異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第124話 遠慮しねーかんなっ! ……ありがとう

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 生配信を終えたところで、金髪の女性冒険者のパーティメンバーを、おれとフィリアで手分けして治療してあげた。

 それが落ち着くと、例の金髪女性が話しかけてきた。

「なあおい、本当の本当にいいんだよな? こいつの討伐証明、アタシらが持ってっちまうぞ」

「だから、いいよって。あ、でも1匹分だけだよ? もう1匹は紗夜ちゃんたちが実力で倒したんだし」

「わーってるよっ、そこまで図々しくねーよっ」

 そう言って討伐証明になる部位を切り取りに行こうとする。が、なぜかすぐ戻って来る。

「……でも、なんで譲ってくれんだよ。アタシらが必死で稼いでる額も、あんたらにとっちゃ、はした金ってことかよ?」

「冗談じゃない。大金だよ。おれたちだって第2階層の宿を開くのに、貯金を使い果たしちゃったんだ。稼げるなら稼ぎたいに決まってる」

「げっ、あれ税金じゃなくてあんたらの金だったのかよ。なんでわざわざ」

「まあ長期的には儲けが出るからってのもあるけど……やっぱり、ああいうのあれば、みんな助かるでしょ?」

「まあ……実際、助かってるけどよ……。でもよ、だったらなおさらなんでだよ。獲物を譲ってくれる理由になってねーぞ」

「だって賞金が必要なんでしょ? ただ欲しいんじゃない。必要なんだって君は言った。なにか事情があって、君は迷宮ダンジョンに挑んでるってことでしょ。そういう人を、おれは放っておきたくない」

「……なにも知らないくせによ」

「知らなくてもいいじゃない。おれはただ、そうしたいからしてる。こういう生き方に、自分の居場所を感じてるだけなんだよ」

「その割には、ぎりぎりまで助けなかったよな」

 これには苦笑を返す。

「本当はすぐ助けたかったんだけどね。おれが出ていって助けてたら、みんなの成長の機会を奪っちゃうし、そしたら結果的に、君に言われたみたいに賞金を独占することにもなっちゃうでしょ」

「……そういうことかよ」

「でも、冒険者は本来、自己責任の世界だ。紗夜ちゃんも言ってたけど、実力と状況を測り間違えたら死ぬことになる。今回はたまたまおれが居合わせて、運が良かったと思って欲しいな」

 金髪女性はこちらを睨み上げる。

「んなこと――! わ、わかってるつーの……」

 が、すぐうつむいてしまう。意地っ張りだが、根は素直なのかもしれない。

 そのまま、ちらっ、ちらっと瞳を何度かこちらに向けてくる。それから悩むような数秒の間があり、意を決して再びこちらを見上げた。

「わ、悪かった、よ……。あんたのこと誤解してた……。腕力でブイブイいわせて、女をはべらせてチャラチャラしてる、反社の代表みたいなやつだと思ってた」

「なにそれ、おれの印象最悪じゃん……」

「だから悪かったっての。会って話してみねーとわかんねーんだな」

「謝ってくれるんならさ、紗夜ちゃんたちにもそうして欲しいな。あの子たちは、本当におれの取り巻きじゃない。おれが過保護になりそうなのを断って、自力でここまで成長してきた、自立した強い女の子なんだよ。少なくとも君たち3人より、あのふたりは強い」

「それもわかってるっつーの。これから行くとこだったんだよっ」

 火蜥蜴サラマンダーから素材を剥ぎ取っている紗夜と結衣のほうへ体を向け、しかし、またこちらを振り返る。

「……アタシ、桜井さくらい雪乃ゆきのってんだ。『花吹雪』のリーダーをやってる」

『花吹雪』というのは、彼女らのパーティ名だ。おれたちは動画サイトのチャンネル名を、そのままパーティ名として登録しているが、他のパーティは彼女らのようにそれぞれのセンスが垣間見える名前がついていたりする。

 ちなみに吾郎たちのパーティ名は『武田組』だ。ヤクザか。

「知ってるよ、雪乃ちゃん。直接は話せなかったけど、パーティマッチングのときに何度かやりとりさせてもらってる」

「……実はアタシ、弟がいるんだ。入院代と手術代が要るからさ……。本当に獲物、もらってくからな。遠慮しねーかんなっ!」

「だから、いいってば。遠慮しまくってるじゃん」

 雪乃は今度こそ離れたかと思ったが、またまた振り向いた。

「……ありがとう」

 これまでの言動とは裏腹に、礼儀正しくペコリとお辞儀をしてから、小走りに駆けていく。

 そして、紗夜たちに話しかけ――いや、話しかけない。声をかけたいけれど気まずくて声をかけられないらしい。でも離れられず近くをうろうろして、逆に紗夜に声をかけられる始末だった。

 やがて、ちゃんと頭を下げる。紗夜と結衣はその謝罪を快く受け入れたようだった。

 それから小一時間後。火蜥蜴サラマンダー2匹分の素材を剥ぎ取り終えたところで撤収となる。

 素材は大量にあるので、おれたちも荷物持ちとして手伝う。

 第2階層に出てからは、スマホでグリフィン騎乗者ライダーへ連絡。2匹に迎えに来てもらった。グリフィンの大きな背中は、客席を装着すれば1匹で5~6人は運べる。宿へ飛んで帰ってもらった。

 これが地上まで歩いて帰るとなると非常に億劫なところだ。頭では理解していたが、実際に体験してみると、グリフィン運送と宿のありがたさが実感できる。

 宿に到着して、いよいよ解散となる。が、雪乃はまたジッとこちらを睨んできていた。

「雪乃ちゃん、まだなんかあった?」

「あ……いやっ、その……」

「なに? 遠慮しなくていいよ?」

「え、遠慮なんかしねーし! なあモンスレさん……さ、さ……」

「うん?」

「サイン……くんない? って勘違いすんなよ! 弟がな!? よりにもよってモンスレチャンネルの大ファンでな!? あんたのサインなら喜ぶんだよ!」

「サインって言われてもな……。おれ、そんなの書いたことないよ」

「そこをなんとか頼むよ」

 困っていると、フィリアや丈二たちが口を挟んでくる。

「タクト様、怠慢ですよ。サインの練習はしておくべきでした」

「そうですよ。私でさえサインくらい中学生の頃には考えていたのです」

 さらに紗夜や結衣までツッコんでくる。

「らしくないですよ、先生。冒険ならいつも万全なのに」

「人気配信者なら、準備しておいて当然、です」

「よくわからないけど、タクトの怠慢みたいね。反省なさい」

 さらにロザリンデまで。

「いや君らがミーハー過ぎるんじゃない……?」

 とはいえ、雪乃の懇願の眼差しを無下にはできない。

「サインはまた今度考えとくから、今日のところは一緒に記念撮影しない? モンスレチャンネルと、ユイちゃんネルのみんなと」

「いいの!? マジで!?」

 雪乃は跳ねるように喜んで、提案を受け入れてくれた。

 が、しかし……。

 数日後、宿で雪乃に再会したら、仏頂面でこんなことを言われた。

「やっぱり、あんた嫌いだわ……」
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