異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

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第七章 わすれられない

7.

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7.

ここ一週間で通いなれてしまった道。いつもは、彼女のご家族が仕事から帰る夜分に訪ねていたから、こんな明るい時間にお邪魔することはなかったが。

たどり着いたマンション、乗ったエレベーターが五階で停まり、ドアが開いた。エレベーターホールに降りて直ぐ、彼女の隣の部屋、その扉がちょうど開くところに出くわした。中から現れたのは彼女の親友、気づいたその人の視線がこちらを向いた。

「…明莉の見舞い?」

「うん、声だけでも聞けたらと思って」

「…」

「チサさん?」

こちらを見つめたまま、何かを考え込んでしまった様子の相手に呼び掛ける。

「…花守、少しだけ時間を頂戴。あなたに話したいことがある」

「うん、構わないよ」

「入って」と言うチサさんの言葉に従って、彼女の家へとお邪魔した。招かれた部屋の中、向かい合って座るチサさんの顔もどこか力ない。いつもの怜悧れいりさが鳴りを潜めてしまっている。

「…明莉が、ああなってしまったのは、私のせい」

「チサさんの?」

突然の言葉に思わず問い返せば、返ってきたのは肯首。

「私が、以前、明莉に無茶なお願いをしたことがあった。明莉は素直だから、よく考えもせずにそれを引き受けて」

浮かぶ苦笑は当時のことを思い出しているのか。

「…無茶なお願いだったけど、途中までは上手くいっていた。明莉も、そのうち笑ってくれるようになったし、私ならサポートしきれると思っていた」

言いながらも、彼女の声に後悔が滲む。

「想定外のことが起きて、明莉が、明莉は本当はやりたくなかったことを、あの子に強要してしまった。私は傲慢だった。それでもあの子を護れると思っていたから。無事に家に帰せると。だけど!」

悲痛を訴える、その声が震えている。

「体の傷は癒すことが出来た。だけど、あの子の心の傷は結局消すことが出来ず、私は無力だった。それでも、あの子は自分の力で立ち上がって、私に笑ったの。『大丈夫だよ』って」

容易く、彼女のその姿が想像できてしまう。本当に、彼女らしいから―

「そのまま、あの子の言葉に態度に甘えて、そのことには触れずにいた。時間も経って、本当に忘れられた、過去のことに出来たのかと思っていたのに。そんなこと、全然なかった。私が、一番あの子の傍に居たのに、気づけなかった」

自分を責める彼女の言葉に、何も返せない。その思いが、僕にはわかり過ぎるほどにわかるから。

「…花守に、お願いがある」

「僕に出来ることなら」

「あの子は、感情の抑制が効きすぎるようになってしまった。押しつけたことによる弊害。だけど、あなたのことに関しては、あの子、馬鹿みたいにジタバタしてた。泣いたり、笑ったり。だから、あの子の傍に居てあげて欲しい」

「チサさん…。ありがとう」

目の前の彼女に、誰より明莉ちゃんを案じているであろうチサさんに認められたことが嬉しかった。二人の、恐らくは秘密にしておきたかった話を聞かせてくれたことにも。

その時ふと、隣の家から不穏な気配を感じた。

―誰かが、暴れている?

チサさんと思わず顔を見合わせる。彼女が一つ頷いて立ち上がった。間違いない。二人で慌てて玄関を飛び出した。

隣、明莉ちゃんの家の前、一瞬、開けることを躊躇したが、チサさんが構わずに玄関のドアを開け放った。鍵のかかっていなかったらしいドアは簡単に開き、途端、中の喧騒が大きく聞こえてきた。

何の躊躇いもなく上がり込むチサさんに続けば、彼女の部屋の前でもめている二人の男。一人は彼女の弟で、もう一人は、彼女の―

「さっさと帰れって言ってんだろうが!」

「俺は明莉が心配なだけなんよ!あいつに会いたいだけだ、邪魔すんじゃねえ!」

「勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!」

どうやら、彼女の幼馴染みだと言う男の無茶を弟くんが止めているようだが。

「…幸助」

「っ!?チサさん!!」

「どうして、嘉島かしま来叶らいとがここに居るの?」

「母さんが鍵かけずに出掛けたみたいで、勝手に上がり込んで来たんだよ。俺は、こいつを上げるつもりなんて全然なくて!」

チサさんの登場に明らかに態度を変えた幸助くん。彼がチサさんへ必死に釈明するそのその隙に、もう一人の男が明莉ちゃんの部屋のドアを叩いた。

「明莉、大丈夫か?学校で見かけないから心配で来た」

「待てよ!人んちで何勝手してんだよ。もういいからお前帰れよ!」

「うるせぇ!明莉!頼む!開けてくれ!」

再び言い争いになっていく彼らを、冷静な声が止めた。

「うるさいのはあなた。幸助、この男、外に捨てる」

「!わかった!」

「なっ!?やめろ!」

叫び続ける男を、幸助くんが引きずっていく。「暴れずに」連れていかれるのは、チサさんが何か力を使っているのかもしれない。

喧騒の去った廊下。改めて、部屋の中に彼女の気配を感じる。扉の側に居る彼女の気配。

「…明莉ちゃん?」

気配が揺れる。彼女の動揺を、扉越しに感じた。扉一枚、すぐ側に彼女が居る。

今まで、彼女の気持ちを尊重して、いや、拒絶されるのが恐くて口にできなかった言葉。堪えきれずに、口にした。

「君の顔が見たい。中に、入れてくれる?」

大きく揺れる気配。そのまま、床へと崩れ落ちていく扉の向こうの気配が恐くて、屈み込んだ。

「明莉ちゃん?」

もう一度呼べば、返ってきたのは、低く、抑え込むような嗚咽。座り込んでしまったのか、低い位置から聞こえるそれを扉越しに聞いていることしかできない。

また、何度も思い知らされる己の無力。だけど、それはもう嫌というほどわかっているから。何も出来ないまま、それでも彼女の隣に居たいと願う。




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