異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第161話 アタシにも物作り魂は割とあるんだよ

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「んで? 作るのは竜殺しの剣ドラゴンバスターがひと振りだけ……じゃないよね? こんなに素材用意してるんだもんね?」

「ああ、大変だとは思うけど、第5階層の先行調査パーティ分の武具が欲しいんだ。希望をリストにしてあるから、見て欲しい」

「どれどれ~? おー、なるほどー。竜殺しの剣ドラゴンバスターが最優先で、同じ威力の矢を最低2本……あとは防具優先なんだね」

「防具は結衣ちゃんの鎧と盾を優先して欲しい。それがなきゃ、あの子の戦い方じゃ真っ先に死んでしまう」

「はいよ。あの子、体小さいから使う素材は少なくて済むよ」

 ちなみに、紗夜は防具を希望していない。敵の攻撃は結衣が防いでくれると信頼しているからだ。それでいて結衣の負担を減らすためにも素早く敵を仕留めたい。必殺の矢を希望するのは、そのためだ。

 またロザリンデは武器も防具も求めていない。攻撃は魔法があるし、霧化でほとんどの攻撃は無効化できる。

 他、フィリアや丈二、『武田組』の3人は武器と防具をひと揃い求めている。素材の量からして、全員にフル装備というわけにはいかないだろう。

「あとの希望装備は、やれそうな順でいい。また素材が手に入ったらまた作ってもらうから」

「ちなみに、防具で重視するのは?」

「結衣ちゃんのは、ドラゴンのあらゆる攻撃を想定した防御力。他のみんなのは、ブレス攻撃への防御力かな。他の攻撃は回避できても、広範囲に炎でも吹かれたらどうしようもないから」

「ん、わかった。じゃあ、結構数あるし~、2、3ヶ月くらい待ってもらってもいいかなぁ?」

「あー、そんなにかかっちゃうのか」

「最高級品になるからねぇ」

「それじゃあ仕方な――」

「ダメです」

 納得しかかったところで、フィリアが首を横に振った。

 ぎくっ、とミリアムの笑顔が固まった。

「それらしいことを仰っておりますが、ミリアム様? わたくしは技術に関しては、そこまで詳しくはありませんが、貴方のことはよく存じておりますよ?」

 口元を緩めて小首をかしげて見せる。が、目は笑っていない。

「あ、あはははは、まあ親友だしねー」

「はい。なので、態度で大幅にサバ読んでいらっしゃるのがわかってしまいます」

「親友のよしみで、見逃して?」

「ダメです。しっかり働いてくださいませ」

「うー、なんだよー、忙しいのヤダって言ってるじゃんよー。もー、それじゃあ1ヶ月半で……」

「ミリアム様?」

「うぐぐ、はい、じゃあ1ヶ月でなんとか」

「もう一声、なんとかなりませんか?」

「いやもう無理。さすがに無理だから!」

「本当ですかぁ?」

「なんだよもー! そこまでアタシを忙しくしたいんなら考えがあるぞう! この前よりもっと凄いことしてやるー!」

 ミリアムは両手の指を怪しくわきわきと動かす。

 それにはさすがにフィリアも怯むが、諦めはしない。

「そ、それくらいのことで、ミリアム様が全力を出してくださるなら……」

「ほう、それくらい? ならば、どのくらいか、今からその体に教えてやるー!」

「そんな! 今からなんて!?」

 ミリアムがフィリアに飛び掛かる。

 いつもながら、おれは無力だ。このふたりの争いを、ただ見ているだけしかできない。

「一条さん、なぜ見てるんです。止めなくていいのですか?」

 呆れた様子で丈二に尋ねられるが、おれは静かに首を横に振る。

「おれのモチベーション向上に必要なんだ」

「はい?」

 と、期待してふたりを見ていたが、ミリアムがなにかする前に、その肩を敬介が叩いて止めた。

「まあまあ店長、僕も手伝いますから頑張ってみましょうよ」

 余計なことを!

 とか一瞬思ってしまうが、もちろん口には出さない。

「敬介くん、大丈夫なのかい? ミリアムさんはともかく、君は襲われてショックだったんじゃない?」

「それは、まあ……」

 実際、今の今まで、呆然としていたのだ。精神的にかなりダメージがあるはずだ。

「でも、なんていうか、みなさんと店長のやりとり聞いてたら元気が出てきたっていうか、凄い素材を使えると思ったら、なんだかワクワクしてきちゃって」

「そういった気持ちで立ち直る様子は、わたくしの両親を思い出します」

 さりげなくミリアムから距離を取るフィリアである。

「うちの師匠もそんな感じだよー。あんまりにもストイックすぎてアタシはついていけないけどさー」

「ミリアム様はもう少しストイックでも良いかと思いますが……」

「そう言うけどさ、アタシにも物作り魂は割とあるんだよ。ケースケも一緒にやるんならさ、前に話してたあれ、作ってみない?」

「あれらはまだ、試作もしてませんよ?」

「いーじゃん、これが試作のいい機会じゃん」

「ミリアムさん、なにをする気なんだい?」

 おれが尋ねるとミリアムは、ふふん、と誇らしげに敬介の背中を叩いた。

「ケースケ、魔法の道具とか聖剣やら魔剣やらを作ってみたいって話してたじゃん? それでこの前、いい感じのアイディアを出してたんだよ。きっと面白いものができるよ」

「それは興味深いですが、私たちは面白さより、性能を求めているのですよ」

 丈二は口では否定的だが、目はちょっと嬉しそうだ。魔剣って響きが琴線に触れたに違いない。

 そこにフィリアが微笑む。

「いいえ津田様。こういった職人の『面白い』は、素晴らしい物が生まれる兆候です。わたくしは、ぜひお願いするべきかと思います」

「おれも賛成だ。自信なさそうにしてても、ダンジョンルーターの開発者だ。きっとやってくれるよ」

 少し考えてから、丈二は結論を出した。

「では、ひとつ条件を出してもよろしいですか、ミリアムさん?」

「いいよ。なになに?」

「私の槍の名前には、頭に『魔槍』とつけてください」

「あははっ、オッケー!」

「ではみなさん、納期はなんとか3週間に詰めてみます」

「その分、仕上げ工程が雑になるから、無骨な見た目になっちゃうけど、我慢してよね」

「私としては、そのほうが『魔槍』らしくていいですね」

「それからフィリアは、終わったらストレス解消にアタシのおもちゃになってもらうからね?」

「それは仕上がり次第ですね」

 やんわりと言って、また一歩退くフィリアであった。

 じゃあ、そうか。今日はふたりの絡みが見られないのか……。

 ちょっと名残惜しいが、ミリアムがやる気になっているのはありがたい。

 敬介のアイディアとミリアムの本気。

 仕上がってくる装備が、本当に楽しみだ。
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