【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

文字の大きさ
94 / 174
ダンジョン調査 ▶29話

#8 少しだけ、兄のことを(自慢)

しおりを挟む
「…兄さん、どうどう。…ガルガルしないで。」

「っ!してないね!俺は落ち着いてる。いたってクール!…クッソ、あのジジイ!」

「兄さん、ジジイは駄目…」

二人の元に戻ってからもプリプリしたままの兄、それを何とか落ち着かせながら、先ほど来た道を四人で戻る。

「…で?結局、問題は解決したの?シオンは、まぁ、何だか分かんないことになってるみたいだけど、調査は続けるんだよね?」

「ああ、うん、そう。戻って最初からマッピングし直したい、んだけど、…ごめん、二人とも。こっちのゴタゴタに巻き込んで…」

「別に、巻き込まれたとは思ってねぇよ。ただ、何かしんねぇけど、問題あんだったら、俺らにも言えってだけでさ。」

「うん、ありがと。」

二人のおかげで、落ち着きを取り戻してきた兄が苦笑する。

「あの人のことは、まぁ、何とかなりそうなんだけどさ、帰って、イグナーツさんに確認してからかな?…その時に、二人にもちゃんと説明する。」

「オーケー。」

「りょーかい☆」

「ってことで、じゃあ、調査続行。この階のマッピング終わらせちゃわないと。あ、あと、ポータルの設置も。」

入り口近くに戻ってきたところで、地図のような見た目のマッピング用魔道具を広げた兄が、手元のそれをのぞき込んだ。

「…ルキ、取り敢えず、探知したモンスターが居たら、都度教えてくれる?戦闘はしなくても、出現場所確認して安地あんち見つけたいから。」

「ああ。」

「よし、そんじゃあ、改めて、お仕事開始!」

兄の合図で、ルキが探知を開始した。








調査開始から五時間、昼食や休憩をはさんでいるから、実質四時間ほどで、地下一階層のマッピングがほぼ完了した。

途中、敵の出現が全くない小部屋のようなエリアを見つけ、兄が今度は簡易ポータルの部品を広げていく。

一応、手伝いはしたものの、その必要もないくらいに簡単に組み立て終わった簡易ポータル。テントを張る時のペグ?のような形で、その頭部分が丸くなっている魔道具は、地面に突き刺すことで帰還用の陣を展開するらしい、のだけれど─

「…兄さん、ダンジョンに穴って開くの?」

「ん?」

「これ、地面に刺さる?」

「ああ、普通に掘るのは無理だから、土魔法で土台作って突き刺す。」

「…すぐ壊れそう。」

「うん、まぁ、でも、簡易ポータルだからな。転移陣設置するまでの繋ぎだし、作動すれば保存結界も展開されるらしいから。」

「…らしい?」

兄の言葉に不穏を覚える。兄は確か、ポータル設置の予行練習済み、昨日は「俺に任せろ!」的なことを言っていたはず。

「俺も、ホンモノ触んのは今日が初めてなんだよね。練習ん時は、普通の棒で練習してたし。」

「棒…」

「いや、だって、コレ、クソ高いんだって。一本、百万。」

「!?」

「練習には使えないお値段だよなー?…しかも、うちのギルド、コレを三十本購入済みっていう…」

「…」

ギルドの、イグナーツさんの本気を改めて感じる。

「…ってことだから、セリ、ちょっと離れてて。練習はしたけど、やっぱ、土魔法はムズいのよ。」

「…頑張って。」

兄から離れ、既に兄の死角に立っていた二人に並ぶ。ルキが、少し、こちらに身体を傾けて、

「…てか、シオンって、土魔法、使えんだな?種火起こせんのは知ってたけど。」

「兄は魔力が多いので、自分の周囲一メートル程度であれば、ごり押しで魔力を流せます。土魔法でも。」

「ごり押し…」

「はい。…兄の魔力は指向性が無くて、攻撃魔法のように相手に向かって魔力を飛ばせません。通常は、触れた対象にしか魔力が流れないんですが…」

「は?え、でも、シオン、俺らに付与魔法掛ける時、触れてない、よな?」

「はい。なので、ごり押しです。魔力を溢れさせることで、直接触れずに付与を掛けてるんです。」

「…」

「?」

ルキの反応が無くなった。隣を向いて確かめてみれば、ルキだけでなくエルまでが驚いたような顔で─

「?…エルも、知りませんでしたか?」

「知らないよ!ってか、気づかないよ!そんなもの!だって、あり得ないでしょっ!?」

「兄は魔力が多いので…」

「多いの一言で片づけられるもんじゃないでしょー!?魔力に指向性が無いってことは、そもそも、冒険者みたいな戦闘職には致命的じゃない!?」

「そこは、こう、兄の根性で…」

「すげぇな、アイツの根性。」

「根性の一言で片づけていいもんでも無いからね!?」

エルが「あり得ない」を連呼している。でも、妹としては、兄が「すげぇ」と称賛されるのは、実は、ちょっと、気分が良い─

「…ちなみに、兄は、全属性の魔法が使えます。」

「はっ!?」

「うっそ、でしょ…」

「本当です。攻撃魔法が使えないので、魔導師ではなく呪術師に成りましたが…」

「…」

「…」

絶句する二人を相手に、ちょっとだけ悦に入っていたら─

「お待たせ―、かんりょー、って、誰もこっち見てなくない!?」

「…兄さん、お疲れ様。いい仕事してますね?」

「いや!セリ、絶対、見てなかったよね!?三人でしゃべってたじゃん!?」

「そんなことは…」

いつまでも「ちゃんと見ててよ」と騒がしい兄、折角、エルとルキの中で上がったはずの兄評価は、早々に、落ち着くべきところに落ち着いた。

その後、三人がかりでなだめすかされた兄は、モンスターとの戦闘や宝箱の発見によって簡単に機嫌を直し、何とかその日の内に地下一階の調査を終えることが出来た。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...