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第137話 金の話なんてしてねーんだよ!
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ファルコンが崩れ落ちる。その胸元から落ちたスマホを、梨央は踏み砕いた。
「梨央、てめーなにを――!?」
詰め寄ろうとした雪乃に、梨央は剣の切先を向ける。
「だって、ファルコン邪魔だもん。チャンスがあればやるのは当たり前でしょ」
梨央だけじゃない。そのパーティメンバーも、雪乃たちに武器を向ける。
「そうかよ、てめーら……てめーらも、闇冒険者かよ! ちくしょう、ダチだと思ってたのはアタシだけだったってのかよ!?」
「えー、あたしは友達だと思ってるけど。それとこれは話が別じゃん?」
「別なもんかよ! ふざけたことしやがって!」
ちらりと雪乃はファルコンの様子を確認する。
背中から剣で刺し貫かれたファルコンは、倒れたまま動かない。血溜まりが広がっていく。だが彼のレベルなら体力も相当高いはずだ。まだ死んでいない。応急処置をすれば、命を救うことができる。
そのためには、闇冒険者どもを排除し、安全を確保しなければならない。
「覚悟しろよ、てめーら! ただじゃおかねー!」
即座に戦闘を再開しようとする雪乃たち。だが梨央は冷静に、冷酷に、それでいて柔和な笑みを浮かべつつ、倒れたファルコンの首筋に剣先を当てた。
「そんなこと言わずお話聞いてよー」
「てめー、梨央! その剣をどかせ!」
「雪乃があたしの言うこと聞いてくれたら、考えてあげる。手当してあげてもいいかなぁ」
雪乃は梨央を睨むが、一方の梨央は涼しい顔だ。雪乃は剣を下ろさざるを得ない。
「そうそう、そうこなくちゃ。やっぱり、友達の話は聞いてくれないと」
「御託はいーんだよ! なんだよ話ってのは」
「簡単よ。ね、ここにはどうせモンスレさんたちも来るんでしょ? あなたたちずいぶん信用されてるみたいだし、さっきあたしがやったみたいに後ろから刺してやって欲しいんだよねー」
「アタシが、んなことするわきゃねーだろ……」
「もちろんタダじゃないよ。たっくさんお金あげる。弟くんの手術代、余裕で払えるくらいあげちゃう」
「ざけんな。闇依頼やってても楽に払える額じゃねーぞ」
「心配ご無用。これまで手数料でがっぽり稼いでるし、なんならスポンサーもいるし」
「手数料って……ま、まさか! てめーが、闇サイトの!?」
「まーねー。発案はあたしじゃないんだけど、楽しく運営させてもらってるよ」
「じゃあ、全部てめーのせいってことじゃねーか! ただでさえ迷宮に命張ってんのに、余計な仕事増やしやがって! なんでこんなことしやがる!」
「だって、どうせなら独り占めしたいじゃん。モンスレさんみたいにさあ」
「ああ?」
「ダンジョンルーターの月額レンタル料とかさぁ、宿の賃料だとか、他にもパーティマッチング手数料に、他にも色々たくさん、あの人たちたっぷり稼いでるじゃん。やっぱ人が絶対必要な物とか事って儲かるんだよね」
「つまりなんだ、てめーは、モンスレたちに成り代わりてーってわけかよ? あいつらがどんな気持ちでやってるのかも知らねーで」
「成り代わるだけじゃないよ。せっかく警察もいない、暴力で優劣決められる場所なんだから、もっともっとみんなで好き勝手に、自由に生きられるようにしたいの。絶対そのほうが面白いって。ファンタジーってそういうもんじゃん」
「ファンタジーがどうとか知らねーけどよ。残念だったな、ここは現実だぜ。警察官は冒険者ライセンス取ろうとしてるらしいしよ、冒険者に試験やらせて合格したら警察権限を追加するなんて話も出てるんだぜ。お前の思う通りにはなんねーよ」
「だから、そうなる前に邪魔者にはみんな消えてもらって、色々改革するんじゃない。ねえ雪乃、一緒にやろうよ。あたしたち気が合うんだしさ、いいパートナーになれるよ」
「……んなわきゃねーだろ」
「あ、そっか。弟くんの手術が済めば、冒険者やる必要ないかー。でも今後の生活のためにも、稼いでおいたほうがいいと思うよ」
「金の話なんてしてねーんだよ! だいたい、てめーにもらった金で助けて、弟が喜ぶかってんだよ! それに弟はモンスレのファンなんだよ。そのモンスレを裏切っちまったら、弟に顔向けなんて一生できねー。だからよ、てめーの話なんざ呑めねーんだよ!」
「そっかー……残念だなぁ。だったら、お別れだね。ファルコンともどもぶっ殺しちゃうけど、本当にいいの?」
「てめーにできるかどうかはともかく、ファルコンも本望だろうよ。アタシが裏切ってまで、そいつを助けたら、そいつからだって一生軽蔑されちまう!」
雪乃の啖呵に、柔和だった梨央の表情が変わる。冷徹な鋭い殺意が込められる。
だが――。
「――よく言ったわ、ユキノ。あなたのそういうところ、わたしは好きよ」
「――!?」
ロザリンデの声だ。姿は見えない。しかし、その声はファルコンのほうから聞こえてきたような……?
梨央もそのことに気づいて、視線を下げた。
その瞬間、ファルコンの体から、ぶわっと霧が湧き上がる。そしてその霧が一ヶ所に集まり、形を成した。ロザリンデの姿が現れる。
「ハヤトも、あなたのそういうところに惹かれたのかもしれないわね」
そしてファルコンも、霧に連れられて移動していた。ロザリンデの隣で、立ち上がっている。
貫かれたはずの傷は、ない。
「ロゼ……? どーいうことだよ、こりゃ」
「あら、言ったでしょう? 今日は推しの生配信があるって。その推しが危ない気がしたから、わたしの変身魔法の応用で、こっそり同行していたのよ」
にこり、とロザリンデは不敵に笑う。
「そしたら案の定だったわ。刺される直前に身をかわさせて、刺さったように見せかけておいたの。それで機会を窺ってたら、その女、面白そうなこと口走るじゃない」
ロザリンデはいつも手に持っている愛用のタブレットを掲げてみせる。
「あなた、斎川梨央……だったわね? さっきの発言は全部、生配信していたわ。あなたはもう終わりよ」
そこに、今度こそ味方が駆けつける。
「『武田組』、助太刀するぜ! よく持ちこたえたな、『花吹雪』!」
さらに別方向からもうひと組。
「『ユイちゃんネル』も到着です! 加勢します!」
「ロザりん、グッジョブ!」
そして真打とばかりに、最後に彼らが現れる。
「間に合った! 『モンスレチャンネル』も参戦させてもらう!」
ファルコンも含め、トップエース級の冒険者が13人。
いかに闇冒険者が、レベル4パーティも含めた数十人の戦力を動員しようとも、もはや勝負にはならない。
「梨央、てめーなにを――!?」
詰め寄ろうとした雪乃に、梨央は剣の切先を向ける。
「だって、ファルコン邪魔だもん。チャンスがあればやるのは当たり前でしょ」
梨央だけじゃない。そのパーティメンバーも、雪乃たちに武器を向ける。
「そうかよ、てめーら……てめーらも、闇冒険者かよ! ちくしょう、ダチだと思ってたのはアタシだけだったってのかよ!?」
「えー、あたしは友達だと思ってるけど。それとこれは話が別じゃん?」
「別なもんかよ! ふざけたことしやがって!」
ちらりと雪乃はファルコンの様子を確認する。
背中から剣で刺し貫かれたファルコンは、倒れたまま動かない。血溜まりが広がっていく。だが彼のレベルなら体力も相当高いはずだ。まだ死んでいない。応急処置をすれば、命を救うことができる。
そのためには、闇冒険者どもを排除し、安全を確保しなければならない。
「覚悟しろよ、てめーら! ただじゃおかねー!」
即座に戦闘を再開しようとする雪乃たち。だが梨央は冷静に、冷酷に、それでいて柔和な笑みを浮かべつつ、倒れたファルコンの首筋に剣先を当てた。
「そんなこと言わずお話聞いてよー」
「てめー、梨央! その剣をどかせ!」
「雪乃があたしの言うこと聞いてくれたら、考えてあげる。手当してあげてもいいかなぁ」
雪乃は梨央を睨むが、一方の梨央は涼しい顔だ。雪乃は剣を下ろさざるを得ない。
「そうそう、そうこなくちゃ。やっぱり、友達の話は聞いてくれないと」
「御託はいーんだよ! なんだよ話ってのは」
「簡単よ。ね、ここにはどうせモンスレさんたちも来るんでしょ? あなたたちずいぶん信用されてるみたいだし、さっきあたしがやったみたいに後ろから刺してやって欲しいんだよねー」
「アタシが、んなことするわきゃねーだろ……」
「もちろんタダじゃないよ。たっくさんお金あげる。弟くんの手術代、余裕で払えるくらいあげちゃう」
「ざけんな。闇依頼やってても楽に払える額じゃねーぞ」
「心配ご無用。これまで手数料でがっぽり稼いでるし、なんならスポンサーもいるし」
「手数料って……ま、まさか! てめーが、闇サイトの!?」
「まーねー。発案はあたしじゃないんだけど、楽しく運営させてもらってるよ」
「じゃあ、全部てめーのせいってことじゃねーか! ただでさえ迷宮に命張ってんのに、余計な仕事増やしやがって! なんでこんなことしやがる!」
「だって、どうせなら独り占めしたいじゃん。モンスレさんみたいにさあ」
「ああ?」
「ダンジョンルーターの月額レンタル料とかさぁ、宿の賃料だとか、他にもパーティマッチング手数料に、他にも色々たくさん、あの人たちたっぷり稼いでるじゃん。やっぱ人が絶対必要な物とか事って儲かるんだよね」
「つまりなんだ、てめーは、モンスレたちに成り代わりてーってわけかよ? あいつらがどんな気持ちでやってるのかも知らねーで」
「成り代わるだけじゃないよ。せっかく警察もいない、暴力で優劣決められる場所なんだから、もっともっとみんなで好き勝手に、自由に生きられるようにしたいの。絶対そのほうが面白いって。ファンタジーってそういうもんじゃん」
「ファンタジーがどうとか知らねーけどよ。残念だったな、ここは現実だぜ。警察官は冒険者ライセンス取ろうとしてるらしいしよ、冒険者に試験やらせて合格したら警察権限を追加するなんて話も出てるんだぜ。お前の思う通りにはなんねーよ」
「だから、そうなる前に邪魔者にはみんな消えてもらって、色々改革するんじゃない。ねえ雪乃、一緒にやろうよ。あたしたち気が合うんだしさ、いいパートナーになれるよ」
「……んなわきゃねーだろ」
「あ、そっか。弟くんの手術が済めば、冒険者やる必要ないかー。でも今後の生活のためにも、稼いでおいたほうがいいと思うよ」
「金の話なんてしてねーんだよ! だいたい、てめーにもらった金で助けて、弟が喜ぶかってんだよ! それに弟はモンスレのファンなんだよ。そのモンスレを裏切っちまったら、弟に顔向けなんて一生できねー。だからよ、てめーの話なんざ呑めねーんだよ!」
「そっかー……残念だなぁ。だったら、お別れだね。ファルコンともどもぶっ殺しちゃうけど、本当にいいの?」
「てめーにできるかどうかはともかく、ファルコンも本望だろうよ。アタシが裏切ってまで、そいつを助けたら、そいつからだって一生軽蔑されちまう!」
雪乃の啖呵に、柔和だった梨央の表情が変わる。冷徹な鋭い殺意が込められる。
だが――。
「――よく言ったわ、ユキノ。あなたのそういうところ、わたしは好きよ」
「――!?」
ロザリンデの声だ。姿は見えない。しかし、その声はファルコンのほうから聞こえてきたような……?
梨央もそのことに気づいて、視線を下げた。
その瞬間、ファルコンの体から、ぶわっと霧が湧き上がる。そしてその霧が一ヶ所に集まり、形を成した。ロザリンデの姿が現れる。
「ハヤトも、あなたのそういうところに惹かれたのかもしれないわね」
そしてファルコンも、霧に連れられて移動していた。ロザリンデの隣で、立ち上がっている。
貫かれたはずの傷は、ない。
「ロゼ……? どーいうことだよ、こりゃ」
「あら、言ったでしょう? 今日は推しの生配信があるって。その推しが危ない気がしたから、わたしの変身魔法の応用で、こっそり同行していたのよ」
にこり、とロザリンデは不敵に笑う。
「そしたら案の定だったわ。刺される直前に身をかわさせて、刺さったように見せかけておいたの。それで機会を窺ってたら、その女、面白そうなこと口走るじゃない」
ロザリンデはいつも手に持っている愛用のタブレットを掲げてみせる。
「あなた、斎川梨央……だったわね? さっきの発言は全部、生配信していたわ。あなたはもう終わりよ」
そこに、今度こそ味方が駆けつける。
「『武田組』、助太刀するぜ! よく持ちこたえたな、『花吹雪』!」
さらに別方向からもうひと組。
「『ユイちゃんネル』も到着です! 加勢します!」
「ロザりん、グッジョブ!」
そして真打とばかりに、最後に彼らが現れる。
「間に合った! 『モンスレチャンネル』も参戦させてもらう!」
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