異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第148話 【生配信回】悪い冒険者をやっつけろ!③

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 足元しか映らない配信画面に現れた何者かは、猛然と駆け出した。

 遅れて衝撃音。梨央の短い悲鳴。

「お前、は……!?」

 吾郎の驚く声。そして紗夜たちの声も。

「本当に……生きてたんだね」

「やっぱり、ゆきのんがピンチになったら、来てくれるんだ」

「お前……お前! 今までどこにいたんだよぉ! どれだけ心配したと――死んじまったって思って、あ、アタシがどんな気持ちだったか思わかるかバカやろぉー……!」

 雪乃は、強い喜びの混じった涙声を上げていた。

"誰だ? モンスレさんじゃないぞ!"

"でもみんな知ってるみたいだけど"

"誰でもいい! みんなを助けてくれ!"

"いやモンスレさん以外になんとかできるわけないって!"

"せめて時間稼ぎ頼む!"

 犬や狼に似た鳴き声が上がり、激しい戦闘の音が響いてくる。

 その間に、吾郎がカメラに近づいてきた。カメラ係に手を差し出す。

「覚えたてでまだ慣れねえが少しはマシになるはずだ」

 弱々しい魔法の光が灯る。治療魔法で応急処置をしているらしい。

「そのまま休んでろ、オレはもうひとりを……」

 カメラ係が上半身を起こす。吾郎が次の応急処置に向かう姿が映る。

 そして、戦いの様子にカメラが向けられる。ぽつり、と呟く。

「……は、や――いや、ファルコン……?」

"ファルコン!?"

"あの闇冒険者制裁人のファルコンか!?"

"実在したのか"

"トップ冒険者の誰かだと思ってたのに、別に存在すんの!?"

"いいぞ、希望が出てきた"

"生きて帰って美味いもんでも食べてくれー!"[¥50000]

"支援!"[¥10000]

"こんなことしかできないのが口惜しい"[¥25000]

 梨央に立ち向かっているのは、ひとりの青年だ。カメラの角度と動きの激しさで、顔は鮮明に映らない。

 凄まじい速さの攻防が続く。隙をついた青年の一撃が、梨央を捉えた。傷つき転がる梨央だが、すぐ再生しつつ立ち上がる。

 その青年は梨央ほど異形ではない。ほとんど人間だが、頭部や下半身にイヌ科の部位が混じっている。

"噂の人型魔物モンスターのもうひとりは、ファルコンだったのか"

"いやファルコンて。あれはどっちかっつーと、犬?"

"狼?"

"ファルコンなのに?"

"こんなときにアレだけど、ファルコンなのに犬で草"

 梨央は怒りの形相を見せる。

「あたし以外のもうひとりは、やっぱりあなただったのね! ぐうう――!」

 2本腕のままでは不利と見たか、梨央は全身に力を込める。赤く発光し、体の節々から蒸気が上がる。

 自らが飛ばしたカマの腕2本が再生。さらに、まだ人間的だった皮膚が、昆虫のような外骨格に覆われていく。

"さらに変身するのかよ?"

"う、グロ……これ映していいのか"

"怪人かまきり女"

「――がああ! この力はあたしだけでいい! あんたもここで消えてもらうから!」

「梨央さん……あんたもアレに会ったんすね……。なんでわざわざ、そんな異形を選んだんすか。俺と違って、あんたは無傷だったでしょうに」

「決まってるじゃない! 見てよ、トップレベルの冒険者でもこのザマよ! これだけ強ければ誰からも逮捕されない。なにをやっても自由なのよ! やっぱり暴力よ! とぉ~っても気持ちいい~! あんたも今はわかるでしよぉ!?」

「……ええ、わかるっすよ。相手をぶちのめして言うこと聞かせるの、正直スカッとします。いい気分になれますよ――」

「あひゃひゃひゃ! でしょお? でもダメよ、これはあたしだけの特権なんだから! あなたにはもったいないわ!」

「――だからゾッとするんすよ。俺もあんたみたいになってたかもしれない。正義感を暴走させて、あらゆる人を傷つける怪物モンスターに……。でも!」

 青年は重心を低く身構えた。

「俺は先生から教えてもらったんだ。自分の正義で戦っちゃダメだって……あんたみたいになっちゃいけないって!」

「新人が生意気言うな!」

 先にも増した超高速で梨央は青年に襲いかかる。

 回避も防御も間に合わない。胴体をX状に斬り付けられ、鮮血を散らしながら吹っ飛ばされる。

「あひゃひゃ! そんなレベルじゃ、そもそもあたしみたいにはなれないんだよぉ!」

 しかし受け身を取って着地した青年は、鋭い犬歯を覗かせ叫び返す。

「舐めるなよ、それでも俺は先生の――リアルモンスタースレイヤーの教え子だ! あの人に代わって、怪物モンスターになったあんたは、俺が倒してみせる!」

 青年もまた全身に力を込めた。やはり赤く発光し、蒸気を噴出させる。胸の切り傷がゆっくりと塞がっていく。全身が体毛に覆われて、手足の爪が鋭く伸びる。顔の形も、より鋭角な、犬や狼に近い形に変わっていく。

 姿勢はより低く。それこそ狼のような、四つん這いの構えだ。

"こっちも変身した!?"

"こっちの方がまだマシか"

"見ようによって格好いいかも?"

"狼だけど名前がファルコンな変身ヒーロー?"

"いけー! 悪の怪人をやっつけろ!"

 ふたりの怪物がぶつかり合う。

 梨央は4本の腕で間隙のない連撃を仕掛ける。対し、ファルコンはダメージ覚悟で突っ込む。

 パワーではファルコンに分がある。流血しながらも、梨央のカマの腕をもぎ取る。

 梨央はすぐその腕を再生させて、2本のカマを鋭く振り下ろす。分厚い毛皮で受け止めつつ、ファルコンはさらに踏み込み、梨央の肩口に牙を突き立てる。

 噛みちぎった肉を吐き捨て、さらにそこへ爪を突き立てる。

 梨央は痛みに悶えながらもやはりすぐに再生。至近距離で、鋭利なカマを突き刺す。

 たまらず後退するファルコン。再生は始まるが、梨央ほど早くない。最初につけられた傷さえ完治していない。

 梨央のほうは、素早い再生でほとんど無傷の状態だ。

 互いの鮮血があちこちに飛散し、怪物同士の凄惨な殺し合いの様相を呈してきた。

 雪乃たちも、手を出すことができない。

"ヒーローじゃないなこれ"

"アマゾン系として見ればなんとか……"

"どっちにしろ子供には見せらんねーよ"

"つか、俺たちも見てていいのか? これどっちか死ぬぞ、殺人の現場になるぞ"

"いいじゃん貴重じゃん"

"いやダメだろ! ユイちゃんネルが垢BANされたら生き甲斐がなくなる!"

"それ以前に人を殺すのはダメなんだよ!"

 ファルコンと梨央が再び強烈な勢いで、ぶつかり合おうとした。

 その瞬間、影が走った。

 その影は、ファルコンと梨央の間に飛び込み、それぞれの攻撃を剣と盾で受け止める。

"!?"

"来た!"

"待ってたよ"

"俺たちの真のヒーロー!"

「ふたりとも、もうやめろ! このままじゃ死ぬぞ!」

"モンスレさんだー!!!"
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