異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
177 / 182

第177話 行こう、地上へ!

しおりを挟む
 フィリアも、バルドゥインに飛び乗ってくる。

「フィリアさん、ここからは危ないよ?」

「それでも、一緒に行かなくてはなりません。メイクリエ王国の意志は、わたくしが伝えなければなりませんもの」

「そうだったね。わかった、一緒に行こう」

「では私も」

「ならわたしもね」

 と丈二とロザリンデも乗り込んでくる。

「一条さんもフィリアさんも異世界リンガブルーム語はともかく、外国語はできないでしょう? 意志を伝えるには通訳が必要です。私がやりますよ」

「それに、フィリアに万が一のことがあったら異世界間の国際問題になってしまうわ。護衛は多いほうがいいでしょう?」

「わかった。頼りにさせてもらうよ、ふたりとも」

 それから、おれは他のみんなに目を向ける。

「艦隊はおれたちがなんとかする。みんなは、念のため第1階層の『初心者の館』も見てくれ。まだ敵が潜んでるかもしれない」

「了解っす! こっちは任せといてください!」

「敵がいたら捕まえて欲しいけど、深追いはしなくていい。地上に出たら能力が落ちるってことも忘れないでね。迷宮ダンジョンではこちらが有利だけど、外では訓練されたエージェントは強敵だ」

「わかりました! あたしたちは迷宮ダンジョンからは出ません。外のことは、外の方々にお任せします。……先生! 戻ってきたら、今度は異世界リンガブルームのことたくさん教えてください!」

 紗夜の瞳には、どこか懐かしい色があった。まるで、出会ったばかりで、これからの冒険者生活に不安と期待とを抱いていたあの頃のように。

「もちろんだよ、紗夜ちゃん!」

「そのときは……異世界生配信、やりたい、です」

「ああ、結衣ちゃん。やるときはバルドゥインにも出てもらおう。きっと人気者になるよ」

「それもいいがな、一条! たまにはオレにも付き合えよ。茶でも淹れてやるからよ、ゆっくり話でもしようや」

「いいとも。おれもそうしたいと思っていたんだ」

「おいおい、みんな、なに微妙にしんみりした雰囲気出してんだよ! モンスレだぞ、アタシたちのトップだぞ!? 余裕かまして帰ってくんに決まってんだろ!? え? ちげーのか? そんなにヤベーの、今回?」

「雪乃先生、大丈夫、心配いらないっす。雪乃先生が言うみたいに、俺たちのモンスレさんっすから。……ですよね、一条先生!?」

「そのつもりだよ。おれのいない間、みんなのことは任せたよ隼人くん。それに雪乃ちゃんは、隼人くんが無茶やらないように見張っててね」

 他にも多くの冒険者たちから声をかけられ、返事をしていく。

 やがてバルドゥインは、小さく笑った。

「いい連中だな。お前たちが、ここを居場所と呼び、守りたいと願う理由がよくわかった」

「もし気に入ってくれたなら、あなたも一員になるといい。みんな、歓迎してくれる」

「悪くない提案だ。だがすべては、ここを守ってからの話だな」

「ああ、行こうバルドゥイン! 地上へ! 敵の艦隊は北西方向から島に向かってきてるらしい!」

「わかった。命綱を繋いでおけ。できるだけ気をつけるが、安定飛行もできん状況かもしれんからな」

 その指示に従ってすぐ、バルドゥインは魔力を集中させた。

「では転移する。空中に出るぞ。構えておけ!」

 転移魔法が発動し、真っ白な光がおれたちを包み込む。

 そして次の瞬間、おれたちは島の上空にいた。見知った町が、おもちゃのミニチュアを思わせる大きさだ。陽の光の輝き、潮の香りをはらんだ風が新鮮だ。

 薄いが魔素マナはちゃんとある。以前の迷宮ダンジョンの第2階層レベルの濃さだ。これならフィリアやロザリンデが苦しむことはない。

 バルドゥインはその場で周囲を旋回。

「この世界の方向がまだわからんが……。む、あれか」

 人間より遥かに優れた視力で捉えたか、バルドゥインは北西方向に方向転換すると、物凄い勢いで羽ばたいた。

 あまりの速度に、急激に温度が下がる。呼吸さえ上手くできず、息苦しい。

 かと思ったら、すぐ強風が遮られる。魔力によって、バルドゥインの周囲にフィールドが張られたのだ。

 温度の維持や風の遮蔽だけじゃない。魔素マナも満ちてくる。異世界リンガブルームと同等の濃度だ。

「バルドゥイン、このフィールドは?」

「タクト、お前が元素破壊魔法を使うには全力を出す必要だろう。そのためのものだ」

「ありがたいけど、バルドゥイン。あなただって、地上の魔素マナは薄くてつらいはずだ。おれたちのために、こんな力を使っても平気なのか?」

「侮るな、私は賢竜とも呼ばれたドラゴンの中のドラゴンだ。そう簡単に魔力が枯渇することはない」

「確かに、そうか。さすがだよ」

「しかし、そう何日も持つものではない。戦闘ともなればもっと短い。手早く決着をつけることだ」

「わかってる。やるべきことは、それほど多くはない」

「それにしても……いい空と海だ。気に入ったぞ」

 バルドゥインはみるみる速度を上げる。遥か遠くにいるはずの艦隊が、もう目視できるほどに迫ってくる。

「ほう、大砲のついた鉄の船か。すでに砲口を向けられているな。こちらの動きの分かる機械でも積んで――むっ!?」

 速度を落としつつあったバルドゥインは、ここにきて急旋回した。

 超音速でおれたちのそばをなにかが掠めていった。遅れて、砲撃音が響く。

 バルドゥインはさらに急旋回を繰り返し、砲撃を回避し続ける。

「撃ってきているぞ! どうする、停戦を呼びかけるか!?」

 返答したいが、あまりに急な旋回の繰り返しで、落ちないようにしがみつくのがやっとだ。下手に口を開けば、舌を噛んでしまう。

「おっと、そうか。すまん。最近運動不足だったのな、少々張り切りすぎた」

 バルドゥインは回避運動を止めた。そのために砲撃は次々に命中するが、代わりに展開した防壁魔法がそのすべてを防ぎ切る。爆炎を貫きながら、艦隊へ接近していく。

「ぬう、思った以上に強力な砲撃だ。魔力の消耗が激しい。これは長くはもたんぞ、急げ!」

「はい、ありがとうございます。バルドゥイン様!」

 フィリアは目をつむり、緊張を飲み込むように深呼吸。おれは拡声魔法を最大出力でフィリアと、通訳の丈二に展開。

 やがてフィリアは決意を宿した目を開け、口を開く。

「わたくしは、フィリア・シュフィール・メイクリエ。貴方がたの言うところの異世界――リンガブルームの一国、メイクリエ王国の第2王女です! 貴方がたが領有権を主張する輪宮島りんぐうじま迷宮ダンジョンは我が国の一部であり、この島を攻めることはすなわち、日本国だけでなく、メイクリエ王国に対する侵略にもなります! ただちに攻撃、および侵攻を中断してください!」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...