異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
156 / 182

第156話 おれたちは、いつ結婚しようか?

しおりを挟む
 春樹は、雪乃の弟だ。本当なら雪乃の親類縁者として招待するところなのだが、冒険者ライセンスを持たない者を迷宮ダンジョン内に連れてくるわけにはいかない。宿の改装のときのように、少人数の業者なら護衛のしようもあるが、多くの参列者の護衛はさすがに手が足りない。

 さらに春樹は今、手術を控えている身だ。どちらにせよ、ここには来られない。

 そこで新郎新婦の親類縁者には、ビデオ通話によるリモート参加をしてもらうことになった。

 他のスタッフも、それぞれのタブレットを用いてリモート参加者へ繋いでいたりする。

 予定では、おれがやる仕事ではなかったのだが、雪乃たっての希望で、おれが春樹の相手をすることになった。

 以前から彼がおれのファンだという話は聞いている。雪乃が希望しなくても、おれから提案していたところだ。

 画面の向こう側で春樹ははしゃぎっぱなしだ。

『じゃあ本当の本当に、おねーちゃんとお友達なんだね!』

「もちろんさ。お姉さんはすごいんだよ、この前なんて第5階層を見つけてくれたんだ」

 結婚式の準備に忙しくしつつも、春樹くんの入院手術費のために、雪乃は休むわけにはいかず冒険者活動を続けていた。

 隼人を捜索していた期間は、ろくに依頼も受けず、魔物モンスター討伐量も少なかったため、貯金が目減りしていたという事情もある。

 しかしそこで助けになったのも、隼人であった。

 合成人間《キメラヒューマン》になったことで得た、高い聴力と嗅覚が、新たな階層を見つ出したのだ。その発見と、第5階層の先行調査報告、さらに第5階層の大物魔物モンスター撃破による報酬が重なり、彼女らの懐を大いに潤したのだ。

 目減りした分を補って余りある資金は、春樹の入院手術費も賄うに至った。

 そして、手術日が近づくにつれて弱気になっていく春樹を勇気づけるためにも、雪乃はおれに頼んできたというわけだ。

『いいなぁ、ぼくもおねーちゃんみたいにモンスレさんと冒険したいなぁ』

「しようよ、一緒に。そのためにも元気になってさ、強い子になるんだ。おれ、君が来るの待ってるからさ」

『……うん! ぼく、手術頑張る!』

「約束だよ。じゃあ、そろそろ雪乃ちゃんの結婚式が始まるよ。一緒に見よう」

 おれたちは宿内に作った教会スペースへ移動する。参列者はみんな冒険者や探索者だ。裏方に回ってくれている者たちも含め、みんな雪乃たち『花吹雪』とは親しい。

 というより、この第2階層にいる者たちは、だいたい仲が良い。ほぼ全員出席だ。

 席に座ってから、神父役のリチャード爺さんが壇上に現れて、今回の婚姻についてと段取りについて説明する。

 それから待つこと数分。紗夜が登壇し、電子オルガンを演奏し始める。紗夜が弾けるとは思っていなかったので、これは意外だ。

 曲が盛り上がってきたところで、いよいよ新郎新婦が入場する段になる。

 参列者に、窓の外を見るようアナウンスされる。

 その先には、飛んでくる2頭のグリフィン。それぞれ新郎と新婦を乗せている。

 せっかくなので迷宮ダンジョンらしい演出を取り入れてみたのだ。春樹を始め、リモート参列者たちは目を輝かせてくれている。

 やがて宿の庭先に降り立ったグリフィンからふたりが降りて、並んで教会スペースに入場してくる。

 スタッフの魔法によって煌びやかに演出された道を歩いていく。

 雪乃のウェディングドレスは、花嫁らしくありつつ、冒険者らしくもある活発で動きやすそうなデザインだ。

 魔物モンスター素材がふんだんに使われ、なかなかの防御力を誇る武器屋『メイクリエ』店主ミリアムの力作だ。

 一方の隼人も、イヌ耳と尻尾が馴染むデザインのタキシードだ。尻尾の様子で緊張しているのがわかる。

 神父のもとへ進んでいく中、参列者たちからの祝福の拍手が鳴り響く。

 神父の前で、誓いの言葉、指輪交換、そして誓いの口付け。

 そして披露宴。

 新郎新婦の挨拶に、友人代表のスピーチなどなど。おれも雪乃や隼人を褒めたり、冗談を言ってみたりもした。

 供されるのは、極上の魔物モンスター料理。食べられないリモート参列者のためにも、見た目でも楽しめる仕掛けを施してある。さすが『ドラゴン三兄弟』だ。

 そして、各席に挨拶に回る新郎新婦。

「ありがとうございます、一条先生。こんなに素敵な式になるなんて……」

「モンスレ……いや、一条さん。あんたには、本当に借りばっかり作っちまってるな。命も救われたり、隼人のことも、弟のことも……」

「気にしないでよ、おれは君たちが幸せならそれで充分だよ」

 うるうるしている雪乃に、おれたちは祝福の言葉を投げかけるのみだ。

 そうして式は、つつがなく終わった。

 あとの二次会や三次会は任意参加だ。

 そちらへ顔を出す前に、おれは最後に春樹に挨拶だ。そこで言われてしまう。

『モンスレさんは、フィリアさんと結婚しないの?』

 こんなことを言われてしまったら、意識せずにはいられない。春樹との通話を終えてから、おれは、ひとり穏やかに微笑んでいるフィリアの隣に腰掛ける。

 まるで、幸せな空気に酔っているかのように、ふわふわした様子だ。

「フィリアさん……」

「はい」

「おれたちは、いつ結婚しようか?」

 フィリアはほのかに頬を染めつつ、上品な笑顔をこちらに向けてくれる。ただ、思案しているのか、返事をなかなかしてくれない。

「……やっぱり、フィリアさんのご両親に挨拶してからかな」

「……はい。できればそうしたいのですが……」

 異世界リンガブルームに戻れる保証などない。

 戻れないなら戻れないで、自分の裁量でこちらで身を固めるのもありだろう。けれど、それを口にできずにいる。それは、戻れないと諦めてしまうことだ。

「ごめん、答えづらいこと聞いちゃったね」

「いえ……」

「でも、悩んでくれたってことは、おれと気持ちはおんなじなんだね」

「それは、もちろん。ずっと前から――タクト様にパーティに誘っていただいたときから、ずっとです」

「嬉しいよ、フィリアさん。なら、フィリアさんのご両親に会いに行けるかどうか、はっきりさせるためにも、この迷宮ダンジョンを完全攻略しなきゃ……だね。なんて、結局やることは最初から変わってないんだけどさ」

「はい、これからも頑張っていきましょう」

「うん、差し当たっては第5階層だね。丈二さんの仕事の進捗も気になるけど……」

「それに、第4階層にも、拠点があったほうが攻略の助けになると思うのです。そちらも考えませんか?」

「いいね、やろう」

 先のことを考えると、だんだん楽しくなってくる。

 幸福な式典の余韻の中、おれたちはふたりの未来について思いを馳せるのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...