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第二章 金銀襲来
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「今夜は冷えるのぉ、皆温かくして帰るのだぞ。明日の仕事に遅れることは厳禁ぞ」
酒豪の磁路は存分に飲んでいたにもかかわらず、太上を担いだままテキパキと必要なタクシー台数を手配し、それぞれ乗り込ませた。
「俺らは酔いを醒ますためにちょっと歩いて帰るわ」
無雑作に片手を挙げて歩き出した紅害嗣と納多はもちろん手を繋いだままだ。しかし寄り添って歩くはずもなく、つかずはなれずの距離を保って、深夜のビル群を歩く。煌々と明るいネオンと街灯のせいで、見上げても星は見えずに黒い空だけだ。それでも呼吸のたびに白い息が視界の隅に入る。
「寒ぃな……」
全身もこもこに武装した紅害嗣は言うが、寒さを感じない天界人の納多は首を傾げる。
「寒いのならタクシーで帰れば良かったろうに。本当に徒歩で帰るのか?よくよく物好きだな」
「お前はっ、本っ当にっ、情緒がねえのなっ」
前を歩いていた紅害嗣が振り返って、納多の正面から怒号を浴びせる。が、いつもの勢いはなく、本当に怒っているわけではなさそうだ。
それでも突然の大声に目の前を歩いていた通行人が振り返る。下手な場面を目撃されても面倒だと考えた、デキるマネージャー納多は、人通りの少ない路地に紅害嗣を引いていきながら答えた。
「風邪などひかれたら仕事に差し支える。お前の体調を心配しているだけだ」
手を引かれながらとぼとぼと歩く紅害嗣ははああ、と大きくため息をついた。
「俺はさあ、今日頑張ったと思うよ。もっと褒めてもらっていいと思うぜ。玄奘を目の前にしながらちゃんと理性的な態度をとれたし、あの猿に嫌味を言われても反論しなかった。バカップル二人がいちゃついてても、料理を投げつけたりしなかったし」
「大人として当然の態度だ」
「前の俺だったら普通に暴れてたと思うけどな」
納多は少し考えてから、声音を明るくした。
「私の教育が着実に成果を上げているということだ」
「なんでも自分の手柄にしようとすんのやめろ。俺の努力を汲めよ」
「……よく頑張った」
「棒読みじゃねえか」
このマネージャーは口を開けば悪態ばかりで、紅害嗣を褒めることなどほとんどない。わかっていたにも関わらず絡んだのは、思っていたよりも気持ちが消耗しているのかもしれない。紅害嗣は暖かい帽子を取り、その特徴的なアシンメトリーの赤い髪をぐしゃぐしゃっと掻きむしった。
「二人が笑いあってるところなんて見たら、やっぱり胸は痛むんだ。どうしても欲しかった人が目の前にいる。それなのに俺の手には届かないんだという事実を突きつけられてさ」
「……まあ、そうだろうな」
「むしゃくしゃしたまま、まっすぐ帰る気にもなれなかったしな。少し夜風に当たってみようかと思っただけだ、空気を読めない冷血男にはわかんねーのかもしれないけどさ」
「文句言わずに付き合ってやってるんだから、私に怒る筋合いはなかろう」
「どうせお前は安駝駝で離れられないから仕方なくついて来てるだけだろ」
紅害嗣は拗ねたように呟いた。
納多は紅害嗣と繋いだ手をもう片方の手で包みながら言った。
「それは違う。私はお前のマネージャーだからだ。安駝駝などなかったとしても、こんなに寒くて暗い夜にお前を一人で置いて行ったりはしない。ほら手も冷たくなっている。これで風邪をひいたら殴り殺すからな」
納多は自分のポケットに繋いだ手を入れた。ポケットの中で刺すような夜風を免れ、紅害嗣はそこで初めて自分の手がかなりかじかんでいることに気が付いた。少し力を入れて納多の手を握ってみる。
「……オメーと手を繋ぐなんて最悪だけど、でも誰とも繋いでないよりかは寒さが幾分マシかもな」
少しだけ譲歩するつもりでマネージャーが傍にいてくれる感謝をほのめかしてみた紅害嗣だったが、納多は微妙にかみ合わない返答を投げてよこした。
「安心しろ、家に帰ったら水洗いして安駝駝を外してやるから」
遠慮のない言葉を言いあいながら、冷たい指先が少しずつ温まっていく気がする。二人は地下鉄に続く階段をてくてくと降りて行った。
酒豪の磁路は存分に飲んでいたにもかかわらず、太上を担いだままテキパキと必要なタクシー台数を手配し、それぞれ乗り込ませた。
「俺らは酔いを醒ますためにちょっと歩いて帰るわ」
無雑作に片手を挙げて歩き出した紅害嗣と納多はもちろん手を繋いだままだ。しかし寄り添って歩くはずもなく、つかずはなれずの距離を保って、深夜のビル群を歩く。煌々と明るいネオンと街灯のせいで、見上げても星は見えずに黒い空だけだ。それでも呼吸のたびに白い息が視界の隅に入る。
「寒ぃな……」
全身もこもこに武装した紅害嗣は言うが、寒さを感じない天界人の納多は首を傾げる。
「寒いのならタクシーで帰れば良かったろうに。本当に徒歩で帰るのか?よくよく物好きだな」
「お前はっ、本っ当にっ、情緒がねえのなっ」
前を歩いていた紅害嗣が振り返って、納多の正面から怒号を浴びせる。が、いつもの勢いはなく、本当に怒っているわけではなさそうだ。
それでも突然の大声に目の前を歩いていた通行人が振り返る。下手な場面を目撃されても面倒だと考えた、デキるマネージャー納多は、人通りの少ない路地に紅害嗣を引いていきながら答えた。
「風邪などひかれたら仕事に差し支える。お前の体調を心配しているだけだ」
手を引かれながらとぼとぼと歩く紅害嗣ははああ、と大きくため息をついた。
「俺はさあ、今日頑張ったと思うよ。もっと褒めてもらっていいと思うぜ。玄奘を目の前にしながらちゃんと理性的な態度をとれたし、あの猿に嫌味を言われても反論しなかった。バカップル二人がいちゃついてても、料理を投げつけたりしなかったし」
「大人として当然の態度だ」
「前の俺だったら普通に暴れてたと思うけどな」
納多は少し考えてから、声音を明るくした。
「私の教育が着実に成果を上げているということだ」
「なんでも自分の手柄にしようとすんのやめろ。俺の努力を汲めよ」
「……よく頑張った」
「棒読みじゃねえか」
このマネージャーは口を開けば悪態ばかりで、紅害嗣を褒めることなどほとんどない。わかっていたにも関わらず絡んだのは、思っていたよりも気持ちが消耗しているのかもしれない。紅害嗣は暖かい帽子を取り、その特徴的なアシンメトリーの赤い髪をぐしゃぐしゃっと掻きむしった。
「二人が笑いあってるところなんて見たら、やっぱり胸は痛むんだ。どうしても欲しかった人が目の前にいる。それなのに俺の手には届かないんだという事実を突きつけられてさ」
「……まあ、そうだろうな」
「むしゃくしゃしたまま、まっすぐ帰る気にもなれなかったしな。少し夜風に当たってみようかと思っただけだ、空気を読めない冷血男にはわかんねーのかもしれないけどさ」
「文句言わずに付き合ってやってるんだから、私に怒る筋合いはなかろう」
「どうせお前は安駝駝で離れられないから仕方なくついて来てるだけだろ」
紅害嗣は拗ねたように呟いた。
納多は紅害嗣と繋いだ手をもう片方の手で包みながら言った。
「それは違う。私はお前のマネージャーだからだ。安駝駝などなかったとしても、こんなに寒くて暗い夜にお前を一人で置いて行ったりはしない。ほら手も冷たくなっている。これで風邪をひいたら殴り殺すからな」
納多は自分のポケットに繋いだ手を入れた。ポケットの中で刺すような夜風を免れ、紅害嗣はそこで初めて自分の手がかなりかじかんでいることに気が付いた。少し力を入れて納多の手を握ってみる。
「……オメーと手を繋ぐなんて最悪だけど、でも誰とも繋いでないよりかは寒さが幾分マシかもな」
少しだけ譲歩するつもりでマネージャーが傍にいてくれる感謝をほのめかしてみた紅害嗣だったが、納多は微妙にかみ合わない返答を投げてよこした。
「安心しろ、家に帰ったら水洗いして安駝駝を外してやるから」
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