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第168話 この迷宮が崩壊する
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姿を現した賢竜バルドゥインに、おれ以外のメンバーはみんな唖然としていた。
「た、タクト様? 賢竜バルドゥインとは、あの……? 『超越の7人』に味方した、伝説の竜の、賢竜バルドゥイン様なのですか?」
「どんな伝説になったのかは知らないけど、たぶん、そうだよ」
フィリアは目をキラキラさせて、おれとバルドゥインに視線を行ったり来たりさせる。
「では……では、上空から迫る悪魔の軍勢に対し、3人の英雄を背に乗せて戦ったという逸話は!? わたくし、あのお話を聞くたびに胸が熱くなっていたのです」
バルドゥインは、少しばかり笑ったようだった。
「懐かしいな。あれは『聖騎士』アレックスと『退魔剣士』クローディア……それに、お前だったな、『破滅を払う者』タクト」
「あのときは、手を貸してくれて本当に助かったよ」
「利害が一致していたゆえな。しかし、思い出話をするために来たわけではあるまい? 人の身でありながら、お前が今も生き続けていることも疑問だ」
「ああ、それも含めて色々と話がしたいんだ。賢竜と呼ばれるあなたの知恵を、ぜひお借りしたい」
「ふむ、いいだろう」
バルドゥインは体を丸めた。顎を地面につけて、頭をこちらに寄せてくれる。バルドゥインにとっては最大限おれたちに視線を合わせてくれている。それでもこちらは、見上げざるを得ない大きさだ。なにせ、頭だけでも3mはある。
おれはこれまでのことを、かいつまんでバルドゥインに説明した。
「なるほど、時空の歪みか。それで200年前に消えたお前が、再びここに……」
「どうもそうらしい。けど、それが何故なのか、理由がわからない。この迷宮そのものも。バルドゥインも、この迷宮に閉じ込められて長いんじゃないか? ここで過ごしていて、なにか気がついたことはないかな?」
「他の階層については、魔力探査である程度把握しているが……この階層と、第2階層と第4階層は、お前たちの推測通り異世界の一部を、この世界の洞窟に強引に組み込んだものだろう」
「なら、ここ最近の地震は、異世界で起こっている地震が迷宮に伝わってきている?」
「いや、そうではない。この地震は、強引に組み込まれた階層が、元に戻ろうとして起こっているものだ」
その一言に、おれはうろたえてしまう。
「元に戻る? この迷宮が崩壊するって意味か?」
「そうだ。この迷宮は、どうやら役目を終えたようだ。空間を維持していた魔力が途絶えている。そう遠くないうちに、各階層は元の姿に戻るだろう」
「中にいる魔物や、人間はどうなる?」
「もとから異世界にいた者なら、迷宮内にいれば帰ることもできるだろう」
「そうでない人は、どうなる?」
「時空の歪みに巻き込まれる。竜ほどに強靭ならばべつだが、おおよそ、生きてはいられまい」
「それは困る。なんとか迷宮を維持する方法はないのか?」
「なぜ? 元通りになるだけだ。仲間たちの命が惜しければ、避難させればいい。それの、なにが困る?」
「ここでしか生きていけない体になってしまった仲間がいる。いや、それだけじゃない。迷宮は、おれたちの大切な居場所なんだ。おれは異世界から戻ってきて、なにもできなかった。能力を活かす場所もなくて、ただ苦しい毎日だった。それが迷宮ができて変わったんだ。また誰かの役に立てる日々を送ることができているんだ」
それから、おれは仲間たちのことも視線で示す。
「他のみんなだってそうだ。普通の社会には居場所がなくて……迷宮ならって、やってきたんだ。やっと見つけた居場所なんだ。そして、違う世界の大切な人と一緒に居られる場所でもある。それを失いたくはない。守りたいんだ!」
おれの隣りにいるフィリア。丈二の隣りにいるロザリンデ。それぞれを瞳に映してから、バルドゥインは長めに瞬きをした。まるで人が頷くような仕草で。
「……そうか。違う世界との交流か。それは、面白いかもしれん」
「バルドゥイン……」
「わかった。この私の魔力ならば、迷宮の崩壊を食い止めることもできるだろう」
「ありがとうバルドゥイン!」
「お前には、竜王との戦いで借りがあるゆえな。ただし、正式な術式がわからぬゆえ、いたずらに魔力を浪費することになる。そう長くは持たんぞ」
「なら、どうすればいい?」
「迷宮の主に会え。維持したいならば、やつに直接、頼むしかあるまい」
「あなたは、それが誰か知っているのか? 話ができたのか?」
「直接会ったことはないが、わかる。空間を歪めて、迷宮を作り出すほどの術と魔力。これを持つ者など、私の生きた時間の中でも、ひとりしかいない。むしろタクトよ、お前のほうが詳しい相手だろう」
そう言われてピンときた。だが、信じられない。
「まさか……。でもあいつは確かにショウさんが……。200年以上前に、おれたちの大事な友達が、命を捨てて封印したんだ。そんなことできるわけが……」
「いや、その封印ならば20数年前に解かれたぞ」
「まさか!?」
おれはフィリアのほうを見つめる。
「フィリアさん、君たちの時代にも魔王はいるのか? 魔王アルミエスとの戦いは、まだ続いていたのか!?」
おれの剣幕に、フィリアは一歩退く。困ったように眉をひそめる。
「いいえ、そのような戦いはありません。確かに、わたくしの生まれる前に、魔王は復活しておりますが……その……」
なにか、言いづらそうにしている。フィリアは悩むような間のあと、意を決して口を開いた。
「魔王アルミエスは……わたくしの義姉です」
「た、タクト様? 賢竜バルドゥインとは、あの……? 『超越の7人』に味方した、伝説の竜の、賢竜バルドゥイン様なのですか?」
「どんな伝説になったのかは知らないけど、たぶん、そうだよ」
フィリアは目をキラキラさせて、おれとバルドゥインに視線を行ったり来たりさせる。
「では……では、上空から迫る悪魔の軍勢に対し、3人の英雄を背に乗せて戦ったという逸話は!? わたくし、あのお話を聞くたびに胸が熱くなっていたのです」
バルドゥインは、少しばかり笑ったようだった。
「懐かしいな。あれは『聖騎士』アレックスと『退魔剣士』クローディア……それに、お前だったな、『破滅を払う者』タクト」
「あのときは、手を貸してくれて本当に助かったよ」
「利害が一致していたゆえな。しかし、思い出話をするために来たわけではあるまい? 人の身でありながら、お前が今も生き続けていることも疑問だ」
「ああ、それも含めて色々と話がしたいんだ。賢竜と呼ばれるあなたの知恵を、ぜひお借りしたい」
「ふむ、いいだろう」
バルドゥインは体を丸めた。顎を地面につけて、頭をこちらに寄せてくれる。バルドゥインにとっては最大限おれたちに視線を合わせてくれている。それでもこちらは、見上げざるを得ない大きさだ。なにせ、頭だけでも3mはある。
おれはこれまでのことを、かいつまんでバルドゥインに説明した。
「なるほど、時空の歪みか。それで200年前に消えたお前が、再びここに……」
「どうもそうらしい。けど、それが何故なのか、理由がわからない。この迷宮そのものも。バルドゥインも、この迷宮に閉じ込められて長いんじゃないか? ここで過ごしていて、なにか気がついたことはないかな?」
「他の階層については、魔力探査である程度把握しているが……この階層と、第2階層と第4階層は、お前たちの推測通り異世界の一部を、この世界の洞窟に強引に組み込んだものだろう」
「なら、ここ最近の地震は、異世界で起こっている地震が迷宮に伝わってきている?」
「いや、そうではない。この地震は、強引に組み込まれた階層が、元に戻ろうとして起こっているものだ」
その一言に、おれはうろたえてしまう。
「元に戻る? この迷宮が崩壊するって意味か?」
「そうだ。この迷宮は、どうやら役目を終えたようだ。空間を維持していた魔力が途絶えている。そう遠くないうちに、各階層は元の姿に戻るだろう」
「中にいる魔物や、人間はどうなる?」
「もとから異世界にいた者なら、迷宮内にいれば帰ることもできるだろう」
「そうでない人は、どうなる?」
「時空の歪みに巻き込まれる。竜ほどに強靭ならばべつだが、おおよそ、生きてはいられまい」
「それは困る。なんとか迷宮を維持する方法はないのか?」
「なぜ? 元通りになるだけだ。仲間たちの命が惜しければ、避難させればいい。それの、なにが困る?」
「ここでしか生きていけない体になってしまった仲間がいる。いや、それだけじゃない。迷宮は、おれたちの大切な居場所なんだ。おれは異世界から戻ってきて、なにもできなかった。能力を活かす場所もなくて、ただ苦しい毎日だった。それが迷宮ができて変わったんだ。また誰かの役に立てる日々を送ることができているんだ」
それから、おれは仲間たちのことも視線で示す。
「他のみんなだってそうだ。普通の社会には居場所がなくて……迷宮ならって、やってきたんだ。やっと見つけた居場所なんだ。そして、違う世界の大切な人と一緒に居られる場所でもある。それを失いたくはない。守りたいんだ!」
おれの隣りにいるフィリア。丈二の隣りにいるロザリンデ。それぞれを瞳に映してから、バルドゥインは長めに瞬きをした。まるで人が頷くような仕草で。
「……そうか。違う世界との交流か。それは、面白いかもしれん」
「バルドゥイン……」
「わかった。この私の魔力ならば、迷宮の崩壊を食い止めることもできるだろう」
「ありがとうバルドゥイン!」
「お前には、竜王との戦いで借りがあるゆえな。ただし、正式な術式がわからぬゆえ、いたずらに魔力を浪費することになる。そう長くは持たんぞ」
「なら、どうすればいい?」
「迷宮の主に会え。維持したいならば、やつに直接、頼むしかあるまい」
「あなたは、それが誰か知っているのか? 話ができたのか?」
「直接会ったことはないが、わかる。空間を歪めて、迷宮を作り出すほどの術と魔力。これを持つ者など、私の生きた時間の中でも、ひとりしかいない。むしろタクトよ、お前のほうが詳しい相手だろう」
そう言われてピンときた。だが、信じられない。
「まさか……。でもあいつは確かにショウさんが……。200年以上前に、おれたちの大事な友達が、命を捨てて封印したんだ。そんなことできるわけが……」
「いや、その封印ならば20数年前に解かれたぞ」
「まさか!?」
おれはフィリアのほうを見つめる。
「フィリアさん、君たちの時代にも魔王はいるのか? 魔王アルミエスとの戦いは、まだ続いていたのか!?」
おれの剣幕に、フィリアは一歩退く。困ったように眉をひそめる。
「いいえ、そのような戦いはありません。確かに、わたくしの生まれる前に、魔王は復活しておりますが……その……」
なにか、言いづらそうにしている。フィリアは悩むような間のあと、意を決して口を開いた。
「魔王アルミエスは……わたくしの義姉です」
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