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第五章 近づいたり、離れたり
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「ごめんね。悠司、やっぱり間に合わないみたい。遠方の仕事だったらしくて」
「あー、なら仕方ない、です」
いつかのカフェテリアよりも近い距離。しかも、おしゃれ居酒屋の個室に、気づけば何故か二人っきりという状況。変な汗、出てきた。
「…チサには『行かない』って断られました」
「うん、メールで言ってたね、チサさんは来ないって」
検討の余地も無く、断られました―
「『行けない』じゃなくて、『行かない』なのは、意外だったな。チサさんって、明莉ちゃんのこと大事にしてそうだったから」
「えーっと、純粋に、外にご飯食べに行くのが面倒なだけだと思う。最近、忙しそうだから」
自分の部屋で何やらごそごそしているのは、どうやら大学の勉強ではなく、『幽界』に関して色々考えているらしい。
「一先ず、お店入っちゃったから、僕はこのまま食べていこうと思うんだけど、明莉ちゃんはどうする?もしあれなら、」
「私も食べてく」
「良かった」
困るなあ―
花守さん、本当に、言葉通りの「良かった」って表情を浮かべるから、困る。
「飲み物はどうする?」
「ビールで!」
「明莉ちゃん、未成年でしょ?」
テンパった末のボケは、真面目に却下されてしまった。
「…本当は、今年22だよ!て言ったらどうする?」
「同い年ってこと?一緒にお酒が飲めるのは嬉しいけど、それは今すぐじゃなくてもいいしなぁ」
「そうじゃなくて、年齢サバ読んでることに関しては?」
あなたが「明莉ちゃん」と呼んでいる後輩は、こう見えて実は同い年だったりするんですよー。
「?三つくらいなら大した違いは無い気がするけど。あ、でも、そうだね、何でサバ読んでるのか、理由は気になるかも」
「…」
凄くニコニコしてらっしゃるけど、そんな面白い理由は出てきません。そもそも、正直に「異世界帰りです」とは言えない―
「…サバ読んでないです。正真正銘の未成年です」
誤魔化しているわけではない。戸籍的には未成年だから。あと多分、精神的にも。
「そっか。じゃあ、残念だけど、今日はジュースかお茶で乾杯だね。お酒はもう少ししたら、一緒に飲もう?」
「…うん」
まあ、そんな優しく言われたら「うん」しか返せないよね。
結局、ウーロン茶とビールで乾杯した後は、食事をしながら、大学や、互いの高校時代の話題で盛り上がった。花守さんの高校時代に関しては―本人は気づいてないかもだけど―どの話にも必ず部長が登場していた。なんだ、ただの仲良しか。
食事も済み、ちゃっかり頼んだデザートのアイスを堪能しているところで、花守さんが急に真面目な顔に。
「…言いたくないことなら、言わないで欲しいんだけど、明莉ちゃんの力について、いくつか聞かせてくれる?」
「いいよ」
「ありがとう。明莉ちゃんを巻き込んだり、実際に手伝ってもらうような状況になったりした時のことを考えると、出来るだけ、明莉ちゃんのこと、把握しておきたいんだ」
「…」
言い方が。「明莉ちゃんのこと」じゃなくて、「明莉ちゃんの力のこと」って、ちゃんと言って欲しい。でないと、突然赤面するよ?日本語は正確に―
「明莉ちゃんが自分の力に気づいたのは、いつ頃?」
「三年前、かな?」
「高校に入ってからなんだね」
頷きながらも、花守さんは何かを考え込んでしまった。
「…何か、おかしい?」
「いや、幽界に関する力、僕達は『法力』って呼んでいるんだけど、ほとんどが遺伝、先天的なものなんだ。だから、後天的なものっていうのは珍しくて」
なるほど。一般家庭に生まれた私が力を持つのは、突然変異みたいなことになっちゃうんだな。
「何か、きっかけがあったのかな?力に目覚めるような」
「…」
ちょっと異世界救ってきました!とは言えない。勇者の力に目覚めたんすよ!は、尚更イタい。
「これは、答えられないか。ごめんね。じゃあ、明莉ちゃんの力そのもの、どれくらいの実力なのかは聞いても大丈夫?」
「平気っす」
チームを組む以上、相手の実力、手の内はある程度知っておきたいというのは当然だろう。私だって彼らの力のことについては知っておきたい。
そこから、花守さんの質問に答える形で、力についていくつかの説明をした。
幽鬼は問題なく殴れること。狭島で遭遇したレベルの幽鬼なら、二桁相手でも倒せること。ただし、手袋は欲しいことも付け加えておいた。それから、『門』を封じるような力は私には無いから、それはチカに頼るしかないことも。
説明を聞いた花守さんは、なんだ、うん、すごく安心してた。
「良かった。思ってた以上に明莉ちゃんが強そうで」
ニコニコしてるけど、え?これは、
「…褒め言葉?」
「あ、『強い』は嫌だったかな?ごめんね?無神経だった」
「いや、事実なんで嫌ではないけど」
「本当?それなら良かった。明莉ちゃんが強ければ強いほど、怪我したり痛い目にあったりすることも無いと思うと、ついホッとしちゃって」
「あはは。そんなに心配しなくても」
彼の言葉が気恥ずかしくて、笑って誤魔化したのに、返ってきたのは、すごく辛そうで、痛そうな笑顔だった。
「僕は、自分が戦えないから。悠司や君に頼りっきりだ。心配ぐらいしか、出来ないから」
花守さん曰く、彼は幽鬼や門の存在を感知して、その存在を見ることはできるのだけれど、実際に幽鬼や門に触れたり、封じたりすることは出来ない。だから、見つけた門は、キツネしっぽを使った部長や他にも居るらしい仲間に封じて貰うしかない。幽鬼とも戦えないから、逃げたり、隠れたりするしか出来ないって、また、笑った。
「…ずっと、そうだったから。もう、割り切ったと思ってたんだけどね」
「…」
悔しいんだろうなー。その気持ちは、すごくよくわかる。
あちらの世界に召喚されて直ぐの頃は、師匠や皆の後について行くだけで、何も出来なかった。仲間が傷ついているのに、泣いて叫ぶことしか出来ない自分が本当に惨めで、情けなくて。
それでも、師匠もチサも絶対に責めることはなかった。「アカリに役目を押し付けたのは自分達だから、アカリはアカリのスピードで成長して」って、温い言葉までくれて。
今考えると、あれってそんな悠長なこと言ってられるような段階じゃなかったよね?師匠の特訓は厳しかったけど、出来ないことを無理にやらされることはなく、あれは、どっちかっていうと、私を死なせないために必死だったというか。
最終的に、私も勇者として皆の力になれるくらいには成長出来たと思うから、結果オーライだったけど。
花守さんの場合は、自分でどうしようも無いところでもがいてるんだな。そして、それは多分、一生、抜け出せない―
「…明莉ちゃん?」
「あ!いや、大丈夫!寝てないよ!」
「考えごと?」
「…」
葛藤を抱えて笑えるこの人を、強いなと思う。出来ないことなら、逃げ出せばいいのに。家の役目だか何だか知らないけど。そんなに辛いなら「やらない」って言えばいいのに―
よし、私も女だ。ここは腹をくくろう。そうだよ、向こうの世界では当たり前だったじゃん。構えすぎなんだよね、もっと、こう、フランクに、
「…秀は、頑張ってると思うよ」
「…」
「…」
いかん、外した。秀が、鳩が豆鉄砲をアレしてる感じに。駄目だ。顔が熱い。ヤバイ。逃げよう。駄目だ。まだ、お会計が。よし、トイレに。
「…ありがとう」
「…」
何だよ、ありがとうって。秀の顔が赤いのは、何?どっち?お酒のせい?それで?何?この空気を、空間をこっからどうすればいいの?
「ごめんね。悠司、やっぱり間に合わないみたい。遠方の仕事だったらしくて」
「あー、なら仕方ない、です」
いつかのカフェテリアよりも近い距離。しかも、おしゃれ居酒屋の個室に、気づけば何故か二人っきりという状況。変な汗、出てきた。
「…チサには『行かない』って断られました」
「うん、メールで言ってたね、チサさんは来ないって」
検討の余地も無く、断られました―
「『行けない』じゃなくて、『行かない』なのは、意外だったな。チサさんって、明莉ちゃんのこと大事にしてそうだったから」
「えーっと、純粋に、外にご飯食べに行くのが面倒なだけだと思う。最近、忙しそうだから」
自分の部屋で何やらごそごそしているのは、どうやら大学の勉強ではなく、『幽界』に関して色々考えているらしい。
「一先ず、お店入っちゃったから、僕はこのまま食べていこうと思うんだけど、明莉ちゃんはどうする?もしあれなら、」
「私も食べてく」
「良かった」
困るなあ―
花守さん、本当に、言葉通りの「良かった」って表情を浮かべるから、困る。
「飲み物はどうする?」
「ビールで!」
「明莉ちゃん、未成年でしょ?」
テンパった末のボケは、真面目に却下されてしまった。
「…本当は、今年22だよ!て言ったらどうする?」
「同い年ってこと?一緒にお酒が飲めるのは嬉しいけど、それは今すぐじゃなくてもいいしなぁ」
「そうじゃなくて、年齢サバ読んでることに関しては?」
あなたが「明莉ちゃん」と呼んでいる後輩は、こう見えて実は同い年だったりするんですよー。
「?三つくらいなら大した違いは無い気がするけど。あ、でも、そうだね、何でサバ読んでるのか、理由は気になるかも」
「…」
凄くニコニコしてらっしゃるけど、そんな面白い理由は出てきません。そもそも、正直に「異世界帰りです」とは言えない―
「…サバ読んでないです。正真正銘の未成年です」
誤魔化しているわけではない。戸籍的には未成年だから。あと多分、精神的にも。
「そっか。じゃあ、残念だけど、今日はジュースかお茶で乾杯だね。お酒はもう少ししたら、一緒に飲もう?」
「…うん」
まあ、そんな優しく言われたら「うん」しか返せないよね。
結局、ウーロン茶とビールで乾杯した後は、食事をしながら、大学や、互いの高校時代の話題で盛り上がった。花守さんの高校時代に関しては―本人は気づいてないかもだけど―どの話にも必ず部長が登場していた。なんだ、ただの仲良しか。
食事も済み、ちゃっかり頼んだデザートのアイスを堪能しているところで、花守さんが急に真面目な顔に。
「…言いたくないことなら、言わないで欲しいんだけど、明莉ちゃんの力について、いくつか聞かせてくれる?」
「いいよ」
「ありがとう。明莉ちゃんを巻き込んだり、実際に手伝ってもらうような状況になったりした時のことを考えると、出来るだけ、明莉ちゃんのこと、把握しておきたいんだ」
「…」
言い方が。「明莉ちゃんのこと」じゃなくて、「明莉ちゃんの力のこと」って、ちゃんと言って欲しい。でないと、突然赤面するよ?日本語は正確に―
「明莉ちゃんが自分の力に気づいたのは、いつ頃?」
「三年前、かな?」
「高校に入ってからなんだね」
頷きながらも、花守さんは何かを考え込んでしまった。
「…何か、おかしい?」
「いや、幽界に関する力、僕達は『法力』って呼んでいるんだけど、ほとんどが遺伝、先天的なものなんだ。だから、後天的なものっていうのは珍しくて」
なるほど。一般家庭に生まれた私が力を持つのは、突然変異みたいなことになっちゃうんだな。
「何か、きっかけがあったのかな?力に目覚めるような」
「…」
ちょっと異世界救ってきました!とは言えない。勇者の力に目覚めたんすよ!は、尚更イタい。
「これは、答えられないか。ごめんね。じゃあ、明莉ちゃんの力そのもの、どれくらいの実力なのかは聞いても大丈夫?」
「平気っす」
チームを組む以上、相手の実力、手の内はある程度知っておきたいというのは当然だろう。私だって彼らの力のことについては知っておきたい。
そこから、花守さんの質問に答える形で、力についていくつかの説明をした。
幽鬼は問題なく殴れること。狭島で遭遇したレベルの幽鬼なら、二桁相手でも倒せること。ただし、手袋は欲しいことも付け加えておいた。それから、『門』を封じるような力は私には無いから、それはチカに頼るしかないことも。
説明を聞いた花守さんは、なんだ、うん、すごく安心してた。
「良かった。思ってた以上に明莉ちゃんが強そうで」
ニコニコしてるけど、え?これは、
「…褒め言葉?」
「あ、『強い』は嫌だったかな?ごめんね?無神経だった」
「いや、事実なんで嫌ではないけど」
「本当?それなら良かった。明莉ちゃんが強ければ強いほど、怪我したり痛い目にあったりすることも無いと思うと、ついホッとしちゃって」
「あはは。そんなに心配しなくても」
彼の言葉が気恥ずかしくて、笑って誤魔化したのに、返ってきたのは、すごく辛そうで、痛そうな笑顔だった。
「僕は、自分が戦えないから。悠司や君に頼りっきりだ。心配ぐらいしか、出来ないから」
花守さん曰く、彼は幽鬼や門の存在を感知して、その存在を見ることはできるのだけれど、実際に幽鬼や門に触れたり、封じたりすることは出来ない。だから、見つけた門は、キツネしっぽを使った部長や他にも居るらしい仲間に封じて貰うしかない。幽鬼とも戦えないから、逃げたり、隠れたりするしか出来ないって、また、笑った。
「…ずっと、そうだったから。もう、割り切ったと思ってたんだけどね」
「…」
悔しいんだろうなー。その気持ちは、すごくよくわかる。
あちらの世界に召喚されて直ぐの頃は、師匠や皆の後について行くだけで、何も出来なかった。仲間が傷ついているのに、泣いて叫ぶことしか出来ない自分が本当に惨めで、情けなくて。
それでも、師匠もチサも絶対に責めることはなかった。「アカリに役目を押し付けたのは自分達だから、アカリはアカリのスピードで成長して」って、温い言葉までくれて。
今考えると、あれってそんな悠長なこと言ってられるような段階じゃなかったよね?師匠の特訓は厳しかったけど、出来ないことを無理にやらされることはなく、あれは、どっちかっていうと、私を死なせないために必死だったというか。
最終的に、私も勇者として皆の力になれるくらいには成長出来たと思うから、結果オーライだったけど。
花守さんの場合は、自分でどうしようも無いところでもがいてるんだな。そして、それは多分、一生、抜け出せない―
「…明莉ちゃん?」
「あ!いや、大丈夫!寝てないよ!」
「考えごと?」
「…」
葛藤を抱えて笑えるこの人を、強いなと思う。出来ないことなら、逃げ出せばいいのに。家の役目だか何だか知らないけど。そんなに辛いなら「やらない」って言えばいいのに―
よし、私も女だ。ここは腹をくくろう。そうだよ、向こうの世界では当たり前だったじゃん。構えすぎなんだよね、もっと、こう、フランクに、
「…秀は、頑張ってると思うよ」
「…」
「…」
いかん、外した。秀が、鳩が豆鉄砲をアレしてる感じに。駄目だ。顔が熱い。ヤバイ。逃げよう。駄目だ。まだ、お会計が。よし、トイレに。
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