鬼村という作家

篠崎マーティ

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二十三話「アンチから謝罪を込めて」

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 鬼村の担当になって暫くすると、送られてくる手紙の中に謝罪の手紙が度々紛れている事に気が付いた。
 それらは切羽詰まった様子で、心底から鬼村に詫び、許してくれと懇願する内容で統一されており、中には金まで同封しているものもある始末。ファンレターの合間にそんな手紙を目にすると、ひやりと肝が冷えてならないが、鬼村に動じた様子は一切なかった。
「ああ、それね。アタシのアンチ」鬼村は事も無げに言った。
「なんでアンチから謝罪の手紙がくるんですか? 訴えたんですか?」
「いやあ?」鬼村はねっちょりしたいやらしい笑みを浮かべた。「ただほら、こっちも良い気しないからさ、そんなの。死ねば良いのにって多少は思っちゃうわけよ」
「え、呪ったんですか!?」
「ちょっとね」
 鬼村は笑った。
「アタシが具体的にやったわけじゃないんだけどさ。つまりね、アタシはこいつらに対して死ねって言う極軽い呪いの感情を抱くわけ。そうすると、その近くに居る霊がそれに気づいてこう思うのよ。ああ、死ねなんて思われてるこいつは呪っても良い奴なんだって。で、アタシの呪いを足掛かりに憑りつくの」
 どうやら霊の中にも色々と摂理や法則なんかがあるらしく、誰からも愛され慕われる素晴らしい人間と、死を願われる嫌な人間とでは後者の方が憑りつきやすいらしい。理屈としては納得できるが、気持ちとしては腑に落ちない話だ。
 昨今、「死ね」という言葉は酷く軽く扱われている。誰にもその呪いの言葉を吐いた事が(胸の中も含め)ない人なんて存在するのだろうか。また、誰かにただの一度も恨まれたことなど無い人だって、存在しないんじゃないだろうか。
 ならば、人間は誰だって呪い呪われているという事じゃないか。
 じわりと背筋に寒気が走り、私は肩を強張らせた。
 私が憑りつかれていない保証なんてないんだ。
「じゃあ、この手紙の主は全部、憑りつかれた……?」
「そう」
 鬼村は持っていたシンプルな封筒をひっくり返した。カサカサと軽い音がして手紙と一緒に小さなものが転がり出る。床に落ちる一瞬の間、それは切手かシールに見えた。だが違った。
 人間の爪だった。
 息をのむ私を横に、三枚の爪を拾って鬼村は言った。
「人から恨まれるような人生送るもんじゃないよ」
 手紙はびっしりと「ごめんなさい」と震える字で埋め尽くされていた。


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感想 3

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