異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
123 / 182

第123話 【生配信回】ユイちゃんネルの第3階層攻略③

しおりを挟む
 紗夜の放った矢に側頭部を貫かれた火蜥蜴サラマンダーは、ずぅん! と横に倒れた。

「はぁ、はぁ……」

 武器を変身させるのに魔力を消耗しきったのか、紗夜の変身は解ける。弓を引き絞るのに体力も使ったらしく、呼吸も上がっている。それでもまだ火蜥蜴サラマンダーを睨みつけている。

"……やったか!?"

"↑やってないフラグ立てんな"

"マジカルサヨちゃんかっこかわいい!"

"いい冒険を見せてもらった"[¥10000]

"マジカルサヨちゃん推します"[¥8888]

 金髪の女性冒険者も、その場にへたり込んで大きく息をつく。

「ちっ、くそ。やっぱ、やりやがる……」

「紗夜ちゃーん、えへへ……っ、勝利の、ぶい……!」

 結衣もVサインを掲げるが、体力の限界といった様子。地面にぺたんと女の子座りをして、肩を落とす。笑顔を浮かべてはいるが、ちょっとつらそうだ。

"ぶい!"[¥15000]

"ユイちゃんも頑張った!"[¥5000]

"小さい体であのパワーは爽快だね"

"へろへろVサインかわいい"

"かわいいは強い、つまりかわいいは、かわいい"[¥7650]

 紗夜は、ふらふらと結衣のもとに歩み寄る。

「ありがとう、結衣ちゃん。結衣ちゃんがいなきゃ、当てられなかった」

「紗夜ちゃんも、変身してすごい矢を射つの、本当にかっこよかった……。えへへ、好き……」

"ここで百合展開?"

"カメラさんもっと寄って!"

"ん? なんか変な音がしない? おま環?"

"地鳴りみたいな音か?"

"マイクの故障?"

"違うぞ!"

 視聴者たちが指摘する音に、紗夜たちも気付いた。

「地震?」

「ちげーぞ! お前ら武器を構えろ!」

 金髪女性の叫びに、紗夜たちは咄嗟に武具を手に取る。

 そして震源が、奥のほうから近づいてくる。

 大型の爬虫類。四足歩行で俊敏。硬い鱗は生半可な攻撃を弾き、口からは炎を吐く。

「もう、一匹だと……?」

 さらなる火蜥蜴サラマンダーの出現に、金髪女性は唖然とする。

"これは反則だろ"

"フロムゲーじゃねえんだぞ……"

"弱点を狙えばいける?"

"いやもうそんな体力ないよ!"

"お願い! いくらでも支援するから生き延びて!"[¥50000]

 紗夜は周囲を確認。意識不明が1名。骨折で戦闘不能がもう1名。戦えるメンバーも満身創痍。

「逃げましょう!」

 紗夜は結衣の手を引いて駆け出した。金髪女性も、一瞬遅れてそれに従う。

 だが回り込まれる。仲間を殺されて怒っているのか、凶暴性が増している。すぐさま攻撃を仕掛けてくる。

 咄嗟に結衣が前に出るが、今の状態では踏ん張りも効かない。盾ごと弾き飛ばされてしまう。

 紗夜は火蜥蜴サラマンダーの眼前に光源魔法を放った。目眩ましをして、撤退しようという魂胆だろう。

 だがそれは判断ミスだ。火蜥蜴サラマンダーはもともと視力が悪い。主に舌の感覚器官で周囲の様子を知覚している。目眩ましはほとんど意味がない。

 油断した紗夜は、火蜥蜴サラマンダーの巨体の突進にはね飛ばされた。トラックに衝突したような衝撃だろう。強化された体ゆえ即死は免れたが、紗夜はもう戦闘不能だ。

 残された金髪女性に、火蜥蜴サラマンダーは大きく口を開く。火炎を吐く予備動作。喰らえば確実に死ぬ。だが彼女には、もはや防ぐ手立てはない。

 金髪女性はその場に尻もちをつき、絶望の表情を浮かべた。

「……ごめん、はるくん……ッ」

"誰か助けて!"

"カメラさん! なんとかなんないのカメラさん!"

 言われるまでもない。

 おれは撮影に使っていたスマホをフィリアに放り、魔力を溜めつつ駆ける。

 第3階層の濃い魔素マナは、これまで以上におれに力を与えてくれる。1秒にも満たない時間で、おれは火蜥蜴サラマンダーの前に立ち塞がった。

 吐きつけられた炎に合わせ、左手で魔力を放出する。

「――風撃プレッシャー!」

 強烈な風圧が炎を弾く。そのまま前進。右手で剣を抜く。

 炎が吐きつくされた瞬間、おれは踏み込んだ。火蜥蜴サラマンダーは周囲を確認しようと二股の舌を出していた。それを瞬間的に切り落とす。

 途端に火蜥蜴サラマンダーは悶えた。痛みに加え、重要な感覚器官を失ったのだ。混乱した様子で身じろぎし、たまたまぶつかった仲間の死体を、敵だと勘違いして攻撃を加える始末だ。

 その側頭部に、剣の柄を思い切り叩きつける。脳を激しく揺さぶられた火蜥蜴サラマンダーは、足をふらつかせ、横に転んでしまう。

 振り向いてみれば、金髪の女性冒険者は目を丸くしていた。

「あ……あんた、モンスレ……?」

 すぐ立ち上がって虚勢を張る。涙目で、足はまだ震えている。

「や、やっぱりあんた、美味しいとこだけ持ってくんだな! アタシらだって賞金が必要だってのに、独占しやがって……!」

「いや今回の依頼は、あいつを倒すことじゃない。賞金が欲しいなら君がトドメを刺せばいいよ。今なら簡単だ」

「えっ、あ……? いいのかよ?」

「いいよ。おれたちは、賞金を独占したいわけじゃない。みんなが安全に仕事ができるように、って動いてたら、たまたま独占したみたいになっちゃってたんだ。反省したから、やり方を変えるんだ」

「……そう、かよ。え、遠慮は、しねーかんな」

 おれは剣を鞘に収めて、フィリアたちのほうへ戻っていく。

 フィリアは女性冒険者のほうへスマホカメラを向けていた。たぶん、おれの姿は一度も映していないだろう。

"なんか画面が揺れてるうちにモンスター倒れてる"

"あの感じの悪い女がトドメ刺してんじゃん"

"なにがあった?"

"そんなに強いようには見えなかったけど"

"それより紗夜ちゃんは!? ユイちゃんは!?"

 再びおれがスマホカメラを構える。画面外でフィリアが紗夜と結衣に治療魔法をかける。過保護にならないよう、必要最低限の回復だ。

 紗夜たちが画面に戻ってくる。

"無事だった!"

"良かったぁ"

「ご心配おかけしました。スタッフさんに手当してもらってる間に、あの女の人がやっつけてくれたみたいです」

"こんな短時間で復帰できる手当てってどんな手当てよ"

"治療魔法じゃね?"

"モンスレさんかフィリアさんしか使えないはずだよね?"

"これ、撮影者モンスレさんなんじゃ……"

"だとしたらあのモンスター倒せたのも納得"

 紗夜は笑って誤魔化す。

「え、えーっと、満身創痍ですけど、とりあえず目標のボスモンスターは倒しました! みなさん、応援ありがとうございまーす!」

「今日はもうユイたちボロボロなので終了しますっ。この先の探索は、またの機会にお届けしますね! もし良かったらチャンネル登録お願いしまーす!」

"なんか誤魔化してるっぽいけど、まあいっか!"

"無事で良かった"

"ありがとうモンスレさん、本当にありがとう"[¥50000]

「「ではでは、ばいば~い!」」

"乙~!"

"やっぱ生はスリルが違うね"

"今日も良かった!"
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...