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第159話 竜が相手なら、それ用の武器が必要だよ
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「一条! オレの剣を使え!」
「いやいい! 狙い通りだ!」
代わりの剣を投げようとしてくれる吾郎だが、おれはそれを拒否。折れた剣を握りしめながら、緑竜に対峙する。
「タクト様! 電撃魔法の準備をいたします! 津田様! いつでも槍を投げられるよう準備を!」
仲間たちの中で、唯一、フィリアだけはおれの意図に気づいたようだ。
さすが幼少の頃から『超越の7人』の物語を聞き続けてきたというフィリアだ。
おれの仲間のひとり、竜退治の専門家である『屠竜騎士』ギリオンのことも知っているのだろう。
おれが今、その戦い方を模倣していることも、すぐピンときたに違いない。
おれはフィリアに頷きを返しつつ、折れた刃の断面を竜の首筋に突き立てる。
そのまま、竜鱗の流れに逆らう方向へ滑らせる。おろし金のごとく。
竜の高い防御力は、鱗、皮下脂肪、筋肉、骨、すべてで成り立っている。その中で、最も多くの攻撃を阻むのは鱗だ。
並の刃は通さず、打撃の衝撃も和らげる。熱にも強く、電撃をも弾くほどだ。
しかし、その鱗さえなければ、やりようはある。
いかに冷気に強い皮下脂肪があろうと、衝撃に耐える筋肉と骨があろうと、刃さえ通れば生き物は殺せるのだ。
そして、鋭い刃では難しいが、折れてギザギザになった断面ならば、竜鱗を剥がすことも不可能ではない。
――手応えあり。
一度では充分ではない。おれは竜の攻撃をかわしながら、何度も同じ箇所を狙う。
意図を察した結衣が、側面から援護してくれる。彼女の力でメイスを叩きつけても、ダメージは通らないが、注意を分散させることはできる。
ふたりの攻撃で、やがて、大きめな鱗が剥がれかける。
即座に結衣が武具を手放した。剥がれかけた鱗を掴み、思い切り引っ張る。
竜はすぐ首を上げて結衣を持ち上げた。結衣は逆さまになりながらも、竜の首に足をついて、より強い力で鱗をひっぺがした。
どすん、と落下。おれはその着地を援護。
剥がれた鱗は結衣が持ったまま。皮膚と一体となっていたため、裏面は血と肉片がこびりついている。
「紗夜ちゃん!」
すかさず、結衣の手から竜鱗を受け取り、紗夜へ投げ渡す。
「矢尻に使うんだ!」
即座に理解して、紗夜は竜鱗をキャッチ。変身魔法の応用で、1本の矢に竜鱗を組み込む。同時に、弓を大きな強弓に変え、全力射撃をおこなう。
――ガァァァ!?
その一射は竜の鱗を貫き、前足の根元に突き刺さる。急所ではないが、初めてのダメージだ。
滅多に感じないはずの痛みに、竜は戸惑い怯んで、動きが鈍る。
「今だ、丈二さん! 本命を叩き込んでくれ!」
叫び終える前に、丈二が短槍を投擲する。狙うべきはどこか、言わずともわかってくれている。
竜鱗が剥がれて、肉が剥き出しになった首筋の一部だ。
槍は見事、突き刺さる。肉の厚みに阻まれて急所には到達していないが、それでもう充分。
丈二の槍は、持ち手まで金属でできているのだから。
「おふたりとも、離れてください!」
フィリアの合図で、足の遅い結衣を抱えて即座に退避。
直後、特大の電撃魔法が、避雷針となった槍めがけて発動した。
フィリアにロザリンデ、『武田組』全員の魔力を込めた電撃だ。その雷鳴も衝撃波も凄まじい。
その威力を体内で受け止めれば、いかに竜でもひとたまりもない。
首元の肉は炭化して崩れ、骨が丸見えになる。前足は2本ともボロリと落ちる。なのに外側の鱗はほとんど無事だ。そのせいでひどく歪な遺骸となる。
おれは力を抜いて、大きく息を吐いた。
竜の攻撃はかわしつづけていたが、あくまで避けられていたのは致命傷のみだ。あちこち流血があるし、打撲もある。
上手くいって良かった。
大した被害もなく、比較的あっさり倒せたようにも見えるが、それはみんなが上手くやってくれたからだ。
竜鱗がもっと剥がれにくかったら? 紗夜の矢が外れていたら? 丈二の槍が、直撃しなかったら? 電撃魔法の発動が遅れていたら?
攻撃を引きつけていたおれも体力がもたず、やられていたかもしれない。
それはみんな、感覚でわかっているのだろう。
緊張が解けて、紗夜や結衣はへなへなとその場にへたり込んでしまう。他のみんなも、思い思いに体を休める。
「今のが大型の竜ですか。相当な強敵でしたが……」
「いや、今のは中型だよ。比較的若い竜だ。お陰で鱗も剥がしやすかったんだ」
「では、大型になるともっと強い……?」
「うん。それだけの竜は滅多にいないし、いても落ち着いてるから戦いにはなりにくいんだけどね」
それから、おれはフィリアに笑いかける。
「いい判断だったよ、フィリアさん」
「はい。すぐにわかりましたよ。『屠竜騎士』ギリオン様が、専用武器を失ったときの戦いは、わたくしの好きなエピソードのひとつです」
『屠竜《とりゅう》騎士』ギリオンは、本来、対竜戦用の強力無比な武器をもって挑む人だったが、不測の事態でその武器もなく竜に挑まざるを得ないこともあった。
「みんなのお陰で上手くいったけど、ギリオンさんもあくまで緊急時の戦い方って言ってたし、これを繰り返すわけにはいかないね」
「では……?」
「一旦、撤収しよう。やっぱり竜が相手なら、それ用の武器が必要だよ」
反対意見はない。
おれたちは竜素材と、近くのアダマントを採取してから第5階層をあとにした。
それから第4階層、第2階層で休養を取ってから、素材を持って地上の武器屋『メイクリエ』へ。
「でも、いくらミリアムさんの腕が良くても、竜退治用の武器なんて作れるかなぁ……」
「どうでしょうか……? まずは尋ねてみませんと」
そんなことを話しながら、道を行く。
やがて武器屋『メイクリエ』が近づくと、なにか嫌な気配を感じた。
「フィリアさん、丈二さん……?」
ふたりに確認すると、両者とも小さく頷く。
「闇冒険者でしょうか?」
「武器屋『メイクリエ』の中のようです。私が先に入ります」
「おれも行く。フィリアさんは、おれの後ろを離れないで」
おれたちが突入すると、そこには――。
「あ、タクト……?」
呆然とするミリアムと敬介。保護するように立っている黒服がふたり。倒れている者がふたり。
「ミリアムさん、いったいなにがあったんだ?」
「いやいい! 狙い通りだ!」
代わりの剣を投げようとしてくれる吾郎だが、おれはそれを拒否。折れた剣を握りしめながら、緑竜に対峙する。
「タクト様! 電撃魔法の準備をいたします! 津田様! いつでも槍を投げられるよう準備を!」
仲間たちの中で、唯一、フィリアだけはおれの意図に気づいたようだ。
さすが幼少の頃から『超越の7人』の物語を聞き続けてきたというフィリアだ。
おれの仲間のひとり、竜退治の専門家である『屠竜騎士』ギリオンのことも知っているのだろう。
おれが今、その戦い方を模倣していることも、すぐピンときたに違いない。
おれはフィリアに頷きを返しつつ、折れた刃の断面を竜の首筋に突き立てる。
そのまま、竜鱗の流れに逆らう方向へ滑らせる。おろし金のごとく。
竜の高い防御力は、鱗、皮下脂肪、筋肉、骨、すべてで成り立っている。その中で、最も多くの攻撃を阻むのは鱗だ。
並の刃は通さず、打撃の衝撃も和らげる。熱にも強く、電撃をも弾くほどだ。
しかし、その鱗さえなければ、やりようはある。
いかに冷気に強い皮下脂肪があろうと、衝撃に耐える筋肉と骨があろうと、刃さえ通れば生き物は殺せるのだ。
そして、鋭い刃では難しいが、折れてギザギザになった断面ならば、竜鱗を剥がすことも不可能ではない。
――手応えあり。
一度では充分ではない。おれは竜の攻撃をかわしながら、何度も同じ箇所を狙う。
意図を察した結衣が、側面から援護してくれる。彼女の力でメイスを叩きつけても、ダメージは通らないが、注意を分散させることはできる。
ふたりの攻撃で、やがて、大きめな鱗が剥がれかける。
即座に結衣が武具を手放した。剥がれかけた鱗を掴み、思い切り引っ張る。
竜はすぐ首を上げて結衣を持ち上げた。結衣は逆さまになりながらも、竜の首に足をついて、より強い力で鱗をひっぺがした。
どすん、と落下。おれはその着地を援護。
剥がれた鱗は結衣が持ったまま。皮膚と一体となっていたため、裏面は血と肉片がこびりついている。
「紗夜ちゃん!」
すかさず、結衣の手から竜鱗を受け取り、紗夜へ投げ渡す。
「矢尻に使うんだ!」
即座に理解して、紗夜は竜鱗をキャッチ。変身魔法の応用で、1本の矢に竜鱗を組み込む。同時に、弓を大きな強弓に変え、全力射撃をおこなう。
――ガァァァ!?
その一射は竜の鱗を貫き、前足の根元に突き刺さる。急所ではないが、初めてのダメージだ。
滅多に感じないはずの痛みに、竜は戸惑い怯んで、動きが鈍る。
「今だ、丈二さん! 本命を叩き込んでくれ!」
叫び終える前に、丈二が短槍を投擲する。狙うべきはどこか、言わずともわかってくれている。
竜鱗が剥がれて、肉が剥き出しになった首筋の一部だ。
槍は見事、突き刺さる。肉の厚みに阻まれて急所には到達していないが、それでもう充分。
丈二の槍は、持ち手まで金属でできているのだから。
「おふたりとも、離れてください!」
フィリアの合図で、足の遅い結衣を抱えて即座に退避。
直後、特大の電撃魔法が、避雷針となった槍めがけて発動した。
フィリアにロザリンデ、『武田組』全員の魔力を込めた電撃だ。その雷鳴も衝撃波も凄まじい。
その威力を体内で受け止めれば、いかに竜でもひとたまりもない。
首元の肉は炭化して崩れ、骨が丸見えになる。前足は2本ともボロリと落ちる。なのに外側の鱗はほとんど無事だ。そのせいでひどく歪な遺骸となる。
おれは力を抜いて、大きく息を吐いた。
竜の攻撃はかわしつづけていたが、あくまで避けられていたのは致命傷のみだ。あちこち流血があるし、打撲もある。
上手くいって良かった。
大した被害もなく、比較的あっさり倒せたようにも見えるが、それはみんなが上手くやってくれたからだ。
竜鱗がもっと剥がれにくかったら? 紗夜の矢が外れていたら? 丈二の槍が、直撃しなかったら? 電撃魔法の発動が遅れていたら?
攻撃を引きつけていたおれも体力がもたず、やられていたかもしれない。
それはみんな、感覚でわかっているのだろう。
緊張が解けて、紗夜や結衣はへなへなとその場にへたり込んでしまう。他のみんなも、思い思いに体を休める。
「今のが大型の竜ですか。相当な強敵でしたが……」
「いや、今のは中型だよ。比較的若い竜だ。お陰で鱗も剥がしやすかったんだ」
「では、大型になるともっと強い……?」
「うん。それだけの竜は滅多にいないし、いても落ち着いてるから戦いにはなりにくいんだけどね」
それから、おれはフィリアに笑いかける。
「いい判断だったよ、フィリアさん」
「はい。すぐにわかりましたよ。『屠竜騎士』ギリオン様が、専用武器を失ったときの戦いは、わたくしの好きなエピソードのひとつです」
『屠竜《とりゅう》騎士』ギリオンは、本来、対竜戦用の強力無比な武器をもって挑む人だったが、不測の事態でその武器もなく竜に挑まざるを得ないこともあった。
「みんなのお陰で上手くいったけど、ギリオンさんもあくまで緊急時の戦い方って言ってたし、これを繰り返すわけにはいかないね」
「では……?」
「一旦、撤収しよう。やっぱり竜が相手なら、それ用の武器が必要だよ」
反対意見はない。
おれたちは竜素材と、近くのアダマントを採取してから第5階層をあとにした。
それから第4階層、第2階層で休養を取ってから、素材を持って地上の武器屋『メイクリエ』へ。
「でも、いくらミリアムさんの腕が良くても、竜退治用の武器なんて作れるかなぁ……」
「どうでしょうか……? まずは尋ねてみませんと」
そんなことを話しながら、道を行く。
やがて武器屋『メイクリエ』が近づくと、なにか嫌な気配を感じた。
「フィリアさん、丈二さん……?」
ふたりに確認すると、両者とも小さく頷く。
「闇冒険者でしょうか?」
「武器屋『メイクリエ』の中のようです。私が先に入ります」
「おれも行く。フィリアさんは、おれの後ろを離れないで」
おれたちが突入すると、そこには――。
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