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第135話 正義の味方
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「自分こそが正義だと信じると、最初の純粋な気持ちも忘れて、どんどん残酷になっていっちゃうんだ。今はせいぜい大怪我をさせてるくらいだけど、この先、異常な拷問をしたり、その結果殺してしまったり……」
「俺が、そうなるって言うんすか」
「君だけじゃない。おれだってなるかもしれない。いや、同じことをしてたら、他の誰だって……雪乃ちゃんだって、フィリアさんだってそうなるかもしれない」
「人が一番残酷になるのは自分が正義だと確信したときだ、ってのは俺も聞いたことありますけど……それ、本当なんですかね?」
「本当だよ。おれも何度か見たことがあるし、君だって見てきたはずだ」
「俺が……?」
「君の……亡くなってしまった弟さんをいじめてた連中は、自分が悪いことをしてるなんて思っちゃいなかっただろうさ。むしろ君の弟さんが悪いと決めつけてたんじゃないか。それに、それを庇ってた連中も、若者の未来を守るなんていう正義に酔っていたんだろう」
「……そっか。俺は、あれを悪だと思ってましたけど……やつらにとっては正義だったんすね……」
「おれたちは、そんなふうになっちゃダメだ」
「でも……じゃあ、どうすりゃいいんすか? なにを信じて戦えばいいんすか?」
「自分が信じてる誰かの、正義や志かな」
「……すいません、よくわからないっす……」
「例えばだけど、丈二さんなんかは本心では、闇冒険者を叩きのめして見せしめにしたいと思ってる。でも立場があって、自分がやるわけにも、そうするべきだと口にすることもできない。君がしたことに、賛同することもできずにいる」
「津田先生なら、そうでしょうね」
「だからこそ丈二さんは、正義を暴走させようがない。ずっと初心のまま、実行できない正義を抱えてる。おれたちは、そんな想いを指針にするんだ。誰かの正義に寄り添って、味方してあげるだけでいい」
「誰かの正義に、味方……。あ、もしかして『正義の味方』って、そういう意味だったんすかね?」
「どうだろ。語源についてはよく知らないけど、そういう意味なら、おれたちがなるのは『正義の味方』までだ。間違っても『正義』になんて、なっちゃいけない」
「よくわかりました。やっぱ先生は、先生っすね。これまでのどんな動画より、かっこいいっすよ」
そうして隼人は、やっと彼本来の朗らかな笑みを見せてくれた。
「俺、雪乃先生の正義の味方になろうと思います。雪乃先生も、きっと俺たちと気持ちは同じで……だけど、弟さんのことがあって無茶ができずにいるんです。だから、その分は俺がやる。その分だけを。それでいいんすよね?」
「ああ、いいと思う。やりすぎたら雪乃ちゃんに嫌われるって思ってれば、きっと暴走はしないよ」
「あははっ、でも俺、もう嫌われてるかもしんねーっす……。パーティ入りも、結構強引にやっちゃいましたし……雪乃先生の都合も考えずに、勢いで告っちゃって……」
「嫌われてるなら、とっくにパーティを追い出されてるさ。それより、せっかくだし今日はふたりで闇冒険者に制裁に行こうか?」
「いいっすね……って言いたいところっすけど、先生、やっぱその覆面じゃダメっすよ。絶対、先生だってすぐバレますよ、それ」
おれは自分の覆面をまじまじと見つめる。確かにクオリティは低い。実物の見れないネット通販の難点だ。
「ど、どうしよう?」
「今日は俺ひとりで行きますよ。先生は、バレないようについてくるくらいでお願いします。生配信もするんで、絶対カメラに映っちゃダメっすよ」
「オーケイ。わかってると思うけど、やりすぎないようにね。追い詰められた闇冒険者が、総出でファルコン狩りを始めてしまうかもしれない」
すると隼人は、なにか閃いたらしく顔を上げた。
「むしろそれ、チャンスじゃないっすか?」
◇
ファルコンはその後も活動を続けた。
そのすべてを生配信していたわけではない。おれが実行するときには、配信は無しだ。口調や体格などから別人だとバレる可能性があったからだ。
活動はなるべく派手に。ただし隼人が初回でやったような、大怪我をさせるようなことはもうしない。
おれは異世界で学んで、怪我をさせずに恐怖と苦痛を与える手段を複数知っている。それを隼人にも伝授して、実施しているからだ。
そうしていくうちに、狙っていた事態に進展した。
第2階層の宿。会議室にて、丈二はノートパソコンを広げた。
「闇サイト運営から、ファルコンに賞金がかけられましたよ」
「どれどれ。さすが依頼報酬の10%を手数料で取ってきただけあるね。いい金額を出すじゃないか」
フィリアはその金額を睨みつける。
「10%なんて取りすぎです。ただでさえ非道なのに、ここまで来るともはや外道です」
「その外道は、ファルコンを討ち取るのに、なるべく大勢で立ち向かうよう指示してるわね。追い詰められているのが見え見えだわ」
ロザリンデの笑みに、雪乃も同じように不敵に笑う。
「そんで集まったところに、アタシたちが乗り込めば一網打尽だぜ。なー、隼人?」
隼人はおれと目配せをしてから頷く。
「そう来ると思って、割り出しておいたっすよ。ファルコンは3日後の夜、第3階層に現れるはずです」
紗夜が感心する。
「すごい。どうやって割り出したの?」
「レベル2の闇冒険者はだいたい片付いたし、次はレベル3の連中って考えれば、そいつらが潜伏してるのは第3階層ですし」
そんな隼人に、結衣はジト目を向ける。
「なんで、日にちまで……わかるの?」
「そりゃあ俺と一条先生はずっとファルコンを追ってたっすからね。やっとパターンが見えてきたんすよ」
「実は、ファルコンの正体知ってるから……じゃない?」
びっくぅ! と隼人は固まった。
「ま、まさかぁ~」
困ったようにチラチラとおれに視線を向けてくる。やめて。冷静になって。そんなあからさまにうろたえてたらバレるから。
「それより丈二さん、今の情報を闇サイトにそれとなく流せるかい? その日、第3階層にできるだけ集めてやろう」
「ええ、やっておきます」
そこで隼人は遠慮がちに手を上げる。
「ただあの、俺、その日は外せない用事があって、参加できそうにないっす……」
すると雪乃は呆れたように苦笑した。
「またかよ、隼人……」
「すんません……」
それを見て、ロザリンデも涼しげに宣言する。
「いいじゃない。その日はわたしも、推しの生配信があるわ。不参加とさせてもらうわ」
「ロザリンデさんまで?」
表情を曇らせる丈二だが、おれは肩をすくめる。
「いいさ。これだけのメンバーが揃ってるんだ。戦力は充分だよ」
――そして、3日後。
闇冒険者一網打尽作戦が決行された。
「俺が、そうなるって言うんすか」
「君だけじゃない。おれだってなるかもしれない。いや、同じことをしてたら、他の誰だって……雪乃ちゃんだって、フィリアさんだってそうなるかもしれない」
「人が一番残酷になるのは自分が正義だと確信したときだ、ってのは俺も聞いたことありますけど……それ、本当なんですかね?」
「本当だよ。おれも何度か見たことがあるし、君だって見てきたはずだ」
「俺が……?」
「君の……亡くなってしまった弟さんをいじめてた連中は、自分が悪いことをしてるなんて思っちゃいなかっただろうさ。むしろ君の弟さんが悪いと決めつけてたんじゃないか。それに、それを庇ってた連中も、若者の未来を守るなんていう正義に酔っていたんだろう」
「……そっか。俺は、あれを悪だと思ってましたけど……やつらにとっては正義だったんすね……」
「おれたちは、そんなふうになっちゃダメだ」
「でも……じゃあ、どうすりゃいいんすか? なにを信じて戦えばいいんすか?」
「自分が信じてる誰かの、正義や志かな」
「……すいません、よくわからないっす……」
「例えばだけど、丈二さんなんかは本心では、闇冒険者を叩きのめして見せしめにしたいと思ってる。でも立場があって、自分がやるわけにも、そうするべきだと口にすることもできない。君がしたことに、賛同することもできずにいる」
「津田先生なら、そうでしょうね」
「だからこそ丈二さんは、正義を暴走させようがない。ずっと初心のまま、実行できない正義を抱えてる。おれたちは、そんな想いを指針にするんだ。誰かの正義に寄り添って、味方してあげるだけでいい」
「誰かの正義に、味方……。あ、もしかして『正義の味方』って、そういう意味だったんすかね?」
「どうだろ。語源についてはよく知らないけど、そういう意味なら、おれたちがなるのは『正義の味方』までだ。間違っても『正義』になんて、なっちゃいけない」
「よくわかりました。やっぱ先生は、先生っすね。これまでのどんな動画より、かっこいいっすよ」
そうして隼人は、やっと彼本来の朗らかな笑みを見せてくれた。
「俺、雪乃先生の正義の味方になろうと思います。雪乃先生も、きっと俺たちと気持ちは同じで……だけど、弟さんのことがあって無茶ができずにいるんです。だから、その分は俺がやる。その分だけを。それでいいんすよね?」
「ああ、いいと思う。やりすぎたら雪乃ちゃんに嫌われるって思ってれば、きっと暴走はしないよ」
「あははっ、でも俺、もう嫌われてるかもしんねーっす……。パーティ入りも、結構強引にやっちゃいましたし……雪乃先生の都合も考えずに、勢いで告っちゃって……」
「嫌われてるなら、とっくにパーティを追い出されてるさ。それより、せっかくだし今日はふたりで闇冒険者に制裁に行こうか?」
「いいっすね……って言いたいところっすけど、先生、やっぱその覆面じゃダメっすよ。絶対、先生だってすぐバレますよ、それ」
おれは自分の覆面をまじまじと見つめる。確かにクオリティは低い。実物の見れないネット通販の難点だ。
「ど、どうしよう?」
「今日は俺ひとりで行きますよ。先生は、バレないようについてくるくらいでお願いします。生配信もするんで、絶対カメラに映っちゃダメっすよ」
「オーケイ。わかってると思うけど、やりすぎないようにね。追い詰められた闇冒険者が、総出でファルコン狩りを始めてしまうかもしれない」
すると隼人は、なにか閃いたらしく顔を上げた。
「むしろそれ、チャンスじゃないっすか?」
◇
ファルコンはその後も活動を続けた。
そのすべてを生配信していたわけではない。おれが実行するときには、配信は無しだ。口調や体格などから別人だとバレる可能性があったからだ。
活動はなるべく派手に。ただし隼人が初回でやったような、大怪我をさせるようなことはもうしない。
おれは異世界で学んで、怪我をさせずに恐怖と苦痛を与える手段を複数知っている。それを隼人にも伝授して、実施しているからだ。
そうしていくうちに、狙っていた事態に進展した。
第2階層の宿。会議室にて、丈二はノートパソコンを広げた。
「闇サイト運営から、ファルコンに賞金がかけられましたよ」
「どれどれ。さすが依頼報酬の10%を手数料で取ってきただけあるね。いい金額を出すじゃないか」
フィリアはその金額を睨みつける。
「10%なんて取りすぎです。ただでさえ非道なのに、ここまで来るともはや外道です」
「その外道は、ファルコンを討ち取るのに、なるべく大勢で立ち向かうよう指示してるわね。追い詰められているのが見え見えだわ」
ロザリンデの笑みに、雪乃も同じように不敵に笑う。
「そんで集まったところに、アタシたちが乗り込めば一網打尽だぜ。なー、隼人?」
隼人はおれと目配せをしてから頷く。
「そう来ると思って、割り出しておいたっすよ。ファルコンは3日後の夜、第3階層に現れるはずです」
紗夜が感心する。
「すごい。どうやって割り出したの?」
「レベル2の闇冒険者はだいたい片付いたし、次はレベル3の連中って考えれば、そいつらが潜伏してるのは第3階層ですし」
そんな隼人に、結衣はジト目を向ける。
「なんで、日にちまで……わかるの?」
「そりゃあ俺と一条先生はずっとファルコンを追ってたっすからね。やっとパターンが見えてきたんすよ」
「実は、ファルコンの正体知ってるから……じゃない?」
びっくぅ! と隼人は固まった。
「ま、まさかぁ~」
困ったようにチラチラとおれに視線を向けてくる。やめて。冷静になって。そんなあからさまにうろたえてたらバレるから。
「それより丈二さん、今の情報を闇サイトにそれとなく流せるかい? その日、第3階層にできるだけ集めてやろう」
「ええ、やっておきます」
そこで隼人は遠慮がちに手を上げる。
「ただあの、俺、その日は外せない用事があって、参加できそうにないっす……」
すると雪乃は呆れたように苦笑した。
「またかよ、隼人……」
「すんません……」
それを見て、ロザリンデも涼しげに宣言する。
「いいじゃない。その日はわたしも、推しの生配信があるわ。不参加とさせてもらうわ」
「ロザリンデさんまで?」
表情を曇らせる丈二だが、おれは肩をすくめる。
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