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五十三話「すすめ」
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ある時、朝から鬼村の家に行く予定があった。
約束の時間より少し早めに鬼村宅への道を歩いていると、驚いた事に鬼村が横断歩道に旗を持って立ち、小学生を見送っているではないか。旗当番だ。保護者でもないのに、何故鬼村が旗当番なんてやっているのだ。
鬼村は眠そうなのを隠しもせず、子供達の列をどうでもよさそうに見送っている。
「おはようブス!」小学生の一人が笑いながら叫んだ。
それに感化された意地の悪い子供達数名が「デブ」だの「ババア」だのと喚きだす。思わず私の方がカッときたが、鬼村は気にした様子もなく「悪い子は呪っちまうぞー」と言ってへらへらと旗を振っていた。
反対側に立っているもう一人の当番が子供達を注意しているのを尻目に、私は急いで鬼村の元に駆け寄った。
「先生」
「あれ、何してんの。まだ時間じゃないよ」
「ちょっと早く来たんです。なんで先生が旗当番してるんですか?」
「ここら辺、旗当番は地域の人がやンのよ」
小説家は家で仕事をすることが多いので、これくらいの地域貢献はするのだと言う。在宅仕事を抜きにしても、鬼村の周りでは色々な事が起こりやすい。有事の際、許してもらえる程度のご近所づきあいは必要なのだと。
それにしたって酷い子供である。自分の子供が生まれたら、ああは育てるものか。
大人げなく腹を立てつつふと横を見ると、一人だけ子供が残っているのに気が付いた。先ほどの一団と一緒に行かなかったようで、じっと車が行き交うのを眺めている。上手く渡れなかったのだろうか、友達でも待っているのだろうか。
鬼村は少女の前に旗を突き出して、止まれのポーズをとっている。そして暫く車の走行音だけが聞こえていたが、徐に少女が左手からやってくる車の一台を指さした。
「アレ」
途端、鬼村は旗を退かした。
少女はふらりと一歩前に出て、指さした車が目の前を通った瞬間に車の中へすうっと吸い込まれてしまった。
ほんの一瞬の出来事で、私は声を上げることさえ出来なかった。
「え、え?」
「あれ、見えてた?」狼狽する私を見て、鬼村が笑う。
「なんですか今の」
少女の幽霊が車に乗り込んだ――つまりはそういう事である。
鬼村は言った。
「ま、悪い事は出来ないって話よ」
のろのろと視線を横に滑らせる。
事故の目撃情報を募る看板が立っていた。
約束の時間より少し早めに鬼村宅への道を歩いていると、驚いた事に鬼村が横断歩道に旗を持って立ち、小学生を見送っているではないか。旗当番だ。保護者でもないのに、何故鬼村が旗当番なんてやっているのだ。
鬼村は眠そうなのを隠しもせず、子供達の列をどうでもよさそうに見送っている。
「おはようブス!」小学生の一人が笑いながら叫んだ。
それに感化された意地の悪い子供達数名が「デブ」だの「ババア」だのと喚きだす。思わず私の方がカッときたが、鬼村は気にした様子もなく「悪い子は呪っちまうぞー」と言ってへらへらと旗を振っていた。
反対側に立っているもう一人の当番が子供達を注意しているのを尻目に、私は急いで鬼村の元に駆け寄った。
「先生」
「あれ、何してんの。まだ時間じゃないよ」
「ちょっと早く来たんです。なんで先生が旗当番してるんですか?」
「ここら辺、旗当番は地域の人がやンのよ」
小説家は家で仕事をすることが多いので、これくらいの地域貢献はするのだと言う。在宅仕事を抜きにしても、鬼村の周りでは色々な事が起こりやすい。有事の際、許してもらえる程度のご近所づきあいは必要なのだと。
それにしたって酷い子供である。自分の子供が生まれたら、ああは育てるものか。
大人げなく腹を立てつつふと横を見ると、一人だけ子供が残っているのに気が付いた。先ほどの一団と一緒に行かなかったようで、じっと車が行き交うのを眺めている。上手く渡れなかったのだろうか、友達でも待っているのだろうか。
鬼村は少女の前に旗を突き出して、止まれのポーズをとっている。そして暫く車の走行音だけが聞こえていたが、徐に少女が左手からやってくる車の一台を指さした。
「アレ」
途端、鬼村は旗を退かした。
少女はふらりと一歩前に出て、指さした車が目の前を通った瞬間に車の中へすうっと吸い込まれてしまった。
ほんの一瞬の出来事で、私は声を上げることさえ出来なかった。
「え、え?」
「あれ、見えてた?」狼狽する私を見て、鬼村が笑う。
「なんですか今の」
少女の幽霊が車に乗り込んだ――つまりはそういう事である。
鬼村は言った。
「ま、悪い事は出来ないって話よ」
のろのろと視線を横に滑らせる。
事故の目撃情報を募る看板が立っていた。
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