異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
70 / 182

第70話 パーティは互いに補い合うものでしょう?

しおりを挟む
「タクト様、無理をしすぎです。もう少し休んでください!」

 おれはフィリアに手を掴まれて、引き止められた。

「あはは、大袈裟だよ。おれはもう充分休んだって」

 おれだけ、休憩を早く切り上げただけだ。

「いえ一条さん。フィリアさんの言うとおりです。オーバーワークですよ。目の下にクマもできています」

「気のせいだよ」

 あれから数日、おれたちは探索を続けていた。休憩や野営のたびに、おれは可能な限り広範囲に周囲を見回っている。上級吸血鬼の存在の有無を、できるだけ早くはっきりさせるためだ。

 もしおれがその痕跡を見逃すようなことがあれば、犠牲になるのはフィリアや、紗夜や結衣、吾郎パーティ……この迷宮ダンジョンに挑む大切な冒険者の仲間たちだ。

 知っている人間の誰かが、下級吸血鬼に変えられたりしたら、どれだけつらいか。

 友人に、この手でトドメを刺すようなこと、二度としたくはない。

 だから手は抜けない。ちょっとの無理くらい、許容範囲だ。

「いいえ、タクト様。疲労が溜まっているのは明らかです」

「いやいや、おれのステータス知ってるでしょ? ふたりよりずっとHP体力高いし、平気だよって」

 フィリアは小さくため息をついた。

「仕方ありません、津田様、やってしまいましょう」

「はい。一条さん、失礼」

「え? わっ!?」

 完全に油断していたおれは、丈二の素早い足払いをくらい、気持ちいいくらいの勢いで転倒した。

 その背中をフィリアが受け止めてはくれたが、支えてはくれず、ゆっくり下されていく。

 そして、ぽふっ、とおれの頭は柔らかいなにかの上に着地した。

 真上には、おれを覗き込むフィリアの顔。黄色い綺麗な瞳が、慈しむように見つめている

「フィリアさん……」

 フィリアに膝枕されてしまっている。

 さらに両手で肩に押さえつけられた。

「ほらタクト様、こんなにあっさり倒せてしまいましたよ」

「そりゃ不意打ちされたら」

吸血鬼ヴァンパイアに不意打ちされても、同じことを仰るのですか?」

「むぅ……」

「そのままお休みください。本当に上級吸血鬼が現れたときには、タクト様が頼りなのですから。こんな状態では困ってしまいます」

「聞き分けていただけないようでしたら、もう一撃して無理やり寝ていただきますよ」

 ふたりに言われて、おれは観念した。確かにこの疲労では、もしものときに役目を果たせないかもしれない。

「わかったよ……。少し、休むよ」

「はい、眠ってしまってください。タクト様」

「気が立ってて、すぐには眠れないよ」

「目をつむっているだけでもいいですから」

「……うん」

 フィリアの微笑みと優しい眼差しに頷き、目をつむる。

 瞼の裏には、この前倒した下級吸血鬼の姿が浮かぶ。

 色々な思考が波のように押し寄せる。

 野良だったらいい……。でもそうでないなら? ずっと昔に作られた下級吸血鬼なのか? 新たに作られたなら、その材料は? 迷宮ダンジョン出現の影響で転移してきた、異世界リンガブルーム人が犠牲になった可能性も……。

 フィリアの手がおれの髪や頬を撫でてくれて、その心地よさに思考は霧散する。

 太ももの感触と、滑らかな手の感覚がやけに安らぐ。

 心が落ち着いていく気がしたときには、おれの意識はもう遠のいていた。

「……おやすみなさい。タクト様」

 それから、どれだけ経っただろう?

 まどろみの中、耳に届いたのはフィリアの鼻歌だった。上機嫌そうな声色で、相変わらずおれの頭を撫でてくれている。

 ちょっと汗っぽいけれどその分だけ濃い、フィリアの匂い。幸せなような、愛おしいような、ふわふわした感覚。

 まずいなぁ、と思う。やるべきことがあるのに、ずっとこのままでいたい。

「……あ、タクト様。起きてしまいましたか?」

「ん……。まだ起きたくない。ずっとこのままでいたい……」

「まあ、甘えん坊さんです。いいのですよ、もっとお休みください」

「……うん」

 そっと寝返りを打つ。丈二がスマホを構えているのが一瞬見えた。気にせず目をつむり――。

 ――いや、やっぱ気になるわ。

 上半身を起こし、丈二を睨みつける。

「丈二さん、なにやってんの?」

 丈二はポチッとなにか操作した。おそらく録画停止ボタン。

「よし」

「よしじゃないよ。なにもよくないよ」

「いい動画が撮れました。フィリアさんに甘えるモンスレさん。この意外な一面は、きっと大好評でしょうね」

「公開なんてしたら、本気で後悔させてやる」

「公開だけに?」

「あっはっはっ」

 ふたりで笑い合ってから、おれは再び丈二を睨んだ。

「ぶっ飛ばすよ?」

「大丈夫、公開なんてしませんよ。葛城さんたちへのちょっとしたお土産です」

「それもやめてよ。頼りになる先生のイメージが壊れちゃうじゃん」

「やめて欲しければ、今後は無理はしないでくださいね。私たちはパーティです。レベルの低い私が言うのもなんですが、パーティは互いに補い合うものでしょう? 一条さんだけが無理をするのは、間違っています」

「でも、上級吸血鬼に関してだけは――」

「わかっておりますよ、タクト様。けれど、おひとりでは限度があります。もちろん、ひとつのパーティでも」

「予定の期間探索してもその痕跡が見つけられなければ、レベル2パーティも加えて大規模調査をおこないましょう。無論、危険性は伝え、細心の注意を払ってのこととなります」

「……確かに、こんなに広い以上、おれひとりが頑張っても難しいか……」

 フィリアの膝枕で安眠したからか、少し頭がすっきりしている。ふたりが正論を言っているのだと今ならわかる。

 そもそも、おれひとりが無理をして、仮に見つけたところで、上級吸血鬼に対抗する術はまだないのだ。

 そんなことも見失っていたなんて、おれはよほど焦っていたらしい。

「……ごめん。わかったよ、言う通りにする。その代わり、大規模調査の実施はおれが対抗策を作ってからにしてもらうよ」

 丈二は微笑んで頷く。

「ええ、参加パーティの選抜や、先行調査結果を周知する時間も必要ですからね。それでいいと思います」

「ありがとう。じゃあ、休憩はもう充分だ。先に進もう」

 話がついたところで、おれたちは準備を整えて出発した。上級吸血鬼の痕跡は引き続き探しつつ、当初の予定どおりに正面方向へ進み続け、第2階層の端を目指す。

 そしてさらに数日後、おれたちは結論づけた。

「第2階層に、端なんてなかったんだ」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...