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第八章(終章) それでも、私は
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アイツが再び現れそうだという知らせが入ったのは、それから直ぐのことだった。
アイツが戻ってくるだろうということは、秀やチサから説明を受けて知っていた。幽鬼にとって、人間は補食対象。お腹を空かせた幽鬼は必ずこちらの世界に戻ってくる。自らの生を繋ぐために。
ただ、ヤツが再び現れたのは、最初に対峙した日からちょうど十日後、私が部屋を出てからまだ三日しか経っていない時で。その再出現の早さに、私がまだグジグジしていて使い物にならなかったらと思うとゾッとした。
呼ばれた場所は比較的人目につかなさそうな雑木林の中。落葉している木が多いとは言え、通常なら門を目視で見つけることは難しそうなものだけれど―
「でけぇな、おい」
「でかいっすね」
部長と並んで見上げるのは、正に、天まで届く勢いの二本の柱。闇夜に薄ぼんやりと浮かんで見えるその二本の間に渦巻く気配。柱の向こうが幽界に繋がっていることを、はっきりと感じとることができる。
門の大きさは、個体の大きさではなく、その強さに比例するらしいのだが、
「…アイツ、そんな強かったですかね?」
「微妙なとこだな。俺らじゃダメージを与えられなかったが、調伏は出来たわけだしな。そもそも、そんなに強い幽鬼を、磨針がどうこう出来たとも思えねぇんだよなぁ」
「殴った感じも、歯が立たないってほどじゃ無かったんですよ。特異体質持ってるけど、レベルはそこそこ、みたいな感触でした」
それでも、秀も、チサも、あのバカでかい門の向こうには間違いなくヤツが居るという。
「…」
私が倒せなかった人型が―
枯れ葉を踏みしめて近づいてくる二つの足音に振り返った。
「明莉ちゃん」
「秀、チサ、どうしたの?」
「うん、あのね、もし嫌なら言って欲しいと思って。明莉ちゃんが嫌なら、このままアイツが現れる前に、チサさんと門を閉じるよ」
秀の言葉に門をチラリと見上げる。このサイズの門を、閉じるというのか、この二人は、私のために―
「…大丈夫、やるよ」
これがいつもの門なら、ただ閉じればいい。だけど、こちらへの道を知っているアイツは何度閉じても、必ずまた門を開こうとするだろう。
今回、アイツの出現前に門を特定できたのは運が良かったくらいなのだ。被害を出さずにヤツを迎撃出来るのだから。だけど、それが次も上手くいくとは限らない。だから、今、ここで、確実にヤツを叩き潰す。それが、私にしか出来ないことなら。それで、守れるものがあるなら。
「心配だとは思うけど、秀とチサが応援してくれるから、うん、やれるよ」
「…なら、僕は信じて応援する」
「…」
無言で頷くチサも、いつも通りで。その本気の信頼があるなら、大抵のことは何だってやれる。
「よし、じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
「っ!待って、明莉ちゃん!あれは!?」
突如、秀の顔色が変わった。視線の先は門を捉えたまま。肉眼ではまだ何も見えないから、気配で何かを感じ取ったのだろうけど。
「…明莉、アイツ、仲間を連れてる。気配が複数」
「…なるほど。やな、感じ」
それで、あのどでかい門なのか。群れることで戦力を補強したわけだ。
全く―
仲間、もしくは配下を連れてるなんて、まるでアレと同じじゃないか。あの『魔王』と―
「…来る」
「行ってくる!」
秀とチサを残して、駆け出した。部長や冴木家の人達。後は、知らない部隊の人達も。調伏で加勢してもらうつもりだったけど、敵が複数なら分散して各個撃破がいいはずだ。アイツを倒せるのは私だけだし、撃ちもらした幽鬼に逃げられても困るから。
「部長!とりあえず、私、一発叩き込みます!それで、潰せなかった分、後を頼みます!」
「わかった!任せろ!」
部長の返事を聞いて加速する。門からユラユラと出現し始めた個体がいくつか。アイツはまだ居ない。
目の前に迫った幽鬼を殴り飛ばす。勢いのまま、周囲の数体を叩き潰した。門から湧き出る幽鬼を片っ端に消していけば、後から追い付いた部長達が並んだ。
「…お前、一人でやるつもりかよ。俺ら要らないんじゃ、」
「明莉ちゃん!下がって!」
「!?」
部長のぼやきを遮る秀の声に、後ろに跳んだ。間一髪、さっきまで私の居た場所に走った殺意の線。
「…何あれ?飛び道具とか、卑怯じゃない?」
「卑怯もなんもねえだろ。おっし、俺らの出番だな。アレは任せろ。お前の相手は、アッチだろ?」
「…」
部長の指し示す先、ゆっくりと門から現れたソレと目が合った。どうやら、こちらを認識しているらしいヤツが吠えた。あの時、動けなくなってしまった叫びと同じ―
ただ一つ、救いだったのは、ヤツの姿が大きく人型から外れてしまっていること。パワーアップでもしたのかもしれないけれど、だいぶ仰々しい装甲を纏ったヤツはもはや『人』には見えない。
それでも、
―コロスコロス
聞こえてくる『声』から、ソレの『意思』が伝わってきて。
―やな、感じ
冷たい汗が滲む。それでも、拳を握る。こいつは行かせない。ここから、一歩も。
走り出す。一気に詰めた距離。最後の数メートルを跳躍する。ヤツの胴に拳を叩き込んだ。確かな手応えに、絶叫があがる。間髪入れずに二撃目も叩き込んだ。ヤツが振るう拳を避けるついでに、三撃目を蹴り込んで、地面に叩き伏せた。
―イタイ!イヤダ、ヤメロ!
三撃で沈んだ体、立ち上がろうとするソレをもう一度殴り飛ばす。
―コロス!イタイ!クルシイ!
ソレの声を聞きながら、無心で殴った。下手に高い防御力が、決定的な一撃を入れさせてくれない。それでも、終わりの見える戦い。鈍くなった幽鬼の頭部に狙いを定める―
―イヤダ…タスケテ…
―ごめん
口にする強さはないから。心の中で唱えた。
拳を、思いきり振り下ろす。
『グギャァァァアアア!!』
響く絶叫。断末魔の叫びに耳を塞ぎたくなる。両手を必死に抑えた。幽鬼がその姿を失っていく。ドロドロと溶け出す体、咆哮が音を失い、命が消えた。
「明莉!」
「明莉ちゃん!」
駆け寄ってくるチサと秀に、顔を向けて笑って見せる。
―きっついなぁ
だけど、
「大丈夫?怪我はない?」
「明莉?」
心配そうな二対の視線が私を見てくれているから。まあ、何とか、なる気がするんだ。だから、うん、
「大丈夫」
アイツが再び現れそうだという知らせが入ったのは、それから直ぐのことだった。
アイツが戻ってくるだろうということは、秀やチサから説明を受けて知っていた。幽鬼にとって、人間は補食対象。お腹を空かせた幽鬼は必ずこちらの世界に戻ってくる。自らの生を繋ぐために。
ただ、ヤツが再び現れたのは、最初に対峙した日からちょうど十日後、私が部屋を出てからまだ三日しか経っていない時で。その再出現の早さに、私がまだグジグジしていて使い物にならなかったらと思うとゾッとした。
呼ばれた場所は比較的人目につかなさそうな雑木林の中。落葉している木が多いとは言え、通常なら門を目視で見つけることは難しそうなものだけれど―
「でけぇな、おい」
「でかいっすね」
部長と並んで見上げるのは、正に、天まで届く勢いの二本の柱。闇夜に薄ぼんやりと浮かんで見えるその二本の間に渦巻く気配。柱の向こうが幽界に繋がっていることを、はっきりと感じとることができる。
門の大きさは、個体の大きさではなく、その強さに比例するらしいのだが、
「…アイツ、そんな強かったですかね?」
「微妙なとこだな。俺らじゃダメージを与えられなかったが、調伏は出来たわけだしな。そもそも、そんなに強い幽鬼を、磨針がどうこう出来たとも思えねぇんだよなぁ」
「殴った感じも、歯が立たないってほどじゃ無かったんですよ。特異体質持ってるけど、レベルはそこそこ、みたいな感触でした」
それでも、秀も、チサも、あのバカでかい門の向こうには間違いなくヤツが居るという。
「…」
私が倒せなかった人型が―
枯れ葉を踏みしめて近づいてくる二つの足音に振り返った。
「明莉ちゃん」
「秀、チサ、どうしたの?」
「うん、あのね、もし嫌なら言って欲しいと思って。明莉ちゃんが嫌なら、このままアイツが現れる前に、チサさんと門を閉じるよ」
秀の言葉に門をチラリと見上げる。このサイズの門を、閉じるというのか、この二人は、私のために―
「…大丈夫、やるよ」
これがいつもの門なら、ただ閉じればいい。だけど、こちらへの道を知っているアイツは何度閉じても、必ずまた門を開こうとするだろう。
今回、アイツの出現前に門を特定できたのは運が良かったくらいなのだ。被害を出さずにヤツを迎撃出来るのだから。だけど、それが次も上手くいくとは限らない。だから、今、ここで、確実にヤツを叩き潰す。それが、私にしか出来ないことなら。それで、守れるものがあるなら。
「心配だとは思うけど、秀とチサが応援してくれるから、うん、やれるよ」
「…なら、僕は信じて応援する」
「…」
無言で頷くチサも、いつも通りで。その本気の信頼があるなら、大抵のことは何だってやれる。
「よし、じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
「っ!待って、明莉ちゃん!あれは!?」
突如、秀の顔色が変わった。視線の先は門を捉えたまま。肉眼ではまだ何も見えないから、気配で何かを感じ取ったのだろうけど。
「…明莉、アイツ、仲間を連れてる。気配が複数」
「…なるほど。やな、感じ」
それで、あのどでかい門なのか。群れることで戦力を補強したわけだ。
全く―
仲間、もしくは配下を連れてるなんて、まるでアレと同じじゃないか。あの『魔王』と―
「…来る」
「行ってくる!」
秀とチサを残して、駆け出した。部長や冴木家の人達。後は、知らない部隊の人達も。調伏で加勢してもらうつもりだったけど、敵が複数なら分散して各個撃破がいいはずだ。アイツを倒せるのは私だけだし、撃ちもらした幽鬼に逃げられても困るから。
「部長!とりあえず、私、一発叩き込みます!それで、潰せなかった分、後を頼みます!」
「わかった!任せろ!」
部長の返事を聞いて加速する。門からユラユラと出現し始めた個体がいくつか。アイツはまだ居ない。
目の前に迫った幽鬼を殴り飛ばす。勢いのまま、周囲の数体を叩き潰した。門から湧き出る幽鬼を片っ端に消していけば、後から追い付いた部長達が並んだ。
「…お前、一人でやるつもりかよ。俺ら要らないんじゃ、」
「明莉ちゃん!下がって!」
「!?」
部長のぼやきを遮る秀の声に、後ろに跳んだ。間一髪、さっきまで私の居た場所に走った殺意の線。
「…何あれ?飛び道具とか、卑怯じゃない?」
「卑怯もなんもねえだろ。おっし、俺らの出番だな。アレは任せろ。お前の相手は、アッチだろ?」
「…」
部長の指し示す先、ゆっくりと門から現れたソレと目が合った。どうやら、こちらを認識しているらしいヤツが吠えた。あの時、動けなくなってしまった叫びと同じ―
ただ一つ、救いだったのは、ヤツの姿が大きく人型から外れてしまっていること。パワーアップでもしたのかもしれないけれど、だいぶ仰々しい装甲を纏ったヤツはもはや『人』には見えない。
それでも、
―コロスコロス
聞こえてくる『声』から、ソレの『意思』が伝わってきて。
―やな、感じ
冷たい汗が滲む。それでも、拳を握る。こいつは行かせない。ここから、一歩も。
走り出す。一気に詰めた距離。最後の数メートルを跳躍する。ヤツの胴に拳を叩き込んだ。確かな手応えに、絶叫があがる。間髪入れずに二撃目も叩き込んだ。ヤツが振るう拳を避けるついでに、三撃目を蹴り込んで、地面に叩き伏せた。
―イタイ!イヤダ、ヤメロ!
三撃で沈んだ体、立ち上がろうとするソレをもう一度殴り飛ばす。
―コロス!イタイ!クルシイ!
ソレの声を聞きながら、無心で殴った。下手に高い防御力が、決定的な一撃を入れさせてくれない。それでも、終わりの見える戦い。鈍くなった幽鬼の頭部に狙いを定める―
―イヤダ…タスケテ…
―ごめん
口にする強さはないから。心の中で唱えた。
拳を、思いきり振り下ろす。
『グギャァァァアアア!!』
響く絶叫。断末魔の叫びに耳を塞ぎたくなる。両手を必死に抑えた。幽鬼がその姿を失っていく。ドロドロと溶け出す体、咆哮が音を失い、命が消えた。
「明莉!」
「明莉ちゃん!」
駆け寄ってくるチサと秀に、顔を向けて笑って見せる。
―きっついなぁ
だけど、
「大丈夫?怪我はない?」
「明莉?」
心配そうな二対の視線が私を見てくれているから。まあ、何とか、なる気がするんだ。だから、うん、
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