異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
59 / 182

第59話 百合営業も、ありかも……です

しおりを挟む
「わぁ、あ……」

「ふふっ」

 フィリアは、結衣と笑顔を見合わせていた。

「わ、すごい。伸びてる伸びてるっ」

 さらに紗夜も嬉しそうにはしゃぎ出す。

 3人は結衣の自宅で、昨夜アップロードした動画の再生数を確認している。

 昨日撮影した動画は、結衣が所持するパソコンで編集してくれると申し出てくれたのだ。

 フィリアはその手伝いに訪れ、紗夜も結衣たっての希望で同行。泊まりがけで動画を仕上げたのである。

 再生数は大好調。みるみる伸びていく数字を見ているだけでも楽しい。

 それはモンスレチャンネル側だけでなく、結衣のチャンネルにアップした動画でも同じだ。

「……ユイ、こんなに動画が伸びるのなんて、初めて、です。すごい……嬉しい、です……。ありがとう、ございます……!」

「いえいえ。今井様が頑張った成果です。撮影中のあのキャラクターなら、きっとおひとりでも成功しておりましたよ」

「でも……それができたのは、フィリアさんがアドバイスくれて……紗夜ちゃんが、勇気をくれたから、です」

 ほんのり顔を赤らめつつ、前髪を指でいじる。今はバンダナで前髪を上げていない。

 本人曰く、前髪を上げると気合が入って撮影モードに入れるそうだ。だが、疲れるので普段は前髪を下ろしておくことに決めたらしい。

 結衣は隣にいる紗夜に、甘えるように寄りかかる。

「だから、紗夜ちゃんも、ありがとう……」

「うんっ。結衣ちゃんも、守ってくれてありがとう」

 仲良きことは美しきかな。フィリアはふたりの様子に、癒されるような気持ちになる。

「でも結衣ちゃんもフィリア先生も、寝坊しすぎ。編集大変だったのはわかるし、結衣ちゃんはなんかイメージ通りだけど……フィリア先生って割と普段お寝坊さんなんです?」

「そ、そんなことは、ないですよ……?」

「あ、目を逸らしました? 図星です?」

「ち、違います。ご、ごくたまに夜更かししたときに、寝坊してしまうだけです」

 本当は、休日と決めた日はだいたいお寝坊してしまっている。前はこうではなかったのだが……。

 拓斗が起こしてくれるから、つい頼ってしまう。いや、これは甘えているだけかも?

 ちょっと反省。

 ちなみに拓斗は、さすがに女の子だらけのお泊まり会には参加できない、と家で留守番してくれた。

「ふーん……。でもなかなか起きてくれませんでしたよね、一条先生大変そう」

「そ、そこまでご迷惑はかけていないと思うのです」

 そこで結衣が首を傾げる。

「……フィリアさん、モンスレさんと同棲してる、の……?」

「そうそう、大人の関係~」

「ま、まだそのような関係ではありませんっ! ただ、その……そう! パーティとして一緒に暮らすほうが色々と都合が良いので!」

「へー、まだなんですねー。いつの間にか呼び方も変わってたから、いよいよ付き合い始めたのかなって思ってました」

「ユイも、てっきり恋人同士と、思ってました……」

「そ、そう見えますか?」

 つい声が弾んでしまう。そう見られているのは嬉しい。

 でもこの気持ちの正体が、フィリアには分からない。幼い頃から憧れていた英雄への羨望なのか? それとも、一条拓斗という男性への恋心なのか?

 考えると堂々巡りになってしまうので、小さく首を振って、話題を無理にでも切り替える。

「そ、それより、気になっていたのですが……」

 フィリアはパソコン画面に映る、動画のコメント欄を指さす。

「こちらに書かれている、『百合』とはどういう意味なのでしょう? 花を指しているわけではないようですが……」

「えっと……女の子同士の、恋愛とか、そこまで行かなくても、濃い友情とか……そういう関係を指す言葉、です」

 結衣の返答を聞いて、フィリアは思わず目を見開いた。片手で口元を押さえる。紗夜と結衣を交互に見やる。

「そ、そのような概念が……?」

「はい……。リアルだと色々あります、けど……マンガ、とか、アニメなら、需要あるから……。百合営業も、ありかも……です」

 紗夜は苦笑する。

「百合営業って、あたしと結衣ちゃんが動画の中でイチャイチャするってこと?」

「動画の中だけ、じゃなくても、いいよ……。えへっ、紗夜ちゃん好きー……」

 結衣はおもむろに紗夜にハグする。紗夜は困惑する。

「ええ……結衣ちゃん、それ本当に営業? 営業になってる?」

「パーティ組んだんだし……モンスレさんたちみたいに、一緒に住むのもありだよね……」

「ちょっと待って、待って待って。営業ってそこまでするもの?」

「いいこと、たくさん、だよ? ルームシェアして家賃折半なら、もっと広いところ住めるし……百合ってことにしとけば、ナンパも断りやすい、よ? ……嫌?」

「べつに嫌ってほどじゃないけど……。えっと、フィリア先生?」

 助けを求める視線を向けられるが、フィリアは小さく首を振る。

 結衣の態度からは、確かにただならぬものを感じる。しかしフィリアは、人の恋路についてなにか言えるような知見もなければ、立場もない。それが例え女の子同士であったとしても。

「わたくしは……お邪魔ですね?」

「お邪魔じゃないです! 帰ろうとしないでくださいぃ!」

 紗夜は、結衣を穏便に引き離そうとする。

「あのね、ごめんね、結衣ちゃん。あたし、今日は一条先生に相談があるから、そろそろ出かけたいのっ。この話はまた今度にして、ね? だからちょっと離れて~っ」


   ◇


「一条先生! あたし、地味ですか!?」

 おれに相談があるというので聞いてみると、開口一番、紗夜はそう言った。

 後ろには結衣やフィリアもいる。近くでは美幸や丈二も聞いている。

「動画のコメントに書かれてたこと?」

「はいっ。男の人から見てどう思うのかなって思って」

 答えに窮してしまう。

 とびきり美人で銀髪のフィリアや、魅力的な巨乳の美幸、撮影時のテンションアゲアゲの結衣。比べてしまうと、確かに地味かもしれない。言葉に出しづらいが……。

 しかしその態度で、紗夜には伝わってしまったらしい。

「やっぱりそうなんですね……。そうじゃないかって思ってましたけど……」

「いやでも、元は本当に可愛いわけだし、冒険者に派手さはいらないし……えぇと、どうしても気になるなら、コメントにも書かれてたけど、メガネ外してみる、とか――」

 言いかけたとき、やたらと強い力で、ガッと肩を掴まれた。

 振り向くと丈二だった。

「一条さん、私との殴り合いがご所望ですか?」

 めちゃくちゃ怖い顔をしていた。なんでだよ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...