異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐

文字の大きさ
15 / 15

様子見と、ついで

しおりを挟む
昼下がり、
門の外から馬車の音が聞こえた。

荷車より静かで、
それでいて、しっかりした足音。

中庭に出ると、
見覚えのある馬車が門の前に止まっていた。

御者台から降りてきた男を見て、
思わず目を瞬いた。

「……ハロルド?」

「ああ。元気そうじゃねぇか」

相変わらずのぶっきらぼうな声。
でも、目はちゃんと僕を見ていた。

「どうしてここに……?」

「通り道だ」

即答。

「あと、ちょっと気になってな」

それだけ。

理由としては、十分すぎる。

そこへ、エレナが気づいて近づいてきた。

「いらっしゃいませ」

「ああ、悪いな」

ハロルドは軽く手を上げる。

「院長に挨拶をと思ってな。これから別の街に買い付けに行く」

「そうでしたか。呼んできます」

「頼む」

エレナが建物の中へ戻ると、
ハロルドは僕の方を見た。

「で」

短い一言。

「……はい」

「どうだ」

何を聞かれているのかは、分かる。

「……世話になってます」

「そうか」

それだけで、
一度、頷いた。

「飯は」

「食べてます」

「寝床は」

「あります」

「なら、いい」

確認は、それで終わり。

「仕事は探したか」

「一応」

「一応、な」

鼻で小さく笑われた。

「まぁ、そういう顔だ」

ほどなくして、院長が出てきた。

「行商に出る前の挨拶、かい」

「まぁな。留守にするから、一応な」

短い会話。
でも、すでに一度会っている関係だからこその軽さだった。

「今回は、届け物は?」

「今回はない」

即答。

「次に戻るときだ」

それ以上は言わない。

子どもたちは、少し離れた場所から様子を窺っていた。

ハロルドは、その視線に気づく。

「……怖がらせたか」

「大丈夫だよ」

院長が言う。

「この人は、
 昔、ここにいた」

「おじさん、ここに?」

ミアが小さく聞く。

「いた」

ハロルドは短く答える。

「で、出て、
 飯が食えるようになった」

それだけ。

余計な説明は、しない。

院長が、ちらっと僕を見る。

「ユウは、今、ここにいる」

「知ってる」

ハロルドは即答した。

「だから来た」

僕を見る。

「拾ったのが、そのまま野垂れ死にゃ、寝覚めが悪い」

言い方は雑だけど、
気にかけているのははっきりしていた。

「ここ、どうだ」

「……落ち着きます」

正直に答えた。

ハロルドは、ほんの少しだけ口角を上げる。

「なら、いい」

それだけ。

「長居はしねぇ」

そう言って、踵を返す。

「行ってくる」

「……気をつけて」

「おう」

馬車に乗り込み、
ゆっくりと門を離れていく。

去り際、
振り返らずに一言だけ投げてきた。

「出ていくのも、戻るのも、自分で決めろ」

それが、
ハロルドなりの挨拶だった。

馬車が見えなくなり、
中庭に静けさが戻る。

院長が、ぽつりと言う。

「外から見て、気になる場所、ってことだ」

「……そうですね」

ハロルドは、何も変えなかった。

ただ、
気にして、
挨拶して、
去っていった。

「……様子見、か」

でも。

それだけで、
十分だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...