ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる

文字の大きさ
27 / 188

27 聖女の癒し、悪魔の略奪

しおりを挟む
◇◇カナワ冒険者ギルマス、ラグ◇◇

魔法剣士の俺は前から、ユリナのスキルの隠された部分を見たかった。

いや、利用する気はない。新人時代から36年も冒険者ギルトに携わって、初めて見た予測がつかないスキル。

「スキルオタク」の血が騒ぐのだ。

だが、見る機会は最悪の形で訪れた。

冒険者ギルドでも要注意とされているカスガ男爵家。そこでも最低な長男ワルダーに、ユリナの自己回復スキルを知られたらしい。

自分の利益のためにユリナを確保に来て、我々も巻き込むトラブルの末に、ファイアランスをギルド内でぶっ放しやがった。

ユリナとリュウに炎が当たった。

ユリナ自身は右手に負った大やけどが瞬時に治った。

リュウを見ると、こちらは絶望的だった。左の脇、心臓付近の胸が焼け焦げ、炎の魔力は内側まで達していた。

リュウの状態から復活したやつを見たことがない。

しかし、ユリナがリュウの頬に手を当てて『超回復』と唱えると、奇跡が起きた。

魔法の反応はなかった。魔力の残滓もなにもない。

なのに、リュウが一瞬で復活した。何もないのに・・



い、い、いやいやいや、異変があった。ユリナが縮んでいる。身長が160センチから150センチを切るくらい、小さくなっている。


ギルドの中に残っていた人間は、ユリナの変化には気付かない。回復魔法のようなものを見て、あっけに取られた。声も出ない。

ユリナの仲間も悲痛な面持ちでユリナを見ている。



だが、沈黙を破ったのは、トラブルを引き起こしたあいつだ。

「ユリナ、やっぱりお前は他人も完全回復できるのか。我がカスガ男爵家が後ろ盾になってやる。王にも会わせてやる。一緒に来い!」


しくじった。

騎士4人を拘束していたから油断した。殴り倒して放置していたワルダーが、ギルドの受付嬢の首にナイフを当てて人質に取っている。

これで完全な犯罪者だが、そんなことを言っている場合ではない。

「そこの職員と冒険者、騎士達の拘束を解け。そしてユリナ、1人でこっちに来い」

最悪だ。

ユリナは、立ち上がって言った。

「分かった。その受付嬢さんを離して。ワルダー、あなたと一緒にカスガ男爵家に行くわ」

「ユリナ!」

「リュウ君、ここでお別れよ・・」

リュウに小さな革袋を渡した。



解放されたワルダーの騎士1と騎士2が左右からユリナをつかんだ。

「汚い手で触らないで。後悔するわよ」

「へっ。こんな細い腕で何ができる」
「そっちこそ、痛めつけてやろうか」

ユリナの雰囲気が変わった。
「とうか・・」。何か呟いた。

「おらっ、来い!」
「生意気な・・え?」

俺は息を飲んだ。

騎士2人がユリナをつかんでいた手が離れた。
手首から指先まで、骨に皮を張り付けたように干からびて、物が握れないのだ。

ユリナが『超回復』と唱えたときと同じく、魔力反応はゼロだ。

「うわわわわ!」
「俺の手、手がああ!」

あっ、ユリナの身長が元に戻っている。

何なのだ、あの現象は?

異変を感じた騎士3、騎士4がユリナに近付いたとき、彼女はなんと、自分の首にナイフを刺した。

瞬時に吹き出す血が止まったユリナは、怯んだ騎士2人の手をつかみ呪文を唱えた。

今度は聞こえた。「等価交換」だ。

片方の手がミイラ型モンスターのようになった騎士4人を見てユリナは言った。

「座って、いい子にしてなさい。そしたら元に戻してあげる。勝手に立ったら一生そのままよ」

「あ、あ」
「ひいいい」

騎士4人は従った。

ユリナはワルダーに向き直った。

「く、来るな、来るな。この受付嬢を殺すぞ!」

「・・殺れば?」

悪手だ。ワルダーは虚勢は張るが気が小さい男の典型だ。

受付嬢の首に当てていたナイフを思い切り引いてしまった。

ブシュッ。頸動脈が切れた。

受付嬢の首から吹き出す血を浴びながら、ユリナは受付嬢に急接近し、顔に手を当てた。

『超回復』

「え、あれ?」

ユリナに引き寄せられた受付嬢は、自分の首を手で触り、何が起こったか分からないでいた。

「ワルダー、おとなしくしなさい」

「ひいいい、来るな」

ザクッ、ザクッ、ザクッ。

ユリナはワルダーの振るうナイフが当たっているのに、何もなかったかのように立っている。

「リュウ君を殺そうとした奴は、楽に死なせてあげない」

ユリナは手を伸ばすと、指先をワルダーの下唇に当てた。

「等価交換」

「ひゃひへょ?へ?ひゃひゅへり」

ワルダーの下の歯茎がむき出しになり、歯が何本も抜け落ちて舌もしぼんでいるようだ。

ユリナは自分の手首を切り、ワルダーの両手をつかんで再び同じことをした。

「あなた達、男爵家の馬車で来たんでしょ。停車場に案内しなさい。嫌なら、手も口も治さない」



戦う決意をした者の目だ。

ユリナのスキル。

あれは女神、はたまた魔神のスキルだ。

自分の体を分け与え、リュウの傷を癒やしたのだ。

かと思えば、敵の身体を壊して自分の体を修復している。

魔法戦士の視点で見ると、戦う能力としては穴だらけだ。

だが、あの力があれば「聖女」になれる。

逆に「悪魔」として追われる危険性もある。


もっと彼女の活躍を見ていたいが、彼女は街を出て行くだろう。


箝口令を敷く前にギルドから何人か出て行った。

その中に、領主が飼っている諜報員もいた。話はすぐに、領主のカナミール子爵にも届くだろう。

ちょうど王も延命のため「未知のスキル」を探し、各貴族に情報提供を求めている。タイミングも悪すぎる。

子爵自身はまともなほうだ。だが貴族として、あれほどのスキルを放っておくはずがない。

それを分かっているから、ユリナの仲間は人前での使用を止めたのだ。


ユリナ、お前は私の想像以上にとんでもないものを手に入れた。

けれどいつか、お前が望む「ささやかな幸せ」をつかめることを祈りたい。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...