異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第45話 あの伝説の、史上最高の英雄なのですね……!

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「ちょっと待ってくれ? おれが異世界リンガブルームから帰ってきて、まだ3年とちょっとしか経ってないよ。なんで200年も前の話になっちゃってるんだ?」

「それでしたら、やはり違うのでしょうか……? タクト様は、どのような活動をなされていたのです?」

「まあ、冒険者だよ。魔物モンスター退治は危険だから冒険者は受けちゃいけない決まりだったけど、色んな国の騎士や勇者に同行させてもらってさ、あっちこっちで戦わせてもらってたんだ」

「例えば、どのような戦いを?」

「大変だったのは吸血鬼ヴァンパイアに支配された国を解放したときかな。吸血鬼ヴァンパイア退治の専門家と友達になれてさ、吸血鬼ヴァンパイアとの戦い方を教わって、なんとか手分けして始祖を倒したんだ。1000年もすれば復活するだろうけど」

「その専門家は……『闇狩り』のハーカー卿のことでは?」

「そうそう、エドワード・ハーカーさん。ロハンドールの辺境伯でさ、何世代にも渡って吸血鬼ヴァンパイア退治をしてる家系だって」

「ということは……タクト様、魔法学の祖も御存知では?」

「もしかしてシャロンさんのことかな?」

「はい、『勇学士』シャロン・スランド様です」

「懐かしいよ。他の仲間には先天的超常技能プリビアス・スキルなんていう生まれつきの特殊能力があったけど、おれたちには無かったからね。シャロンさんと一緒に研究して、人が魔法を使えるようにしていったんだ」

「そのお仲間というのは……タクト様を含めて7人?」

「いや……もうひとりいたよ。世間的には全然目立ってなかったけど、どんな武具でも作ってくれた人がいる。最後の最後、魔王討伐の旅に同行して……自分ごと魔王を封印して、亡くなられた」

「その方は……ショウ・シュフィール様?」

「なんで知って――いや、そうか。フィリア・シュフィール・メイクリエ……。彼の一族は、王族にまでなったのか……」

「はい。わたくしのご先祖様です。やはりタクト様の仰っていることは正しいようです。あの伝説の『超越の7人スペリオルセブン』のひとり、史上最高の英雄と名高い『破滅を払う者ドゥームバスター』様なのですね……!」

「史上最高って……。他のみんなのほうが明らかに強くて凄かったよ」

「いいえ、強さではないのです!」

 フィリアは、ずいっ、と身を乗り出した。

「多くの脅威が存在したあの時代、英雄は各々、専門の敵にのみ対応しておりました。吸血鬼ヴァンパイアには『闇狩り』が、ドラゴンには『屠竜とりゅう騎士』が、というように。しかし『破滅を払う者ドゥームバスター』様は違います。すべての脅威への対抗手段を学び、人々を守るべく東奔西走とうほんせいそうしてくださっていたのです!」

 両手を握りしめて熱く力説するフィリアである。

「そうして、破滅をもたらすあらゆる勢力から人々を救い続け、付いた二つ名が『破滅を払う者ドゥームバスター』……! 最強ではなくとも、どんな脅威をも打ち払える最高の英雄なのです!」

 うわぁ……。これはきっと、活躍に尾びれがたくさんついちゃってるぞ……。

 フィリアは目を輝かせながら、胸元で両手を合わせる。

「わたくし、ずっと憧れていたのです。いつも夜寝る前にせがむのは『破滅を払う者ドゥームバスター』のおとぎ話で……大きくなっても、吟遊詩人に歌っていただいて……。いつもドキドキしておりました。もしかしたら、初恋だったのかもしれません」

「あはは……幻滅させちゃってたら、むしろごめんなんだけど」

「いいえ! あなたは思い描いていた通りの方でした。グリフィン退治のときにも申し上げましたが、貴方は、誰かのためにその力を振るえる、本物の英雄です!」

「そう言われると照れるけど」

「握手をしてくださいませんかっ? それにそれに、一緒に写真をお願いいたします!」

 フィリアは興奮気味に席を移動してきた。

 おれの右手をフィリアの左手が包み込む。まるで恋人つなぎみたいに。

 そしてスマホで自撮りをパシャリ。

 その写真の出来に満足したのか、フィリアは満面の笑みを浮かべる。

「ありがとうございます、タクト様!」

 いつにもましてはしゃいでいるフィリアは、可愛らしく魅力的だ。

 あれ? これ、もしかして異世界リンガブルームでも、身分違いを気にしなくていい?

 告白してもワンチャンある?

 とか思わなくもないが、大きな疑問があって、そんな気にはなれない。

「でもおれの活動は、フィリアさんにとって200年以上昔のことなんだよね? これはどういうことなんだろう?」

「はい……不思議です。こちらとあちらリンガブルームでは、時間の進み方が違うのでしょうか?」

 言ってから、ハッとする。

「だとすれば、わたくしたちは……もう二度と家族のもとへ戻ることができないのですね……」

 おれがこちらに帰還してから、迷宮ダンジョンやフィリアたちが現れるまで数ヶ月。その数ヶ月が、向こうでの200年に相当するなら、もはやフィリアを知る人々は長命種以外はみんな息絶えていることだろう。

 そしておれも、あの素晴らしい仲間たちに二度と会えない。帰還したばかりの頃は自分のことで大変で意識できなかったが、改めて考えると寂しくなってくる。

 けれど、顔を曇らせているフィリアに、おれは首を振る。

「いや時間の進み方は同じはずだ。おれが異世界リンガブルームで10年過ごして戻ったら、こちらでも10年経っていた」

「では……この時代の差異はなんなのでしょう?」

「仮説だけど……。異世界転移は、単に世界を移動するだけじゃなくて、時間も移動する現象なのかも。こちらの現代と異世界リンガブルームの200年前と繋がっている穴があって、おれはその穴を行き来した。フィリアさんたちはべつの穴――こちらの現代と向こうリンガブルームの現代が繋がっている穴を通ってきた……とか?」

「もしその仮説が正しいのなら、同じ穴を通れれば、わたくしたちは元の時代に帰れることになりますが……」

「仮説は仮説だからね。迷宮ダンジョンがある時点で、その穴もまだあると思うけど……やっぱり攻略して、調べてみなきゃわからない」

「そうですね。やはり、それに尽きます」

「人手が必要だ。まずは第2階層。冒険者のみんなを育てて、第2階層で通用しそうになったら調査に送り出す……。口で言うのは簡単だけど……」

「それについては、わたくしに少々考えがあります」

「どんな考え?」

「はい。ここは冒険者ギルドの真似事をしてみるのが良いかと」
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