異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第75話 助け出せるのは、あなたしかいない!

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 結衣の強烈な一撃によってダスティンは地に転がった。しかし、倒れた体はすぐ霧化して、立ち上がった姿勢で再構成される。

「ほう、これはまた可憐で勇ましい」

 真紅に輝く瞳を結衣に向けようとする。

「結衣ちゃ――見ちゃ、ダメだ」

 その目を見てはダメだと伝えたいが、絞めつけられていた喉に苦痛が走る。上手く喋れない。

 が、次の瞬間、銃声がふたつ。正確な射撃が、ダスティンの両目に命中した。

 拳銃を構えた丈二が、素早く落ち着いた動きで現れた。

「丈二、さん……」

「一条さん、今井さん、時間稼ぎは充分です。すぐ武田さんが封魔銀ディマナントを持ってきます。それさえあれば、吸血鬼ヴァンパイアなど我々の退魔殺法の敵ではありません」

 一瞬、丈二がなにを言っているのかわからなかった。

 しかし、丈二が目配せしてきたので、すぐその意図を察した。さっそく口裏を合わせる。

 おれは不敵な笑みを浮かべつつ立ち上がる。

「ダスティン……お前が人間の敵なのはわかった。だったらおれは全力で排除するのみだ。今、ここで消滅させてやる」

 ダスティンは両目を改めて見開き、丈二を睨みつけた。

「できるものかな、紳士諸君?」

 丈二はその紅い瞳を正面から見てしまった。ダスティンはにやりと笑う。

 丈二の目の焦点がぶれる。だが、ほんの数秒後には丈二は不快そうに眉をひそめた。

「――そのような熱視線はやめていただきたい。私にBLの趣味はない」

「なにっ? 貴様にも効かんのか?」

 驚くダスティンをよそに、おれはかつて何度も見てきた『闇狩り』たちの動きを真似た。複雑な印を切るのを見せつけ、最後に腰を深く落とす。

 おれが異世界リンガブルームで共闘した、『闇狩り』と呼ばれる一族の構えだ。彼らが生まれつき持つ吸血鬼ヴァンパイアに有効な特殊能力スキルを発動させるための予備動作。

 当然、一族でないおれには真似をしたところで退魔の技は使えない。だが、ダスティンはそれを知らない。

「……ふん、相手をしてやるのも一興だがな」

 ダスティンはフィリアや紗夜を一瞥してから、こちらに向き直った。燕尾服の襟を整える。

「せっかく手にした極上の令嬢だ。確実に招待したいのでな。またの機会としよう」

「待て、ふたりはおいていけ!」

「いずれお目にかけよう」

 恭しく紳士の礼をしたかと思うと、ダスティンは爆発するように霧化した。黒く濃い霧がおれたちの視界を塞ぐ。

 見えなくても、おれはフィリアたちへ走った。必死に手を伸ばす。その体に触れられた感触はあった。だが、掴む間もなくすり抜ける。

 濃い霧がフィリアたちを抱き上げて、宙を舞ったのだ。

「――飛翔フライト!」

 それを追って飛行魔法を発動させようとしたが、強い力で腕を掴まれた。丈二だ。重量バランスが崩れ、浮遊に失敗する。

「追ってどうするのです! 相手が本気になったら、ハッタリの意味がない」

「それはそうだけど……!」

 その横を結衣が走り抜けていった。

「紗夜ちゃぁあああん!」

 上空を見上げながらのせいか、すぐつまづいて転んでしまう。

「う、うぅうう~っ!」

 倒れたまま、何度も何度も地面に拳を叩きつける。

「結衣ちゃん……」

 おれも拳を握りしめる。震えるほどに強く。

「フィリアさん、紗夜ちゃん……。ごめん。おれが、もっと上手く立ち回っていれば……」

「一条さん、そんな言葉は聞きたくありません。後悔するよりも、今はあなたの持てるすべてで現状に対応してください」

「わかってる。わかってるけど……!」

「しっかりしてください、リアルモンスタースレイヤー! あなたは、この世界で唯一、やつを倒す術を知っている人間なのです! 彼女らを助け出せるのは、あなたしかいない! 一秒だって無駄に使うべきではない!」

 いつも冷静な丈二が声を荒げたのに、おれは息を呑んだ。

 見れば丈二も、瞳に怒りの色を滲ませている。それでも冷静でいようとしている。

「……君が、正しい。取り乱してる場合じゃない……」

 結衣が起き上がって、涙目でこちらを見上げる。

「モンスレ、さん……紗夜ちゃんを、助けられ、ますか……?」

「ああ、助ける」

「ユイも、なんでもします! 手伝わせてください!」

「わかった。まずはとにかく封魔銀ディマナントだ。これからすぐ採りに行かないと」

「それからのことは?」

「動きながら考えるよ。やつの居所も探さないと……」

「それなら、武田さんと合流しましよう。手がかりを掴んでくれているはずです」

 丈二の言葉に従い、おれたちは吾郎が待っているという第2階層入口の遺跡へ戻った。

「――津田、お前の予想どおりだったな。飛ぶのは意外だったが、まあ、そこそこよく撮れてるはずだ」

 合流してすぐ、吾郎はスマホで動画をおれたちに見せてくれた。

 どうやら丈二は、吾郎をその場に留めて様子を録画させていたらしい。

「あくまで念のためだったのですが、ね」

 吾郎はできるだけ高台に登ってくれていたらしく、それなりに見やすい動画となっている。さすがにおれたちの様子はよく見えないが、黒い霧となってフィリアたちをさらっていったダスティンの姿は捉えられていた。

 ここから北西方向へ飛んでいった。かなりの遠方。黒い霧はもはや薄い黒点にしか見えないが、動画を最大まで拡大すればかろうじて動きが追える。その黒点は、森林地帯へ下りたらしい。

 おれたちの先行調査でも、足を踏み入れていない場所だ。

「そこにあの野郎がいやがるんなら、うちの若えのもいるはずだな?」

「紗夜ちゃんや、フィリアさんも……」

「吾郎さんも結衣ちゃんも、先走らないでね……? 作戦がないと倒せる相手じゃない。歩きながら話そう」

 封魔銀ディマナント鉱脈の方向へ歩を進めながら、おれは丈二に声をかけた。

「作戦を立てるにあたって、いくつか確認しておきたいことがある。まずは丈二さん、君はどうやって上級吸血鬼ダスティン誘惑テンプテーションを破ったんだ?」

「テンプテーション?」

「あの、紅い瞳で見つめてきたやつだよ。対象の心に入り込み、願望を叶えてやるという甘言で、その心を支配するんだ。心と体が切り離されて、自由を奪われる」

「なるほど。そうやって相手を無抵抗にしてから血を吸うわけですね?」

「そうだ。でも丈二さんには効かなかった。なぜなのか知りたい。場合によっては、切り札になってもらうかもしれない」
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