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第119話 ご褒美をあげるわ
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丈二は自室でリモートワークしていた。
やるべきことはたくさんある。
迷宮内でネットができるようになったということは、フィリアが言っていたように迷宮攻略生配信なんかもできてしまう。
それ自体は悪いことではないが、配信者が知らぬうちに機密を映してしまうなんてことがないとも限らない。
とはいえ、録画した動画や、地上での生配信でも似たようなことは起こり得る。単純に確率が上がるだけだ。
これらに関しては、実は政府関連組織によるAIシステムで監視しており、今のところ問題にはなっていない。
丈二はその監視体制の強化を打診するとともに、いくつかダンジョン用アプリの開発も依頼していた。
今日はそのアプリに関する打ち合せがメインだ。
スマホには、GPSや各種通信電波、基地局の位置情報を用いて、現在位置を特定する機能が付いているのが一般的だ。
この機能を、迷宮内で活用することで、行方不明者の捜索やマッピングに活用したいと考えている。
しかし迷宮内ではGPSは機能しない。電波による測位も、魔力振動を経由しているため正確な情報が得られていない。
ならば魔素を用いた測位ができればいい。ということで、今回のダンジョンルーター開発によって知見を得たであろうミリアムと敬介を、アプリ開発チームと連携させる魂胆である。
リモート会議中、ミリアムは終始面倒くさそうな顔をしていたが、やる気満々の敬介に押し切られて、協力を約束してくれた。交換条件として、迷宮素材の武具を作れる武器屋を増やして欲しいと頼まれた。
それは、すでに推進していたので問題ない。
ちなみに冒険者きっての魔法の使い手であるフィリアや拓斗には、事前にアプリ開発の協力を取り付けている。
リモート会議が終わってからは、冒険者ギルドの仕事だ。
地上に戻らず第2階層で過ごす者も多くなるからには、この宿にはギルド支部としての機能が必要だ。
エントランスホールには、地上の事務所と同様に掲示板を設置するつもりだ。また、地上の事務所とデータを同期させ、受付カウンターで依頼の発注や受注、報酬の支払いや素材等の換金手続きなども可能にする。
また、以前より開発を進めていたギルドアプリも近々配信予定だ。冒険者や探索者への依頼、受注、そして報酬のやり取りも簡単にできるようにする。
迷宮内で通信できるようになったお陰で、開発初期に想定していた以上に有効に使えるだろう。例えば、『強敵と戦闘中。すぐ援護を。場所は〇〇』といった依頼をすぐ出して、誰かがすぐ受注して助けに向かう……なんてことも可能なはずだ。
他の職員たちへの連絡や指示、物品の手配などなどを終えて、丈二はようやく一息つく。
ふと、ロザリンデがこちらを見つめているのに気付いた。
ずっと大人しく、ソファに座って電子コミックを読んでいたはずだ。ページを進めるたび、ころころと喜怒哀楽が変わる様子を愛らしく思っていたのだが、いつからタブレットから目を離していたのだろう?
「ロザリンデさん、どうかしましたか?」
するとロザリンデは、両手で頬杖をついた。穏やかに微笑む。
「どうもしないわ。ただ見ていただけ」
「私なんかを見ていても面白くはないでしょう?」
「そんなことはないわ。またひとつ、あなたを知ることができたもの。格好いいわ、ジョージ……」
紅い瞳に射抜かれて、丈二はドキリとしてしまう。
「そ、そうですか? 私はいつも通りに仕事をしていただけなのですが」
つい声が上擦ってしまう。こういうところは自分でも格好悪いと思うのだが。
「あなたがそうやって頑張ってくれたから、この宿もできて、わたしはあなたと一緒にいられるのね?」
「実際に骨を折ってくれたのは、一条さんやフィリアさんですよ」
「だけどあなたが色んなところに働きかけなければ、あのふたりでもどうしようもなかったのでしょう?」
「まあ、私の仕事は裏方ですから」
「それが格好いいと思うの。誰かの影に隠れて、でも確実に誰かのためになってる。わたしは、そういうあなたが好きよ。他の誰が褒めなくても、わたしが褒めてあげる」
ロザリンデはおもむろに立ち上がると、部屋の鍵をカチャリと閉める。さらにチェーンまでかける。
「ロザリンデさん? なぜ鍵を?」
「ジョージ、ご褒美をあげるわ」
どこか艶っぽい声色と仕草。丈二は顔を背け、ノートパソコンのほうを向く。
「わ、私はまだ仕事が――」
ぱたん、とロザリンデの手でノートパソコンが閉じられる。
「ジョージ、好きよ。あなたは? ねえ、好きと言って……」
ロザリンデの手のひらが丈二の胸に当てられる。その胸がドキドキと強く鼓動する。
「……好き、ですよ」
「良い子だから?」
「いえ……あなただからです。無邪気で、素直で……。幼く見えるのに大人のようで……だけどやはり子供のようで、放っておけない……目を離せなくなるあなただから、好きなのです」
「やっと言ってくれたわね。嬉しい……」
ロザリンデはそのまま抱きついてきたかと思うと、丈二の体を持ち上げた。
「えっ!?」
すぐベッドの上に放り出される。
「ろ、ロザリンデさん?」
「ご褒美よ、ジョージ。あなたが血をくれたみたいに、今度はわたしがあなたを喜ばせてあげる」
「ま、待ってください。いきなりそんな、まだなにも準備していませんよっ! 心の準備も」
「なら準備しましょう。あなたは、こちらの見た目のほうが好きだったものね」
ロザリンデは一旦霧化して、体を再構成した。前に一度だけ見せた大人の姿だ。
思わず見惚れてしまい、抵抗を忘れてしまう。
「この制服のままでいいかしら? ジョージも好きと言ってくれたものね」
その場でくるりと回ってくれる。短めなスカートがひらりと舞う。それはそれで非常に魅力的だが、丈二は無意識的に首を横に振っていた。
「いえ、あの……初めて見せてくださったときの、ドレス姿のほうが……」
ロザリンデは整った大人の顔で、悪戯っ子みたいな無邪気な笑みを見せた。
すぐゴシックドレス姿に変身してくれた。メガネもかけてくれている。丈二が一目惚れした、あのとびきり美しい姿だ。
「これで準備できたわね。さあ、ジョージ」
「いやしかし、あの」
燃えるように顔が熱い。理性も上手く働かない。これでいいのだろうか? まだ早いんじゃ? でも期待もある。いやしかし。
「大丈夫、わたしに任せて。勉強しておいたわ。インターネットって便利ね」
しまった! ペアレンタルコントロールしておくべきだった!
とか思うが、もはや丈二には、流れに身を任せる他なかった。
やるべきことはたくさんある。
迷宮内でネットができるようになったということは、フィリアが言っていたように迷宮攻略生配信なんかもできてしまう。
それ自体は悪いことではないが、配信者が知らぬうちに機密を映してしまうなんてことがないとも限らない。
とはいえ、録画した動画や、地上での生配信でも似たようなことは起こり得る。単純に確率が上がるだけだ。
これらに関しては、実は政府関連組織によるAIシステムで監視しており、今のところ問題にはなっていない。
丈二はその監視体制の強化を打診するとともに、いくつかダンジョン用アプリの開発も依頼していた。
今日はそのアプリに関する打ち合せがメインだ。
スマホには、GPSや各種通信電波、基地局の位置情報を用いて、現在位置を特定する機能が付いているのが一般的だ。
この機能を、迷宮内で活用することで、行方不明者の捜索やマッピングに活用したいと考えている。
しかし迷宮内ではGPSは機能しない。電波による測位も、魔力振動を経由しているため正確な情報が得られていない。
ならば魔素を用いた測位ができればいい。ということで、今回のダンジョンルーター開発によって知見を得たであろうミリアムと敬介を、アプリ開発チームと連携させる魂胆である。
リモート会議中、ミリアムは終始面倒くさそうな顔をしていたが、やる気満々の敬介に押し切られて、協力を約束してくれた。交換条件として、迷宮素材の武具を作れる武器屋を増やして欲しいと頼まれた。
それは、すでに推進していたので問題ない。
ちなみに冒険者きっての魔法の使い手であるフィリアや拓斗には、事前にアプリ開発の協力を取り付けている。
リモート会議が終わってからは、冒険者ギルドの仕事だ。
地上に戻らず第2階層で過ごす者も多くなるからには、この宿にはギルド支部としての機能が必要だ。
エントランスホールには、地上の事務所と同様に掲示板を設置するつもりだ。また、地上の事務所とデータを同期させ、受付カウンターで依頼の発注や受注、報酬の支払いや素材等の換金手続きなども可能にする。
また、以前より開発を進めていたギルドアプリも近々配信予定だ。冒険者や探索者への依頼、受注、そして報酬のやり取りも簡単にできるようにする。
迷宮内で通信できるようになったお陰で、開発初期に想定していた以上に有効に使えるだろう。例えば、『強敵と戦闘中。すぐ援護を。場所は〇〇』といった依頼をすぐ出して、誰かがすぐ受注して助けに向かう……なんてことも可能なはずだ。
他の職員たちへの連絡や指示、物品の手配などなどを終えて、丈二はようやく一息つく。
ふと、ロザリンデがこちらを見つめているのに気付いた。
ずっと大人しく、ソファに座って電子コミックを読んでいたはずだ。ページを進めるたび、ころころと喜怒哀楽が変わる様子を愛らしく思っていたのだが、いつからタブレットから目を離していたのだろう?
「ロザリンデさん、どうかしましたか?」
するとロザリンデは、両手で頬杖をついた。穏やかに微笑む。
「どうもしないわ。ただ見ていただけ」
「私なんかを見ていても面白くはないでしょう?」
「そんなことはないわ。またひとつ、あなたを知ることができたもの。格好いいわ、ジョージ……」
紅い瞳に射抜かれて、丈二はドキリとしてしまう。
「そ、そうですか? 私はいつも通りに仕事をしていただけなのですが」
つい声が上擦ってしまう。こういうところは自分でも格好悪いと思うのだが。
「あなたがそうやって頑張ってくれたから、この宿もできて、わたしはあなたと一緒にいられるのね?」
「実際に骨を折ってくれたのは、一条さんやフィリアさんですよ」
「だけどあなたが色んなところに働きかけなければ、あのふたりでもどうしようもなかったのでしょう?」
「まあ、私の仕事は裏方ですから」
「それが格好いいと思うの。誰かの影に隠れて、でも確実に誰かのためになってる。わたしは、そういうあなたが好きよ。他の誰が褒めなくても、わたしが褒めてあげる」
ロザリンデはおもむろに立ち上がると、部屋の鍵をカチャリと閉める。さらにチェーンまでかける。
「ロザリンデさん? なぜ鍵を?」
「ジョージ、ご褒美をあげるわ」
どこか艶っぽい声色と仕草。丈二は顔を背け、ノートパソコンのほうを向く。
「わ、私はまだ仕事が――」
ぱたん、とロザリンデの手でノートパソコンが閉じられる。
「ジョージ、好きよ。あなたは? ねえ、好きと言って……」
ロザリンデの手のひらが丈二の胸に当てられる。その胸がドキドキと強く鼓動する。
「……好き、ですよ」
「良い子だから?」
「いえ……あなただからです。無邪気で、素直で……。幼く見えるのに大人のようで……だけどやはり子供のようで、放っておけない……目を離せなくなるあなただから、好きなのです」
「やっと言ってくれたわね。嬉しい……」
ロザリンデはそのまま抱きついてきたかと思うと、丈二の体を持ち上げた。
「えっ!?」
すぐベッドの上に放り出される。
「ろ、ロザリンデさん?」
「ご褒美よ、ジョージ。あなたが血をくれたみたいに、今度はわたしがあなたを喜ばせてあげる」
「ま、待ってください。いきなりそんな、まだなにも準備していませんよっ! 心の準備も」
「なら準備しましょう。あなたは、こちらの見た目のほうが好きだったものね」
ロザリンデは一旦霧化して、体を再構成した。前に一度だけ見せた大人の姿だ。
思わず見惚れてしまい、抵抗を忘れてしまう。
「この制服のままでいいかしら? ジョージも好きと言ってくれたものね」
その場でくるりと回ってくれる。短めなスカートがひらりと舞う。それはそれで非常に魅力的だが、丈二は無意識的に首を横に振っていた。
「いえ、あの……初めて見せてくださったときの、ドレス姿のほうが……」
ロザリンデは整った大人の顔で、悪戯っ子みたいな無邪気な笑みを見せた。
すぐゴシックドレス姿に変身してくれた。メガネもかけてくれている。丈二が一目惚れした、あのとびきり美しい姿だ。
「これで準備できたわね。さあ、ジョージ」
「いやしかし、あの」
燃えるように顔が熱い。理性も上手く働かない。これでいいのだろうか? まだ早いんじゃ? でも期待もある。いやしかし。
「大丈夫、わたしに任せて。勉強しておいたわ。インターネットって便利ね」
しまった! ペアレンタルコントロールしておくべきだった!
とか思うが、もはや丈二には、流れに身を任せる他なかった。
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