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第55話 今のは反則ぅ……
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「ごめんなさい……。ユイ、いつもこんな感じで……生配信だとテンパっちゃってセリフ噛み噛みだし、普通の動画でもNGだらけのグダグダで、編集でごまかすしかないし……」
結衣のNGのあと、動画撮影は一旦中断となった。
結衣は地面にぺたんと、いわゆる女の子座りの姿勢でしょぼくれてしまった。
「でも……そんな動画じゃつまんなくって……。再生数も伸びなくて……たまに付くコメントも、バカにされるものばっかりで……。でも……冒険者になって、迷宮配信したら売りになるかもって……思ってたんです……」
そんな結衣に、紗夜が寄り添う。
「結衣ちゃん、無理しないでいいよ。今日の目的はパーティのお試しなんだし、動画撮るのはまた今度でも……」
「…………」
結衣は迷うような沈黙のあと、ふるふると首を横に振った。
「でも、せっかく誘われたから、今日こそ、ちゃんとやりたい、です……」
弱々しくも、結衣は顔を上げようとする。視線はまだ地面を向いているが、諦めたくない気持ちは伝わってくる。
「あ……あの、フィリアさんは、いつも、どうしてるん、ですか?」
「わたくしですか?」
「ユイは、緊張しちゃうし、恥ずかしいし……でもフィリアさん、は、とっても上手に話せてて、すごいです……。どうやってるんです、か?」
フィリアは、ちょっとだけ遠い目をした。
「恥ずかしさは……何度も練習して、捨てました……」
「捨てた……」
「というより、今の自分そのものを、一旦別の場所に置いてきてしまうイメージでしょうか。その代わりに、こうあるべき人格を宿すと言いますか……。恥じず、アガらず、観てくださっている方々に楽しんでいただける自分であろうとしております」
「あるべき、人格……」
「今井様は、動画を観ていただける方々に、どのような姿をお見せしたいですか?」
「それは……緊張しないで、明るくて、テンション高くて、楽しい姿が、憧れ……です。でも、でもユイは、そんなことできない……です」
「いいえ、今井様。できないと思う自分も、一旦置いておくのですよ」
結衣は上目遣いでフィリアを見上げ、すぐまた不安そうに瞳を下げてしまう。
おれは腰を下ろし、結衣と視線の高さを合わせた。
「……大丈夫だよ、結衣ちゃん。なりたい自分があるなら、必ずなれる。いや、もう半分くらいはなれてるんだ」
結衣は前髪に隠された瞳を、おれのほうに向けた。
「ステータスカードを見なよ。ここでは、君みたいな可憐な女の子でも、そこらの男よりずっと屈強になれてる。君が望む、大きな武器を振り回す女の子にもすぐなれる」
結衣は自分のステータスカードを見つめる。
「だから、憧れの自分にだってなれる。ここは、そういう場所なんだ。君が選んだ、想いを叶えられる場所なんだ」
「そ、それにそれに!」
紗夜は結衣の正面に回り、その両肩に手を添えた。
「あたし、結衣ちゃんってすごいと思う! 動画のために資格取ってここまで来るとか、本当は体力ないのに『映え』のために、頑張ってステータス伸ばすとか!」
紗夜のまっすぐな瞳に、結衣は視線を上げた。ゆっくりとだが、確実に。
「結衣ちゃんは自分のしたいことのために、ここまで来たんだよね? それって、本当にすごいって思うの。あたしは……嫌なことから逃げてきただけだから……」
「……紗夜、ちゃん」
「でもね、あたしもここに来て変わったんだよ。もう、逃げ場所じゃない。ここがあたしの居場所で……結衣ちゃんが、目指してきた場所。変わるために、自分の意志で、ここまで来たんだもん。きっとやれるよ」
やがて結衣は、紗夜の瞳を見つめ返した。
「……うん。ユイ、やってみる……。フィリアさんみたいに、見せたい姿で」
けれど少しだけ瞳が下がる。
「……笑わない?」
「笑わない!」
紗夜の力強い返答に、結衣はこくりと頷いた。
「あ、ありがとう……。じゃあ……」
「あっ、ちょっと待って」
立ち上がろうとした結衣を制して、紗夜はバックパックからバンダナを取り出した。
「ごめんね、今はこんなのしかないけど……っと」
そのバンダナをカチューシャみたいに使って、結衣の前髪を上げる。今まで隠れがちだった目元もはっきりと露出する。
「うんっ、やっぱり結衣ちゃん可愛い目してる。こっちのほうがいいと思う」
そして紗夜は、結衣の間近でにっこり笑顔。
結衣は目を丸くして、あわあわと唇を震わせた。みるみるうちに頬が赤くなっていく。
やがて恥ずかしそうに目を逸らす。自分の心音を確認するように、両手を胸に当てている。
「今のは反則ぅ……」
「反則?」
「……紗夜ちゃんのほうが、可愛いと、思う……」
首を傾げる紗夜に、ぽつりと呟く。それから、結衣は改めて立ち上がる。
「あの、モンスレさん、フィリアさん、テイク2、お願いします……!」
「はい。わたくしはいつでも」
頷くフィリアに続いて、おれもスマホカメラを起動する。
「こっちもいいよ。じゃあ、フィリアさんが紹介したあとの続き、結衣ちゃんの自己紹介からやってみよう」
各々、配置につく。
結衣は何度も深呼吸。それから覚悟を決めたように、大きく頷く。
「……いけます」
おれは結衣にカメラを向けた。撮影ボタンを押し、ハンドサインで合図。
それを受けて結衣は、その場で大きな手振りでポーズを取った。瞳の前に、横に倒したVサインをビシッと決める。
「はーい、ユイちゃんネルから来ました、ユイちゃんです! いえい! 小さな体でおっきな武器を振り回す系女子を目指してます! 今日はモンスレチャンネルさんのお誘いで、一緒に冒険することになりました! よかったら、ユイのチャンネルにも登録くださいっ!」
おぉ……!
すごい変わり様だが、これならいけそうだ……!
結衣のNGのあと、動画撮影は一旦中断となった。
結衣は地面にぺたんと、いわゆる女の子座りの姿勢でしょぼくれてしまった。
「でも……そんな動画じゃつまんなくって……。再生数も伸びなくて……たまに付くコメントも、バカにされるものばっかりで……。でも……冒険者になって、迷宮配信したら売りになるかもって……思ってたんです……」
そんな結衣に、紗夜が寄り添う。
「結衣ちゃん、無理しないでいいよ。今日の目的はパーティのお試しなんだし、動画撮るのはまた今度でも……」
「…………」
結衣は迷うような沈黙のあと、ふるふると首を横に振った。
「でも、せっかく誘われたから、今日こそ、ちゃんとやりたい、です……」
弱々しくも、結衣は顔を上げようとする。視線はまだ地面を向いているが、諦めたくない気持ちは伝わってくる。
「あ……あの、フィリアさんは、いつも、どうしてるん、ですか?」
「わたくしですか?」
「ユイは、緊張しちゃうし、恥ずかしいし……でもフィリアさん、は、とっても上手に話せてて、すごいです……。どうやってるんです、か?」
フィリアは、ちょっとだけ遠い目をした。
「恥ずかしさは……何度も練習して、捨てました……」
「捨てた……」
「というより、今の自分そのものを、一旦別の場所に置いてきてしまうイメージでしょうか。その代わりに、こうあるべき人格を宿すと言いますか……。恥じず、アガらず、観てくださっている方々に楽しんでいただける自分であろうとしております」
「あるべき、人格……」
「今井様は、動画を観ていただける方々に、どのような姿をお見せしたいですか?」
「それは……緊張しないで、明るくて、テンション高くて、楽しい姿が、憧れ……です。でも、でもユイは、そんなことできない……です」
「いいえ、今井様。できないと思う自分も、一旦置いておくのですよ」
結衣は上目遣いでフィリアを見上げ、すぐまた不安そうに瞳を下げてしまう。
おれは腰を下ろし、結衣と視線の高さを合わせた。
「……大丈夫だよ、結衣ちゃん。なりたい自分があるなら、必ずなれる。いや、もう半分くらいはなれてるんだ」
結衣は前髪に隠された瞳を、おれのほうに向けた。
「ステータスカードを見なよ。ここでは、君みたいな可憐な女の子でも、そこらの男よりずっと屈強になれてる。君が望む、大きな武器を振り回す女の子にもすぐなれる」
結衣は自分のステータスカードを見つめる。
「だから、憧れの自分にだってなれる。ここは、そういう場所なんだ。君が選んだ、想いを叶えられる場所なんだ」
「そ、それにそれに!」
紗夜は結衣の正面に回り、その両肩に手を添えた。
「あたし、結衣ちゃんってすごいと思う! 動画のために資格取ってここまで来るとか、本当は体力ないのに『映え』のために、頑張ってステータス伸ばすとか!」
紗夜のまっすぐな瞳に、結衣は視線を上げた。ゆっくりとだが、確実に。
「結衣ちゃんは自分のしたいことのために、ここまで来たんだよね? それって、本当にすごいって思うの。あたしは……嫌なことから逃げてきただけだから……」
「……紗夜、ちゃん」
「でもね、あたしもここに来て変わったんだよ。もう、逃げ場所じゃない。ここがあたしの居場所で……結衣ちゃんが、目指してきた場所。変わるために、自分の意志で、ここまで来たんだもん。きっとやれるよ」
やがて結衣は、紗夜の瞳を見つめ返した。
「……うん。ユイ、やってみる……。フィリアさんみたいに、見せたい姿で」
けれど少しだけ瞳が下がる。
「……笑わない?」
「笑わない!」
紗夜の力強い返答に、結衣はこくりと頷いた。
「あ、ありがとう……。じゃあ……」
「あっ、ちょっと待って」
立ち上がろうとした結衣を制して、紗夜はバックパックからバンダナを取り出した。
「ごめんね、今はこんなのしかないけど……っと」
そのバンダナをカチューシャみたいに使って、結衣の前髪を上げる。今まで隠れがちだった目元もはっきりと露出する。
「うんっ、やっぱり結衣ちゃん可愛い目してる。こっちのほうがいいと思う」
そして紗夜は、結衣の間近でにっこり笑顔。
結衣は目を丸くして、あわあわと唇を震わせた。みるみるうちに頬が赤くなっていく。
やがて恥ずかしそうに目を逸らす。自分の心音を確認するように、両手を胸に当てている。
「今のは反則ぅ……」
「反則?」
「……紗夜ちゃんのほうが、可愛いと、思う……」
首を傾げる紗夜に、ぽつりと呟く。それから、結衣は改めて立ち上がる。
「あの、モンスレさん、フィリアさん、テイク2、お願いします……!」
「はい。わたくしはいつでも」
頷くフィリアに続いて、おれもスマホカメラを起動する。
「こっちもいいよ。じゃあ、フィリアさんが紹介したあとの続き、結衣ちゃんの自己紹介からやってみよう」
各々、配置につく。
結衣は何度も深呼吸。それから覚悟を決めたように、大きく頷く。
「……いけます」
おれは結衣にカメラを向けた。撮影ボタンを押し、ハンドサインで合図。
それを受けて結衣は、その場で大きな手振りでポーズを取った。瞳の前に、横に倒したVサインをビシッと決める。
「はーい、ユイちゃんネルから来ました、ユイちゃんです! いえい! 小さな体でおっきな武器を振り回す系女子を目指してます! 今日はモンスレチャンネルさんのお誘いで、一緒に冒険することになりました! よかったら、ユイのチャンネルにも登録くださいっ!」
おぉ……!
すごい変わり様だが、これならいけそうだ……!
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