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ボクのススムミチ。
僕のリカイシャ。
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「リュ,リュー?」
リューは自分の顔を腕で隠したまま,一言も発さず動こうともしない。
僕はリューの身体を横から渡るようにして,リューを覗き込んだ。
もしかして,僕との接触以前に打ち所が悪かったりしたんだろうか。
そうだったらどうしたらいいんだろう,きゅ,救急車?
リューは僕を助けてくれたのに。
か細く名を呼ぶ僕の声に,リューは小さく唇を引き絞った。
「悪い。伊織,怪我してないか」
「う,うん。それよりリューは」
リューの手を引き立ち上がらせる。
僕たちは互いを思いやりながら,自身でも何か怪我などの異変がないか確かめた。
僕はちらりとリューを見る。
リュー,普通だな。
何かを抑え込んでいるような様子もない。
「えっいやいやいや! お前ら!」
「いやはお前だよ三太!!!」
前ではぎゃーぎゃー喚く三太を,クラスメートの1人が口ごと取り押さえられていた。
あ
そうだ僕たちいま。
端から見たら,突然教室の真ん中で公開事故チュー起こした2人……
自然と目線が三太から隣の敦へと移る。
……あぁ,見られた。
僕の,ファーストキス。
手のひらでマスク越しのそこを押さえる。
僕,ほんとに持ってないな。
「リュー,ごめんね」
「いや,別に。俺は気にしてない。……それより」
ー混乱してるだろうし,放課後話がある。
話……???
僕はリューを見上げて,ふと彼の唇に目を止めた。
さっき,確かに触れた。
お互い驚いたせいで口も開いて,仮にもソフトとは言えないキスだった。
なのにどうしてリューはこんなにも……
「あ,リュー。口切れてる……洗いに行こ。ごめんスズ,間に合わなかったら適当に言っといて」
「……おー」
僕はリューを引っ張って,男子トイレへと向かう。
教室を出る直前,取り残されたように立ち上がる百合川さんに僕は言った。
「僕と君は今日で初めましてだし,君の想いも断った。それに,僕は君に対してなにもしていない。それは,いいよね?」
初めて僕を好きだと言ってくれたのに。
それはきっと,とても勇気のいることなのに。
これ以上,彼女に向けられる優しい言葉が見つけられなかった。
淡々とした温度のない言葉たち。
最後に見つめた瞳に,僕は少しの哀れみを乗せて立ち去る。
夏とはいえ,出てくるのは冷たい流水。
僕は本人を目の前に多少の気まずさを覚えながら,リューの隣で唇をすすいだ。
「変なことに巻き込んじゃってごめんね」
リューが寡黙なのはいつものことなのに,沈黙に耐えきれなかった僕は言う。
「放課後の話,今でもいいか」
「え……? あ,うん」
僕が頷くと,リューは水を止めて,傷の見える口の端を拭った。
「俺は,お前……伊織のことが好きだ。だから別に今回のことも,巻き込まれたとか不快だとか,そんなことはない」
ぇ……
好きって,嫌じゃないって。
それじゃまるで,"そういう意味"みたいじゃないか。
「ちょ,とリュー」
「それから。お前が一番知りたいだろうことだけど……さっきは怖がらせてごめんな。俺にはお前の作用は効かない。俺は,この世で唯一の……S·Pの影響を受けない人間なんだ」
な……
突然のリューからのカミングアウトとの連続に,僕は信じられない思いでリューをみた。
けれど聞き間違えるはずもない,S·Pという単語。
僕たちの存在を示した,呼称。
リューはなにかを知っている。
僕の影響を,受けない……唯一の存在。
「それって」
今,リューが僕に対して普通にしているのと関係があるんだろうか。
「悪いけど伊織,これ以上抜けてたら何言われるか分からねーから。続きはやっぱり放課後にして」
「あ……そだね。戻ろっか」
僕の今までが,当たり前が,頭の中でぐるぐると回っていく。
リューの気遣わしげな視線に気付きながらも僕は,ゆっくりと黙って教室へ戻った。
HRさえ越えれば,後はもう放課後だ。
僕はリューの話の続きが聞きたくて,うずうずを越えてイライラしていた。
そんな僕の態度が気になったのか,担任もいつもより早く話を切り上げる。
起立と礼を終えて,解散の声を聞いた。
僕はそれと共に,皆のもとへ行く。
「ごめん,僕今日反対方向の店に用事あって。個人的なことだから,先に帰っててくれる?」
「おー。珍しいな」
「じゃーなーー」
驚くスズと名にも気にしていない三太の言葉に微笑み返して,僕はリューを見た。
早く抜けてきてね,僕,もう戻れないから。
リューは黙ったまま,短い瞬きで僕へ返す。
出口へと踵を返すと,リューからLINEが入っていた。
『直ぐ戻るから。杉本のばーちゃんちらへんで待ってて』
僕はスタンプで返す。
そっか。
わざわざ態度で示さなくても,ここで言えば良かった。
杉本のばーちゃんち,は,クラスメートの杉本のおばあちゃんの家という意味。
この高校からとても近く,時々杉本がそこから出てきたりするので,仲が良くなくても知られた有名な場所。
すたすたと廊下に出る僕へ,そう言えば何も言って来なかった敦が声をかける。
「伊織。……なんかあったのか? 1人で大丈夫か?」
振り返ると,『え,なんで?』という僕と同じ思いを顔を隠しもしない三太が敦を見上げていた。
「大丈夫だよ。ほんとに用事があるだけだから。明日は皆と帰る。またね」
僕を気にかけてくれるのが嬉しい。
僕に気付いてくれるのが嬉しい。
きゅうと小さくなる心臓に,全て隠せなくなっている顔にだけは気付かれたくなくて。
僕は顔を隠すように,直角に教室を出た。
僕がなんの防御もしていない時に,直ぐに君はそんなことをするから。
ちょっとだけ,ずるいと思う。
言われた辺りで待っていると,目の前からリューが走ってきた。
場所を移ろうと言われて,僕たちは遊具の少ない公園へ向かう。
「それで?」
話は僕から切り出した。
「リューはいつから僕の事を知っていたの」
影響はなくても,何か感じることがあるんだろうか。
だとしたら,きっかけはついさっきの事故チューだと言える。
だけど,リューはそれよりもずっと前から僕の事を知っていたような気がするんだ。
「知ってた訳じゃない。気付いたのは……敦が連れてきて,お前を認識して直ぐだったと思う。伊織の挙動は誰が見ても異質で,でも俺だけはそれらに見覚えがあったんだ」
見覚え,という言葉に驚く。
この星全体で,2000人程しかいないと言われる僕たち。
まだ互いに16だというのに,僕以外など,この狭い地域にそれこそどんな確率だと思った。
「俺の……母親が。S·Pなんだ」
母親。
その言葉に,僕は衝撃を受ける。
S·Pには性別の概念が殆んど無い。
生まれた瞬間の診断は,その構造から大抵男に位置付けられる。
他人に見分けを付けさせるなら,髪の伸びやすさくらいだろうか。
この身体で,この環境で。
愛する人と両思いになって子をもうけられる人が,一体どれだけいるだろう。
割り切って同姓恋愛と言うことにするでもなく,自分が女だと主張して理解を得る事は並大抵のことじゃない。
「俺はずっと母親を見ていた。母の特殊性を知ったのは,自分の特殊性を知った時。父親が誤って,自分ではなく母の食べかけを俺に与えてしまったときだった」
そこには確実に唾液が含まれる。
リューは影響を受けなかったことで,直ぐに然るべき機関へと連れられた。
その結果が,リューは影響を受けない,だったのだろう。
「無理やり知らないやつの唾液を飲ませられたりもした。だから,間違いない」
僕には,少なくとも2000人の同種がどこかで息をしている。
だけどリューには,同種と言える人がいないんだ。
自分は変わった点など何も無いのに,ただ僕たちS·Pを受け入れて。
他人の分までたった1人で秘密を抱えるしかない。
リューの今までの人生を考えて,僕は絶句した。
「俺はお前のことが好きだ。この何の役にもたたない体質も,お前の役に立つなら嬉しい」
リューのそれは,もて余した体質への執着に等しい。
だけど,僕を見る欲情を孕んだ瞳は……その全てが偽りではないと表していた。
目は口ほどに物を言う。
僕のように口や本音を隠さないリュー。
開かれた瞳は,一途に僕だけを見つめていた。
もしかしたら,僕が出会うなかで……最初で最後になるかもしれない僕の理解者。
ドクンと,沸き上がる何かで胸が鳴る。
そうだ。
突然のことで忘れていたけれど。
リューは2度も,僕を好きだと言った。
リューは自分の顔を腕で隠したまま,一言も発さず動こうともしない。
僕はリューの身体を横から渡るようにして,リューを覗き込んだ。
もしかして,僕との接触以前に打ち所が悪かったりしたんだろうか。
そうだったらどうしたらいいんだろう,きゅ,救急車?
リューは僕を助けてくれたのに。
か細く名を呼ぶ僕の声に,リューは小さく唇を引き絞った。
「悪い。伊織,怪我してないか」
「う,うん。それよりリューは」
リューの手を引き立ち上がらせる。
僕たちは互いを思いやりながら,自身でも何か怪我などの異変がないか確かめた。
僕はちらりとリューを見る。
リュー,普通だな。
何かを抑え込んでいるような様子もない。
「えっいやいやいや! お前ら!」
「いやはお前だよ三太!!!」
前ではぎゃーぎゃー喚く三太を,クラスメートの1人が口ごと取り押さえられていた。
あ
そうだ僕たちいま。
端から見たら,突然教室の真ん中で公開事故チュー起こした2人……
自然と目線が三太から隣の敦へと移る。
……あぁ,見られた。
僕の,ファーストキス。
手のひらでマスク越しのそこを押さえる。
僕,ほんとに持ってないな。
「リュー,ごめんね」
「いや,別に。俺は気にしてない。……それより」
ー混乱してるだろうし,放課後話がある。
話……???
僕はリューを見上げて,ふと彼の唇に目を止めた。
さっき,確かに触れた。
お互い驚いたせいで口も開いて,仮にもソフトとは言えないキスだった。
なのにどうしてリューはこんなにも……
「あ,リュー。口切れてる……洗いに行こ。ごめんスズ,間に合わなかったら適当に言っといて」
「……おー」
僕はリューを引っ張って,男子トイレへと向かう。
教室を出る直前,取り残されたように立ち上がる百合川さんに僕は言った。
「僕と君は今日で初めましてだし,君の想いも断った。それに,僕は君に対してなにもしていない。それは,いいよね?」
初めて僕を好きだと言ってくれたのに。
それはきっと,とても勇気のいることなのに。
これ以上,彼女に向けられる優しい言葉が見つけられなかった。
淡々とした温度のない言葉たち。
最後に見つめた瞳に,僕は少しの哀れみを乗せて立ち去る。
夏とはいえ,出てくるのは冷たい流水。
僕は本人を目の前に多少の気まずさを覚えながら,リューの隣で唇をすすいだ。
「変なことに巻き込んじゃってごめんね」
リューが寡黙なのはいつものことなのに,沈黙に耐えきれなかった僕は言う。
「放課後の話,今でもいいか」
「え……? あ,うん」
僕が頷くと,リューは水を止めて,傷の見える口の端を拭った。
「俺は,お前……伊織のことが好きだ。だから別に今回のことも,巻き込まれたとか不快だとか,そんなことはない」
ぇ……
好きって,嫌じゃないって。
それじゃまるで,"そういう意味"みたいじゃないか。
「ちょ,とリュー」
「それから。お前が一番知りたいだろうことだけど……さっきは怖がらせてごめんな。俺にはお前の作用は効かない。俺は,この世で唯一の……S·Pの影響を受けない人間なんだ」
な……
突然のリューからのカミングアウトとの連続に,僕は信じられない思いでリューをみた。
けれど聞き間違えるはずもない,S·Pという単語。
僕たちの存在を示した,呼称。
リューはなにかを知っている。
僕の影響を,受けない……唯一の存在。
「それって」
今,リューが僕に対して普通にしているのと関係があるんだろうか。
「悪いけど伊織,これ以上抜けてたら何言われるか分からねーから。続きはやっぱり放課後にして」
「あ……そだね。戻ろっか」
僕の今までが,当たり前が,頭の中でぐるぐると回っていく。
リューの気遣わしげな視線に気付きながらも僕は,ゆっくりと黙って教室へ戻った。
HRさえ越えれば,後はもう放課後だ。
僕はリューの話の続きが聞きたくて,うずうずを越えてイライラしていた。
そんな僕の態度が気になったのか,担任もいつもより早く話を切り上げる。
起立と礼を終えて,解散の声を聞いた。
僕はそれと共に,皆のもとへ行く。
「ごめん,僕今日反対方向の店に用事あって。個人的なことだから,先に帰っててくれる?」
「おー。珍しいな」
「じゃーなーー」
驚くスズと名にも気にしていない三太の言葉に微笑み返して,僕はリューを見た。
早く抜けてきてね,僕,もう戻れないから。
リューは黙ったまま,短い瞬きで僕へ返す。
出口へと踵を返すと,リューからLINEが入っていた。
『直ぐ戻るから。杉本のばーちゃんちらへんで待ってて』
僕はスタンプで返す。
そっか。
わざわざ態度で示さなくても,ここで言えば良かった。
杉本のばーちゃんち,は,クラスメートの杉本のおばあちゃんの家という意味。
この高校からとても近く,時々杉本がそこから出てきたりするので,仲が良くなくても知られた有名な場所。
すたすたと廊下に出る僕へ,そう言えば何も言って来なかった敦が声をかける。
「伊織。……なんかあったのか? 1人で大丈夫か?」
振り返ると,『え,なんで?』という僕と同じ思いを顔を隠しもしない三太が敦を見上げていた。
「大丈夫だよ。ほんとに用事があるだけだから。明日は皆と帰る。またね」
僕を気にかけてくれるのが嬉しい。
僕に気付いてくれるのが嬉しい。
きゅうと小さくなる心臓に,全て隠せなくなっている顔にだけは気付かれたくなくて。
僕は顔を隠すように,直角に教室を出た。
僕がなんの防御もしていない時に,直ぐに君はそんなことをするから。
ちょっとだけ,ずるいと思う。
言われた辺りで待っていると,目の前からリューが走ってきた。
場所を移ろうと言われて,僕たちは遊具の少ない公園へ向かう。
「それで?」
話は僕から切り出した。
「リューはいつから僕の事を知っていたの」
影響はなくても,何か感じることがあるんだろうか。
だとしたら,きっかけはついさっきの事故チューだと言える。
だけど,リューはそれよりもずっと前から僕の事を知っていたような気がするんだ。
「知ってた訳じゃない。気付いたのは……敦が連れてきて,お前を認識して直ぐだったと思う。伊織の挙動は誰が見ても異質で,でも俺だけはそれらに見覚えがあったんだ」
見覚え,という言葉に驚く。
この星全体で,2000人程しかいないと言われる僕たち。
まだ互いに16だというのに,僕以外など,この狭い地域にそれこそどんな確率だと思った。
「俺の……母親が。S·Pなんだ」
母親。
その言葉に,僕は衝撃を受ける。
S·Pには性別の概念が殆んど無い。
生まれた瞬間の診断は,その構造から大抵男に位置付けられる。
他人に見分けを付けさせるなら,髪の伸びやすさくらいだろうか。
この身体で,この環境で。
愛する人と両思いになって子をもうけられる人が,一体どれだけいるだろう。
割り切って同姓恋愛と言うことにするでもなく,自分が女だと主張して理解を得る事は並大抵のことじゃない。
「俺はずっと母親を見ていた。母の特殊性を知ったのは,自分の特殊性を知った時。父親が誤って,自分ではなく母の食べかけを俺に与えてしまったときだった」
そこには確実に唾液が含まれる。
リューは影響を受けなかったことで,直ぐに然るべき機関へと連れられた。
その結果が,リューは影響を受けない,だったのだろう。
「無理やり知らないやつの唾液を飲ませられたりもした。だから,間違いない」
僕には,少なくとも2000人の同種がどこかで息をしている。
だけどリューには,同種と言える人がいないんだ。
自分は変わった点など何も無いのに,ただ僕たちS·Pを受け入れて。
他人の分までたった1人で秘密を抱えるしかない。
リューの今までの人生を考えて,僕は絶句した。
「俺はお前のことが好きだ。この何の役にもたたない体質も,お前の役に立つなら嬉しい」
リューのそれは,もて余した体質への執着に等しい。
だけど,僕を見る欲情を孕んだ瞳は……その全てが偽りではないと表していた。
目は口ほどに物を言う。
僕のように口や本音を隠さないリュー。
開かれた瞳は,一途に僕だけを見つめていた。
もしかしたら,僕が出会うなかで……最初で最後になるかもしれない僕の理解者。
ドクンと,沸き上がる何かで胸が鳴る。
そうだ。
突然のことで忘れていたけれど。
リューは2度も,僕を好きだと言った。
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