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第98話 居場所がないのなら、作ってしまえばいいのです!
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「どうしてもっと早く言ってくれなかったのですか?」
生配信を終えて医務室へ行ってみると、丈二が心配そうにロザリンデに問いかけていた。
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまうと思っていたから……けれど、これでは本末転倒ね。後先考えずに、はしゃぎすぎてしまったわ」
ロザリンデはベッドの上でしおらしくしている。
「丈二さん、ロゼちゃんは平気? ……なわけないか」
声をかけて初めて丈二はこちらに気づいた。ロザリンデのこと以外周りが見えていなかったようだ。
「一条さん、それにみなさん……。はい、お察しの通り、魔素の欠乏です。ただでさえ無理をしていたらしいのですが、そこでさらに能力を使おうとしたために倒れてしまったそうです」
「霧化しなくてよかったよ」
「ぎりぎりだったそうです」
「こちらも迂闊だった。魔素の依存度の高い上級吸血鬼には、地上の環境はかなりつらかったはずだ」
「ダスティンは、封魔銀に満ちた空間でも活動には支障なさそうだったので、ロザリンデさんも平気なのかと思ってしまっていました」
「おれもだよ。でもロゼちゃん、ここまで弱ってるってことは、ずいぶん長い間、人の血を吸ってなかったんだね?」
尋ねると、ロザリンデは弱々しく頷いた。
「ええ……わたし、悪い子じゃないもの」
「でも吸わなければ、魔素の補給は不十分だ。人の形もだんだん忘れていく。体を維持するのに、余計な力を使わなきゃならなくなってるんでしょ?」
「……その通りよ。でも悪い子の真似は、したくないわ」
「なにを言っているのですか」
丈二はロザリンデの肩を掴み、正面から彼女を見つめる。
「必要なら言ってください。私の血でよければ差し上げますから」
「いいのよ。人間ほど効率的ではないけれど、わたしも周囲の魔素は取り込めるわ。眠っていれば、また回復するから」
「それで、次に目覚めるのはいつになるのです?」
「それは……」
「5年後ですか? 10年後ですか? あなたは、こんなにも私の心をかき乱しておいて、何年も私を放っておくつもりなのですか? 冗談じゃありません」
「でもわたしは、これまでずっとそうしていたのよ」
「私はこれからの話をしています。少なくとも私は、あなたと会えなくなるのは嫌です」
「……そうね。ごめんなさい。わたしも……目覚めるたびに老いていくあなたを見るのは嫌だわ」
「では血を……」
差し出された丈二の腕を見て、しかしロザリンデは小さく首を振った。
「……ダメだわ」
「なにを意地を張っているのです」
「いいえ、そうではないの。今のあなたには魔素がほとんどないわ。これでは無意味にあなたを傷つけてしまうだけ」
「そういうことでしたか……。ならすぐ迷宮へ行きましょう。魔物除けを使えば、第2階層まではすぐです」
丈二はロザリンデを抱き上げる。
「付き合うよ、丈二さん」
おれたちはみんなで、迷宮に向かった。
◇
第2階層に入ってすぐ、適当な魔物を狩って調理した。
第2階層の魔素を体に吸収する時間を稼ぎつつ、さらに食事によって体内の魔素の量を増やすためだ。
紗夜と結衣は早めに食事を終え、周辺の警戒に当たってくれる。
それから丈二は、ロザリンデに腕を差し出す。
「では、今度こそどうぞ」
もし間違いが起こり、ロザリンデから血を与えられてしまったら吸血鬼になってしまうのだが、丈二は一切の躊躇も不安も見せなかった。
「ありがとう、ジョージ。いただくわ。はむっ」
ロザリンデはまるで甘露を味わうかのように、うっとりと目を細める。幼い顔つきなのに、妙に艷やかで色っぽい。
始めこそ遠慮がちだったロザリンデだが、だんだんと嚥下のペースが早まり、まるで貪るような勢いになっていく。
これは止めるべきかと踏み出しかけたところ、ロザリンデは丈二の腕から口を離した。
「ダメ……これ以上は、ダメ……」
罪悪感と名残惜しさをせめぎ合わせながら、丈二の腕に残る血を舐め取っていく。
そっとフィリアはロザリンデの背後から肩に触れる。
「ロザリンデ様、はしたないですよ」
「わ、わかっているわ。でも……」
「いけません。津田様が見ておられますよ」
するとバツが悪そうに、恥ずかしそうに、今度こそちゃんと離れる。けれど、最後にぺろりと舌なめずり。
「ごめんなさい、ジョージ。初めてで……吸いすぎてしまったわ」
「構いません。それより、いかかですか?」
「ええ、わたしの中があなたで満たされて……幸せよ」
ロザリンデは自分の唇を撫で、それから首、胸、それからお腹へ手を這わせる。
丈二は真っ赤になった。
「ご、誤解を生む言い方と仕草はやめてください。私は体の調子のことを聞いたのです」
「とても調子がいいわ。ありがとう、ジョージ」
「それは良か――おっと」
「ジョージ!?」
安堵する丈二だったが、ぐらりとふらつく。おれは危うく受け止めた。
「貧血だ。丈二さん、休んだほうがいい」
「ごめんなさい、ジョージ……」
おれは丈二の腕の手当てをして、包帯を巻いていく。
「しかし、これからどうしようか。今日の様子を見る限り、ロゼちゃんが地上で暮らすのは、かなり無理がありそうだ」
「わたしは構わないわ。苦しくてもジョージと一緒だもの。たまに、こうして血をもらえるなら……」
「私は嫌ですよ。あなたが苦しむのなんて。血なら毎日、いくらでも吸ってください」
「ダメだ丈二さん。さすがに君の体が持たない」
「でしたら輸血してでも……」
「そのために人の命を救うための血を使うのか? 他の手段だってあるだろう。おれたちも血を提供するとか」
ロザリンデは首を振る。
「わたしは……丈二の血じゃなきゃ嫌だわ。かけるしかない迷惑なら、恋人だけにしたいもの」
「なら、どうするか……」
全員が納得する案はないかと考えるが、すぐには出てこない。
すると、ロザリンデは諦観を含む笑みを浮かべる。
「……わたしが、ここで暮らせばいいのだわ。ここなら魔素があるから、毎日少し眠れば活動できるもの」
「しかしロザリンデさん」
「いいの。あなたは地上に、わたしは迷宮に。ここはあなたが暮らすには危険すぎるから」
「離れ離れになってしまうのですよ。私も、毎日はここには来れない……」
「仕方ないわ。わたしの居場所は……地上にはないのだもの」
そのとき、すっくとフィリアが立ち上がった。
「諦めるのはまだ早いです」
ロザリンデはフィリアを見上げて目をぱちくり。
「なにかいい手があるの?」
「はい。居場所がないのなら、作ってしまえばいいのです!」
生配信を終えて医務室へ行ってみると、丈二が心配そうにロザリンデに問いかけていた。
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまうと思っていたから……けれど、これでは本末転倒ね。後先考えずに、はしゃぎすぎてしまったわ」
ロザリンデはベッドの上でしおらしくしている。
「丈二さん、ロゼちゃんは平気? ……なわけないか」
声をかけて初めて丈二はこちらに気づいた。ロザリンデのこと以外周りが見えていなかったようだ。
「一条さん、それにみなさん……。はい、お察しの通り、魔素の欠乏です。ただでさえ無理をしていたらしいのですが、そこでさらに能力を使おうとしたために倒れてしまったそうです」
「霧化しなくてよかったよ」
「ぎりぎりだったそうです」
「こちらも迂闊だった。魔素の依存度の高い上級吸血鬼には、地上の環境はかなりつらかったはずだ」
「ダスティンは、封魔銀に満ちた空間でも活動には支障なさそうだったので、ロザリンデさんも平気なのかと思ってしまっていました」
「おれもだよ。でもロゼちゃん、ここまで弱ってるってことは、ずいぶん長い間、人の血を吸ってなかったんだね?」
尋ねると、ロザリンデは弱々しく頷いた。
「ええ……わたし、悪い子じゃないもの」
「でも吸わなければ、魔素の補給は不十分だ。人の形もだんだん忘れていく。体を維持するのに、余計な力を使わなきゃならなくなってるんでしょ?」
「……その通りよ。でも悪い子の真似は、したくないわ」
「なにを言っているのですか」
丈二はロザリンデの肩を掴み、正面から彼女を見つめる。
「必要なら言ってください。私の血でよければ差し上げますから」
「いいのよ。人間ほど効率的ではないけれど、わたしも周囲の魔素は取り込めるわ。眠っていれば、また回復するから」
「それで、次に目覚めるのはいつになるのです?」
「それは……」
「5年後ですか? 10年後ですか? あなたは、こんなにも私の心をかき乱しておいて、何年も私を放っておくつもりなのですか? 冗談じゃありません」
「でもわたしは、これまでずっとそうしていたのよ」
「私はこれからの話をしています。少なくとも私は、あなたと会えなくなるのは嫌です」
「……そうね。ごめんなさい。わたしも……目覚めるたびに老いていくあなたを見るのは嫌だわ」
「では血を……」
差し出された丈二の腕を見て、しかしロザリンデは小さく首を振った。
「……ダメだわ」
「なにを意地を張っているのです」
「いいえ、そうではないの。今のあなたには魔素がほとんどないわ。これでは無意味にあなたを傷つけてしまうだけ」
「そういうことでしたか……。ならすぐ迷宮へ行きましょう。魔物除けを使えば、第2階層まではすぐです」
丈二はロザリンデを抱き上げる。
「付き合うよ、丈二さん」
おれたちはみんなで、迷宮に向かった。
◇
第2階層に入ってすぐ、適当な魔物を狩って調理した。
第2階層の魔素を体に吸収する時間を稼ぎつつ、さらに食事によって体内の魔素の量を増やすためだ。
紗夜と結衣は早めに食事を終え、周辺の警戒に当たってくれる。
それから丈二は、ロザリンデに腕を差し出す。
「では、今度こそどうぞ」
もし間違いが起こり、ロザリンデから血を与えられてしまったら吸血鬼になってしまうのだが、丈二は一切の躊躇も不安も見せなかった。
「ありがとう、ジョージ。いただくわ。はむっ」
ロザリンデはまるで甘露を味わうかのように、うっとりと目を細める。幼い顔つきなのに、妙に艷やかで色っぽい。
始めこそ遠慮がちだったロザリンデだが、だんだんと嚥下のペースが早まり、まるで貪るような勢いになっていく。
これは止めるべきかと踏み出しかけたところ、ロザリンデは丈二の腕から口を離した。
「ダメ……これ以上は、ダメ……」
罪悪感と名残惜しさをせめぎ合わせながら、丈二の腕に残る血を舐め取っていく。
そっとフィリアはロザリンデの背後から肩に触れる。
「ロザリンデ様、はしたないですよ」
「わ、わかっているわ。でも……」
「いけません。津田様が見ておられますよ」
するとバツが悪そうに、恥ずかしそうに、今度こそちゃんと離れる。けれど、最後にぺろりと舌なめずり。
「ごめんなさい、ジョージ。初めてで……吸いすぎてしまったわ」
「構いません。それより、いかかですか?」
「ええ、わたしの中があなたで満たされて……幸せよ」
ロザリンデは自分の唇を撫で、それから首、胸、それからお腹へ手を這わせる。
丈二は真っ赤になった。
「ご、誤解を生む言い方と仕草はやめてください。私は体の調子のことを聞いたのです」
「とても調子がいいわ。ありがとう、ジョージ」
「それは良か――おっと」
「ジョージ!?」
安堵する丈二だったが、ぐらりとふらつく。おれは危うく受け止めた。
「貧血だ。丈二さん、休んだほうがいい」
「ごめんなさい、ジョージ……」
おれは丈二の腕の手当てをして、包帯を巻いていく。
「しかし、これからどうしようか。今日の様子を見る限り、ロゼちゃんが地上で暮らすのは、かなり無理がありそうだ」
「わたしは構わないわ。苦しくてもジョージと一緒だもの。たまに、こうして血をもらえるなら……」
「私は嫌ですよ。あなたが苦しむのなんて。血なら毎日、いくらでも吸ってください」
「ダメだ丈二さん。さすがに君の体が持たない」
「でしたら輸血してでも……」
「そのために人の命を救うための血を使うのか? 他の手段だってあるだろう。おれたちも血を提供するとか」
ロザリンデは首を振る。
「わたしは……丈二の血じゃなきゃ嫌だわ。かけるしかない迷惑なら、恋人だけにしたいもの」
「なら、どうするか……」
全員が納得する案はないかと考えるが、すぐには出てこない。
すると、ロザリンデは諦観を含む笑みを浮かべる。
「……わたしが、ここで暮らせばいいのだわ。ここなら魔素があるから、毎日少し眠れば活動できるもの」
「しかしロザリンデさん」
「いいの。あなたは地上に、わたしは迷宮に。ここはあなたが暮らすには危険すぎるから」
「離れ離れになってしまうのですよ。私も、毎日はここには来れない……」
「仕方ないわ。わたしの居場所は……地上にはないのだもの」
そのとき、すっくとフィリアが立ち上がった。
「諦めるのはまだ早いです」
ロザリンデはフィリアを見上げて目をぱちくり。
「なにかいい手があるの?」
「はい。居場所がないのなら、作ってしまえばいいのです!」
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