異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
170 / 182

第170話 お前たちの国だけの問題ではない

しおりを挟む
 地上と第2階層で、同時に異変が起きている。

 まずは、おれが隼人から聞いた第2階層についてだ。

「冒険者の三分の一……ほとんどが今期合格の冒険者らしいけど、暴動を起こしてるらしい」

 ファルコン隊を始め、腕利きの冒険者たちが苦戦しているとのことだ。

 その理由は相手方の装備にある。

 普通の銃火器なら、魔素マナに保護された魔物モンスターや、高レベル冒険者には大したダメージは与えられない。仮に迷宮ダンジョン素材の弾丸で魔素マナの保護を無効化したとしても、並の威力では、素の防御力を破ることはできない。

 だが相手は、いつから用意していたのか。対物ライフルや重機関銃、そして大量の迷宮ダンジョン素材の弾丸を用いているというのだ。高レベル冒険者や深層の魔物モンスターにも有効な威力だ。

 レベルや数が勝っていたとしても、この装備の差は大きい。

 ひと通りの話を聞いて、丈二は合点がいったらしく頷く。

「おそらく潜伏していたスパイが、地上の動きに合わせて迷宮ダンジョンの施設を占拠しようとしているのでしょう」

「地上の動きと? じゃあ地上でも、外国絡みでなにか起こっているのか?」

「ええ、ニュースで見た方もいるかもしれませんが、隣国が近海で軍事演習をおこなっておりました。その艦隊が、急遽針路を変え、この島へ向かってきているのだそうです」

「なんだって!?」

「日本の領海に入るのも時間の問題と言われています」

「政府はなにをしているんだ?」

「猛抗議しているようです。同盟国も批難しております。ですが、東ヨーロッパで継続中の戦争のように、侵略国家にはなにを言っても通じませんよ」

「なにをしても、勝てば許されるって考えか。あまりに幼稚で下劣じゃないか」

「かの国は、政策の失敗で経済的に低迷してきていましたから。そこに異世界リンガブルームを含む、迷宮ダンジョンの機密情報が流れ込んできたのです。魔法に魔力回路、新金属、合成生物キメラ技術……どれを取っても、今後の世界情勢を変える可能性のある物です。なりふり構わず奪いに来ても不思議ではない」

「梨央が情報を流したのは、あの国だったのか……。とにかく、まずは第2階層の連中を叩き出そう。迷宮ダンジョンを封鎖して、防衛戦に備えないと」

「……私には別の指令が下っています。迷宮ダンジョン内の人間を、全員避難させろと」

「日本政府は、この迷宮ダンジョンを放棄するつもりなのか? 侵略国に都合が良いだけじゃないか」

「いいえ。先程、この迷宮ダンジョンが崩壊間近であると伝えたところ、侵略理由そのものが消えて無くなるなら、それが一番良いではないか……と。誰も傷つかず、事を収めることができる」

「冗談じゃない。そのために日本の利益を――いや、おれたちの生活を放棄しろっていうのか。こんなときこそ、自衛隊や在日米軍の出番じゃないのか。国民の生活を守るのが仕事じゃないのか」

「とはいえ、相手は核保有国です。東ヨーロッパの戦争を見ればわかるでしょう。数多の国が抗議するものの、核兵器をチラつかされれば、直接軍を差し向けることはできない。せいぜい経済制裁や、被害国への支援に留まっている」

「……つまり、核が怖いから、自衛隊も米軍も動きたくない?」

「事情はもっと複雑ですが、まあ、端的にはそうです。そして、迷宮ダンジョンが消えれば、そもそも動く理由もなくなるのです」

「……核保有国と対等にやり合える方法なら、このおれが持っている」

「一条さん、お伝えしたはずです。政府からの通達で、元素破壊魔法の存在は秘匿し、一切の使用を禁じると」

「なら丈二さんは、これでいいと思っているのか? おれたちの居場所が、幼稚な国の、恥知らずな行いのせいで消えようとしているんだぞ!」

「いいわけないでしょう! 私だって、ここの生活を愛している! 愛している人もいる! しかし私たちだけで、どうにかできる規模の話ではない! 迷宮ダンジョンを守れば侵攻は続き、この国は否応なしに戦争に突入する。この、平和な日本がですよ!?」

「国が認めてくれさえすればいい。おれの魔法を解禁すると」

「仮に認められたとして忌避はないのですか。個人ではない。日本という国が、核を撃つことに」

「それでも――」

「もうよせ」

 おれと丈二の間に、バルドゥインが指先を差し込んできた。

「お前たちは大切なことを忘れている」

「なんだ、バルドゥイン? おれたちが、なにを忘れているっていうんだ?」

「この迷宮ダンジョン異世界リンガブルームの土地が含まれているのなら、この島――この迷宮ダンジョンへの侵攻は、異世界リンガブルームへの侵攻にもなる。お前たちの国だけの問題ではない」

 おれはハッとしてバルドゥインを見上げた。

「なら、異世界リンガブルームの国が防衛戦を展開したとしても、誰に批難されることはない……」

「その軍が、元素破壊魔法をもって威嚇したとしても、な」

 フィリアはゆっくりと首を振る。

「しかしバルドゥイン様、あの魔法は異世界リンガブルームでも禁呪とされております。使うことは、まかりなりません」

「それはどうかな、フィリア・シュフィール・メイクリエ。正当な理由があり、信頼における使い手がいるならば許可は下りるだろう。お前の父は、なかなか柔軟な王だったはずだ」

「父上をご存知なのですか……?」

「会ったことはない。だが、あの魔王アルミエスを戦いを終わらせた男だ。今回も正しい判断を下せるだろう」

「……会いに行けと仰るのですね。迷宮ダンジョンの主――義姉あねに会えば、それも可能であると」

「そういうことだ」

「わかりました。行きましょう、タクト様。この迷宮ダンジョンを守るために」

 おれはフィリアに強く頷いてみせる。

「もちろんだ。丈二さん、それでいいかい?」

 小さく息をついて、丈二は肩をすくめた。

「他国のすることなら私に口は出せませんよ。ただ、母国の意向に逆らうことになる。失職ものですね、これは」

 ロザリンデが丈二の手を取って笑う。

「いいじゃない。そしたら、専業の冒険者になればいいのよ。わたしとの時間もたくさん取れるわ」

「ええ、それも悪くない」

 丈二は微笑んで、その手を強く握り返す。

「よし、話は決まった。おれたちはこのまま第7階層を目指す。他のみんなは、第2階層へ戻って隼人くんたちを助けてやってくれ」

 こうして、おれたちは紗夜や結衣、吾郎たちと別れ、迷宮ダンジョン最下層への道を行くのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...