだった。ある日のこと、二人は言い争いになってしまう。

「あなたに、村の何がわかるの? おとぎ話の姫様ごっこは、もう終わったのよ」

 アリシアの冷たく突き放すような言葉が、セリーナの胸に突き刺さる。セリーナは唇をきつく噛みしめ、目を逸らし、感情のままに叫んだ。

「なによそれっ! あなたはレイニーのことばっかり見てて……誰の気持ちも考えてない!」

 言い放った後、彼女は走り去った。その夜、セリーナは誰にも見つからないように、森のはずれでひっそりと泣いていた。悔しさと、寂しさと、どうしようもない苛立ちが、涙となって溢れ出す。

 そのとき、小さな足音が近づいてきた。

「泣いてるお姫さまには、特別な夜のお茶会を開かなくちゃね」

 そう言って現れたのは、ミーニャだった。彼女の手には、小さなカップとクッキーが乗ったお盆が載っている。二人は小さなランタンの明かりを囲んで、地面に座った。セリーナはこぼれる涙を拭い、ミーニャの優しさに触れて、小さく笑った。その夜のクッキーは、何よりも甘く感じられた。


🌟第三幕 変わりたい、でもこわい――

 焚き火のそばで、セリーナはぽつりと胸の内を明かした。炎がゆらゆらと揺れ、彼女の顔を赤く照らしている。

「レイニー、どうしたらいいの? わたし……みんなと、もっと仲良くなりたいの。でも、わたし ”王女” だし……」

 変わりたい気持ちと、それでも捨てられない王女としての立場。その間で揺れる心は、不安でいっぱいだった。レイニーは何も言わず、ただ優しく微笑んで、セリーナの手を取った。

「王女であることも、セリーナであることも、どっちも大事だよ。そのままでいい。 ”選ばない” のが、この村のやり方なんだ」

 レイニーの言葉に、セリーナの目がゆっくりと見開かれていく。王国では、何かを手に入れるためには、何かを捨てなければならないと教えられてきた。何かを捨てて「変わる」ことが、成長だと信じていた。

 しかし、この村には、「選ばなくていい自由」があった。王女である自分も、村の一員である自分も、どちらも大切な自分なのだと、初めて知ったのだった。


🌈第四幕 命令ではなく、願いを

 ある日、村の子どもたちと遊んでいたときだった。夢中になっていたセリーナは、つい癖で「命令口調」で言葉を放ってしまった。

「それ、わたしにも貸しなさいっ!」

 その言葉に、子どもたちは一瞬動きを止める。場に流れていた穏やかな空気が、わずかに張りつめた。しかし、すぐに誰かが笑顔で言った。

「〝ください〟でしょ、セリーナお姉ちゃん♪」

 その一言に、セリーナはふっと頬を赤らめる。少しだけ困った顔をしてから、おずおずと口を開いた。

「……か、貸して……くれる? おねがい、っ!」

 すると、さっきまでの張りつめた空気は一瞬で溶け、子どもたちは一斉に笑顔になっておもちゃを差し出した。セリーナは、その子どもたちの優しさと笑顔に、心から嬉しそうに頷いた。


💖エピローグ 王冠の下の、本当の心

 村の夕暮れ時。セリーナは、今日も子どもたちと一緒に泥まみれになって笑っていた。夕焼けに染まる空の下、彼女の表情はとても穏やかで、満ち足りていた。

「セリーナ王女、ですって? ふふん、それは ”王国” の話でしょ? ここじゃ、ただの ”セリーナ” よ!」

 そう言って、彼女は高らかに笑う。その言葉の裏には、誰にも気づかれないほどの、小さな誇りがこもっていた。それは、勇気をもって変わり始めた自分自身への、確かな手応えだった。

 かつて「小さな暴君」と呼ばれた王女は、もはやその面影はなかった。今や、村の誰もが慕う「ちょっとお姉さん」として、子どもたちの輪の中心で輝いている。その姿は、王冠や豪奢なドレスを身につけていた頃よりも、ずっと眩しい光を放っていた。
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