異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第80話 それで満足かって聞いてんだよ!

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 総勢8名ほどの半下級吸血鬼は、こちらを取り囲むように広がっていく。

 対し、吾郎は背負ってきていたショットガンを構えた。手近な半下級吸血鬼に躊躇いなくズドン! と発砲。

 その半下級吸血鬼は、容易く吹っ飛んだ。苦悶の表情を浮かべつつ上半身を起こすが、吾郎は容赦なく第2射を顔面に発射した。

 今度こそ倒れて動かなくなる。

「へっ、思った通りだぜ。まだ変わってる途中ならよ、魔素マナの保護も半端なはずだ。普通の武器でも効くぜ」

「吾郎さん、今のはゴム弾か?」

「ああ、殺す気はねえからな。けどよ、これでわかったろう? 銃が効くなら、こっちが有利だ。気にせず先に行け!」

「わかった、任せる!」

 おれはその場を強行突破しようと走り出す。

「先生、逃げないでください! あたしにやられてください!」

 素早い動きで紗夜が立ち塞がる。レベル2の動きじゃない。吸血鬼ヴァンパイア化の進行が、能力が向上させているのだ。

 再び魔法攻撃。火球が勢いよく飛んでくる。ダメージ覚悟で、両腕を防御に回して突進する。

 が、火球はおれには当たらなかった。駆けてきた結衣が、盾で防いでくれたのだ。

「紗夜ちゃんは、ユイが抑えます!」

「頼む!」

「邪魔しないでよ、結衣ちゃん!」

「ユイがわかるの? だったら話を聞いて!」

 そんな会話を背に、おれは加速して、その場を駆け抜けていく。

 走りながらトランシーバーで丈二に連絡。

「丈二さん、待ち伏せだ。結衣ちゃんと吾郎さんが引き受けてくれてるから、そこは避けて進んでくれ。おれも先行する」

『了解しました。待ち伏せは、やはり吸血鬼ヴァンパイアですか?』

「ああ、さらわれたみんなだ。他は下級だけど、紗夜ちゃんだけは上級吸血鬼になりかけてる。フィリアさんはいなかった」

『フィリアさんも心配ですが……今井さんと武田さんで、上級を含む多数を抑えられるのですか』

「信じるしかない。おれたちが急げば、ふたりの助けにもなる」

『わかりました。目の前のことに集中します』

 ダスティンの屋敷は、もう目の前だった。


   ◇


「かかってきやがれ半端もんども! てめえらの相手はオレひとりで充分だ!」

 吾郎は多数の半下級吸血鬼を相手に、大声で煽りながら奮戦していた。

 紗夜の相手をする結衣の背中を守る意図もある。

 一応、超音波発生器も使っているが、半下級吸血鬼はまだ視力が退化しておらず、その認識を阻害するには至らないらしい。

 それはそれで仕方ない。銃で効くだけでも充分だ。

 最初のひとりこそショットガン2発だったが、急所に直撃させれば1発で倒せる。とはいえ、相手は吸血鬼化で強化された連中だ。身体能力に勝る相手に同時に攻められては、命中させることさえ一苦労だ。

 それでも、敢えて接近戦を挑むことで無理矢理命中率を上げる。

 その甲斐あって、さらに3人の半下級吸血鬼を無力化した。

 ショットガンは弾切れ。すぐリロードを始めるが、その途中で急接近した半下級吸血鬼にショットガンを弾き飛ばされてしまう。

 鋭く伸びた爪を振り上げる半下級吸血鬼だが、吾郎はそれより早く左拳をそいつの顔面に叩き込んだ。怯んだ隙に、右手で拳銃を抜く。こちらにもゴム弾を装填済み。頭部へ乱射して、気絶まで追い込む。

 あと3人。

 今度は背後から襲われた。羽交い締めにされ、身動きできない。生ぬるい呼気が首筋に近づく。吸血されそうだ。そうはさせぬと、吾郎は魔力を集中させた両手を背後へ回す。

 基礎中の基礎。着火魔法だ。

 ライターより少し強い程度の火だが、それでも火傷するし、着ている服は炎上する。

 奇声を上げて離れる半下級吸血鬼に対し、すぐ振り返って前蹴り。仰向けに倒れた半下級吸血鬼は地面を転がって消火する。そこに拳銃の残弾すべてをぶち込み、無力化した。

 残ったふたりは、吾郎のパーティメンバーだ。

 積極的に攻めてこないのは、彼らが吾郎に苦手意識を持っているからかもしれない。

 敵意を見せ、牙を剥いて「かぁああ!」と威嚇の声を上げる。

「なにが『かー』だ。クソが……」

 でも逃げられるよりはマシか……とも思う。

「おいチャラ男に無気力……いや、沢渡に城島。お前ら、それでいいのかよ?」

 弾の切れた拳銃を捨てる。残る武器は剣のみ。それは抜かない。殺す気はない。

 拳を握りしめて、ふたりに近づいていく。

「しゃぁああ――ッ!」

「『しゃー』じゃねえ! それで満足かって聞いてんだよ!」

 牙を剥いて向かってきた沢渡に、カウンターで顔面に拳を叩き込む。

「なあ沢渡、ビッグになるんじゃなかったのか? どうなんだ!?」

 怯んだ沢渡の顔面を何度も殴りつける。

 倒れはせず、押し返してくる。

 渾身の一撃を繰り出そうと拳を大きく振り上げるが、その腕はもうひとり――城島に掴まれた。強力な腕力で引かれたかと思うと、鋭い痛みが走る。

 噛みつかれ、血を吸われている。

 吾郎は即座に頭突きをぶちかました。

 城島の牙が腕から外れる。吾郎はすぐバックステップで距離を取った。

 傷の具合を確かめる。深手ではないが、確か下級吸血鬼には毒があったはず。丈二からは、製造に間に合った唯一の解毒剤を預かっているが、今は使っている場合じゃない。

「お前もだ、城島。上級吸血鬼ってやつの手下になって、それで満足なのかよ! ふたりとも、どうなんだよ!?」

 虚ろだった目に、わずかな光が灯る。

 沢渡の口が、ゆっくりと動き出す。

「……き、吸血鬼って……すげぇじゃねえっすか。誰より特別で、みんな支配できて……すげえビッグじゃねえっすか……」

「かもな……。そうなりてえってのは、否定しねえよ」

「じゃあ、なんで邪魔すんすか……。何者にもなれないおっさんが、嫉妬してんすか」

「お前が騙されてなきゃ、何も言わねえよ」

「は……?」

「ビッグになりてえなら、少しは自分を客観的に見やがれ! 雑魚魔物モンスターにされてんのもわかんねえのか!?」

「雑魚……?」

 沢渡はあちこちで倒れている半下級吸血鬼たちを見渡した。表情に混乱が滲んでいく。

「城島も! 上下関係が嫌だって言ってたくせに、命令を効くだけのパシリでいいのかよ!?」

 城島もまた戸惑い、自分の姿を確認して困惑を強めていく。

「でも……あの人が言うから……あの人が正しいから――ァアア!」

 城島が苦しみの叫びを上げると、呼応するように沢渡も叫んだ。

「そうだ、正しいんだ。俺はビッグに――ガァア!」

 ふたりの意識は再び支配される。

 吾郎にはそれが、現実逃避のようにしか見えなかった。

 かつて自分がしていたように。

「バカヤロウどもが……ッ!」
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