異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

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第六章 元勇者とお姫様

7.

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7.

男が、握っていた鎖から手を離した。解き放たれた幽鬼が駆け出す。その姿を正面に、構えた。

「!?待って、明莉ちゃん!あの幽鬼、魂の形がおかしい!!」

「っ!」

秀の声が聞こえたけれど、私には何がどうおかしいのかがわからない。とりあえず無力化させるかと、跳躍した幽鬼に向かって、一歩踏み出す。

「あ」

「なにっ!?待て!B03!貴様、何処へ行く!?」

鎖を握っていた男が叫ぶ。空中で軌道を変えた幽鬼が進行方向を変えて、中庭の反対へと走り出す。行き交う人達の間から、いくつもの悲鳴が上がった。

戦える人ばかりではない。幽鬼を追って走り出す。

「明莉ちゃん!?」

橋架はしかけ!」

秀と部長の声が聞こえたが、構わず走る。割れた人波の向こう、飛び込んできた光景に、舌打ちしたくなる。

あやめ様!お下がりください!」

「くそっ!低級鬼が!何故、調伏が効かん!?」

襲われたのか、地面に倒れ込んだ菖の周囲を、男達が取り囲むようにして幽鬼から守っている、が―

「!?」

「菖様!!」

幽鬼の跳躍に耐えかねた人の壁が崩れた。続けざま、幽鬼が菖に向かって飛びかかる。

―仕方ない

幽鬼に向かって跳ぶ。菖の護衛が邪魔だから、頭の上を飛び越えて。菖に向かけられた牙、大きく開かれた幽鬼の口蓋に腕を突っ込んだ。

上がった悲鳴は、複数箇所から。目の前の菖の口からも、絶叫が上がる。

「明莉ちゃん!?」

「お前!?腕!!」

駆け寄った秀と部長の二人を手で制す。

「大丈夫、大丈夫」

「本当に?」

不安そうにする秀に向かって大きく頷く。本当に、今度は大丈夫。『硬化』スキルの発動が間に合ったから。

「この幽鬼は?大人しくなったんだけど、このまま、潰していいの?」

秀と部長の視線が幽鬼に向いた。口に手を突っ込んだ辺りから、極端に大人しくなった幽鬼。このまま捕獲した方がいいなら、そうするけど。

「…おかしい」

「?」

「さっきまでの魂の揺らぎみたいなのが無くなってるんだ。今は、普通の気配、っ!?」

秀が驚いたように視線を上げた。振り向いた先、先ほど幽鬼にぶっとばされた男が転がっている。

「危ない!離れて!憑依型だ!」

「イヤァァァア!!」

男の周囲に居た人達が、我先にと離れていく。足をとられたのか、尻餅をつく女性。地面に手をつき後ずさるが、立ち上がることが出来ないらしい。

ユラリと、倒れていた男が立ち上がった。焦点の合っていない瞳、それが、目の前で倒れる女性に向かった。

「部長!こっち任せた!」

「あ!おい!」

腕を噛ませていた幽鬼を振り払い、再び跳ぶ。ヤバそうな男が、地面に座り込んだままの女性に手を伸ばそうとしている。男の背後、気づく暇は与えない。背後から首に腕をかけ、体重をかけて引き倒す。苦もなく男が転がったのは、私の体重のせいではないから。スキルでブーストかけたからだから。

「これ、どうすればいいの?」

引き倒したまではいいが、尚も手足をバタつかせて暴れ、奇声を発する男を抑え込んだまま、駆けつけた秀と部長を見上げて尋ねる。

「さすがに、このままポキッとかは私、嫌だよ?しないよ?」

「…」

沈黙する秀と部長は渋い顔をしている。

「…憑依型の幽鬼については、まだよくわからない部分が多くて。一度憑依されてしまえば、幽鬼が自発的に離れる以外に幽鬼を離す方法はないんだ、今のところ」

「え、じゃあ」

―本当に、殺すしかないの?

驚いて周囲を見回す。いくつもの気まずげな顔に目をそらされた。

「マジか」

「…明莉ちゃん、彼はこちらで引き取るよ」

「え、でも」

それって、誰かが―

「…憑依された人間は、徐々に体力を奪われ、じきに力尽きてしまうんだ。だから、」

「それって、どれくらい?」

「え?」

「どれくらいで死んじゃうの?」

「…恐らく、一時間以内には」

チサなら、なんとか出来るのではないかと思ったのだけれど―

一時間ではさすがに間に合わない。どうしよう?恐らく、多分、自信は無いけれど。この現象は、セインジの祠に居たなんちゃらマリオネット、体を乗っ取ってくるあいつに似ていると思う。

―まあ、やるしかないよね

このまま死なれても寝覚めが悪いし。よし、じゃあ、やるか。

そこからの流れをダイジェストでご説明すると、幽鬼の魂だけを何とかベリベリ!、剥がれたモヤモヤみたいなのをパーン!、周囲シーン!みたいなことになってる、今。

そして、

「…何、何なの、あの子」

『遠耳』を使わなくても聞こえ出したザワザワに、周囲のドン引きを理解する。私、頑張ったのに。だけど―

「明莉ちゃん!」

「…はい」

「良かった!!本当にありがとう、彼を救ってくれて」

秀が、心底嬉しそうに言ってくれるから―

「お前、どんだけだよ」

部長が、笑って頭グシャグシャしてくるから―

まあ、いいかなぁって。




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