続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第一章 新年の風来る 

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 それは、朗々と響き渡るマネージャー磁路じろの宣言から始まった。
 「我々Journey to the Westは、進化を続けねばならぬ。一年の計は元旦にあり。今年のお主らにはダンスに挑戦してもらうぞ」

 Journey to the West(通称「ジャニ西」)はGenjyoこと玄奘げんじょう、Go-kuこと悟空、chan-Butaこと八戒、Gojoeこと悟浄の男性四人で構成されたアカペラボーカルグループである。玄奘はもともと読経系Vtuberの konzenとして活動していた。そのオタクであった悟空、八戒、悟浄は、とある事件をきっかけに前世は玄奘三蔵、孫悟空、猪八戒、沙悟浄として共に天竺へ旅をした仲間であったことがわかり、玄奘を含む四人でグループデビューすることになった。

 玄奘は他の三人よりもいくらか年下であるが、前世の「お師」であり今世の「推し」であるため三人たっての希望で敬語を使わずに話している。デビュー後、ジャニ西のアーティストとしての活動は軌道に乗りつつあるところだ。ちなみにオタク時代から玄奘を「推し」として崇拝しつつ恋愛感情を押し殺してきた悟空ではあったが、紆余曲折を経た結果、晴れて玄奘と恋人同士になったばかりである。

 さて磁路の力強い宣言とは対照的に、元日早々磁路から事務所の会議室に呼び出されたジャニ西のメンバー達は、寝不足と疲労の溜まった表情でどよんとしていた。昨日の大晦日に至るまで師走という言葉通り、ライブや配信、取材等の仕事を分刻みでこなしてきたのだ。

「えぇ~?ダンスゥ?なんで?面倒くさいじゃん」
 当然いの一番に八戒が反対意見を述べ、残る面々も複雑な表情を浮かべていた。

「ダンスなんてやったことねえし」と悟空が腕組みをしながら言えば、悟浄はぼそっと呟いた。
「拙者は盆踊りしか踊れぬ」 

「……ダンスで動けば息が上がりますよね。アカペラで本気でダンスしている人たちをあまり見たことないですし。本業のアカペラがなおざりにならないでしょうか」

 玄奘の質問に、ちっちっと人差し指を振った磁路は得意気に言った。少々リアクションが古いのだが、何千年を生きている磁路にとっては数十年の経過など瞬きをする程度の感覚なのだろう。

 ジャニ西が所属する事務所シャカシャカの社長は、「環野かんの」という通称で人間に扮している観世音菩薩かんぜおんぼさつで、この事務所の社員全員が人間ではなく「天界人」である。磁路もその真の姿は顕聖二郎真君けんせいじろうしんくんであり、前世の孫悟空とも「親友」であったと自称している。


 長身で見目麗しい磁路は雑踏の中でも衆目を圧倒する容姿である。一般人には見えないが、業界人であると言い張ればその優美な容姿もさもありなんと納得されてしまうのでおかしなものだ。今日もシンプルだが仕立ての良いスーツを着こなした磁路は、胸を張って説明する。

「たしかに一見玄奘の言う通りではある。アカペラをしながら激しいダンスをするグループなどほとんど見たことがないだろう。それはなぜか。アカペラというものは楽器を使用せずに歌を奏でるものであるからして、通常楽曲に比べ曲中で声を出している時間が非常に長く、息継ぎのタイミングも限られている。激しいダンスで息を乱してしまったら十分な声量が出ずに、迫力の足らない歌になってしまうからであるからだな」

「じゃあ、やっぱりダンスなんてやめとこうぜ」
 
 
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