異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第113話 血を吸うことは悪じゃない

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「でしたら吸ってください。それで落ち着くのでしょう?」

 丈二は躊躇いもなく腕を差し出す。しかしロザリンデはつらそうに首を振る。

「ダメよ。わたし、今度はあなたを吸い殺してしまうかもしれないわ。あなたの血は美味しすぎるの」

「大丈夫ですよ」

「なにを根拠にそんなことが言えるの」

「あなたが良い子だからです。あなたは、私を殺したりはしません」

「ジョージ……」

「それに、もしあなたが悪い子になってしまいそうなら、ちゃんと止めます。安心してください。私たちがついていますから」

 ロザリンデは丈二の顔と、差し出された腕を交互に見遣る。やがて、ごくりと喉を鳴らした。

「……本当に、いいの? 死なないでくれる?」

「ええ、死にません」

「じゃあ……」

 かぷり、とロザリンデは丈二の腕に噛みついた。すぐとろけたように目を細める。そのまま何度も飲み込んで、喉を満たしていく。

 けれどそのうち、ロザリンデは大粒の涙を流した。

「う、うぅ、うう~……」

「どうしたのですか、ロザリンデさん」

「こんな……こんないやしい姿、あなたに見られなくなかった……っ。だけど……だけど、それ以上に――」

 ロザリンデは懸命に自分を律し、丈二の腕から口を離していった。

「――わたしを、そんな風に信じてくれたことが、嬉しいの……」

 丈二はロザリンデを優しく抱き寄せた。血に汚れることも構わず。

「当然です。それに約束したではないですか。私が全力であなたをお守りすると。それは怖い人からという意味だけではありません。あなたを傷つけるあらゆることからも、守っていくつもりです」

 ロザリンデは丈二の胸に顔をうずめる。

「ありがとう、ジョージ……。でもわたし、いつか悪い子になってしまいそうで怖いの。そうなる前に、きっと、どこか遠くへ行ったほうがいいのだわ」

「その必要はないよ」

 おれは優しく諭すような声色で言った。

「君の居場所はここにあるんだ。どこかへ行こうなんて考えなくていい」

「いいえ。タクト、あなたもわたしの姿を見たでしょう。あの、いやしい姿を……」

「なにがいやしいもんか。吸血鬼ヴァンパイアが血を吸いたがるなんて当たり前のことだよ」

「でも血を吸うのは悪い子のすることだわ」

「違うよ。血を吸うことは悪じゃない。血を吸うために人を襲うのが、悪なんだ。君はただ、生理的な欲求に従ってるだけだ。おれたち人間にだってある欲求だよ。その形が違うだけで」

「その欲求を抑えられずに暴走してしまうのはいけないことでしょう」

「なら抑えられるように、学んでいけばいい。人間は子供の頃から、そのすべを学んでいく。上手く学べずに大人になった奴らが、人に迷惑をかけるようになる」

「上級吸血鬼の悪い子たちも、そうだと言いたいの?」

「ああ、吸血衝動は生物としての本能だろうけど、意識や人格を乗っ取ってしまうほど強烈なものではないはずだ。あのダスティンも、悪辣だけれど理性的ではあった。人間より優れてるという考えが、欲求のタガを外してしまっているだけなのだと思う」

「……人間がいなければ、数を増やすことも、この姿を保つこともできないというのに、人間より優れているだなんてバカな考えだわ。思い上がりね」

「君以外にもそう思ってる上級吸血鬼を何人か知ってるよ。みんな、人間に友好的だった。そして吸血衝動をきちんと制御できていたよ」

 ロザリンデは希望に目を輝かせた。

「その人たちは、どうやっていたの? わたしにも、できる?」

「きっとできるさ。だから、少し話を聞かせて欲しい。吸血衝動の抑え方は、人それぞれだった。君に合いそうなやり方を試してみよう」

「わかったわ」

 話を聞いてみると、吸血衝動を感じるようになったのは、やはり丈二の血を吸って以降らしい。

 屋敷に残っていた丈二の血痕に、異様な反応をしたあのときが、最初の吸血衝動だったそうだ。

 そして、おれとフィリアと一緒に、グリフィンを手懐ける過程では一切、吸血衝動を感じていなかったという。おれの流血を見ても、だ。

 だが、おれたちが地上へ帰還して以降は、血を見ることがなくても吸血衝動がたびたび湧いてきたとのこと。

 おれは「ふむ……」と唸った。

「どうですか一条さん、なにか掴めそうですか?」

「いや、まだもうちょっと確認したいな。ロゼちゃん、初めて丈二さんの血を吸ってから、おれたちが会いに行くまで何日か空いたけど、その間は吸血衝動はなかったんだね?」

「ええ……そうね。ほとんど寝ていたからかしら」

「あと、もしかして、おれたちと一緒に屋敷を見てるとき、退屈だった?」

「そう、ね。いずれ住む家になると思っていたから付き合っていたけれど、あなたたち写真を取ってばかりだったでしょう。わたしとしては暇な時間が多かったわ」

「なるほど。でもその後は楽しんでくれてたね?」

「ええ、本当に楽しかったわ。時間を忘れるくらい」

「なるほどなるほど。じゃあ、ここ最近は? やっぱり退屈だった?」

「……そうね。グリフィンたちの様子を見に行きたいから眠り続けるわけにもいかなくて……けれど他の冒険者に姿を見せないようにしなければいけないでしょう? グリフィンたちのところに長居もできなくて、うん、退屈だったと思うわ」

「やっぱりそうか」

 これまでの情報を統合して、おれは結論を出した。

「ロゼちゃんの吸血衝動は、やっぱり抑えられるよ。似た感じの人がいた」

「本当っ? その人はどうやって抑えていたの?」

「えっと、でも……う~ん」

 言い淀むと、丈二とロザリンデがふたり揃って、おれの顔を覗き込んでくる。

「そんなに難しいのですか?」

「どんな困難でも、必ずやり遂げてみせるわ。言ってみて」

「いや、難しくはないと思うんだ。だけど、なんていうか、言いづらいんだよね……。特に、ロゼちゃんは女の子だし……」

「どういうことです?」

 おれは片手で頭を抱えた。

「今のロゼちゃんの吸血衝動は、思春期にあるアレな感じのやつに近いんだと思う」

「……?」

 丈二とロザリンデは、顔を見合わせて首をかしげた。
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