異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
62 / 182

第62話 魔法少女みたい……

しおりを挟む
「こちらがもっとも初歩的な魔法である、光源魔法です。みなさまのほうへ参りますので、どうぞお近くでご覧になってみてください」

 フィリアは光球を手のひらの上に浮かばせつつ、受講者たちのほうへ歩いていく。

 その光球のお陰で、受講者たちの様子がよく見える。

 最前列には丈二や紗夜、少し後ろには吾郎の姿もある。パーティからひとりずつ、参加した形だ。

 第1階層の中ほどにある広い空間で、30人以上が参加している。メンバーに充分な魔力を持つ者がいないパーティは、今回は参加できていない。

 みんな、興味深く光球に顔を向けている。眩しくて目を細めているが。

「熱もなく触れることもできない、ただの光ですが、迷宮ダンジョンではなかなか便利ですよ」

 と、光源魔法を解除。周辺が瞬時に暗くなる。あらかじめバッテリー式のランタンを設置してあるので、暗闇になることはない。

「みなさまには、まずはこの光源魔法を使えるようになっていただきます。魔力を扱う基礎中の基礎ですので」

 そうしてフィリアは、魔力の扱い方について講義を始めた。

「まずは目をつむり、ご自身の肉体と向き合ってみてください。魔素マナで強化された腕や足、胴……。それらのどの部位にも宿っていない力が、感じられるはずです。それが魔力……体内に蓄えられた魔素マナのうち、自分の意志で自由に動かせるものです」

 受講者たちは、フィリアに従って目を閉じて精神を集中させる。

 やがて数人が、ぴくり、と、なにかに気づいた様子で体を震わせ、目を開けた。

「なんでしょう、なにか、違和感のような……」

「お腹の中に、あったかく……、は、ないんですけど、なにかある感じがします」

 丈二と紗夜だ。

 丈二はさすが受講者ナンバーワンの魔力の持ち主といったところだが、受講者の中では普通レベルの魔力の紗夜がさっそく気づくのもすごい。

 魔法は、魔力がすべてではない。扱うためのセンスも必要だ。その点、紗夜は将来有望だ。

「感じ方は人それぞれです。地上での生活とは違うなにかが感じ取れれば、それが魔力です」

「ここにいる全員、充分に魔力がある。必ずできるはずだから、間違い探しのつもりで気楽にやってみて」

 苦戦している受講者も多いので、おれも助言を口にする。

 全員が体内の魔力を把握できるまで、フィリアと手分けして、ひとりひとりと言葉を交わして自身の魔力に気づかせていった。

 それが済んだら次の段階だ。

「この魔力は、他の部位に宿らせたり、他者に宿らせることで身体能力の強化に回すこともできます。それはかなり高度な魔法となりますので、またの機会に講義いたしますね。……続いてはみなさま、存在を把握した魔力を、外へ押し出すようイメージしてください」

 フィリアはそっと手を伸ばす。

「手から外へ出すようなイメージを持つとやりやすいかもしれません。慣れてしまえば、その必要はありませんが」

「マンガが分かる人は、かめはめ波をイメージするといいかも」

「そして、外へ出した魔力に意識を集中し、そのエネルギーを光に変えるようイメージするのです」

 フィリアは手のひらから、また光球を浮かび上がらせる。

「あとは、その状態を維持すれば、このようになります」

 説明し、手本も見せてはいるが、こればかりは当人たちが感覚を掴まないといけない。

 これまでになかった感覚なのだ。おれたちは根気よく、まるで、喋れない子供に、言語という概念を植え付けるような気持ちで教えていく。

 そんな中、ぴかり、と魔力を光らせるのに成功した者がいた。

「あ、消えちゃった……でも」

 若い、穏やかそうな青年だった。一瞬でも成功したことに頬がほころんでいる。

 続いて、同様にすぐ消えてしまうが、紗夜も光らせることに成功させる。

「おふたりともいい調子です。あとは、光らせたときの意識を維持するだけです」

「はいっ、やってみますっ」

 青年と紗夜は、何度も挑戦して、少しずつ長く光を維持できるようになっていく。

 そうしていくうちに、光らせるのに成功させる者は増えてくる。吾郎も成功したことに、自分で驚いていた。

 ひとり、丈二だけが上手くいかない。

「く……っ、なぜ? 魔力なら私のほうが高いはずなのに……」

 だんだん焦っていくので、おれは落ち着くよう声をかけた。

「深呼吸だ、丈二さん。魔法は集中が大事だよ。焦って精神を乱したら、上手くいくものもいかなくなる」

「わかっているつもりなのですが……」

「んー……。丈二さん、もしかして、魔法はこうあるべきだって、先入観みたいなのがあったりしない?」

「それは、まあ、イメージトレーニングしていたくらいですので」

「魔力鍛錬には役に立ったけど、実践には邪魔になっちゃってるみたいだ。一旦、あのノートのことは忘れて、頭空っぽにしてやってみよう」

「わかりま……ん? なぜノートのことを!?」

「秘密」

「人に秘密を握られているのはいい気分がしないのですが……」

「初対面のときは、おれが君にそう思ったよ。誰にも言わないから、気にせずやってみて」

「はぁ……」

 それからしばらくして、丈二も光球を出すことに成功した。

 厨二病ノートを作るくらい想像力たくましいだけあって、一度イメージできれば、コツを掴むのに時間はかからなかった。

 丈二と、紗夜、それに穏やかそうな青年の3人が特に優秀で、長く光球を維持できている。特に紗夜などは、他のみんながやっと合格点を出せるようになった頃には、さらにその先、光球を自由に動かせるようにまでなっていた。

 そのために、紗夜は受講者の中でも特に目立っていた。

 トレードマークだったメガネは、ピンクの細いフレームの物に交換されている。そしておさげ髪にも近い色のリボンをつけている。その容姿は、大きく変わっていないはずなのに、以前よりずっと目が引かれる。

 くるくると体の周囲で動く光球に照らされるのもあって、元々の美少女ぶりがますます輝いて見える。

 実際、受講者の何人もが、見惚れていたくらいだ。

「動画で見るより可愛いな……」

「……いい」

「魔法少女みたい……」

 そんなささやき声に、丈二が反応した。

「葛城さん、写真を1枚よろしいですか。今井さんからの依頼なのです」

「えっ、いいですけど」

 許可を得て、光球を操る様子をスマホカメラでパシャリ。

「結衣ちゃんの依頼だって?」

「ええ、次の動画のネタが欲しいとのことで」

「……まさか、丈二さん」

「ええ、魔法少女マジカルサヨちゃん……。いいではないですか」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...