異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
85 / 182

第85話 あなたのような存在が許せない

しおりを挟む
 ダスティンは立ち上がり、大きく口を開いた。

「はっ、はははっ! この私を、上級吸血鬼を相手に素手で戦おうと言うのか? 能力の違いを未だ理解できていないのか」

「理解できていないのは、あなたのほうだ」

「なんだと?」

 丈二は相手に向けて半身となり、左手を前方に、右手を腰に溜め、腰を落とした。体に染みついた空手の構え。

 拓斗が、丈二を切り札と言ったのは誘惑テンプテーションが効かないからだけじゃない。不測の事態が起きた時に無効化できるのは大きいが、それ以上に、拓斗は丈二の武道経験を買ってくれていたのだ。

 魔素マナの強化がなければ、拓斗と丈二の身体能力はさほど変わらない。そこで生きるのは戦闘経験だ。人と形の違う魔物モンスターとの戦闘に長ける拓斗に対し、丈二は人間を倒すための技術である武道に長ける。

 封魔銀ディマナントの影響下で、人型の魔物モンスターを相手にするなら、丈二が最も適しているのだ。

 そして――

「武道や武術というものは、自分より強い相手を倒すために生まれた技術です。あなたは私より強い。しかしあなたは、この世界で発展した武道を知らない。勝つのは私だ」

「そんなもので上位存在を倒せると思うな!」

 ダスティンがわずかに腰を落とす。踏み込んでくる兆し。その刹那に丈二も反応。足首から腰、腕、すべての関節を連動させて最速の拳を放つ。

 先の先を取ったつもりだが、さすがに上級吸血鬼。丈二の拳と、ダスティンの爪が命中するのは同時だった。胸元が鋭く切り裂かれる。攻撃を仕掛けていなければ直撃していたかもしれない。

 丈二の拳は相手の顎を捉えていた。ダスティンのダメージは薄いのか、余裕の表情。

 そんな余裕を見せた一瞬の隙。丈二はもう次の行動に移っていた。一撃で終わらせるわけがない。拳を突き出し、蹴りを放ち、矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。

 連撃に対し、ダスティンも反撃を繰り返す。長年研鑽してきた技に、身体能力だけで追随してくる。いや、むしろ圧倒的な能力差を丈二の技量が埋めていると言ったほうが正しいか。

 丈二は紙一重で致命傷は避け続けるが、ほとんどの攻撃を体で受け止めている。すでに数多くあった裂傷に加え、あちこちで肉を抉られていく。

 丈二の攻撃はすべてダスティンに直撃しているが、銃撃ほどの威力はない。回避も防御もしないダスティンに対し、丈二は一瞬でも気を抜けば致命傷だ。

 不利な殴り合いだったが、好機を掴んだのは丈二だった。

 執拗に同じ部位――顎を狙い続けて、いよいよダスティンの体勢が崩れたのだ。

「おぉお!」

 その瞬間、ダスティンの片腕を左腕で絡み取り、肘関節に右掌底を叩き込む。肘が折れ、逆方向に曲がる。

「ぐぅ!?」

 短い悲鳴を上げて、素早く後退していく。間合いから逃げられてしまった。

「なんなんだ貴様、なぜそれほど傷ついてまで歯向かうのだ!?」 

「あなたのような存在が許せないからですよ」

「つまらないと言われたことが、そこまで腹立たしいか」

「私の怒りは、それだけじゃない」

 逃げ腰になったダスティンに、丈二は血塗れの体で迫っていく。

「ここには、私以外にも人生を取り戻した人々がいるのです」

 丈二は職務上、多くの冒険者の個人情報を知り得ている。もちろん守秘義務はあるが、それらを目に通し、実際に冒険者と触れ合えば、共感や同情だって生まれる。

 彼らは迷宮ダンジョンという新環境で、人生における大切な何かを得ようとしている。これまでになかった居場所を手に入れている。

 冒険は危険ではあるが、みんなこの場所で、この環境で暮らしていきたいのだ。

「あなたは、それを壊す存在だ。ただの魔物モンスターならそれも仕方ないが、あなたは高い知性で、明確な意志を持ってそれをおこなっている。それが、許せない」

 あまつさえ彼らが求めた人生とは違うものを、誘惑テンプテーションや吸血鬼化で押しつけている。

 大事なパートナーを奪われた結衣の涙を見た。

 吾郎は怒っていた。文句を言いながらも親のように面倒を見ていた若者を奪われて。

 他にも、かけがえのないパーティメンバーを奪われて嘆く者たちを見てきた。

 想い合う拓斗とフィリアの仲も引き裂かれた。

 つまらないと言われた自分を、愉快な仲間として受け入れてくれた者たちを――かけがえのない友人たちを傷つけている。

 長年孤独だった丈二には、それが一番許せない。

「だからお前には償ってもらう!」

 渾身の力を込めて、丈二は踏み切った。

 空想の世界を捨てる代わりに始めた空手の技で、やっと手にした理想の日々を守るために。

 空中で弧を描くように右脚を高くかかげる。落下の勢いに乗って振り下ろされたかかとが、ダスティンの脳天を割った。

「あ、がぁああ!」

 比喩ではなく、ダスティンの頭部は割れたのだ。正確には、ダメージが蓄積しすぎて、ついに人の形を維持できなくなったのだ。

 霧化していくダスティンの体を両断するようにかかとは着地する。

 霧となった体は、周囲の封魔銀ディマナントの効果で爆発的に拡散していく。その中で、意志を持ってその場から離れていく霧の塊があった。

 きっとあれが本体。拓斗が言っていた、人格パーソナル魔素マナだ。

 丈二は腰の後ろに装備していたトランシーバーを手にしようとした。空振り。戦闘中に落としてしまったらしい。

 急いで周辺を探して回収。幸い壊れていない。すぐ拓斗に連絡。

「一条さん、人格パーソナル魔素マナが屋敷の外へ出ました。追えますか?」

『ああ! 今、魔力探査に引っかかった! 後は任せてくれ!』

「ええ、お任せします。成果を期待しておりますよ」

『もちろんだ丈二さん。ありがとう、大役を見事こなしてくれて』

「なぁに、友情のためなら、わけないことですよ」

 十数年ぶりに口にした『友情』という言葉に、丈二は自分で満足して笑った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...