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第177話 行こう、地上へ!
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フィリアも、バルドゥインに飛び乗ってくる。
「フィリアさん、ここからは危ないよ?」
「それでも、一緒に行かなくてはなりません。メイクリエ王国の意志は、わたくしが伝えなければなりませんもの」
「そうだったね。わかった、一緒に行こう」
「では私も」
「ならわたしもね」
と丈二とロザリンデも乗り込んでくる。
「一条さんもフィリアさんも異世界語はともかく、外国語はできないでしょう? 意志を伝えるには通訳が必要です。私がやりますよ」
「それに、フィリアに万が一のことがあったら異世界間の国際問題になってしまうわ。護衛は多いほうがいいでしょう?」
「わかった。頼りにさせてもらうよ、ふたりとも」
それから、おれは他のみんなに目を向ける。
「艦隊はおれたちがなんとかする。みんなは、念のため第1階層の『初心者の館』も見てくれ。まだ敵が潜んでるかもしれない」
「了解っす! こっちは任せといてください!」
「敵がいたら捕まえて欲しいけど、深追いはしなくていい。地上に出たら能力が落ちるってことも忘れないでね。迷宮ではこちらが有利だけど、外では訓練されたエージェントは強敵だ」
「わかりました! あたしたちは迷宮からは出ません。外のことは、外の方々にお任せします。……先生! 戻ってきたら、今度は異世界のことたくさん教えてください!」
紗夜の瞳には、どこか懐かしい色があった。まるで、出会ったばかりで、これからの冒険者生活に不安と期待とを抱いていたあの頃のように。
「もちろんだよ、紗夜ちゃん!」
「そのときは……異世界生配信、やりたい、です」
「ああ、結衣ちゃん。やるときはバルドゥインにも出てもらおう。きっと人気者になるよ」
「それもいいがな、一条! たまにはオレにも付き合えよ。茶でも淹れてやるからよ、ゆっくり話でもしようや」
「いいとも。おれもそうしたいと思っていたんだ」
「おいおい、みんな、なに微妙にしんみりした雰囲気出してんだよ! モンスレだぞ、アタシたちのトップだぞ!? 余裕かまして帰ってくんに決まってんだろ!? え? ちげーのか? そんなにヤベーの、今回?」
「雪乃先生、大丈夫、心配いらないっす。雪乃先生が言うみたいに、俺たちのモンスレさんっすから。……ですよね、一条先生!?」
「そのつもりだよ。おれのいない間、みんなのことは任せたよ隼人くん。それに雪乃ちゃんは、隼人くんが無茶やらないように見張っててね」
他にも多くの冒険者たちから声をかけられ、返事をしていく。
やがてバルドゥインは、小さく笑った。
「いい連中だな。お前たちが、ここを居場所と呼び、守りたいと願う理由がよくわかった」
「もし気に入ってくれたなら、あなたも一員になるといい。みんな、歓迎してくれる」
「悪くない提案だ。だがすべては、ここを守ってからの話だな」
「ああ、行こうバルドゥイン! 地上へ! 敵の艦隊は北西方向から島に向かってきてるらしい!」
「わかった。命綱を繋いでおけ。できるだけ気をつけるが、安定飛行もできん状況かもしれんからな」
その指示に従ってすぐ、バルドゥインは魔力を集中させた。
「では転移する。空中に出るぞ。構えておけ!」
転移魔法が発動し、真っ白な光がおれたちを包み込む。
そして次の瞬間、おれたちは島の上空にいた。見知った町が、おもちゃのミニチュアを思わせる大きさだ。陽の光の輝き、潮の香りをはらんだ風が新鮮だ。
薄いが魔素はちゃんとある。以前の迷宮の第2階層レベルの濃さだ。これならフィリアやロザリンデが苦しむことはない。
バルドゥインはその場で周囲を旋回。
「この世界の方向がまだわからんが……。む、あれか」
人間より遥かに優れた視力で捉えたか、バルドゥインは北西方向に方向転換すると、物凄い勢いで羽ばたいた。
あまりの速度に、急激に温度が下がる。呼吸さえ上手くできず、息苦しい。
かと思ったら、すぐ強風が遮られる。魔力によって、バルドゥインの周囲にフィールドが張られたのだ。
温度の維持や風の遮蔽だけじゃない。魔素も満ちてくる。異世界と同等の濃度だ。
「バルドゥイン、このフィールドは?」
「タクト、お前が元素破壊魔法を使うには全力を出す必要だろう。そのためのものだ」
「ありがたいけど、バルドゥイン。あなただって、地上の魔素は薄くてつらいはずだ。おれたちのために、こんな力を使っても平気なのか?」
「侮るな、私は賢竜とも呼ばれた竜の中の竜だ。そう簡単に魔力が枯渇することはない」
「確かに、そうか。さすがだよ」
「しかし、そう何日も持つものではない。戦闘ともなればもっと短い。手早く決着をつけることだ」
「わかってる。やるべきことは、それほど多くはない」
「それにしても……いい空と海だ。気に入ったぞ」
バルドゥインはみるみる速度を上げる。遥か遠くにいるはずの艦隊が、もう目視できるほどに迫ってくる。
「ほう、大砲のついた鉄の船か。すでに砲口を向けられているな。こちらの動きの分かる機械でも積んで――むっ!?」
速度を落としつつあったバルドゥインは、ここにきて急旋回した。
超音速でおれたちのそばをなにかが掠めていった。遅れて、砲撃音が響く。
バルドゥインはさらに急旋回を繰り返し、砲撃を回避し続ける。
「撃ってきているぞ! どうする、停戦を呼びかけるか!?」
返答したいが、あまりに急な旋回の繰り返しで、落ちないようにしがみつくのがやっとだ。下手に口を開けば、舌を噛んでしまう。
「おっと、そうか。すまん。最近運動不足だったのな、少々張り切りすぎた」
バルドゥインは回避運動を止めた。そのために砲撃は次々に命中するが、代わりに展開した防壁魔法がそのすべてを防ぎ切る。爆炎を貫きながら、艦隊へ接近していく。
「ぬう、思った以上に強力な砲撃だ。魔力の消耗が激しい。これは長くはもたんぞ、急げ!」
「はい、ありがとうございます。バルドゥイン様!」
フィリアは目をつむり、緊張を飲み込むように深呼吸。おれは拡声魔法を最大出力でフィリアと、通訳の丈二に展開。
やがてフィリアは決意を宿した目を開け、口を開く。
「わたくしは、フィリア・シュフィール・メイクリエ。貴方がたの言うところの異世界――リンガブルームの一国、メイクリエ王国の第2王女です! 貴方がたが領有権を主張する輪宮島の迷宮は我が国の一部であり、この島を攻めることはすなわち、日本国だけでなく、メイクリエ王国に対する侵略にもなります! ただちに攻撃、および侵攻を中断してください!」
「フィリアさん、ここからは危ないよ?」
「それでも、一緒に行かなくてはなりません。メイクリエ王国の意志は、わたくしが伝えなければなりませんもの」
「そうだったね。わかった、一緒に行こう」
「では私も」
「ならわたしもね」
と丈二とロザリンデも乗り込んでくる。
「一条さんもフィリアさんも異世界語はともかく、外国語はできないでしょう? 意志を伝えるには通訳が必要です。私がやりますよ」
「それに、フィリアに万が一のことがあったら異世界間の国際問題になってしまうわ。護衛は多いほうがいいでしょう?」
「わかった。頼りにさせてもらうよ、ふたりとも」
それから、おれは他のみんなに目を向ける。
「艦隊はおれたちがなんとかする。みんなは、念のため第1階層の『初心者の館』も見てくれ。まだ敵が潜んでるかもしれない」
「了解っす! こっちは任せといてください!」
「敵がいたら捕まえて欲しいけど、深追いはしなくていい。地上に出たら能力が落ちるってことも忘れないでね。迷宮ではこちらが有利だけど、外では訓練されたエージェントは強敵だ」
「わかりました! あたしたちは迷宮からは出ません。外のことは、外の方々にお任せします。……先生! 戻ってきたら、今度は異世界のことたくさん教えてください!」
紗夜の瞳には、どこか懐かしい色があった。まるで、出会ったばかりで、これからの冒険者生活に不安と期待とを抱いていたあの頃のように。
「もちろんだよ、紗夜ちゃん!」
「そのときは……異世界生配信、やりたい、です」
「ああ、結衣ちゃん。やるときはバルドゥインにも出てもらおう。きっと人気者になるよ」
「それもいいがな、一条! たまにはオレにも付き合えよ。茶でも淹れてやるからよ、ゆっくり話でもしようや」
「いいとも。おれもそうしたいと思っていたんだ」
「おいおい、みんな、なに微妙にしんみりした雰囲気出してんだよ! モンスレだぞ、アタシたちのトップだぞ!? 余裕かまして帰ってくんに決まってんだろ!? え? ちげーのか? そんなにヤベーの、今回?」
「雪乃先生、大丈夫、心配いらないっす。雪乃先生が言うみたいに、俺たちのモンスレさんっすから。……ですよね、一条先生!?」
「そのつもりだよ。おれのいない間、みんなのことは任せたよ隼人くん。それに雪乃ちゃんは、隼人くんが無茶やらないように見張っててね」
他にも多くの冒険者たちから声をかけられ、返事をしていく。
やがてバルドゥインは、小さく笑った。
「いい連中だな。お前たちが、ここを居場所と呼び、守りたいと願う理由がよくわかった」
「もし気に入ってくれたなら、あなたも一員になるといい。みんな、歓迎してくれる」
「悪くない提案だ。だがすべては、ここを守ってからの話だな」
「ああ、行こうバルドゥイン! 地上へ! 敵の艦隊は北西方向から島に向かってきてるらしい!」
「わかった。命綱を繋いでおけ。できるだけ気をつけるが、安定飛行もできん状況かもしれんからな」
その指示に従ってすぐ、バルドゥインは魔力を集中させた。
「では転移する。空中に出るぞ。構えておけ!」
転移魔法が発動し、真っ白な光がおれたちを包み込む。
そして次の瞬間、おれたちは島の上空にいた。見知った町が、おもちゃのミニチュアを思わせる大きさだ。陽の光の輝き、潮の香りをはらんだ風が新鮮だ。
薄いが魔素はちゃんとある。以前の迷宮の第2階層レベルの濃さだ。これならフィリアやロザリンデが苦しむことはない。
バルドゥインはその場で周囲を旋回。
「この世界の方向がまだわからんが……。む、あれか」
人間より遥かに優れた視力で捉えたか、バルドゥインは北西方向に方向転換すると、物凄い勢いで羽ばたいた。
あまりの速度に、急激に温度が下がる。呼吸さえ上手くできず、息苦しい。
かと思ったら、すぐ強風が遮られる。魔力によって、バルドゥインの周囲にフィールドが張られたのだ。
温度の維持や風の遮蔽だけじゃない。魔素も満ちてくる。異世界と同等の濃度だ。
「バルドゥイン、このフィールドは?」
「タクト、お前が元素破壊魔法を使うには全力を出す必要だろう。そのためのものだ」
「ありがたいけど、バルドゥイン。あなただって、地上の魔素は薄くてつらいはずだ。おれたちのために、こんな力を使っても平気なのか?」
「侮るな、私は賢竜とも呼ばれた竜の中の竜だ。そう簡単に魔力が枯渇することはない」
「確かに、そうか。さすがだよ」
「しかし、そう何日も持つものではない。戦闘ともなればもっと短い。手早く決着をつけることだ」
「わかってる。やるべきことは、それほど多くはない」
「それにしても……いい空と海だ。気に入ったぞ」
バルドゥインはみるみる速度を上げる。遥か遠くにいるはずの艦隊が、もう目視できるほどに迫ってくる。
「ほう、大砲のついた鉄の船か。すでに砲口を向けられているな。こちらの動きの分かる機械でも積んで――むっ!?」
速度を落としつつあったバルドゥインは、ここにきて急旋回した。
超音速でおれたちのそばをなにかが掠めていった。遅れて、砲撃音が響く。
バルドゥインはさらに急旋回を繰り返し、砲撃を回避し続ける。
「撃ってきているぞ! どうする、停戦を呼びかけるか!?」
返答したいが、あまりに急な旋回の繰り返しで、落ちないようにしがみつくのがやっとだ。下手に口を開けば、舌を噛んでしまう。
「おっと、そうか。すまん。最近運動不足だったのな、少々張り切りすぎた」
バルドゥインは回避運動を止めた。そのために砲撃は次々に命中するが、代わりに展開した防壁魔法がそのすべてを防ぎ切る。爆炎を貫きながら、艦隊へ接近していく。
「ぬう、思った以上に強力な砲撃だ。魔力の消耗が激しい。これは長くはもたんぞ、急げ!」
「はい、ありがとうございます。バルドゥイン様!」
フィリアは目をつむり、緊張を飲み込むように深呼吸。おれは拡声魔法を最大出力でフィリアと、通訳の丈二に展開。
やがてフィリアは決意を宿した目を開け、口を開く。
「わたくしは、フィリア・シュフィール・メイクリエ。貴方がたの言うところの異世界――リンガブルームの一国、メイクリエ王国の第2王女です! 貴方がたが領有権を主張する輪宮島の迷宮は我が国の一部であり、この島を攻めることはすなわち、日本国だけでなく、メイクリエ王国に対する侵略にもなります! ただちに攻撃、および侵攻を中断してください!」
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