1 / 95
第一章 新年の風来る
1
しおりを挟む
それは、朗々と響き渡るマネージャー磁路の宣言から始まった。
「我々Journey to the Westは、進化を続けねばならぬ。一年の計は元旦にあり。今年のお主らにはダンスに挑戦してもらうぞ」
Journey to the West(通称「ジャニ西」)はGenjyoこと玄奘、Go-kuこと悟空、chan-Butaこと八戒、Gojoeこと悟浄の男性四人で構成されたアカペラボーカルグループである。玄奘はもともと読経系Vtuberの konzenとして活動していた。そのオタクであった悟空、八戒、悟浄は、とある事件をきっかけに前世は玄奘三蔵、孫悟空、猪八戒、沙悟浄として共に天竺へ旅をした仲間であったことがわかり、玄奘を含む四人でグループデビューすることになった。
玄奘は他の三人よりもいくらか年下であるが、前世の「お師」であり今世の「推し」であるため三人たっての希望で敬語を使わずに話している。デビュー後、ジャニ西のアーティストとしての活動は軌道に乗りつつあるところだ。ちなみにオタク時代から玄奘を「推し」として崇拝しつつ恋愛感情を押し殺してきた悟空ではあったが、紆余曲折を経た結果、晴れて玄奘と恋人同士になったばかりである。
さて磁路の力強い宣言とは対照的に、元日早々磁路から事務所の会議室に呼び出されたジャニ西のメンバー達は、寝不足と疲労の溜まった表情でどよんとしていた。昨日の大晦日に至るまで師走という言葉通り、ライブや配信、取材等の仕事を分刻みでこなしてきたのだ。
「えぇ~?ダンスゥ?なんで?面倒くさいじゃん」
当然いの一番に八戒が反対意見を述べ、残る面々も複雑な表情を浮かべていた。
「ダンスなんてやったことねえし」と悟空が腕組みをしながら言えば、悟浄はぼそっと呟いた。
「拙者は盆踊りしか踊れぬ」
「……ダンスで動けば息が上がりますよね。アカペラで本気でダンスしている人たちをあまり見たことないですし。本業のアカペラがなおざりにならないでしょうか」
玄奘の質問に、ちっちっと人差し指を振った磁路は得意気に言った。少々リアクションが古いのだが、何千年を生きている磁路にとっては数十年の経過など瞬きをする程度の感覚なのだろう。
ジャニ西が所属する事務所シャカシャカの社長は、「環野」という通称で人間に扮している観世音菩薩で、この事務所の社員全員が人間ではなく「天界人」である。磁路もその真の姿は顕聖二郎真君であり、前世の孫悟空とも「親友」であったと自称している。
長身で見目麗しい磁路は雑踏の中でも衆目を圧倒する容姿である。一般人には見えないが、業界人であると言い張ればその優美な容姿もさもありなんと納得されてしまうのでおかしなものだ。今日もシンプルだが仕立ての良いスーツを着こなした磁路は、胸を張って説明する。
「たしかに一見玄奘の言う通りではある。アカペラをしながら激しいダンスをするグループなどほとんど見たことがないだろう。それはなぜか。アカペラというものは楽器を使用せずに歌を奏でるものであるからして、通常楽曲に比べ曲中で声を出している時間が非常に長く、息継ぎのタイミングも限られている。激しいダンスで息を乱してしまったら十分な声量が出ずに、迫力の足らない歌になってしまうからであるからだな」
「じゃあ、やっぱりダンスなんてやめとこうぜ」
「我々Journey to the Westは、進化を続けねばならぬ。一年の計は元旦にあり。今年のお主らにはダンスに挑戦してもらうぞ」
Journey to the West(通称「ジャニ西」)はGenjyoこと玄奘、Go-kuこと悟空、chan-Butaこと八戒、Gojoeこと悟浄の男性四人で構成されたアカペラボーカルグループである。玄奘はもともと読経系Vtuberの konzenとして活動していた。そのオタクであった悟空、八戒、悟浄は、とある事件をきっかけに前世は玄奘三蔵、孫悟空、猪八戒、沙悟浄として共に天竺へ旅をした仲間であったことがわかり、玄奘を含む四人でグループデビューすることになった。
玄奘は他の三人よりもいくらか年下であるが、前世の「お師」であり今世の「推し」であるため三人たっての希望で敬語を使わずに話している。デビュー後、ジャニ西のアーティストとしての活動は軌道に乗りつつあるところだ。ちなみにオタク時代から玄奘を「推し」として崇拝しつつ恋愛感情を押し殺してきた悟空ではあったが、紆余曲折を経た結果、晴れて玄奘と恋人同士になったばかりである。
さて磁路の力強い宣言とは対照的に、元日早々磁路から事務所の会議室に呼び出されたジャニ西のメンバー達は、寝不足と疲労の溜まった表情でどよんとしていた。昨日の大晦日に至るまで師走という言葉通り、ライブや配信、取材等の仕事を分刻みでこなしてきたのだ。
「えぇ~?ダンスゥ?なんで?面倒くさいじゃん」
当然いの一番に八戒が反対意見を述べ、残る面々も複雑な表情を浮かべていた。
「ダンスなんてやったことねえし」と悟空が腕組みをしながら言えば、悟浄はぼそっと呟いた。
「拙者は盆踊りしか踊れぬ」
「……ダンスで動けば息が上がりますよね。アカペラで本気でダンスしている人たちをあまり見たことないですし。本業のアカペラがなおざりにならないでしょうか」
玄奘の質問に、ちっちっと人差し指を振った磁路は得意気に言った。少々リアクションが古いのだが、何千年を生きている磁路にとっては数十年の経過など瞬きをする程度の感覚なのだろう。
ジャニ西が所属する事務所シャカシャカの社長は、「環野」という通称で人間に扮している観世音菩薩で、この事務所の社員全員が人間ではなく「天界人」である。磁路もその真の姿は顕聖二郎真君であり、前世の孫悟空とも「親友」であったと自称している。
長身で見目麗しい磁路は雑踏の中でも衆目を圧倒する容姿である。一般人には見えないが、業界人であると言い張ればその優美な容姿もさもありなんと納得されてしまうのでおかしなものだ。今日もシンプルだが仕立ての良いスーツを着こなした磁路は、胸を張って説明する。
「たしかに一見玄奘の言う通りではある。アカペラをしながら激しいダンスをするグループなどほとんど見たことがないだろう。それはなぜか。アカペラというものは楽器を使用せずに歌を奏でるものであるからして、通常楽曲に比べ曲中で声を出している時間が非常に長く、息継ぎのタイミングも限られている。激しいダンスで息を乱してしまったら十分な声量が出ずに、迫力の足らない歌になってしまうからであるからだな」
「じゃあ、やっぱりダンスなんてやめとこうぜ」
24
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる