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ダンジョン調査 ▶29話
#16 兄の心、妹知らず、マジで(シオン視点)
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マズいなーとは思ってるんだけど、じゃあ、どうすりゃいいんだよっていう話で。
本当、俺にその手のスキルと経験は無いんだって─
「…兄さん、行ってくる。」
「はいよー。」
セリは今日も、あの男に食事を持って行ってしまった。
「…」
「…」
残された場の沈黙が痛い。
「…セリちゃんとヴァイズ・ミレンって、仲良しなんだね?」
「うっ、いや、仲良しってほどじゃ…」
沈黙を破ってくれたはずのエル、だけど、その話題のチョイスはいかがなものかと─
(ほらー!ルキの眼光、鋭くなってんじゃーん!)
元から、「睨んでんじゃね?」くらいの視線でセリを追っかけてたのが、「人殺せるんじゃね?」くらいに進化してる。
「聞いてた話だと、とんでもない人格破綻者みたいだったからさー?セリちゃんがふっつーになついてるのが意外☆」
「いやいやいや、違うから、なついてるってのはまたちょっと違うから。」
エルの言葉を否定してる風で、こっちを見てもいないルキに必死に言い訳する。
「俺も人のことは言えないけど、あの人、マジで生活力無いんだって。セリ、そういうの放っておけないから。」
「ふーん?セリちゃんはお師匠様のお世話が大好き!なんだね☆」
「好きとまでは言ってないよねっ!?」
「えー?」
(って、メチャクチャ楽しんでるしっ!?)
エルがまた黒い顔して笑ってる。その視線はルキに向けられていて、これ以上、下手なことを言われる前にと必死に話題を探す。
「あ!後、セリ、今、師匠に新しい魔法習ってるみたいでさ!」
「魔法?」
「そうそう!まあ、厄介な人だけど、あの人、魔導師としては優秀だから、偶然とは言え、ここであの人に会えたのはチャンスってことで、新しい魔法覚えることにしたみたい!修行だよ、修行!」
「へー。偉いねー、セリちゃん。」
「うんうん!魔導師としての向上心ってやつ!浮ついたアレじゃなくて!」
(覚えようとしてんの清浄魔法で、動機は不純だけど!)
セリが覚えようとしているのが清浄魔法だということは、ルキには絶対言うなと言われている。習得したらどうせバレるよね?という至極真っ当な意見は、「習得中に知られたら死ぬ」と却下されてしまった。知られたら、「てことは、こいつ今、臭いんじゃね?」と気づかれてしまうからなんだそうだ。
よく分からなかったが、乙女の防衛ラインらしい。
(まあ、ぶっちゃけ、何だそれって話なんだけど…)
必死になって習得しようとしているセリの姿を見ていると、止めろとも言えなくなってしまう。
(本人、諦める気なさそうだし。あれ、無茶苦茶イラつくのにな…)
攻撃魔法と生活魔法では魔力の操作方法が全く違うから、攻撃魔法適性の高いセリにとっては、生活魔法を覚えるのは至難の業と言える。あのイラつきを例えるなら、左手で針に糸を通すような、三本くらいまとめて絡まったイヤホンコードを左手一本でほどかなくちゃいけないみたいなもどかしさ。いつかは出来るかもしれない、だけどその過程がもどかしすぎて、イライラして、中々続けられない。
(…それでもやるってんだったら、応援くらいはしてやらないと。)
兄ちゃんだし、と思ったところで、ルキの声がした。
「…シオンは行かねぇの?」
「え?あ、ごめん、ボーッとしてた。行くってどこに?」
「シオンは、セリと一緒に行かねぇの?」
「うっ、いや、それは…。俺、あの人苦手で…」
「…ふーん?」
「っ!」
(気まずい!)
ルキの「ふーん?」に責められてる気がする。
(いや、気がするじゃないな!これ、責められてるよね!?)
「お前も行ってこい」って思ってる、絶対。
だけど、実際にそう言われることはなくて、
「…俺、もう寝るわ。」
「あー、うん、了解。」
「ん…」
「お休みー☆」
野営用に起こしていた火から離れていくルキ。部屋の隅、就寝スペースに確保していた暗闇の方へ向かっていく背中を見送った。
「…絶対、マズいよなぁ。」
「んー?」
「あれ、最後は確実にイラついてた。むしろ、爆発寸前と言っても過言じゃない。」
「だねー?セリちゃんの前では上手く隠してるくせに、陰では駄々洩れとか、ルキってホント詰めが甘いんだから☆」
「いや、詰めとか、そういう問題?」
絶対違うけど、エルには関係ないらしい。何とも羨ましいことに、凄く楽しそうだから。
「はー、もう、やなんだよー、俺、こういう空気ー。」
「まあまあ、それこそ、こういうのは外野がどうこう言ってもしょうがないでしょ?」
「それはまぁ、そうなんだろうけどさぁ…」
「大丈夫だって☆セリちゃんはともかく、ルキはいい大人なんだから!自分のことは自分で何とかするよ☆決める時は決める男!」
「んー…」
「…『俺、最下層ボス倒したら、セリに、』」
「やめてっ!?こんなとこで変なフラグ立てないでっ!?」
本当、俺にその手のスキルと経験は無いんだって─
「…兄さん、行ってくる。」
「はいよー。」
セリは今日も、あの男に食事を持って行ってしまった。
「…」
「…」
残された場の沈黙が痛い。
「…セリちゃんとヴァイズ・ミレンって、仲良しなんだね?」
「うっ、いや、仲良しってほどじゃ…」
沈黙を破ってくれたはずのエル、だけど、その話題のチョイスはいかがなものかと─
(ほらー!ルキの眼光、鋭くなってんじゃーん!)
元から、「睨んでんじゃね?」くらいの視線でセリを追っかけてたのが、「人殺せるんじゃね?」くらいに進化してる。
「聞いてた話だと、とんでもない人格破綻者みたいだったからさー?セリちゃんがふっつーになついてるのが意外☆」
「いやいやいや、違うから、なついてるってのはまたちょっと違うから。」
エルの言葉を否定してる風で、こっちを見てもいないルキに必死に言い訳する。
「俺も人のことは言えないけど、あの人、マジで生活力無いんだって。セリ、そういうの放っておけないから。」
「ふーん?セリちゃんはお師匠様のお世話が大好き!なんだね☆」
「好きとまでは言ってないよねっ!?」
「えー?」
(って、メチャクチャ楽しんでるしっ!?)
エルがまた黒い顔して笑ってる。その視線はルキに向けられていて、これ以上、下手なことを言われる前にと必死に話題を探す。
「あ!後、セリ、今、師匠に新しい魔法習ってるみたいでさ!」
「魔法?」
「そうそう!まあ、厄介な人だけど、あの人、魔導師としては優秀だから、偶然とは言え、ここであの人に会えたのはチャンスってことで、新しい魔法覚えることにしたみたい!修行だよ、修行!」
「へー。偉いねー、セリちゃん。」
「うんうん!魔導師としての向上心ってやつ!浮ついたアレじゃなくて!」
(覚えようとしてんの清浄魔法で、動機は不純だけど!)
セリが覚えようとしているのが清浄魔法だということは、ルキには絶対言うなと言われている。習得したらどうせバレるよね?という至極真っ当な意見は、「習得中に知られたら死ぬ」と却下されてしまった。知られたら、「てことは、こいつ今、臭いんじゃね?」と気づかれてしまうからなんだそうだ。
よく分からなかったが、乙女の防衛ラインらしい。
(まあ、ぶっちゃけ、何だそれって話なんだけど…)
必死になって習得しようとしているセリの姿を見ていると、止めろとも言えなくなってしまう。
(本人、諦める気なさそうだし。あれ、無茶苦茶イラつくのにな…)
攻撃魔法と生活魔法では魔力の操作方法が全く違うから、攻撃魔法適性の高いセリにとっては、生活魔法を覚えるのは至難の業と言える。あのイラつきを例えるなら、左手で針に糸を通すような、三本くらいまとめて絡まったイヤホンコードを左手一本でほどかなくちゃいけないみたいなもどかしさ。いつかは出来るかもしれない、だけどその過程がもどかしすぎて、イライラして、中々続けられない。
(…それでもやるってんだったら、応援くらいはしてやらないと。)
兄ちゃんだし、と思ったところで、ルキの声がした。
「…シオンは行かねぇの?」
「え?あ、ごめん、ボーッとしてた。行くってどこに?」
「シオンは、セリと一緒に行かねぇの?」
「うっ、いや、それは…。俺、あの人苦手で…」
「…ふーん?」
「っ!」
(気まずい!)
ルキの「ふーん?」に責められてる気がする。
(いや、気がするじゃないな!これ、責められてるよね!?)
「お前も行ってこい」って思ってる、絶対。
だけど、実際にそう言われることはなくて、
「…俺、もう寝るわ。」
「あー、うん、了解。」
「ん…」
「お休みー☆」
野営用に起こしていた火から離れていくルキ。部屋の隅、就寝スペースに確保していた暗闇の方へ向かっていく背中を見送った。
「…絶対、マズいよなぁ。」
「んー?」
「あれ、最後は確実にイラついてた。むしろ、爆発寸前と言っても過言じゃない。」
「だねー?セリちゃんの前では上手く隠してるくせに、陰では駄々洩れとか、ルキってホント詰めが甘いんだから☆」
「いや、詰めとか、そういう問題?」
絶対違うけど、エルには関係ないらしい。何とも羨ましいことに、凄く楽しそうだから。
「はー、もう、やなんだよー、俺、こういう空気ー。」
「まあまあ、それこそ、こういうのは外野がどうこう言ってもしょうがないでしょ?」
「それはまぁ、そうなんだろうけどさぁ…」
「大丈夫だって☆セリちゃんはともかく、ルキはいい大人なんだから!自分のことは自分で何とかするよ☆決める時は決める男!」
「んー…」
「…『俺、最下層ボス倒したら、セリに、』」
「やめてっ!?こんなとこで変なフラグ立てないでっ!?」
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