6 / 182
第6話 おれには10年培った技術と経験がある
しおりを挟む
おれの問いかけにフィリアは、唇に人差し指を立てて、異世界語で返してくれた。
「秘密に、してくださいますか?」
「もちろんだ。異世界はおれの第二の故郷だ。同郷の君たちに不都合になるようなことはしない」
「では……。一条様が仰るとおり、異世界人は――あっ」
言いかけてから、恥ずかしそうに上目遣い。ひと呼吸置いてから、また口を開く。
「ご主人様が仰るとおり、異世界人はわたくし以外にもおります」
いやそこ言い直すんかい。
あくまでお店のルールに従うフィリアの生真面目さに苦笑しつつ、おれはツッコまずに黙って話を聞く。
「数はそれほど多くはありません。そのほとんどは、おそらく迷宮が出現した際に、一緒に転移してきてしまったのだと思います」
「ほとんどは、ってことは例外もいるのかい?」
「はい。法則はまったくわかりませんが、この3年間で数人、新たに転移してきています」
「それもあの迷宮のせいか……。最深層まで行けば、なにか手がかりがあるかもしれないな」
「わたくしもそう思うのですが……」
「こっちの冒険者たちがあの体たらくじゃね……」
「日本政府の方々が、わたくしたちのことを秘密にしようとしているのは……なにやら政治的な思惑があるそうです。転移の謎を解き、異世界に行き来できるようになった暁には、わたくしたちの国と国交を結びたいと仰っていましたが……」
「なるほどね」
なんとなくだが理解できる。
こちらの世界で唯一、異世界の存在を把握し、先んじて国交を結べれば、こちらには無い貴重な資源や技術を独占できる。その上、こちらの進んだ科学技術を売りつけて多大な利益を得ることだって出来る。
だから海外の関心を惹くような要素は、できるだけ隠したいのだろう。
異世界人について報道しないのも、この島への渡航が許可されているのが日本人に限られるのも、きっとそのためだ。
「国交のことも大切ですが、そもそもわたくしたちは異世界に帰れるのか、それともこの地で一生を過ごすのか……。それが一番重要に思います」
フィリアは黄色い綺麗な瞳でおれを見つめた。
「先ほどの体捌きに、武器屋で披露してくださった知識……。一条さ――ご主人様は、異世界ではさぞかし名のある冒険者様だったのでしょう? ご活躍を期待しております」
「活躍はするつもりだけど、期待はしすぎないでね。迷宮を完全攻略しても、転移の謎が解けるとは限らないんだ」
「はい。それは……覚悟しているつもりです」
といったところで、ピピピ、とタイマーの電子音が小さく鳴った。
フィリアは言葉を日本語に戻す。
「そろそろお時間のようです。ご延長なさいますか?」
「いや、もう充分かな。お会計で」
「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」
「うん、またね」
ちなみに、お会計は5万円を超えていて結構焦った。
やばい。貯金が底を尽きそうだ。明日からはしっかり稼がないと……。
◇
翌日。おれは早朝から宿を出て、迷宮へやってきた。
確保した宿は二畳一間の安宿だったのだが、その宿代すらこのままでは払えなくなってしまう。
迷宮初日は偵察に留めるつもりだったが、少しは稼がないといけない。
とか考えながら、ライセンスを提示してゲートを通過する。
迷宮の周囲は金網で包囲されており、入口前にはゲートと守衛所が設置されている。
ライセンスを持たない者が入れないようになっているのだ。
もっとも、この程度の包囲では、魔物が外に出てきたりしたら防ぎようはないだろう。
迷宮に足を踏み入れてすぐ、おれはわずかながら身体に力がみなぎってくるのを感じた。
「これは……やっぱり、この迷宮には魔素があるんだ」
予想通りで嬉しくなる。
異世界の迷宮なら、きっと魔素に満ちていると思っていた。入口近くの第1階層ゆえか、濃度はかなり薄いが、無と有の違いは大きい。
なにせ、おれが日本に帰ってきて失っていた魔力や身体能力が、再び発揮できるようになるのだから。
「光よ!」
試しに光源魔法を使ってみると、成功した。
手のひらから光球が浮かび上がり、周囲を明るく照らしてくれる。
しかし……。
「っと、思ったより消耗が激しいな……。魔力は節約しないとダメか」
使える魔力は相当少ない。
テレビゲームで例えれば、最大MPが100あるのに、この場所では2~3までしか回復しないという感じだ。
おそらく身体能力の向上も、本来の数パーセントしか発揮していないだろう。
原因は簡単。魔素が薄いからだ。
迷宮深層なら、きっと魔素はもっと濃い。
つまりおれは、深くに潜れば潜るほど本来の力を発揮して、強くなれるということだ。
逆に言えば、この第1階層は、ほぼ常人の状態で攻略しなきゃならない。
「まあいいさ。おれには10年培った技術と経験がある」
とりあえず光源魔法を解いて魔力を節約。代わりにバッテリー式のライトを灯す。
それからすぐ、パンパンパンッ、と銃を乱射する音が響いた。
「きゃああ! なんで!? 当たってるのに! 銃で撃ってるのに、なんでまだ生きてるの!?」
どうやら迷宮初心者が魔物に襲われているようだ。
駆けていくと、女の子が複数のエッジラビットに囲まれつつあるのが見えた。
「勘を取り戻すにはちょうどいいか」
おれは走りながら、剣を鞘から抜いた。
「秘密に、してくださいますか?」
「もちろんだ。異世界はおれの第二の故郷だ。同郷の君たちに不都合になるようなことはしない」
「では……。一条様が仰るとおり、異世界人は――あっ」
言いかけてから、恥ずかしそうに上目遣い。ひと呼吸置いてから、また口を開く。
「ご主人様が仰るとおり、異世界人はわたくし以外にもおります」
いやそこ言い直すんかい。
あくまでお店のルールに従うフィリアの生真面目さに苦笑しつつ、おれはツッコまずに黙って話を聞く。
「数はそれほど多くはありません。そのほとんどは、おそらく迷宮が出現した際に、一緒に転移してきてしまったのだと思います」
「ほとんどは、ってことは例外もいるのかい?」
「はい。法則はまったくわかりませんが、この3年間で数人、新たに転移してきています」
「それもあの迷宮のせいか……。最深層まで行けば、なにか手がかりがあるかもしれないな」
「わたくしもそう思うのですが……」
「こっちの冒険者たちがあの体たらくじゃね……」
「日本政府の方々が、わたくしたちのことを秘密にしようとしているのは……なにやら政治的な思惑があるそうです。転移の謎を解き、異世界に行き来できるようになった暁には、わたくしたちの国と国交を結びたいと仰っていましたが……」
「なるほどね」
なんとなくだが理解できる。
こちらの世界で唯一、異世界の存在を把握し、先んじて国交を結べれば、こちらには無い貴重な資源や技術を独占できる。その上、こちらの進んだ科学技術を売りつけて多大な利益を得ることだって出来る。
だから海外の関心を惹くような要素は、できるだけ隠したいのだろう。
異世界人について報道しないのも、この島への渡航が許可されているのが日本人に限られるのも、きっとそのためだ。
「国交のことも大切ですが、そもそもわたくしたちは異世界に帰れるのか、それともこの地で一生を過ごすのか……。それが一番重要に思います」
フィリアは黄色い綺麗な瞳でおれを見つめた。
「先ほどの体捌きに、武器屋で披露してくださった知識……。一条さ――ご主人様は、異世界ではさぞかし名のある冒険者様だったのでしょう? ご活躍を期待しております」
「活躍はするつもりだけど、期待はしすぎないでね。迷宮を完全攻略しても、転移の謎が解けるとは限らないんだ」
「はい。それは……覚悟しているつもりです」
といったところで、ピピピ、とタイマーの電子音が小さく鳴った。
フィリアは言葉を日本語に戻す。
「そろそろお時間のようです。ご延長なさいますか?」
「いや、もう充分かな。お会計で」
「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」
「うん、またね」
ちなみに、お会計は5万円を超えていて結構焦った。
やばい。貯金が底を尽きそうだ。明日からはしっかり稼がないと……。
◇
翌日。おれは早朝から宿を出て、迷宮へやってきた。
確保した宿は二畳一間の安宿だったのだが、その宿代すらこのままでは払えなくなってしまう。
迷宮初日は偵察に留めるつもりだったが、少しは稼がないといけない。
とか考えながら、ライセンスを提示してゲートを通過する。
迷宮の周囲は金網で包囲されており、入口前にはゲートと守衛所が設置されている。
ライセンスを持たない者が入れないようになっているのだ。
もっとも、この程度の包囲では、魔物が外に出てきたりしたら防ぎようはないだろう。
迷宮に足を踏み入れてすぐ、おれはわずかながら身体に力がみなぎってくるのを感じた。
「これは……やっぱり、この迷宮には魔素があるんだ」
予想通りで嬉しくなる。
異世界の迷宮なら、きっと魔素に満ちていると思っていた。入口近くの第1階層ゆえか、濃度はかなり薄いが、無と有の違いは大きい。
なにせ、おれが日本に帰ってきて失っていた魔力や身体能力が、再び発揮できるようになるのだから。
「光よ!」
試しに光源魔法を使ってみると、成功した。
手のひらから光球が浮かび上がり、周囲を明るく照らしてくれる。
しかし……。
「っと、思ったより消耗が激しいな……。魔力は節約しないとダメか」
使える魔力は相当少ない。
テレビゲームで例えれば、最大MPが100あるのに、この場所では2~3までしか回復しないという感じだ。
おそらく身体能力の向上も、本来の数パーセントしか発揮していないだろう。
原因は簡単。魔素が薄いからだ。
迷宮深層なら、きっと魔素はもっと濃い。
つまりおれは、深くに潜れば潜るほど本来の力を発揮して、強くなれるということだ。
逆に言えば、この第1階層は、ほぼ常人の状態で攻略しなきゃならない。
「まあいいさ。おれには10年培った技術と経験がある」
とりあえず光源魔法を解いて魔力を節約。代わりにバッテリー式のライトを灯す。
それからすぐ、パンパンパンッ、と銃を乱射する音が響いた。
「きゃああ! なんで!? 当たってるのに! 銃で撃ってるのに、なんでまだ生きてるの!?」
どうやら迷宮初心者が魔物に襲われているようだ。
駆けていくと、女の子が複数のエッジラビットに囲まれつつあるのが見えた。
「勘を取り戻すにはちょうどいいか」
おれは走りながら、剣を鞘から抜いた。
76
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる