S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ

文字の大きさ
112 / 162
第2部 第4章 再会と再開

第112話 そろそろ脱走しようかと思います

しおりを挟む
「ショウさん成分が足りないので、そろそろ脱走しようかと思います」

「はい?」

 メルサイン大神殿の一室にて。ソフィアの発言に、サフラン王女は目を丸くした。

「なんちゃって」

 がくり、とサフラン王女が崩れる。

「もう。姉様ったら、なにを仰っているのですか」

「すみません。ショウさん成分が足りないのは本当なのです」

「だからといって脱走だなんて、冗談にしても突飛すぎますわ」

 ソフィアはじぃっとサフラン王女を見つめ、やがて微笑を浮かべる。

「実は脱走も冗談ではありません」

「なんちゃって、と仰いましたのに?」

「ショウさん成分が足りないから、という部分が冗談です」

「もう……そのショウさん成分とはなんですの?」

「ショウさんと一緒にいて満たされる気持ち的なものです。このままでは枯れ果ててしまいそうです」

「姉様ったら……」

「それはさておき。最近の兵隊さんの噂によると、また地方で人手が足りなくなったそうで、今度は警備隊からも人が派遣されるそうです」

 ソフィアはメルサイン大神殿に来てから、できる限り聞き耳を立てながら生活していた。

 ソフィアたちをここまで連れてきた部隊の隊長――リックが色々と便宜を働かせてくれたお陰で、窮屈さとは無縁だった。

 用意されたソフィアたちの部屋は、賓客用に整えられた快適なものであったし、監視付きであれば、大神殿の中をある程度自由に動くこともできた。

 さらにソフィアは、大神殿内にある、神具や土産物の製造現場にも出入りするようになっていった。そこでソフィアは愕然としたものだ。

 巡礼者や観光客に売ったり配ったりする物品であるが、すべてが手作りで、どれも品質が一定でなく、作業効率も悪かった。

 軟禁中ではあるものの、うずうずして我慢できず、工程を大改革してしまった。

 監視員に宗教的な文句を言われたが、そこはサフラン王女や聖女セシリーが、教義を上手に解釈して話してくれたお陰で事なきを得た。

 結局、生産量が増えたので、作業員や僧侶には感謝されるようになった。物作り魂の布教成功である。

 とはいえ、高位の僧侶には目を付けられてしまったようで、それ以降はあまり目立つようなことはできていない。

 それでも、ソフィアたちが大神殿内で自由に振る舞う姿は、もはや自然なものと化していた。

 そうなると警戒も薄れ、聞こえてくる噂話の質も変わってくる。

「――警備隊から人が派遣されるということは、監視の目が少なくなりますわね?」

「そうです。しかもリック隊長さんは今はいません」

 色々と便宜してくれたとはいえ仕事は厳しくこなす隊長のリックは、脱走する上でどうかわすか悩みどころだった。それが今は別任務中。

「まさに好機ですわ。どのような計画ですの?」

 ソフィアは、上着のポケットから針と糸を取り出した。作業現場から借りてきた物だ。

「スートリア信徒のローブのデザインは覚えておいでですね?」

 ソフィアの問いでサフラン王女はだいたい察した。

「まあ。なるほど、そういうことですわね?」

 やがて、公務に駆り出されていた聖女セシリーが部屋に戻ってくると、彼女を交えて脱走計画を練り上げていく。

 そして数日後。準備を整えたソフィアたちは、さっそく計画を実行した。

 まず、ソフィアはいつものように作業現場に顔を出し、生産を手伝う。こうなると長いので、いつも監視役はそのうち居眠りをしてしまう。

 その隙に、サフラン王女に縫ってもらった信徒ローブをかぶる。ありあわせの生地で作ったので細部を見られるときついが、遠目ならば気づかれない。

 それから大聖堂へ行き、巡礼にやってきた大勢の信徒の中に身を隠す。みんなローブを着た同じ格好だ。

 そこでしばらく待てば、手はず通り、サフラン王女と聖女セシリーもやってくる。彼女らも、日課中にふとした隙を突いてローブをかぶってやってきたのだ。

 やがて礼拝を終えた信徒たちに紛れて、大神殿の外のほうへと歩みを進めていく。

「上手くいきそうですわね」

「ですが、ドキドキが止まりません。ば、ばれていませんよね? 私、不自然ではありませんよね?」

 どこか楽しげなサフラン王女に対し、聖女セシリーは不安で顔がこわばっている。

「大丈夫、その調子です」

 かくいうソフィアも、胸のドキドキが止まらない。緊張で喉もからからだ。

「そこの御婦人がた」

「ひゃっ」

 だから、警備隊員に声をかけられて、つい声を上げてしまった。

 すぐ取り繕い、至って平静な表情で振り返る。

「……なにか?」

「その先は段差になってる。足元に注意してください」

「これはありがとうございます。注意します」

「あっ!」

 ソフィアが礼を言ったそばから、聖女セシリーの体勢が崩れた。緊張のしすぎて、足がうまく動かせなかったのかもしれない。

「危ない!」

 サフラン王女が受け止め、転倒は防ぐ。だがセシリーのかぶっていたフードがめくれてしまう。

「聖女様!? なぜここに!?」

「走ります!」

 気づかれてすぐ、ソフィアはふたりの手を引いて走り出す。

「お待ちを!」

 警備隊員は大声を上げながら追ってくる。四方八方からその仲間がやってくる。

 どっちに逃げる? 焦りつつ周囲を見渡すと、物陰のほうからこちらに手招きする何者かが見えた。

 警備隊員たちは迫っている。迷う暇はない。一か八か。

 ソフィアはふたりの手を引き、一緒にその物陰へ飛び込もうとする。

 だが一歩遅い。追いつかれ、セシリーの腕が掴まれてしまう。

 ダメかと思ったその時。

 物陰からローブの男が飛び出し、警備隊員を殴りつけた。セシリーを奪い返す。

「バーンさん!?」

 セシリーにバーンと呼ばれた男は、静かに頷いた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

処理中です...