異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第48話 結構ハマってますよ、ギルドマスター

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「第1階層の魔物モンスター、本当に討伐報酬出なくなっちゃうんですか?」

 プレハブ事務所の掲示物を眺めながら、紗夜はがっかりと肩を落とした。

 迷宮ダンジョンのゲート併設の守衛所の隣に配置されたこのプレハブ事務所は、丈二が急遽手配したものだ。

 職員の働く事務スペースの他、一面の壁は全体が掲示板となっており、冒険者への通知や、数々の依頼書が貼られている。

「でも稼ぐ方法は増えてるよ。紗夜ちゃんの実力なら、むしろ今まで以上に稼げるんじゃないかな」

 おれは事務スペースから出て、紗夜に声をかけた。

「あれ、そうなんですか?」

「ほら、ここ。単なる討伐じゃ報酬は出ないけど、持ち帰った素材は買い取ってもらえるって書いてある」

「あっ、本当だ! 良かったぁ、これなら、あんまり変わんないですねっ」

 丈二との会談から10日ほど。彼はさっそく色々と動いてくれた。

 まず第1階層の魔物モンスターの討伐報酬を見直した。

 みんなが魔物モンスター素材の武器を使い始めて討伐が容易くなった今、第1階層の魔物モンスターは大きな脅威ではなくなった。楽すぎる仕事には、報酬は出ないものだ。

 一方、武器に使う魔物モンスター素材の需要は高まっている。

 これまで武器屋『メイクリエ』のミリアムだけは素材の買い取りもしていたが、これからはまず役場で素材を引き取ってから各店舗に卸されることになる。

 とはいえ他の店舗が魔物モンスター素材を活用した武器を用意できるまで時間がかかるだろう。ほとんどの店は、既に作られた品を売っているだけだ。

 島内で直接武具を作り出せるのは、武器屋『メイクリエ』しかない。

 つまりは、一般の製造業者が魔物モンスター素材を使いこなせるようになるまでは、武器屋『メイクリエ』は独占状態で大繁盛だ。

 実際にミリアムは「やだぁあ、忙しいのやだぁあ! なんでうちばっかり仕事来んのー!? 他の店でも武器作ってよぉお!」と、泣いて喜んでいた。

「それに、色々と依頼が出てるしね」

「依頼ですかぁ……。『第1階層の地図作りの協力』に……、『探索者の護衛』? あれ、護衛? 魔物モンスター除けがあるのに?」

「どれどれ? ああ、それは役所からの依頼じゃなくて、個人依頼だね。魔物モンスター除けがあっても、まだ怖いから念のためって」

「ふぅん……。一条先生、これ、あたしも受けていいんですよね?」

「もちろん。今のところはレベル1の仕事しか貼り出してないからね。手続きするから、カウンターに来てもらっていい?」

「はーい!」

 事務カウンターで簡単な手続きと、依頼者への連絡方法を伝達してあげる。

「仕事が終わったら依頼者のサインをもらってからまた来てね。報酬はそれからになるけど……支払いはどれがいいかな? 現金に、銀行振込、電子マネーもあるけど」

「銀行振込でお願いしますっ」

「オーケー。支払いまで何日かかかるけど平気?」

「はい、大丈夫です。……っていうか、なんで一条先生が受付やってるんですか?」

 そこにフィリアも笑顔でやってくる。

「わたくしもおりますよー」

「う~ん、まあ、成り行きなんだよね。ほら、ステータスカードの発行とかはフィリアさんにしかできないし……」

「依頼の難易度を見定められるのも、今はタクト様以外におりませんので……。特に第2階層に関わるものは……」

「ああ……専門家不足なんですね」

「はは、まあマニュアル的なものも作ってるから、すぐ引き継いでお役御免になると思うよ」

 おれの言に、フィリアは小首を傾げて否定した。

「いいえ、そんな簡単ではありませんよ? 冒険者ギルドはなにかとトラブルが舞い込んでくるものです。実力ある専門家の出番はこれからも多いはずです。大仕事の際には、冒険者全体に仕事を振り分ける役も必要になりますし」

「えー、それおれがやんなきゃダメかなぁ? 柄じゃないと思うんだけどなぁ」

「なんと言っても、タクト様しかいないうちは、タクト様のお役目ですよ」

 紗夜はくすくすと笑う。

「あの動画見たら、誰でも先生を推すと思います。結構ハマってますよ、ギルドマスター」

「マスターじゃないし、やってるのは雑用係だよ……」

「しかしお給金は良いので、わたくしは満足です。いざという時には大金を使える権限もあります」

「拓斗くん、フィリアちゃん、お疲れ様~! あっ、紗夜ちゃんも!」

 そこに美幸がやってきた。今日も笑顔だ。歩くたびにやたらと胸元が揺れるので、非常に眼福――いや目に毒である。

「今日もお弁当作ってきたよ。はい、どうぞ~」

「ありがとうございます。でも、こんな毎日悪いですよ……」

「え~、迷惑だったかなぁ?」

「いえ……むしろ美幸さんのほうこそ無理してませんか?」

「うぅん、全然! 拓斗くんに手料理を食べてもらえるなら幸せ。ね、また好きな食べ物教えて欲しいなぁ」

 ごく自然に手を取られて、両手で包まれる。顔が近い。いい匂いもする。

「えっと……」

 つんつん、とフィリアに肘で小突かれる。ジト目を向けられてしまう。

「鼻の下が伸びておりますよ」

「伸びてません」

「ふふっ、フィリアちゃんもリクエストあったら言ってね?」

「ありがとうございます、末柄様。ですが、今はお仕事中ですので、その……少々離れていただけますと」

「はぁい、ごめんなさい」

 そっと手を離して美幸は一歩下がってくれる。そして微笑む。

「ヤキモチ妬かれちゃった」

「や、ヤキモチでは、ないです……。お仕事中なだけ、です……」

 フィリアは視線を落としてしまう。一方、紗夜はおれを見上げ、微妙な表情でため息をついた。

 なんでため息つくのさ。

 とかやっていると、革靴の足音が近づいてきた。

「ご歓談中に失礼」

 丈二だ。一枚の依頼書を差し出してくる。

「一条さん、この依頼をお願いします」

「ああ、またレベル設定?」

「いえ、これは一条さんにやっていただきたい依頼です」

 依頼書を確認すると、魔物モンスターの捕獲依頼だった。捕獲対象は……。

「ドリームアイをどうするつもりなんだ?」

「例の研究サンプルの件で、少々トラブルがありまして。追加で必要になってしまったようです」

「わかった。ちょうど事務仕事にも飽きていたんだ。いいかな、フィリアさん?」

「はい、もちろん。参りましょう」
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