異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
137 / 182

第137話 金の話なんてしてねーんだよ!

しおりを挟む
 ファルコンが崩れ落ちる。その胸元から落ちたスマホを、梨央は踏み砕いた。

「梨央、てめーなにを――!?」

 詰め寄ろうとした雪乃に、梨央は剣の切先を向ける。

「だって、ファルコン邪魔だもん。チャンスがあればやるのは当たり前でしょ」

 梨央だけじゃない。そのパーティメンバーも、雪乃たちに武器を向ける。

「そうかよ、てめーら……てめーらも、闇冒険者かよ! ちくしょう、ダチだと思ってたのはアタシだけだったってのかよ!?」

「えー、あたしは友達だと思ってるけど。それとこれは話が別じゃん?」

「別なもんかよ! ふざけたことしやがって!」

 ちらりと雪乃はファルコンの様子を確認する。

 背中から剣で刺し貫かれたファルコンは、倒れたまま動かない。血溜まりが広がっていく。だが彼のレベルなら体力HPも相当高いはずだ。まだ死んでいない。応急処置をすれば、命を救うことができる。

 そのためには、闇冒険者どもを排除し、安全を確保しなければならない。

「覚悟しろよ、てめーら! ただじゃおかねー!」

 即座に戦闘を再開しようとする雪乃たち。だが梨央は冷静に、冷酷に、それでいて柔和な笑みを浮かべつつ、倒れたファルコンの首筋に剣先を当てた。

「そんなこと言わずお話聞いてよー」

「てめー、梨央! その剣をどかせ!」

「雪乃があたしの言うこと聞いてくれたら、考えてあげる。手当してあげてもいいかなぁ」

 雪乃は梨央を睨むが、一方の梨央は涼しい顔だ。雪乃は剣を下ろさざるを得ない。

「そうそう、そうこなくちゃ。やっぱり、友達の話は聞いてくれないと」

「御託はいーんだよ! なんだよ話ってのは」

「簡単よ。ね、ここにはどうせモンスレさんたちも来るんでしょ? あなたたちずいぶん信用されてるみたいだし、さっきあたしがやったみたいに後ろから刺してやって欲しいんだよねー」

「アタシが、んなことするわきゃねーだろ……」

「もちろんタダじゃないよ。たっくさんお金あげる。弟くんの手術代、余裕で払えるくらいあげちゃう」

「ざけんな。闇依頼やってても楽に払える額じゃねーぞ」

「心配ご無用。これまで手数料でがっぽり稼いでるし、なんならスポンサーもいるし」

「手数料って……ま、まさか! てめーが、闇サイトの!?」

「まーねー。発案はあたしじゃないんだけど、楽しく運営させてもらってるよ」

「じゃあ、全部てめーのせいってことじゃねーか! ただでさえ迷宮ダンジョンに命張ってんのに、余計な仕事増やしやがって! なんでこんなことしやがる!」

「だって、どうせなら独り占めしたいじゃん。モンスレさんみたいにさあ」

「ああ?」

「ダンジョンルーターの月額レンタル料とかさぁ、宿の賃料だとか、他にもパーティマッチング手数料に、他にも色々たくさん、あの人たちたっぷり稼いでるじゃん。やっぱ人が絶対必要な物とか事って儲かるんだよね」

「つまりなんだ、てめーは、モンスレたちに成り代わりてーってわけかよ? あいつらがどんな気持ちでやってるのかも知らねーで」

「成り代わるだけじゃないよ。せっかく警察もいない、暴力で優劣決められる場所なんだから、もっともっとみんなで好き勝手に、自由に生きられるようにしたいの。絶対そのほうが面白いって。ファンタジーってそういうもんじゃん」

「ファンタジーがどうとか知らねーけどよ。残念だったな、ここは現実だぜ。警察官は冒険者ライセンス取ろうとしてるらしいしよ、冒険者に試験やらせて合格したら警察権限を追加するなんて話も出てるんだぜ。お前の思う通りにはなんねーよ」

「だから、そうなる前に邪魔者にはみんな消えてもらって、色々改革するんじゃない。ねえ雪乃、一緒にやろうよ。あたしたち気が合うんだしさ、いいパートナーになれるよ」

「……んなわきゃねーだろ」

「あ、そっか。弟くんの手術が済めば、冒険者やる必要ないかー。でも今後の生活のためにも、稼いでおいたほうがいいと思うよ」

「金の話なんてしてねーんだよ! だいたい、てめーにもらった金で助けて、弟が喜ぶかってんだよ! それに弟はモンスレのファンなんだよ。そのモンスレを裏切っちまったら、弟に顔向けなんて一生できねー。だからよ、てめーの話なんざ呑めねーんだよ!」

「そっかー……残念だなぁ。だったら、お別れだね。ファルコンともどもぶっ殺しちゃうけど、本当にいいの?」

「てめーにできるかどうかはともかく、ファルコンも本望だろうよ。アタシが裏切ってまで、そいつを助けたら、そいつからだって一生軽蔑されちまう!」

 雪乃の啖呵に、柔和だった梨央の表情が変わる。冷徹な鋭い殺意が込められる。

 だが――。

「――よく言ったわ、ユキノ。あなたのそういうところ、わたしは好きよ」

「――!?」

 ロザリンデの声だ。姿は見えない。しかし、その声はファルコンのほうから聞こえてきたような……?

 梨央もそのことに気づいて、視線を下げた。

 その瞬間、ファルコンの体から、ぶわっと霧が湧き上がる。そしてその霧が一ヶ所に集まり、形を成した。ロザリンデの姿が現れる。

「ハヤトも、あなたのそういうところに惹かれたのかもしれないわね」

 そしてファルコンも、霧に連れられて移動していた。ロザリンデの隣で、立ち上がっている。

 貫かれたはずの傷は、ない。

「ロゼ……? どーいうことだよ、こりゃ」

「あら、言ったでしょう? 今日は推しの生配信があるって。その推しが危ない気がしたから、わたしの変身魔法の応用で、こっそり同行していたのよ」

 にこり、とロザリンデは不敵に笑う。

「そしたら案の定だったわ。刺される直前に身をかわさせて、刺さったように見せかけておいたの。それで機会を窺ってたら、その女、面白そうなこと口走るじゃない」

 ロザリンデはいつも手に持っている愛用のタブレットを掲げてみせる。

「あなた、斎川さいかわ梨央りお……だったわね? さっきの発言は全部、生配信していたわ。あなたはもう終わりよ」

 そこに、今度こそ味方が駆けつける。

「『武田組』、助太刀するぜ! よく持ちこたえたな、『花吹雪』!」

 さらに別方向からもうひと組。

「『ユイちゃんネル』も到着です! 加勢します!」

「ロザりん、グッジョブ!」

 そして真打とばかりに、最後に彼らが現れる。

「間に合った! 『モンスレチャンネル』も参戦させてもらう!」

 ファルコンも含め、トップエース級の冒険者が13人。

 いかに闇冒険者が、レベル4パーティも含めた数十人の戦力を動員しようとも、もはや勝負にはならない。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...