異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐

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夕飯の時間

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事務室を出ると、
廊下の向こうから、鍋の音が聞こえてきた。

コトコト、というより、
もう少し賑やかな音。

夕飯の準備だ。

「……」

気づけば、足が台所の方へ向いていた。
別に呼ばれたわけじゃない。
手伝うって言ったわけでもない。

ただ、音がしたから。

台所では、エレナが鍋をかき混ぜていた。

「あ」

僕に気づいて、一瞬だけ動きが止まる。

「……話、終わりました?」

「うん」

「どうでした?」

「……ちゃんとした人だった」

「それは、知ってます」

即答だった。

鍋の中を覗く。

野菜と、豆と、少しの肉。
昼よりは、少しだけ豪華。

「足りそう?」

「量は、ぎりぎり」

「じゃあ」

自然と、言葉が出た。

「伸ばします?」

エレナは、少し考えてから笑った。

「……お願いしてもいいですか」

鍋に水を足す。
その分、味も調整する。

昼と同じ。
でも、夜は少しだけ濃く。

「夜は、疲れてるから」

「ですよね」

パンを切り分け、
スープを器に注ぐ。

気づけば、
何人かの子が台所の入口に集まっていた。

「ゆう」

呼ばれて、振り返る。

「なに?」

「きょうも、ごはん?」

リオだった。

「うん」

「やった」

それだけで、満足そう。

「……ねえ」

今度は、ミア。

「また、あったかいやつ?」

「そう」

「……すき」

小さな声。

聞こえたけど、
聞こえなかったふりをする。

エマは、少し離れたところで様子を見ていた。

「……足りる?」

「足りるよ」

「ほんと?」

「ほんと」

それだけで、納得したらしい。

夕飯の準備が整うと、
子どもたちは席についた。

「いただきます」

誰かが言って、
自然と声が揃う。

食堂に、音が戻る。

スプーンの音。
パンをちぎる音。
小さな話し声。

「……」

昼より、少し賑やかだ。
でも、うるさくはない。

エレナが、隣で小さく息を吐いた。

「……この時間、好きなんです」

「そうなんだ」

「みんな、生きてるって感じがするから」

少しだけ、分かる気がした。

食事の途中、
リオがふと顔を上げた。

「……ゆう」

「ん?」

「きょう、いなくなる?」

スプーンを持つ手が、止まる。

一瞬だけ、間が空いた。

「……分からない」

正直に答えた。

リオは、それ以上聞かなかった。
でも、スプーンを持つ手が、少しだけ強くなった。

ミアは、僕の方をちらっと見て、
またスープを飲んだ。

エマは、何も言わない。
ただ、最後まで黙って食べていた。

夕飯が終わり、
食器を片付ける。

子どもたちは、
それぞれの時間に戻っていく。

「……ユウ」

エレナが、小さな声で呼ぶ。

「無理、しないでくださいね」

「うん」

それだけ。

部屋に戻って、
ベッドに腰を下ろす。

今日は、長かった。

でも、不思議と疲れていない。

「……」

仕事を探す。
それが、元々の予定だった。

でも。

今日一日で、
何度名前を呼ばれただろう。

何度、同じ鍋を覗いただろう。

「……一日だけ、だったんだけどな」

独り言は、
誰にも聞かれない。

でも、
自分には、ちゃんと聞こえていた。
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